美しき異形達
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第二十九話 旅のはじまりその六
「お金のことは心配しなくていいわ」
「それは何よりだな」
「お金でしたら」
桜がここで言うこととは。
「私が」
「いいわよ、そんなの」
菊が笑ってだ、その桜に言った。
「あるから心配しないでって言うのよね」
「はい、御用でしたら」
「いいわよ、お金はワリカンよ」
「各自で、ですか」
「同じものを買ってね」
そして、というのだ。
「皆で同じだけお金を出せば」
「いいのですね」
「そう、だからね」
それで、というのだ。
「お金のことは出さなくていいのよ」
「というか桜ちゃんだけお金出してそれで友達かしら」
向日葵は笑顔だが鋭いことを指摘した。
「そういうことはよくないでしょ」
「人にお金を出させて自分は出さない」
菖蒲は無表情で核心を指摘した。
「それは友達ではないわ」
「そうよね、お金のこともお互いで出し合う」
菫も言う。
「それが友達よ」
「お金のことってやっぱり大事よ」
裕香も言う。
「だから今回の旅行も皆で公平に出し合ったのよ」
「そういうことなんだな」
薊も裕香のその言葉に頷く。
「公平にワリカンか」
「そう、桜ちゃんのお家が大きな呉服屋さんの娘さんでも」
それでお金を持っていてもというのだ。
「それでもね」
「一人だけ出すってな」
「自分は出さない、そういうことは間違ってるわ」
「だよな」
「ただ、薊ちゃんがね」
「あたしが?」
「お金持ってるのね」
裕香は薊に対して言うのだった。
「そういえばバイクも持ってるし」
「ああ、それなりにな」
持っているとだ、薊自身も裕香に答える。
「持ってるぜ」
「孤児院にいたのよね」
「そうだよ」
「それでどうしてお金が」
「新聞配達のバイトとかしてたんだよ」
子供の頃からだ、それをしていたというのだ。
「あと今もな」
「アルバイトしてたの?」
「流石に外で働いてる時間はないけれどさ」
その新聞配達の様なだ。
「それでも採点のアルバイトしてるんだよ」
「ああ、答案の」
「あれ結構適性があるけれどさ」
採点だけをひたすら書いていく、これは確かに適性が必要だ。それがないとどうにも疲れてしまう。しかし薊はというと。
「あたしは大丈夫だから」
「それでか」
「ああ、そのアルバイトもしてるんだよ」
「そういえば薊ちゃん書くの速いしね」
速筆もだ、薊の特徴の一つだ。
「そうしたアルバイトも向いているわね」
「そうだろ、だからやってるんだよ」
「そうなのね」
「それと旅行の後はな」
その時はというのだ。
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