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遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~

作者:久本誠一
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ターン16 鉄砲水と歯車と地獄

 
前書き
盛大に遅れましたね、ごめんなさい。2週間ほど前に一度書き上げたんですが、それが面白くできてるのかどうかで悩みまくった挙句デュエルシーンを7割がたカットして書き直し。そんなことやってたら11月も終わってしまいました。そして手直ししてもこの程度の出来栄えというね。 

 
「うーん、こりゃひどい。あ、ちょっとサッカーそっちのノート取って………うい、センキュ」

 渡された大学ノートをぺらぺらめくり、つらつらと並んだ数字を電卓に打ち込んでいく。これとこれとこれが支出で、あとこれも支出で、それからこっちの数字も支出で………。

「………寝る」
『そう来ると思った。打ち合わせ通りよろしく頼む』

 ノートを閉じて全力で現実逃避しようとした矢先、いきなり背後から霧が湧きだして僕の体を包み込む。ただの霧のはずのそれは物理的な質量があるかのように僕を抑え込んで、その場を離れられないようにした。

「チャークーチャールーさーん、それに霧の王まで、何すんのさまったくもう」
『マスターの性格を考慮した結果、赤字額が6ケタを超えた瞬間に容量オーバーになるのは目に見えたからな。案の定、累計10万と63円になったところで考えるのをやめたか』
「だだだって10万だよ!?9万までならどうにかなる気がするけど6ケタだよ!?これ以上赤字が増えるところなんて見たくないよ!」
『ふむ。なら、そんなマスターにいい言葉を授けてやろう』
「な、何?」

 含みたっぷりにそんなことを言うチャクチャルさんになんだか嫌な予感を覚えつつも、一応聞くだけ聞いてみることにする。

『昔から言うだろう。―――――男は借金背負って一人前、と』
「だったら半人前でいいよ!」

 チラッとでも聞いてみようと思った僕が馬鹿だった。さて、そもそもどうしてこんなことを僕がする羽目になったのかというと、それは数時間前にさかのぼる。





「あ、そこの君。ちょっといいでアールか」
「はーい、どしたんですかナポレオン教頭」

 廊下を歩いていた僕は背が低くて小太りで、クルリとカールした立派なひげが特徴的な微妙に貴族風ファッションの人に呼び止められた。そう、こんなよくわかんない恰好した人がこの学校の教頭なのだ。あのクロノスせんせ………あー、校長代理にも負けず劣らずにキャラが立っているというなかなかとんでもない人だけど、学校での評判や印象は正直イマイチの一言に尽きる。というのもより立場が上でデュエルも強いクロノス先生と違ってあまり生徒たちと関わりあうことをせず、いまだに全校集会などの先生が全員そろう時にしかその姿を見たことのない一年生がいるほどなのだ。おまけに僕らが入学した時のクロノス先生並みにレッド寮を毛嫌いし、イエロー寮も若干見下してる節がある。ちなみに僕個人としては何度か寮長ファラオの代理として話をしたことがあるので比較的知っている人ではあるのだが、どうも何度話をしても小悪党という印象がぬぐえない。どうしようもない悪人ではないんだろうけど、多分この人は一生こんな感じの性格なんだろうなーと。

「最近オシリスレッドの会計状況の提出が無いようでアールが、もしかしてなにか見せられない事情でも?たとえばそう、赤字、のような?」
「ほえ?………あー、あー、あー!やですね先生、ちょっとドタバタしてただけですぐに出しますって、ホント」
「ま、吾輩も鬼ではないから明日までは待ってあげるのでアール。万一赤字になった、なんてことがあれば……約束、忘れたとは言わせないのでアール」

 一方的にそれだけ言うと、のっしのっしとふんぞり返って歩き去っていく教頭。その背中を見送りながら、多分僕の笑顔は引きつっていたと思う。





 さて、そもそもなんでここでひきつった顔になる必要があったのか?これはさらに前、まだ僕が1年だった時までさかのぼることになる。と言っても話は単純で、まだ今に比べたらはるかに純真だったころの僕がレッド寮を取り壊そうと企んでた教頭の口車に乗せられて、ある1つの約束をしたのだ。それが、

『赤字が出たらその月いっぱいでレッド寮は廃止、か』
「そゆこと」

 考えてみたらとんでもなくむちゃくちゃな話ではあるが、その挑戦を受けた僕にも責任はあるので何も言えないのだ。ちなみに僕が最近開店休業状態な洋菓子屋『YOU KNOW』を立ち上げたのも、主にこの約束をどうにかするためだったりする。まさか半年もしないうちに電話回線が引けるようになるほど儲かるとは思わなかったけど。

「ただ、そのおかげで去年までの利益はほぼすっからかん。新しく葵ちゃんも入ったし、そこからの売り上げで十分まかなえると思ったんだけどなあ………」
『油断大敵か。今回に関しては不可抗力だと私は思うが』

 それもこれも、全部あの光の結社のせいなんだ。何日もかけて菓子作りのいろはを叩き込んできた貴重な戦力である葵ちゃんがいなくなったのも痛いが、校内のほとんどの生徒があそこに入ったことで敵対してる僕の店に来るはずもなく、客がぱったり来なくなったのが何よりも痛い。しかも、ちょうど砂糖とかをこれまで使ってた安物からちょっとグレードアップさせたタイミングと重なってるときてる。一応さっきは計算してみたけど、正直なところそんなことするまでもなく明らかに大赤字だ。

「さーて、どうすっかねえ」
『別に金を用意するだけならいくらでもやりようはあるのだがな』
「え、どんな!?」
『催眠、恐喝、詐欺その他もろもろだ。この年頃なら警戒心も薄いからなおやりやす……』
「やっぱり聞いた僕が馬鹿だったよこの邪神!」

 チャクチャルさんの発想は物騒すぎる。しかも冗談でもなんでもなく、素で言ってるあたりが恐ろしい。もうちょっとまともな感性の持ち主に相談したいところだけど、今すぐ会えるような相手は少ない。さすがに帰ってきたばかりの十代にこんな重い話をするのも酷だし、誰かほかの人で味方になってくれそうで、なおかつ人格者………よし、決めた。





「………ってことなんでクロノス先生、どうすればいいんですかね僕は」
「なんでそれを私に言いに来たノーネ。申し訳ないけれどシニョール清明、この件に関してははっきり証文まで取られてるからいくら私でもナポレオン教頭に言うことを聞かせるのは無理なんでスーノ」

 校長室。校長代理の札の『代理』の部分に油性マジックでバッテンを書く暇がある程度には忙しくなさそうだったクロノス先生に相談してみる。残念ながらあまり色よい返事ではなかったけど、ここではいそうですかと帰るわけにはいかない。

「あと一か月でいいんです、それだけあればいくらでもやりようはありますから」
「そんなこと言われましても………そもそも、私は校長として」
「……代理」
「聞こえてるノーネ。とにかく、生徒を正しい方向へ導く立場にありますーノ。この場合、対外的に見れば正しいのは明らかに証文を持ってる教頭の方。もしここで私がシニョール清明に手を貸してそれが教育委員会にバレでもしたら、私の進退にもかかわってくるようなことなのーネ。さらに言わせてもらえば、今の教頭は斎王琢磨と一種の協力関係にあることは明白。遺憾ながら光の結社に学校のほとんどを制圧された今は私の地位も飾り同前、逆らうのは得策ではないでスーノ」

 先生、そりゃないでしょう。文句の1つも言いたいのをぐっと我慢する。教育委員会云々は冗談のようだが、後半部分は確かに一理ある。どうもこの調子だと、粘ってみるだけ時間の無駄っぽい。

「………もういいです。しつれーしましたー」
「はい、気を付けて帰るノーネ。………ああ、それとこれは独り言なのですが」
「はい?」

 帰ろうとして背を向けた矢先、ぼそりと呟くようにクロノス先生が口を開く。

「確か、今レッド寮の取り壊しに積極的なのは校内でもナポレオン教頭だけだったような気がするノーネ。裏を返せば、教頭さえ納得させることができればいいような気もしないような気がするんですーノ」
「歯切れ悪いですね………そんなこと言われても、あの人を言葉で説得とかちょっと難易度高すぎますって」
「まったく、できの悪い生徒を持つとこの仕事も大変なノーネ。ここがどこだか一度じっくり考えてみるノーネ」

 ほとほとあきれた様子のクロノス先生。ここがどこかって?そんなもの、デュエルアカデミアに………あ、いや、ちょっと待てよ。うん、これならいけるかもしれない。

「先生、ありがとうございました」
「はて、何のことだかさっぱりでスーノ。私は部屋に誰もいないと思って独り言を喋っただけなのに、それをこっそり盗み聞きしていたとでも?」

 そう言ってにっと笑い、ウインクする先生。その姿に深々と一礼して部屋を出た。ナポレオン教頭、首を洗って待ってろってんだ!





「てなわけで教頭、僕とデュエルしてください」
「ななな、藪から棒に何を言い出すでアールか!?」
「なにって、デュエルですよデュエル。僕が勝ったら、レッド寮についての約束はなかったことにしてもらいます」 

 喋りながら声音や表情を微調整して、さも僕が当たり前のことを言っているような態度に見せかける。割と無茶言ってるのは承知の上だけど、ここで一気に押し切るべし。

「そもそも教頭、ここはデュエルアカデミアですよ?教頭はレッド寮をなくしたいのかもですけど、僕はそんなの嫌です。だったら、デュエルで白黒つけるしかないでしょう」
「そ、そんな横暴が教師に向かって通るはずないでアール!」

 うん、僕もそう思いますよ教頭。とは思っても言わない。態度にも出さない。出さないったら出さない。さらに畳みかけようとしたところで、思わぬ方向から援護が飛んできた。

「話は聞いたぜ、ナポレオン教頭!もしかして、生徒相手にデュエルするのが怖いのかよ!」
「十代!?」
「おう、水臭いじゃないかよ。俺だってオシリスレッドの一員なんだ、変なところで遠慮してないでちゃんと教えてくれよ」

 予想外だけど、これは心強い。………結局十代の力を借りちゃったか、僕。

「「そろそろ観念してもらいますよ、先生」」
「ム、ムゥ………だったら、こちらからも条件を二つ出すでアール。ひとつ、試合は明日、お互いの代表同士の一騎打ちで決めること。もうひとつは、その試合でそちらが負けたらその場でオシリスレッドは廃止とすることでアール」

 さすがに教頭の肩書は伊達じゃないか。代表を一人選んでの一騎打ちということは、どんな人が出てきてもおかしくはない。わざわざ明日なんて指定したところから見ると、何か助っ人のあてがあるんだろう。さらに、負けたらその場でオシリスレッド廃止。かなり不利な条件を付けられてしまったけど、ここでやっぱりやめますなんて言おうものならなんのかんのと言って逃げ切られることはほぼ間違いない。

「わかりましたよ、じゃあそれで」
「ふふふ、確かにその言葉聞いたでアール。残りわずかな時間を精々楽しむのでアールよ」

 それだけ言うと、僕らに背を向けて立ち去っていく教頭。一体、何をたくらんでるのやら。





 それからについては、特にこれといって何もなかった。日が西の空に沈んで、また東の空から昇る。ちなみに十代と僕のどちらが代表になるかは徹夜して話し合ったものの平行線のままどっちも譲らず、その場になってから空気を読んで決めようということで落ち着いた。そして、今は約束の場所に来ているのだが。

「教頭………ねえ十代、あの人ってさ」
「お、おう。だよなぁ」

 自信満々、といった様子のナポレオン教頭の隣に立つのは、黒いコートに黒い帽子、そして黒手袋の顔の上半分を覆うマスクをつけた巨人。すごく、すごーくあの人見た覚えがある。

「ふふふ、それでは紹介するでアール。今回『偶然』この島に観光に来ていたプロデュエリスト、タイタンさんでアール」

 あ、やっぱり。去年僕が倒したインチキ闇のデュエリストだ。とはいえ、だからといって油断はできない。今年に入ってからのタイタンはインチキからすっぱり足を洗って本格的なプロデビューを果たし、より進化したデーモンデッキを巧みに使いこなすプレイングセンスと本人の強烈なキャラ性からかなりの人気を誇る大会でも上位の常連なのだ。って、翔の読んでた雑誌あった特集の受け売りだけど。もっとも、インチキ云々は僕の創造である。ただ、プロの世界でチェスデーモンの耐性が必ず成功するなんていかさまが通用するとは思えないし、ねえ?

「久しぶりだな、お前らぁ。あの時のことについては感謝するが、今回は仕事。私情を挟むつもりはないから、覚悟しておけぇ」
「さあ、給料三か月分をつぎ込んで呼び寄せた………あ、いや、なんでもないでアール。とにかくプロデュエリストの洗礼を受けるのでアール!」
「タイタン………だったら、また僕が!」
「いや、俺にやらせてくれよ!」

 一瞬睨み合って、無言でお互いに拳を突き出す。僕はパー、十代はグー。うし、相手は僕だ。

「話はまとまったかぁ?ならば、いざ………」

「「デュエル!!」」

「先行は僕からだ、フィッシュボーグーアーチャーを召喚。そして魚族モンスターを召喚したことで、手札からシャーク・サッカーを特殊召喚!」

 フィッシュボーグ-アーチャー 守300
 シャーク・サッカー 守1000

「さらにカードを2枚伏せて、これでターンエンド」

 僕の伏せたカードは、魚族1体をリリースしてフィールドのカードを破壊、その上ドローまでできるカード、フィッシャーチャージと相手の攻撃を無効にしてうまくいけばダメージのおなじみ防御カード、ポセイドン・ウェーブ。これだけやれば、いくらプロでもそう簡単に展開はできないはずだ。

「守りを固めたかぁ。ならば私のターン、ドロー………魔法カード、大嵐を発動ぅ。魔法及び罠カードをすべて破壊だぁ」
「うっ!?」

 どうしよう。フィッシャーチャージをチェーン発動すれば一応大嵐を破壊して無理やりドローにつなげられるけど、それをやっちゃうとモンスターの数が減る。ここは………通す、か。

「そしておろかな埋葬を発動。この効果によりデッキからトリック・デーモンを墓地へ送り、その効果を発動。デッキからデーモンモンスターを1体サーチするぅ。私が加えるのは、戦慄の凶皇-ジェネシス・デーモン。このカードはレベル8だが、攻守を半分にすることで妥協召喚が可能となる」

 戦慄の凶皇-ジェネシス・デーモン 攻3000→1500 守2000→1000

 黒い玉座に座った、いかにも魔王といった風格のデーモン。だがその威厳も通常の半分のサイズになってしまっては形無しである。

「やれ、ジェネシス・デーモン!フィッシュボーグを攻撃だぁ!」

 形無しとはいえ、皇の名前はハッタリではない。小さいながらも闇を纏った一撃が、フィッシュボーグの体を一瞬にして包み込みひねりつぶす。

 戦慄の凶皇-ジェネシス・デーモン 攻1500→フィッシュボーグ-アーチャー 守300(破壊)

「カードを1枚伏せてターンエンドだが、この瞬間にジェネシスの効果が発動するぅ。妥協召喚したこのカードはエンドフェイズに自壊だぁ」

 清明 LP4000 手札:1
モンスター:シャーク・サッカー(守)
魔法・罠:なし

 タイタン LP4000 手札:3
モンスター:なし
魔法・罠:1(伏せ)

 さて、どうするか。伏せカードがあるとはいえ、今のタイタンの場にモンスターはない。直接攻撃を決められる可能性は十分にあるだろう。だったらあとは、自分の手札と相談か。

「ドロー………よし来た来た、魔法カード、スター・ブラストを発動!このカードはライフを500の倍数支払って、その分だけ手札か場のモンスターのレベルを下げることができるカード。これで1500ライフを払い、手札のシーラカンスのレベルを7から4に変更!そのままシーラカンスを通常召喚!」

 魚の王者、シーラカンス。この攻撃力2800の一撃が通れば、この先かなり有利になるはずだ。欲を言えば効果発動のためにもう1枚手札が欲しいところだったけど、無いものねだりはみっともない。

 清明 LP4000→2500
 超古深海王シーラカンス 攻2800 ☆7→4

「ほう………面白い、攻撃してみろぉ」
「言われなくても!シーラカンスでダイレクトアタック、マリン・ポロロッカ!」

 超古深海王シーラカンス 攻2800→タイタン(直接攻撃)
 タイタン LP4000→1200

「よしっ!」

 攻撃がしっかり決まったのを見て、ちょっとガッツポーズ。ナポレオン教頭があたふたしてるところも見えてちょっと気分がいい。
 だけど、僕はプロデュエリストというものを甘く見ていたらしい。

「相変わらずなかなかやるなぁ、少年。だが、今の私には及ばん。トラップ発動、フリッグのリンゴ!このカードは直接攻撃を受けた時にのみ発動でき、その戦闘ダメージ分だけライフを回復。さらに、その数値と同じだけの攻守を持った邪精トークンを特殊召喚するぅ」

 タイタン LP1200→4000
 邪精トークン 攻2800

「攻撃力2800のトークンで、さらにダメージも回復?………エンドフェイズ、スター・ブラストの効果は切れるよ……」

 超古深海王シーラカンス ☆4→7

「もはや手はなかろう。私のターン、ヘルポーンデーモンを召喚。さらに魔法カード、テラ・フォーミングを発動してデッキのフィールド魔法1枚をサーチ。ここは地獄への2丁目、伏魔殿(デーモンパレス)-悪魔の迷宮-をサーチし、そのまま発動だぁ。ふはははは、私のデーモンよ、その力を今こそ高める時だぁ!」

 いかにも魔王城といった出で立ちの黒い城がそびえ、その闇の力にあてられた邪精トークンがくねくねと踊り、ヘルポーンデーモンの腕の剣が怪しい光を放ちだす。

 邪精トークン 攻2800→3300
 ヘルポーンデーモン 攻1200→1700

「もうわかっているだろうが、このカードは自分フィールドの悪魔族の攻撃力を500ポイントアップさせる能力を持っている。バトルだ、邪精トークンでシーラカンスに攻撃ぃ!」

 2体のモンスターの攻撃力は本来互角。だが、シーラカンスではあのトークンに勝つことはできない。そして、手札も伏せカードも何もない僕では、それをどうすることもできない。

 邪精トークン 攻3300→超古深海王シーラカンス 攻2800(破壊)
 清明 LP2500→2000

「くぅっ!シーラカンス!」
「まだだ、ヘルポーンでシャーク・サッカーに攻撃!」

 ヘルポーンデーモン 攻1700→シャーク・サッカー 守1000(破壊)

 辛うじて、このターンは乗り切った。だけど次のターンにモンスターを引けなければ、僕の負けは確定する。

「ぐ、ぐぐぐ………」
「さっきまでの威勢の良さはどうしたぁ?カードを伏せてターンエンドだぁ」

 清明 LP2000 手札:0
モンスター:なし
魔法・罠:なし

 タイタン LP4000 手札:1
モンスター:邪精トークン(攻)
      ヘルポーンデーモン(攻)
魔法・罠:1(伏せ)
場:伏魔殿-悪魔の迷宮-

「僕のターン、ドロー!」

 起死回生の切り札、ではない。正直言ってこんな局面にこそメタイオン先生に出てきてほしかったけど、来ない者に文句言っても仕方がない。きっとまだ動く時ではないのだろう。

「死に出しは嫌いなんだけどな………ごめん、皆。ダブルフィン・シャークを守備表示で召喚して、召喚時効果を使用。墓地からレベル3または4の水属性魚族を1体特殊召喚することができる。もう一回出てきて、サッカー」

 ダブルフィン・シャーク 守1200
 シャーク・サッカー 守1000

「これで、ターンエンド………」
「どうした、それで終わりかぁ?スタンバイフェイズにヘルポーンのコストとして500ライフを支払う。メインフェイズにヘルポーンをリリースして、迅雷の魔王-スカル・デーモンをアドバンス召喚だぁ!」

 タイタン LP4000→3500

 攻撃力2500を誇る、デュエルキングも愛用していた通常モンスター、デーモンの召喚のリメイクカード。全身がバチバチと帯電するその姿もまた、悪魔の城から力を受ける。

 迅雷の魔王-スカル・デーモン 攻2500→3000

「我がデーモンよ、無力なそこの魚を引き裂けぇ!」

 迫りくる2体の高攻撃力モンスター相手に、なすすべもなくやられていく僕のモンスターたち。タイタン………強い。去年のあれは一体なんだったのかと聞きたくなるぐらい強い。

 邪精トークン 攻3300→ダブルフィン・シャーク 守1200(破壊)
 迅雷の魔王-スカル・デーモン 攻3000→シャーク・サッカー 守1000(破壊)

 清明 LP2000 手札:0
モンスター:なし
魔法・罠:なし

 タイタン LP3500 手札:1
モンスター:邪精トークン(攻)
      迅雷の魔王-スカル・デーモン(攻)
魔法・罠:1(伏せ)
場:伏魔殿-悪魔の迷宮-

「僕のターン、ドロー………!まだ、まだ諦めるもんか!魔法カード、ブラック・ホールを発動!フィールドのモンスターを全破壊するこのカードがあれば、戦況はまだ……!」
「いいぞ清明、これならまだ勝負は……」

 そう言いかけた十代のセリフが、途中で止まる。ブラック・ホールに対し、タイタンが伏せカードを発動したのが見えたのだ。

「いいや、その程度では私には勝てん!トラップ発動、魔宮の賄賂!お前に1枚カードを引かせる代わりに、その発動を無効にするぅ!」
「そ、そんな」

 一縷の望みを託して最後に賄賂の効果で引いたカードはステータスもレベルも低い、この局面をひっくり返すにはあまりに力不足な縁の下の力持ちとでもいうべき効果モンスター。そんな、僕が負ける?こんな大事な勝負で?嘘………。

「フィッシュボーグ-プランターを守備表示、これでターン、エンド…………」

 フィッシュボーグ-プランター 守200

「随分とあっけなかったな、私のターン。スタンバイフェイズに迅雷の魔王のため500ライフを支払い、邪精トークンでフィッシュボーグを攻撃!」

 タイタン LP3500→3000 
 邪精トークン 攻3300→フィッシュボーグ-プランター 守200(破壊)

 最後の僕のモンスターもあっけなく破壊され、がら空きのフィールドから自らの必殺技である怒髪天昇撃の構えを取る迅雷の魔王と目が合う。今度ばかりはお手上げだ、手札も、フィールドも、何もない。ごめん、十代。

「これで終わりだ、迅雷の魔王でダイレクト―――――」
「ちょっと待つノーネ!」
「むむ、この声はまさかお前でアールか!」

 突然投げかけられた、聞き覚えのある声。あの子供の時にどんな育ち方すればそんな語尾が身につくのかさっぱりわからん特徴的な話し方は、この世広しといえどもそうはいない。というか、もしあの人以外でこんな喋り方してる人がいたらびっくりしてひっくり返る自信がある。

「クロノス・デ・メディチ、ただいま参上ナノーネ!」
「一体何をしに来たでアールか、クロノス代理校長!」
「だから、代理はやめるノーネ!」

 もはやお約束と化したやりとりを終え、改めて僕の方に向き直る先生。

「まったく………一人でプロと戦おうなんて、いくらシニョールと言えども無茶が過ぎるノーネ。ナポレオン教頭、話は全部私の耳に届いていましたが、高校生相手にプロデュエリストをぶつけるとはいくらなんでも生徒にとって不公平すぎると思われるノーネ。よってこの勝負、私がここから代わりに行わせてもらいますーノ!」
「な、なんと。それは………」
「ふっ、面白い。私はそれでも構わないぞぉ」

 文句を言おうとした教頭を止めたのは、以外にも当事者のタイタン。なんだろう、さっきからこの人の大物オーラがすごい。去年のあの人と同一人物とは思えない。

「と、いうことですシニョール清明。あとはこの実技担当最高責任者、クロノス校長に任せるノーネ」
「でも、先生……」
「ノンノン。生徒は教師の言うことを聞くものであるからして、口答えなどしてはいけませんーノ。………それに、これは私からの贖罪の意味もあるノーネ」
「贖罪?」

 不意に大真面目な顔になるクロノス先生。声もやさしく諭すような調子から、急にシリアスな感じに変わる。

「去年あなたはあのタイタンとデュエルしましたね、シニョール清明。これまで黙っていましたが実はあれは、私がこの島に招いたデュエリストだったノーネ。私が教師として未熟だったせいで入学したてのあなたたちを危険な目に合わせてしまいました。もちろんこんなことでその罪が消えるとは思いませんが、せめてこれぐらいは私にやらせてください」

 マジか。マジでか。大体おかしいとは思ってたんだよ、なんで学校の廃寮にわざわざ入り込んでたのかとか、なんで僕と十代の名前を知ってたのかとか。あの時はそれどころじゃなかったから疑問に思わなかったけど、あとから考えてみれば明らかに変だし。そうか、あのやたらめったら嫌味で小物だったころのクロノス先生が呼んでたのか。
 まあ、もっとも、

「そのことについては気にしないでくださいよ、先生」
「ホワッツ?しかし………」
「今となってはいい思い出ですし、それに」

 ここで、チラッと自分のデッキを見る。思えば、あの時のタイタンとのデュエルがきっかけで僕はこうやって精霊が見えるようになれたんだ。それに、あの体験が元になって稲石さんとも知り合えた。感謝こそすれ、恨む道理なんてただの1つもありはしない。とはいえ、さすがに精霊とか何とか言っても先生には通じないだろうから、そこは適当にぼかすことにする。

「それに、大事なものがたくさん増えましたし」
「?」
「いえ、なんでもありません」
「さあ、話は終わったかぁ?デュエルの続きを始めようではないかぁ」

 そう言われデュエルディスクを構えるものの、その前に、と一度手を止めるクロノス先生。

「ルールを確認するノーネ。あなたのターンの中断されたところからスタートで私の手札は5枚から、ライフポイントと墓地に関してはシニョール清明のものをそのまま受け継ぐ。………異論はありませんか?」
「ええっ!?」
「ほぅ………」

 思わず驚きの声を上げる僕に対して、感心した様子のタイタン。それはそうだろう、何せさっき中断されたところって言ったら僕がやられる寸前、おまけにライフも通常の半分しかない。初期手札に手札誘発のカードがない限り、出てきたその瞬間に敗北確定という話にならないぐらい不利な条件だ。それを、あの先生は今からやってのけようというのだ。

「ふふん、そう簡単に狙ったカードが引けるはず無いでアール。タイタンさん、構わないからやっつけてやるでアールよ」
「クライアントがそう言うんなら、それでよかろう。迅雷の魔王で改めて攻撃、怒髪天昇撃!」

 激しい雷がジグザグに走りながら、先生めがけて襲い掛かる。だけど先生は落ち着き払った顔で、手札から1枚のカードを墓地に送った。

「手札から、速攻のかかしの効果を発動。ダイレクトアタック時、その攻撃を無効にしてバトルフェイズを終了させるノーネ。ちなみにこの効果は対象を取らない者であるからして、そのモンスターの耐性も無意味なんですーノ。………ここ、次の試験に出しますからあなたたちもよく覚えておくように」

 帽子をかぶった金属製のかかしが、全ての雷を黒こげになりながらも受け止める。それを見たタイタンは悔しがるどころか、以外にもにぃっと笑って見せた。

「くくく、面白い。カードを伏せて、俺はこれでターンエンドだぁ」

 清明→クロノス LP2000 手札:4
モンスター:なし
魔法・罠:なし

 タイタン LP3000 手札:1
モンスター:邪精トークン(攻)
      迅雷の魔王-スカル・デーモン(攻)
魔法・罠:1(伏せ)
場:伏魔殿-悪魔の迷宮-

「では私のターン、ドローナノーネ!シニョール清明、あなたのカードを使わせてもらいますーノ。私は、墓地からフィッシュボーグ-アーチャーの効果を発動!水属性モンスター1体を墓地に送ることで、このカードを蘇生させることができますーノ」
「でも、クロノス先生のデッキは古代の機械でしょう?そこに入る水属性モンスターなんて」
「まったく、まだまだカードプールの知識が足りてないノーネ。確かに水属性機械族は数が少ないうえにそのほとんどが水属性用のカードですが、中にはこんな例外だってあるノーネ。手札からブリキンギョを墓地に送り、アーチャーを蘇生しますーノ」

 フィッシュボーグ-アーチャー 守300

「さらに墓地から、フィッシュボーグ-プランターの効果を発動。1ターンに1度デッキトップを墓地に送り、そのカードが水属性モンスターならそのまま墓地のこのカードを特殊召喚できるノーネ。私のデッキトップは………同じく水属性モンスター、ブリキンギョ。よってこのカードも蘇生しますーノ」

 フィッシュボーグ-プランター 守200

 あっという間に、僕のカードを巧みに使って2体のモンスターを揃えたクロノス先生。あの人のデッキで、それが意味するところは一つしかない。

「そして、この2体のモンスターをリリース。来い、古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)!」

 古代の機械巨人 攻3000

「だが、そのモンスターの攻撃力は辛うじて私の迅雷の魔王と相打ちにできる程度。次のターンに邪精トークンの攻撃で葬り去ってくれるぅ」
「ぼ、僕が下手にシーラカンスなんかでダイレクトアタックしたせいで………」
「シニョール清明、あまり思い悩むのはあなたの悪い癖でスーノ。魔法カード、巨大化を発動。このカードは私のライフが相手よりも低い時に装備モンスターの攻撃力を元々の倍の数値にするノーネ」

 古代の機械巨人 攻3000→6000

 なんと、僕が好き勝手やって減らしたライフを逆手にとって無理なく巨大化のメリット効果を発動してのけた。これで、タイタンのモンスターをどちらも破壊できる。

「カードを1枚セットして、ターンエンドするノーネ」
「ええ!?」

 絶好の攻撃チャンスに攻撃しなかった先生。一瞬プレミスか、という疑念が胸をよぎった。

「シニョール清明、頼むから自分のカードの効果ぐらい把握しておくノーネ。フィッシュボーグ-アーチャーの蘇生効果を使ったターンにバトルフェイズを行う場合、その開始時に自分フィールドの水属性以外のモンスターはすべて破壊されるんですーノ。私の古代の機械巨人は地属性、破壊を免れるためにはこのターンバトルするわけにはいかないノーネ」

 そ、そういえばそんな効果もあったっけ………僕のデッキだと水属性以外のモンスターがそもそも自分フィールドが空の時、というアーチャーの効果発動条件と決定的に相性悪い白銀のスナイパーと同じく相性が悪いうえに効果破壊されないメタイオン先生ぐらいしかいないから忘れてた。いや、でも、これは仕方ないと思う。普段からノーデメリットで使い慣れてたし。

「さすがに教師、といったところかぁ。私のターン、ドロー。スタンバイフェイズに迅雷の魔王に500ライフを払い、インターセプト・デーモンを召喚して伏魔殿第二の効果を発動。自分フィールド上のデーモンを選択し、それ以外の悪魔族を除外することでそのレベルと等しいレベルを持つデーモンを特殊召喚できるぅ。迅雷の魔王を選択してインターセプト・デーモンを除外、そしてレベル6のデーモン、デーモンの巨神をデッキから特殊召喚するぅ」

 タイタン LP3000→2500

 まるでアメフト選手のような格好をした4本腕の悪魔に、迅雷の魔王が文字通りの雷を落とす。一瞬で灰になったインターセプト・デーモンの魂を吸い込んだ伏魔殿の扉が開き、新たな悪魔が1体戦列に加わった。

 デーモンの巨神 攻2400→2900

「そんなにモンスターを並べたところで、私の古代の機械巨人の攻撃力の方が上なことに変わりはないノーネ」
「確かに今は、なぁ。だがこの瞬間にトラップ発動、ジェネレーション・チェンジ!自分のモンスターを1体破壊し、そのモンスターと同名カードをデッキからサーチする。デーモンの巨神を対象にとるが、この時さらに巨神の効果を発動。500ポイントのライフを支払うことで、自身の効果破壊を1度だけ無効にできる」

 タイタン LP2500→2000

「むうう、そうきましたか」
「今更気づいたかぁ、これで私のライフはお前と同じ、よって巨大化の攻撃力倍加効果は消えることとなる」

 古代の機械巨人 攻6000→3000

「バトルだぁ、邪精トークンで攻撃!」
「………見事な戦術ではありますが、まだまだ甘いノーネ!トラップ発動、闇よりの罠!このカードは自分のライフが3000ポイント以下の時に1000ライフを払うことで発動し、自分の墓地のトラップ1枚の効果をコピーするノーネ。私が使用するカードは、ポセイドン・ウェーブ!」

 ポセイドン・ウェーブ………最初のターンに僕がセットしたものの、大嵐でフィッシャーチャージ共々破壊された攻撃を無効にするカードだ。分厚い水の壁が攻撃を受け止め、跳ね返す。それと同時に巨人の姿が光に包まれ、再び大きくなり始めた。

 クロノス LP2000→1000

「これであなたの攻撃は無効になりましたが、それだけではないノーネ。再び私のライフがあなたを下回ったことで、巨大化はその効力を再び発揮しますーノ。また、闇よりの罠でコピーしたトラップはその後、ゲームから除外されますーノ」

 墓地からポセイドン・ウェーブのカードを抜き取り、それをポケットにおさめる。そうしている間にも、さっき一瞬縮んで見えた巨人の体が再び大きくなっていく。

 古代の機械巨人 攻3000→6000

「ちぃぃ………貫通能力を持つ古代の機械巨人の前には守備表示にする意味はない、かぁ。ターンエンドだ」

 クロノス LP1000 手札:1
モンスター:古代の機械巨人(攻・巨大化)
魔法・罠:巨大化(巨人)
 タイタン LP2000 手札:1
モンスター:邪精トークン(攻)
      迅雷の魔王-スカル・デーモン(攻)
デーモンの巨神
魔法・罠:なし
場:伏魔殿-悪魔の迷宮-

「私のターン、ドロー。墓地からフィッシュボーグ-プランターの効果を発動。デッキトップは水属性モンスターではありませんから、蘇生は失敗したノーネ。ですが、これでよし。ここまでで準備は整ったので、このターンで決めるノーネ!」
「面白いぃ………やれるものならやってみろぉ!」
「古代の機械巨人で、邪精トークンに攻撃!アルティメット・パウンド!」

 ビックサイズの鋼鉄の拳(当社比十割増し)がうなりを上げ、何気にかなり長いことフィールドに留まり続けたトークンをついに破壊する。攻撃力の差は2700、これならタイタンを一撃で仕留められる。
 だけど、その攻撃はあまりにも単調すぎる。

「手札からクリボーの効果を発動!このカードを墓地に送り、一度だけ戦闘ダメージを0にするぅ!」

 古代の機械巨人 攻6000→邪精トークン 攻3300(破壊)

「これで、お前の攻撃は………」
「やはり、その程度の対策はしていましたか………速攻魔法、旗鼓堂々を発動!このカードは墓地の装備魔法1枚を選択し、フィールドの正しい装備対象に1ターンのみ装備することができる!」
「だが、お前の墓地に装備魔法なぞ………はっ!ま、まさかぁ!」
「そのまさかなノーネ。私が先ほどプランターの効果で墓地に送ったカードは閃光の双剣-トライス、このカードを発動コストである手札1枚を踏み倒して古代の機械巨人に装備!」

 右ストレートを振り切った姿勢で固まる巨人の両腕に、光る双剣が握られる。巨人の目が赤く光を放つと、その左腕がゆっくりと持ち上がった。

「トライスを装備したモンスターは、攻撃力が500ポイント下がりますが………」

 古代の機械巨人 攻6000→5500

「そのかわり、2回攻撃の能力を得るノーネ!古代の機械巨人、もう1体のデーモンに攻撃!」
「むうううぅぅ………!」

 古代の機械巨人 攻5500→迅雷の魔王-スカル・デーモン 攻3000(破壊)
 タイタン LP2000→0





「つ、強い………」

 いや別に、疑ってたわけじゃないけど。一瞬の反撃すら許さないクロノス先生の猛攻の前に、あっという間に勝負がついてしまった。もうね、さっきまでの苦労はなんだったのかって。せっかくメタイオン先生の参戦で僕も強くなったのに、周りの人たちの成長がそれ以上で埋もれまくっちゃってる気がする。

「お、覚えてるでアール!」

 はあ、とため息をついたところで、ナポレオン教頭が捨て台詞を吐いてこっちにベー、っと舌を出しながら走り去っていくのが視界の端に見えた。短い足でそうやって後ろ見ながら走ってると………あ、やっぱ転んだ。痛そう。

「さてと、どうもこの島に来るとろくなことにならん。表の仕事もあることだし、私もそろそろ帰るとするかぁ。少年、今度機会があればまた相手してやろぅ」

 そう言ってタイタンも、ぐずぐずしない辺りがいかにもプロらしいきっぱりとした動きでどこかへ帰っていく。
 こうして、後には僕ら3人だけが残った。

「「ありがとうございました、先生!」」

 十代と声を合わせてお礼。実際、今回は先生に来てもらわなかったらかなり危なかった。僕一人で、あのデュエルに勝つことができたとは思えない。というか無理。あんなまな板の上の鯉みたいな状態まで持ってかれたら例えデュエルキングだって無理だろう。

「別に、たいしたことではないノーネ。二人とも、私がここに来たことは他の人には内緒ですからね?」

 そうこともなげに言い、軽く伸びをしながら校舎に向けて帰っていくクロノス先生。僕もあんな感じの大人になりたいなあ、と思う。だって、カッコいいじゃない。

「なあ清明、俺とデュエルしようぜ!あんな凄いデュエルだったのに俺は見てるだけでおしまいなんて、そりゃないだろ?」

 デュエル、か。いいかもしれない。もっと強くなるには格上の相手とデュエルするのがいいってのはよく聞く話だし、今の僕にはそれが足りてないような気がする。

「よし、それじゃあ………」

 デュエルディスクを構えたところで、ふと違和感に気づいた。心なしかデッキが軽いような気がする。ちょうどカード1枚分ぐらい………1枚分………1枚……

「ああーっ!!」
「ど、どうしたんだよ急に」

 ここに来てようやく、大変なことに気づいた。確かさっきのデュエルが終わって、それから………。

「ク、クロノスせんせー!僕のポセイドン・ウェーブ返して下さいよ~!!」

 大慌てで走り出す僕を一瞬ぽかんとした顔で見つめ、その後すぐに大笑いしながら追いかけてくる十代。全く、他人事だと思って。そうは思うものの、走りながら僕もこみあげてくる笑いが抑えきれない。何がそんなにおかしいのかは自分でもよくわからないけど、何となく声を出して笑いたい気分だ。
 ああもう全く、どうして僕が何かやるとほとんどいつもこんな最後が締まんない感じになっちゃうのかね。………ま、悪い気分じゃないから別にいいか。 
 

 
後書き
いつもより長めに書いたというより、ただ単にデュエルがだれただけの気がしないでもない。
それと、もしかしたらこれが今年最後の投稿になるかもです。センター怖い。 
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