ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~
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聖夜に捧ぐ『フローエ・ヴァイ・ナハテン』~クロスクエスト~
第二幕
「へぇ、じゃあユイナさんは奪われたクリスマスプレゼントを取り戻しに?」
「はい。折角ユウガ君のために端正込めて作ったお守りなのに、飛んできた鳥に持ってかれちゃいまして……ハリンさんは?」
「僕? 僕はオウカに上げたいものがリアルで再現できなかったから、契約に乗った、って感じかな……なかなか難しいんだね、ヘアピン作るのって」
「え? 教室とか開催してる場所結構ありますよ」
「…………何故知らなかったのだろう」
森の中を二人の人間が歩いていく。
一人は、二本の刀を吊るした、金髪の青年。柔和な顔立ちの中に、確かな強さがある。
もう一人は、ツインテールの巫女服少女。町中を歩けば多くの人が振り返るだろう美少女だ。
青年の名は《浸食の双刀》ハリン。少女の名は《踊る巫女》ユイナ。二人とも、かつて剣に支配された仮想世界で活躍したプレイヤー達だ。
もっとも、二人が辿った歴史は、大きく異なる物だったが。
「けど、デスゲームじゃないSAOか。ちょっと想像しにくいな」
「そうですか? ベータテストはデスゲームじゃなかったじゃないですか。それに、私達の方には三年間、っていうタイムリミットが有りましたから」
そう、ハリンの辿った歴史でのSAOは、茅場晶彦が、仮想世界を現実にするために企てたデスゲーム。対するユイナの世界のSAOは、茅場がまた少し違った目的のために作ったもので、デスゲームでない代わりに、タイムリミットが儲けられていたという。
異なる歴史を辿った世界。二人は、俗に《平行世界》と言われる場所から来たのだ。
思えばSAO時代、ハリンは一度、平行世界へと呼び出され、今回の事態のトリガーとなった青年と顔をあわせている。
天宮陰斗。プレイヤーネームは《シャノン》。天宮刹那の兄。
だが、この世界への扉を開きに来た同じ名前の青年は、どこか纏っている雰囲気が異なっていた様に思う。
シャノンは、なんというか、よくも悪くも人間臭い。
だが《天宮》は、超越した目線からこちらを見ている。
確証はないが、そんな気がしていた。それに、あくまでも《超人》の範疇だったシャノンと違って、《天宮》の行いは完全に《神》の領域だ。
そう――――『クリスマスプレゼント獲得を欲する旧SAOプレイヤーを、異世界に呼び出す』などと。
「どうしたんですか? ハリンさん」
「ん? ああ、ごめん。ちょっと考え事……さ、急ごう。クリスマスプレゼントの手がかりを探しに」
***
「……結局、あいつは何がしたかったんだ」
両の腕に盾を構えて、アクトは呟く。
先ほど自らの前に現れた男、《天宮陰斗》は、アクトにこういったのだ。
『おいで。失われた君の感情が、望んでいるモノをあげる』
アクトにはいくつかの感情がない。それと、他人の気持ちを知る《共感覚》がない。全て、両義太極の《太極》をつかさどる第二人格に持って行かれた。《両義》であるアクト自身には、悲しみも、喜びも、優しさも、楽しさも――――そして、愛情すらもない。
長い間、望む答えを出すはずもない我が身を慕ってくれている少女に、答えてやることすらできない。
失われた心を、取り戻そうとは思わない。もう、感情が足りない生活には、慣れた。
だが、あの青年が姿を現し、自らを誘った時――――
アクトは、失われたはずの感情がうずくのを感じた。そして、ほんの少しの『興味』も。
珍しくアクトは、自分の利益以外のことを考えて動いた。結果としてそれが利益になればそれでよし。その程度で動いた。感情がないがゆえに合理的であるアクトには、死ぬほど珍しい行動だった。
だが――――この世界にやってきてから早三十分。アクトは、《天宮》が示そうとしたものが何なのか、一向に手がかりをつかめないでいた。
もしかしたら、何の意味もないのではないか。
あの男に、謀られたのではないか。
――――考えても、仕方ない。
「俺らしくもない」
アクトはそう呟くと、再び手がかりを探して放浪を始める。
――――その時だった。物陰から、一つの人影が飛び出したのは。
「――――ッ!」
とっさに《デストラクション・シールド》を構えて攻撃を弾き返す。アクトの持つユニークスキル、《双盾》はこの世界でもきちんと発動するらしい。自分には一切のダメージが入らずに、代わりに相手にその分のダメージが弾き返される。
「うぉぉ!?」
「……何だ?」
《双盾》のエクストラ効果でダメージを受け、吹っ飛んで行ったのは一人の少年だった。SAO時代の、ギルド《血盟騎士団》でキリトが着ていた制服に似た、白地に青いラインの入ったコートを纏った、黒髪の少年だ。
「いてて……何だよ、その盾……全部跳ね返ってきやがった……《双盾》? うわ、ダメージ反射効果があるのか。うへー、先に《見て》おけばよかった……」
見れば、少年の眼が光っている。彼の視点はアクトではなく、どこか別の場所……そう、例えば、脳裏に閃いた文字を見ているようだった。
「誰だお前」
「あ、急にごめん。俺はジン。《天宮》とか言う奴の誘いで、クリスマスプレゼントを取りに来た。お前は?」
「クリスマスプレゼント……? ……アクトだ。《天宮》に半強制的に連れてこられた」
すると、へぇ、と、ジンと名乗った少年は呟いた。
「みんながみんな、クリスマスプレゼントを取りに来たわけじゃないのか……なぁ、俺と一緒に動かないか? 人数は多い方が楽だろうし」
「構わないが……俺の盾で、前線に出てる奴を守るのは厳しいぞ?」
「良いって良いって。敵の攻撃の起動ぐらい、《この目》で読めるからさ」
直後、少年の眼の色が変わる。
「それは?」
「ユニークスキル、《千里眼》。まぁ、情報の透視とかそう言うのができるスキルだ。よろしく、アクト」
***
「またこんな件なのか……」
森の中を、二本の大剣を携えた青年が歩いて行く。銀髪に、青いコートの少年だ。構えている大剣は、片方が黒、もう片方が白。
『だから前回も言ったろ? アツヤ。「あの天宮、とかいう奴には注意しろ」ってな』
「前回お前の声聴こえなかったじゃねえか、《悪我》」
アツヤ、と呼ばれた少年の脳裏に直接語りかけるのは、黒い方の大剣だ。名前、と言うより《銘》は、《神撃剣・悪我》。
『ですが、淑女のためにプレゼントを取りに行こう、という心意気には感嘆しました。さすが我が主です』
アツヤを褒めたのは、白い方の大剣。名前もとい銘は《神断剣・性》。
アツヤは現在、《天宮》と名乗る青年の導きで、このアインクラッドにもにた奇妙な世界に迷い込んでいた。目的は、ヒメカこと姫乃臨花へのプレゼントを手に入れるため。
「まぁ、せっかくだから、現実世界じゃ高くて買えないものとかにするかなぁ……」
――――指輪、とか?
そう考えて、首を振る。
――――駄目だ。さすがに早い。
『ったく。同棲してる時点でもうほとんど夫h』
「だぁぁぁっ! 言うなッ! それにアヤセも定期的に来てるんだから、二人っきりじゃないだろ!」
『ですがアヤセ嬢ももはや半ば通いづm』
「だから! やめろって!!」
まったく、恥ずかしい。
アツヤは双大剣を黙らせると、周囲に索敵を掛ける。
――――あっさりと、何かが引っ掛かった。
「……ッ!?」
――――後ろか!!
「ソードビット!!」
音声コマンドに反応して、《悪我》とよく似た漆黒の大剣が出現する。射出されたそれは、背後に迫ってきていた一つの人影を吹き飛ばした。
「ぐぎゃっ!」
奇妙な音をたてて飛んで行ったのは、鹿だかトナカイだかのそれに似た、角をもったヒトガタ。
「モンスター、か……?」
どう見ても人間ではない。が、SAOやALOと違って、カラーカーソルもHPバーも出ない。
さらに不気味なことに、明らかに絶命しているのにも関わらず、ポリゴン片となって爆散しない。
カラーカーソルやHPバーに限って言えば、以前《天宮》と同じ顔の少年、シャノンと共に戦った世界でもそうだった。だが、あのときは敵はポリゴン片となって爆散した。
「嫌な感じがするな」
『ああ……』
『気をつけて行きましょう』
***
「っとぉ!」
眩い光を放った二刀が、漆黒の体を引き裂いた。トナカイ頭の怪人を打ち倒し、《漆黒の勇者》ライトは息をつく。
「ふいー。やっと少なくなってきたな!」
「一時は相当量が居たからな……まぁ、俺達なら楽勝だったけどな!」
隣で同じく二刀を納めたのは、真っ白い少年。ライトの親友、《純白の英雄》リン。
彼らは今、《天宮陰斗》を名乗る青年の手引きで、旧SAOに良く似た世界へやって来ていた。
目的は一つ。自らの嫁の為に、クリスマスプレゼントを(実力で)勝ち取ること。
どんな敵がやって来ても、ライトとリンの《勇者剣》、そして《英雄剣》なら突破できる。そう信じてここまで来た。
そして真実、突然現れた謎のトナカイ男の集団にも、ライト達は易々と勝利することが出来た。
「ただ流石に疲れたなー。まさかあんなに沸いて出るとは」
「しかも死体消えないしな。どうする?」
「燃やしちゃおうぜ!」
そんなわけで特殊スキル《魔法》を発動し、山積みになった鹿男を死体を燃やすライト&リン。
「うわぉ。まるでキャンプファイアー……」
呟くリン。だが、こんなときに一番騒ぎそうな、火を着けた張本人である相棒が、何故か静まりかえっている。
「どうした?」
「今、向こうの方から音が……弓を射るような音……まさか……」
そして直後。
「今、向こうの方から話し声が……それにあの炎、まさか……」
森を抜けて、一人の男が姿を現した。
その男は、複雑な形状の大弓を持っていた。龍の鱗を改造したような、その大弓。それを所持している人間を、ライトもリンも、一人しか知らない。
「「やっぱりライトだぁぁぁぁぁッッ!!!」」
よく知っている人物だった。
その名は、《狩人》ライト。ライトと同じ名前の、彼の永遠の宿敵だ。
後書き
どもっす、Askaです。今回はあっさり一区切りに。
刹「っていうか一区切りにしすぎじゃ?やけに短いですし」
仕方ない。コラボ編は毎回このくらいの長さだ。
さてはて、これで一応参加作者様のキャラは全部でたかな?次回は戦闘回(予定)!『神話剣』キャラの出番!? ……さあ?
刹「ちょ!? ……ともかく、次回もお楽しみに!」
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