ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~
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聖夜に捧ぐ『フローエ・ヴァイ・ナハテン』~クロスクエスト~
第五幕
舞い散る雪。
その中で、優美に踊る少女、一人。その舞は、ダンスよりもどちらかと言えば能や神楽のそれに近い。時に疾く、時に遅く。時に激しく、時に静かに。はらり、はらりと、優雅にゆらめく。
《踊る巫女》の異名をありありと実感させる、麗しいユイナの踊り。
その光景に指一本触れさせまいと、二つの閃光が走る。ハリンは《双刀》ソードスキル《ブラッディ・ストレイト》十連撃をもって、遅い来る魔人達を薙ぎ払っていた。
先程から出現しはじめた、《トナカイ怪人》たち。ハリンがどうにかその司令塔とおぼしき似非サンタを倒した直後、彼らは融合を始めた。
弱小極まりない彼らは、刀で一撫でするだけで死んでいくほど脆かったが、どうしたことなのか融合後はそこそこ強くなっている。一撃で死ぬことはなく、アインクラッド終盤の通常モンスター程度には強くなっているのではないだろうか。
変更点はまだある。死体が残らなくなったのだ。だが、その消滅の仕方は無数のポリゴン片への変化ではなく、黒い液体が飛び散るように爆散する、という気味の悪いものだったが。
Pop数も無限ではなくなったようで、以前よりも出現する数が少ない。だが、それでも数は多いし、現在ハリンの視界に入っている中ですでに30体ばかり。
そんなトナカイ怪人どもを殲滅すべく、同行者であるユイナが提唱した作戦を実現するために、ハリンは時間稼ぎをするべく二刀を振るっている。
彼女の作戦。
それは、ハリンをユイナの持つユニークスキル、《舞踏》で強化する、というものだった。
ユニークスキル、《舞踏》。踊ることによって、仲間を強化する力があるという。能のような踊りから、近代的なダンスまで。様々な踊りの重ね掛けで、既にハリンは何重にも強化されている。
見よ。真紅の刃、《深紅殺しの罪》の切れ味を。もはや剃刀の刃すら超え、当てた傍から肉を切り裂いていく。
見よ。蒼青き刃、《月光殺しの罪》の身軽さを。羽毛のように軽く、まるで手足が如く自由自在に操れるではないか。
見よ。我が身、ハリンのアバターを。足取りは軽く、力はみなぎっている。今ならば、どこへだって飛んで行ける気さえもする。
万全を超えた状態で、ハリンは怪人たちを相手に取る。敵は強くなったのだろうが、同時にハリンも強化されている。刀の一撃でその首をとばし、帰す刃でまた一体。
ユイナが踊り終わる。ハリンの刀に再び光がともり、技御硬直とスキル冷却時間が終わる。行動強化の踊りだったのだろう。
「ハリンさん!」
「頼むよ!」
長大な薙刀を振りかざし、ユイナも戦線へと舞い戻る。痛烈な一撃を決めると、次の瞬間離脱、別の相手へと攻撃を仕掛ける。さながら妖精のように。戦乙女のように。踊るように。歌うように。速く、疾く、戦うユイナ。
彼女の経験したSAOは、命を掛けたデスゲームではなかったという。
だが、彼女はきっと、そんな中でも命を懸けて、全身全霊で『生きて』来たのだろう。
「(……負けてられないね!)」
こっちだって、あの仮想世界で本物の命を懸けて戦った人間なのだ。彼女に劣る、ということはないだろう。
ハリンの二刀に光がともる。刀ソードスキル《裂戦空》が発動し、神速を以てして怪人の首を刈り取る。この時、振りかぶられた左手へと意識を動かし、渾身の剣技連携。刀スキル《金剛一刀》の剛撃が、トナカイ男を左右真っ二つに切り裂いた。
ユイナの薙刀が光を発する。素早く打ちこまれた、疾風のごとき斬撃の嵐。名前は知らないが、ソードスキルなのだろう。一瞬のスキルディレイを打ち破り、すぐに彼女はその場から離れ、次の獲物と相対する。
しばしの、間、無言。しかし、優美で苛烈で、唯々疾い、戦いが、そこにあった。
***
――――体が、軽い!
その現実に、ミヤビは歓喜していた。頭の中に響いた、《天宮》の声。彼はミヤビに何かを施すと、すぐに消えた。
最初、何をされたのか全く分からなかった。
だがすぐに、それが何なのか気が付いた。
そう、軽い。体が軽いのだ。それでいて、一撃一撃はより重く、強くなっていた。試しに薙刀の代わりに氷の剣でを握り、よく見知った十六連撃を放ってみれば、見事にその流星のごとき連撃――――《二刀流》ソードスキル、《スターバースト・ストリーム》は発動した。
今や、氷だけでなく炎までもが、戦場を蹂躙している。
もはや疑う余地もあるまい。
《天宮》は――――《心結び》を起動させたのだ。ここにはいない、キリトとの間に。キリトの全ステータスがミヤビのそれに上乗せされ、二人分の力が発動させられる。
「――――死ッ!!」
小さく息を吐きだし、二刀を振るう。
「ぐぎゃぎゃぎゃっ!」
「ぎぎぃぃ……」
融合した強化トナカイたちを蹂躙していく。取り残した奴らには、氷の剣を投擲。凍り付いた傷口をめがけて炎を繰り出し、急激な温度変化で爆発させる。
気が付けば、目に見えるトナカイたちの数は、もはや数えるほど。無限に等しかった以前とは、なんというか、『希望』が違う。
氷の剣を飛ばし、再び薙刀を抜き放つ。《薙刀剣》最上位ソードスキル《ジ・アビス》の二十五連撃が、美しく、残酷に、しかし確かな正当性をもって、トナカイ怪人を切り刻んで行く。本来ならば一方向への攻撃となるはずのそれは、圧倒的な破壊力へと拡張され、他の怪人すらも吹き飛ばす。
すでに未来は、見えたも同然だった。
***
「来いッ!!【Emperor】!!」
《覚醒の短剣》を突き立てる。
同時に炎が勢いを増し、ゼツの瞳も真紅に染まる。背中に広げた炎翼で、天空を駆けていく。
「MerryChristmas!!」
「応ともさ! そっくりそのまま返してやるぜ、サンタ野郎! 地獄で会おうぜ!!」
《天宮》を名乗る少年の再登場。彼はゼツがこの世界に来た時には所持していなかった《覚醒の短剣》を手渡し、そしてにやりと笑って続けた。
『この《覚醒の短剣》には、僕からのプレゼントが仕込んである。有意義に役立ててくれたまえ』
それは、ゼツにとっては非常に有用なものだった。
飛行時間の、無制限化。
かつては一分足らずで終了していた炎翼による飛翔時間は、《天宮》の強化で無制限と化していた。大空を翔る。劫火をまき散らして、似非サンタを追い詰めていく。
「せぁっ!!」
《爆炎剣》専用ソードスキル、《メテオレンズ》。凄まじいノックバックを発生させる一撃が、サンタを大地に墜落させる。
「しばらく閉じ込められてな!!」
次の手は、同じく《爆炎剣》専用ソードスキル、《ガイアブレイズ》。大地に突き立った剣を中心に十二本の火柱が吹き出し、サンタを炎の監獄へと閉じ込める。
「次々ぃ!」
取り残されたそりをめがけて、火の玉をはなつ。《デビルソウル》。さらに短剣を放ち、爆発させる、《ヒートロケット》。
翼をはためかせて満身創痍のソリと有翼トナカイへと近づき、手加減のつもりで《片手剣》最上位スキル、《ノヴァ・アセンション》十連撃。だが、至極あっさりとその攻撃がクリティカルヒットし、ソリと二体のトナカイ怪人は爆発、漆黒の液体となって爆散した。
「脆ッ……っと、サンタはどうなってるかな」
見下ろせば、丁度十二本目の火柱が、似非サンタを焼いたところだった。
――――ナイスタイミング。
ゼツは笑みを浮かべながら内心で呟くと、その剣を振りかぶる。
「リナのマフラーのために散る花となれ!」
《爆炎剣》最上位ソードスキル、《インフェルノルイン》。最大HPの五パーセントを犠牲にして発動する業炎の一撃が、似非サンタを貫いた。
***
墜ちたサンタに、トナカイたちが融合した時は正直ビビった。
だが、今はもう、それすらも気にならない。
「いやー……便利すぎるだろ。何か裏でもあるんじゃないのか?」
二度目の登場をした《天宮》…アスリウと名乗っていたが…は、リオンに奇妙なスキルを付与した。名前は《必中の願い》。《投擲》スキルに対応させるためだけにあるのではないか、と思われるほどの、その性能の相性の良さ。
超ざっくり言ってしまうと、このスキルの効果は、その名の通り『攻撃を必中にさせること』。より正確には、『遠距離攻撃を行った際、自分の手に武器が持たれていないのであれば、その攻撃は有効射程距離内では必中となる』。
これのせいで両手に武器を持って戦うことはできなくなったが、全ての攻撃が必中するならそれを上回るハイリターンだ。事実、融合サンタの巨躯の最大の弱点と思われる頭を、既に何度も打ち抜くことに成功していた。
「これで……どうだっ!!」
片手剣ソードスキル、《ヴォーパル・ストライク》を『投げる』。
弓ソードスキル、《エクスプロード・アロー》を『投げる』。
投擲槍を取り出して、ロングレンジ攻撃。専用の複合ソードスキル、《バニシング・ジャベリン》。
「HOOHOOHHOOO!?」
「MERRYYYY!?」
「Christmaaaaas!!」
トナカイ怪人の頭の方が謎の奇声を上げている気がするが。
――――疲れてるんだな、おれ。そうだよな。一時間近くぶっ通しで投げまくってれば、そりゃぁ疲れるよ。
勤めて無視する。
「せいっ!」
《クイックチェンジ》で交換した武器を構える。今度はレイピアだ。神速を以て『投げ』られたソードスキル、《シューティング・リニアー》が、白銀の光を纏ってサンタを貫く。
――――まだまだ。
投剣ソードスキル、《ソニックシュート》。音速の一撃が、サンタのギョロリとした右目を貫いた。
「HOOOHOOOOHOOOOOOOIIII!?」
「よっし!!」
これで、後は――――
「倒すだけ!!」
後書き
今回は皆本来の力を取り戻したりなんだりでハイテンション。
刹「というかそれだけですね」
うん。というか毎回コラボ編なんてこんな感じだよ……もっと精密に書こうと思ったら7000文字くらい必要だ。そしたら更新が遅くなる。となると、前回みたいに途中で止まる。苦肉の策だ。
刹「けど、前回も大体一話4000文字くらいでしたけどね?」
…………次回かその次でコラボ編も終わりかなぁ。(だッ!
刹「ちょっと作者、逃げないでください! それでは次回もお楽しみに! 待ちなさい作者!」
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