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ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~

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聖夜に捧ぐ『フローエ・ヴァイ・ナハテン』~クロスクエスト~
  第三幕

「……ッ!」

 氷の刃が煌めき、漆黒のフード姿を切り裂く。角の生えた奇怪な怪人は、それだけであっさりと絶命した。だが、その数はなかなか減らない。目算で、あと十三体。

「……多すぎ……」

 ミヤビはため息をつきそうになるのをこらえ、今度は左手に装備した薙刀を振るう。同時に、右手に握った氷の片手剣を投擲。再生成、再び投擲。ヒットした傷口が凍り付き、再生を阻む……が、そんな利点はお構いなしに、トナカイ怪人はあっさりと死亡する。なんというか、拍子抜けするほど個々は弱い。

 《薙刀剣》と《凍氷剣》のコンビネーションは、SAO時代と何の遜色も無く機能している。だが、気になることは多い。

 ――――《心結び》が、使えない。

 ミヤビのステータスをキリトのそれと統合し、最高の力を発揮するためのスキルが、機能していない。所有者であるキリトがいないのだから当然と言えば当然なのだが、戦力ダウンは避けられない。

 それに――――寂しい。キリトとつながっていないという現実が、不安感をもたらす。

 それでも、勤めて無視して武器を振るう。

 《天宮》の言動からして、どうにもこの世界はミヤビがキリトへの『クリスマスプレゼントを獲得する』ことの為だけに存在するという、なんとも阿呆らしい場所だ。再現度はSAOを優に越し、アンダーワールドすら超越している。それを、クリスマスプレゼントを、しかも実力で取らせるためだけに用意するとは。

 《天宮》が言っていることをそのままと取るなら、恐らくクリスマスプレゼントはミヤビが願っているモノが出現する。そしてそれは、このトナカイ人間たちを殲滅した先で、報酬のような形でもらえるのだろう。もしくは、何らかのボスからドロップする、とか。

 あの男、一体何者なのか。『《神》の化身』と名乗っていたが、ミヤビが知っている《神》はあんな人間ではない。ならば名を騙っているのか? いや、そうとも考えづらい。世界一つを丸ごと《作成》するなど、《自我結界》とは根本から概念が異なる。

 おそらくは、ミヤビが普段行動している世界とは、『別の世界の《神》』。

「きぇぇぇっ!!」
「――――ッ!」

 とびかかってきた怪人に向けて、氷の剣を飛ばす。さらにホールドしていた片手剣を抜き放ち、《薙刀術》ソードスキルを起動させる。

 高速で振り払われた薙刀が、怪人たちを切り裂く。一瞬の後、片手剣がさらに追い打ちを掛けた。目にもとまらぬスピードで打ち込まれていく薙刀とロングソード。

 第三者視点から見れば、刃が舞っているようにも見えただろう。 

《ホープネスレス・ディザスティング》、十八連撃。自分の目の前にいる敵一帯を、無差別に攻撃する、範囲殲滅攻撃。
 
 
 全ての攻撃が終了した時、トナカイ頭の怪人はバラバラに引き裂かれ、大地に転がっていた。

「……気持悪(気持ち悪い)

 死体が残るのは気分が悪い。それが人間要素が混じった異形ならなおさらだ。ミヤビはグロテスクなモノには耐性があるから構わないが、そういうのが無理! という人間にはきついだろうなぁ、とか考えてみる。

「……まぁ、我慢する」

 とにかく、クリスマスプレゼントを探そう。もう、キリトに何をあげるかは決まっていた。きっと喜んでくれるに違いない。

 ミヤビは先ほどとは打って変わって、上機嫌に笑みすら浮かべながら、その場を後にした。



 ***



「せぁぁっ!」

 斬りつけられた奇怪な怪人、その傷口が爆発する。振り向きざまにもう一体を切りつけて、飛びずさる。

 ゼツが《天宮》を名乗る青年の導きでこの世界にやってきてから、既に三十分余りが経過している。数分前から出現し始めた、この謎のトナカイ怪人は、一体一体は恐ろしく弱いものの、いかんせん数が多く、しかも死体が消えずに残るという邪魔臭いことこの上ない最悪仕様までもついていて、非常に厄介だった。

「よっと!」 

 投剣ソードスキル、《トライシュート》によって、三本の投剣が勢いよく投擲される。それらはトナカイ怪人に次々と突き刺さると、

()()ろ!」 

 爆発する。

 全く、この世界でも《爆炎剣》が機能していて、本当に良かったとつくづく思う。炎を操るこのスキルは非常に使い勝手がよく、SAO時代からゼツを支えてくれていた。単純に爆発攻撃を行うだけでも十分な破壊力を生み出してくれるし、専用のソードスキルや、《覚醒の短剣》によるアルティメットスキル化を使えばさらに強力になる。

「それにしても……」

 ちらり、とゼツは戦闘相手であるトナカイ怪人を見る。

 真っ黒なフードに、細い体。手には不気味なダガーを握っている。どこか盗賊(シーフ)ビルドのプレイヤーめいたその外見を、明らかな異形だと決めつけているのは、仮称の元ネタにもなっているその頭。フードを突き破ってにょっきりと生えたそのトナカイ角だ。サンタクロースのソリを引くトナカイを模しているのだろうが、なんというか、気持ち悪い。

 フードの奥から見えるギラギラした目は、しかし殺意以外の何者も感じない。

 そして何より――――

「だぁぁぁっ!! いつまで増えるんだよこいつらはぁぁぁっ!!」

 現在進行形で増殖し続けていた。

 SAO時代のモンスターのPopとは異なる、影のようなものから形成されるというPop方法。同時に相手にする対数は十体ほどだが、倒しても倒しても無尽蔵に湧いて出るため、キリがない。すでに三十体ばかり切り捨てただろうか。

「くっそ……ん?」

 ふと、視界が陰った。

 近場にいたトナカイ怪人を切り捨てて、余裕のできたところで空を見上げる。

 そして――――

「んな!?」

 絶句。

 そこには、羽の生えたトナカイ怪人二体に引かれた巨大なソリと、その上に乗る、真っ白いヒゲのおっさんが浮かんでいた。

 どう見てもサンタクロースを模しているとしか思えないその白髭のおっさんは、背負った大きなふくろから……

「HAHAHA~! MerryChristmas!!」

 トナカイ怪人たちをさらに投げ落とし始めた。その数、目算五十以上。

「なんだそりゃぁぁぁっ!!」

 ゼツは驚愕と呆れで絶叫せずにはいられなかった。


 ***


「このっ……! シューティングゲーム(STG)じゃないんだぞ!!」

 悪態をつきつつ、リオンは片手剣用重突ソードスキル、《ヴォーパル・ストライク》を()()()。彼の持つユニークスキル、《投擲》が成す、直線攻撃の射出。相性がいいのは槍や細剣(レイピア)のソードスキルだが、刺突系の要素が混じっているなら片手剣のスキルも対象範囲に入る。それに《ヴォーパル・ストライク》は威力も高いので、リオンはこの技を愛用していた。

 ジェットエンジンのような重厚な唸りを上げて、真紅のエフェクトを纏った長剣が突き進む。射線にいたトナカイ男たちが根こそぎ吹き飛ばされ、死体の山を作った。

 今度は左手に構えたレイピアを構えて、《フラッシング・ペネトレイター》。流星の如き輝きを纏って、細剣が敵を吹き飛ばす。

 だが、その数は一向に減らない。なぜならば、上空に陣取った奇怪なサンタが、高笑いを繰り返しながらトナカイ怪人を戦場に投げ込んでくるからだ。

 降ってくるトナカイたちを、投剣ソードスキルや弓ソードスキルなどで撃ち落としまくる。墜としきれなかった者たちは、近づいて斃して行く。

 今もまた、腰に装備した麻痺毒付きの短剣(ダガー)を抜きはらうと、素早くソードスキルを発動させる。回転しながら円形に周囲を切り裂いていく短剣用ソードスキル、《リトルサイクロン》五連撃。

 ただ、本来ならばこれで攻撃を食らった相手を、麻痺状態(パラライズ)で行動不能にし、足止めするという戦法は今回ばかりは生きない。

 なぜか?

 至極簡単。トナカイ怪人が()()()()()()だ。

 その守備値たるや、俗に言う『紙装甲』の部類を大きく通り越し、すでに防御力など無いようなものである。何か攻撃が一つでもヒットすれば、気色の悪い悲鳴と共に死んでいく。

 そして、死体が残る。

 これが、非常に邪魔だった。
 
 狙いにくいのだ。《投擲》スキルで投げた剣は、直線状に飛んでいく。つまり、技の起動の途中に障害物があると非常に邪魔だと言える。

 すでに五十体以上の怪人を吹き飛ばしてきたので、積もった死体は相当な量になる。どうにかしてあのサンタを打ち抜きたいところなのだが、遠い。いくら《投擲》スキルがあるとしても、さすがに何キロも先に浮遊している大男を打ち抜くのは難しい。

 だが、一応秘策はあった。

「せぁっ!」

 短剣ソードスキル、《スマッシュウィンド》。斬撃を伴う突進攻撃で、サンタとの距離を詰めていく。

「ぎぎぇっ!」
「だぁぁっ! 邪魔だぞお前ら!」

 とびかかってきたトナカイ男たちを切り裂き、投剣ソードスキル《シングルシュート》を連射して長距離の敵も来る前に倒す。

 こうして、また死体の山を築きあげながら、徐々に、徐々に、サンタへと近づいて行き――――

「……来た!」

 ついに辿り着いたその地点で。

 リオンは、《投擲槍(ジャベリン)》を取り出した。本来ならば槍・投剣・体術複合ソードスキルを放つための専用装備。《チャクラム》などと共通する、複合カテゴリの武器だった。

 その特性は――――ひたすら、長距離に大ダメージで激突することに、特化しているというもの。

「でぁぁぁぁっ!!」

 ソードスキル、《ハイロング・ジャベリン》。威力よりも、ひたすら飛距離を追求したソードスキル。その威力はジャベリンを強化することでカバーしてある。

 そして何より――――そもそも、《投擲槍》自体が、ヒット時の威力にボーナスがかかる武器なのである。

「Hooooo!?」

 奇怪な叫び声をあげて、似非サンタクロースが大地に墜落する。

 さぁ、ここまで来たらもう射程圏内だ。

「覚悟しろよ、サンタ野郎」 
 

 
後書き
 リオン君の武器は飛んでった後どうなってるんだろうなーとか思ったら、もしかしてクイックチェンジで武器取り替えるときに元の場所に戻ってきてるのか、と気が付いた。
 ゼツ君の《爆炎剣》はホント使い勝手がいい。専用ソードスキルがよく分からんから出せなかったけど……。すいません。
 そして自分が書くとどーしてもミヤビさんがクーデレデレ女子になってしまう。きっと内面に秘めたキリト君への想いはアスナさんより上だと思うんだ。事情が事情だしね。

 そんなわけでどうもこんにちわ、Askaです。テスト終ったー! なんか珍しく数学がちょっとできた気がするぞー。やっぱり赤だけどね多分。
刹「……そう言うのは……努力してから言ってくださいよ……」
 まぁ、古典と現文は余裕だったから。世界史もおkだから問題なし。……それ以外はやっぱり死んだけどね。 

 さてさて、12月に入ってから最初の更新です。今月はクリスマスコラボだけでなく、『神話剣』連載開始二周年記念回もありますよー! イベントが目白押しだ。
刹「二周年記念回に向けての質問、まだまだ募集しております。それでは次回もお楽しみに!」 
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