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遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~

作者:久本誠一
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ターン15 鉄砲水と優しき闇

 
前書き
えーと、お久しぶりです。まさか一か月もかかるとは自分でも思ってませんでした。
しかもこんなに掛かったのに結局デュエルはおまけ程度。なんなんだ一体。

前回のあらすじ:清明がおかしかったのは先代ダークシグナーの悪霊(?)のせいだったことが発覚。第二の神、用心棒のメタイオン先生が覚醒したことで辛くもいったん退けることに成功。 

 
 朝になって、目が覚める。朝といっても、まだ日が登るまでには少しかかるぐらいの時間だ。ここ最近は寝坊気味だったけど、昨夜見た夢の中でその原因だった先代を追い払うことに成功したからか寝覚めもスッキリいい気持ち。
 
「さて、出ておいでサッカー」

 時計を見れば午前7時、まだ登校までにはもう少し時間がある。皿洗いまで終わったところで、久しぶりに会う精霊を呼び出した。じゃれついてきた鮫の頭をよしよしと撫でながら、この後のことについて考えを巡らす。サッカーには非常に申し訳ないけれど、今日の僕は遊ぶためだけにこの子を呼び出したのではないのだ。

「チャクチャルさん、ちょっと検証するから付き合ってくんない?まず、考えないといけないのは光の結社とエドとのつながりがあるのかどうか。正直黒だと思うんだけど、まだこれといった証拠もないし一応はっきりさせておきたいところ」
『シャーク・サッカー………ああ、そのために呼び出したのか。悪くない手だと思うぞ』
「ありがと。だとすると、斎王かエドか。サッカー、どっちの方がいい?」

 体全体をひねるようにして首をかしげるコバンザメ。要するに、今からこの子をどちらかの見張りにつけようというのだ。いきなり呼び出しておいてこんなこと頼むのは正直気が進まないけど、もうこれは僕一人でどうにかできるような話じゃなくなってる。だから、この信頼できる精霊たちに力を借りるしかない。ややあって、サッカーがくるりと身をひるがえして窓の外へ出て行った。

「あの方向は………エドの方か。まあ斎王のところには万丈目もいるし、近づかない方がいいか。ありがとう、サッカー」
『ふむ、いくら精霊といえども見つかった時のリスクを考えると単独行動は危険だろうな』

 言われてみれば確かに、相方はいたほうがいいだろう。万が一、ということもある。本当なら、そんな危ないことには付きあわせないのが一番なんだけどね。

「でも気づけてよかった。できれば次からはそういうことはもうちょっと早く言ってねチャクチャルさん。じゃあ………キラー・ラブカ!サッカーについて行って、同じくエドの監視をお願い。何かあったらすぐに連絡してね」

 黄色の体に刃物のようなひれをいくつもつけた古代魚、ラブカを呼び出して同じく外に。さて、あっちはこれで良し、と。あとはこっちでも何か動かなくちゃ。





「とは言うものの、何すればいいのかね」
『ああ、別に何も考えてなかったのか』

 呆れ声のチャクチャルさん。でもしょうがないんだ、わざわざ校舎まで出てきたのに僕の顔見るだけで光の結社どころかそれ以外の生徒まで全員逃げてっちゃうんだもん。逆に言うと、それだけのことをしでかしてきたんだからまあ仕方ないことなんだろうけど。
 それにしても、一つ気になる。前は光の結社への無理やり力づく勧誘があったから非構成員はこっそり逃げ回るようにして動き回ってたはずだけど、今はある程度警戒が解かれてる。何か路線変更でもあったんだろうか。

「あ、清明ちゃん!ちょっとおいで!」

 売店前まで来たところで、トメさんに呼び止められた。はて、なんだろう。また何かおかずのレシピでも教えてくれるんだろうか。この間教わった少ない油で店売り並みのサクッとしたコロッケを揚げるやりかたには大いに助けられたからまたああいうのだと嬉しいなあ。
 一人でワクワクしながら言われたとおりに売店の中に入る。非デュエリストである売店の人は光の結社に襲われておらず、ずっと前から通常通りに営業を続けている。むしろ光の結社に入った生徒がデッキをそれっぽくしようとする関係上、最近は光属性のパックがとにかく売れるらしい。

「お久しぶりでーす、トメさん」
「最近顔出さないから心配してたわよ、もう。それでね清明ちゃん、昨日三沢ちゃんからこんなものを渡されてね。俺が明日になってもまだ白い制服を着ているようなら清明にこれを渡してやってくださいって。私はデュエルしないからよくわかんないけど、今日見かけた時も白い制服のままだったから渡さなきゃって思ってね。はい、受け取ってちょうだい」
「これは……」

 渡されたのは、茶封筒が1つ。見た感じ、中に手紙のようなものが入っているようだ。

「あ、もちろん中は見てないから安心してちょうだい。じゃあ、またいつでもいらっしゃい」
「はーい」

 売店から出て、受け取ったものをしげしげと眺める。特に変わったところのない、ごくごく普通の100円ショップで売ってるような茶封筒だ。

「どう思う、チャクチャルさん?」
『どうもなにも、中身を見てみないうちは何ともな』

 まったくもってその通りなので、封筒の口に手をかける。丁寧に糊付けされたそれをはがそうとしたところで、

「あ、清明。久しぶり、だって」
「夢想!」

 その時タイミングよく、夢想が角を曲がってきた。こちらに気づいた彼女に手を振りつつ、茶封筒をポケットの中にしまいこむ。と、そういえばノース校の天田からもらった謎の包みもまだ開けてないな。もういい加減今日中には開封しよう。

「もう具合はいいの?ってさ。なんだか最近バトルジャンキーになった、なんて話を聞いたから」
「あー………あはは。うん、あれはちょっとした黒歴史だと思って。それで、夢想はこんなところでどうしたの?」

 その質問に別に、と肩をすくめ、すぐ横の方をくいっと指差す彼女。つられてそっちの方を見るが、そこには壁しかない。

「ほら、もうすぐ講演会でしょ?プロの話なら聞いておきたいなーと思ってね、なんだって。もうそろそろ場所取りもしておかないと、いい場所なくなっちゃいそうだし」
「ふむふむ。じゃあ、よかったら僕も一緒に行っていい?」
「もちろん、だって」





「………甘く見てたかな、なんだって」
「うーん、やっちゃったかー」

 ぎっしりと詰まっている人、人、人。どうやらまともにいい場所を確保しようとするなら、それこそ朝イチで来るぐらいの覚悟が必要だったらしい。まあ相手は史上最年少プロなんだ、これくらいの注目度はあって当然だったか。諦めて入り口近くで立ち見していると、クロノス先生がスポットライトを浴びながらデュエル場の真ん中に立つのが見えた。

「アー、アー、ただいまマイクのテスト中なのーネ………コホン。それでは全校生徒の皆さん、長らくお待たせしたノーネ。これより史上最年少でプロ入りし、先日は本校の卒業生たるカイザー亮を下す圧倒的な実力を見せたエド・フェニックスさんにお越しいただいてますーノ」

 その後もぺらぺらと上機嫌でしゃべり続けるクロノス先生。あの人、基本いい人なんだけどあのミーハーな部分はもうちっとなんとかならないもんだろうか。機嫌がいいオーラが全身から出まくってる。

「話、長いね。だってさ」

 じっと待つのにしびれを切らしたのか、こちらに顔を寄せてひそひそとささやいてくる夢想。近づいた拍子に彼女の長い青髪が揺れて、あたりにふわっといい匂いが漂う。

『いらぬ世話かもしれないが、顔を隠した方がいいぞ、マスター。一目でわかる程度には赤い』

 うるさい!と叫び返したくなるのをやっとの思いで我慢しつつ、そっと顔の向きを変える。気休めにもならないだろうけど、何もやらないよりははるかにマシだろう。

「………どうしたの?って」
「え!?あー、いやー、そのね!別に、別に何もないよー、うん。確かに長いね、あはは」
「本当、どうしたの?変な清明」

 まだ何か言いたそうな夢想だったが、ちょうどその時クロノス先生の話が終わった。それとほぼ同時に、入場口の向こうからサッカーとラブカの2体がチラリと見えた。向こうも見られてることに気づいて、こちらに軽くヒレを振ってみせてくる。無事でよかった。
 そしてエドが現れ、軽く笑って手を振ったりしながらクロノス先生からマイクを受け取る。一拍置いてから、いかにもプロらしい朗々とした声で話し始めた。

「アカデミアの皆さん、こんにちは。本日は私のような者のためにわざわざお集まりいただき、ありがとうございます。さて、本日の予定はこれより講演会………でしたが、その前に一つ余興を挟みたいと思います」

 余興。その単語に、場内が軽くざわつく。クロノス先生やナポレオン教頭もあの反応から見ると初耳らしいし、エドが1人で考え付いたんだろうか。それにしても、エドは喋りがうまい。聞く側の心理をつかむ言葉を発するタイミングや声のトーンを完璧にマスターしていて、話術だけでも食っていけるんじゃないかってレベルだ。

「と言っても、何か難しいことをしようというのではありません。今日、この場にお集まりいただいている中の一人と私がデュエルをする。どうです、簡単でしょう?」

 デュエル、ねえ。まあそれのプロとして今日はここに来てるんだし、間近でそれを実践するって意味なら別に違和感はない。相手はこのたくさんいる中から適当に決めるのかな、なんてのんびり思いほんの一瞬だけ、まさか当たるわけないだろうと気を抜いてしまった。チャクチャルさんが制止しようとしたみたいだけど、それも一瞬間に合わず。ゆっくりと観客席を見回していたエドと、目があった。

「では、そこの遊野先輩。ひとつ手合せお願いしますよ」

 先手を取ってきた、か。イニシアチブを向こうが取る展開はあんまり好きじゃないからここはスルーしてそっと外に出よう………と一瞬思ったけど、周りの様子をうかがってそれはかなり難しいことだと分かった。最初からこうなることが分かっていたかのように手際よく、周りが白制服に固められている。これはもう、光の結社とエドに何らかの関係があると見てほぼ間違いないとみていいだろう。まあ最初から薄々わかってたんですけどね。じゃあ最初から気を抜くなって話だけど。

「………サッカー!ラブカ!お疲れ様、戻っておいで!夢想、合図したら一気に走り抜けるよ!」

 予定変更。こっそり退出できないなら、実力行使で突破あるのみ。だけどおかしい。かなり大声で呼んだのに、いつまでたってもサッカーとラブカが帰ってこない。

「おっと、お前の探し物はこれか?」
「あ、あらら………」

 おかしいと思ったら、万丈目がドヤ顔で2匹の尻尾を掴んで持ち上げているのが見えた。そんなアンタ漁師が獲物の自慢するんじゃないんだからもう少し丁寧に扱ってほしいね。申し訳なさそうな顔つきの2匹に気にしないで、と手を振る。しかしこれ、今思ったんだけど精霊が見えない人たちからしたらドヤ顔で何かを握ってる風に片手を上げる万丈目と、そこに向かって苦笑しながら手を振る僕とか言うよくわからん構図になってるのか。
 そんなことを思っているうちに、包囲の輪がじりじりと狭まってくる。よし、前言撤回。サッカーたちが捕まったままだし、ここで逃げたら夢想にまで迷惑がかかる。それに、彼女の前でとっとこ逃げ出すなんてカッコ悪いことはできないね。男は見栄張ってなんぼの生き物。
 どうせやるならとことん派手にやりたいので、びしっとデュエル場の中央で仁王立ちするエドに向かって指を突きつける。せっかくなので前口上の1つでも叩き付けてやろう。

「それじゃあ、デュエルと洒落こ」
「おーーーいっ!!」
「「………え?」」

 思わず会場全員の声がハモる。だって、僕らはこの声を知っている。大きく開け放った扉の前に立ち、逆光を背に受けるあの人影は。

「………十代!」

 僕の親友の一人、遊城十代なのだから。

「久しぶりだな、みんな!帰ってきたら早速なんか面白そうなことやってるじゃないか、そのデュエル俺も混ぜてくれよ!」
「十代、今までどこ行ってたのさ!」
「清明、お前も元に戻ったのか!いやー、それが宇宙に行ってナントカ星人っていう喋るイルカと会ったりして、もうとにかく大変だったんだぜ。おかげで俺のHEROデッキに新しい仲間たちが増えたんだけどな。お前にも後で見せてやるよ。まあ積もる話は後でするとして、随分と白い制服が増えたじゃないか」
「ま、こっちも色々あったんだよ。さてと、エド。それに万丈目。こっちはこれで一人増えたけど、それでもやろうっての?」

 このままうやむやになってくれると、こちらとしても体勢を立て直せるから大変ありがたい。どうやら万丈目はやる気満々のようだが、エドがどう出るだろうか。

「ふっ、いいだろう。今度こそ、僕の本物のHEROで………」
「ここは撤退しよう、エド」

 同じくやる気だったらしいエドと僕らの前にスッと割り込むようにして入ってきた1つの影。昨日までの黒髪から万丈目のような銀髪に代わってこそいるが、見間違えようがない。三沢だ。

「なんだと?おい三沢、一体どういうことだ」

 どこか昨日までと様子が違う。そう思えるのは、多分髪の毛の色が変わったからというだけではないはずだ。もっと何か、そんな外面的なことじゃなくて根本的なところで大きな変化があったような。考えすぎ、なのかなぁ。

「この二人を同時に相手にするのはまずい、と言ってるのさ。例えエド、君であっても勝つかどうかは五分五分、いや、それより少し不利なぐらいだと思う。この一年間でこの二人を見てきた俺にはわかる、今みたいな目をしてる時にはまず負けないんだ」
「バカバカしい、そんなこと………」
「いいえ、三沢君の言うとおりです。ここは大人しく撤退しましょう。元々今日排除する予定だったのは遊野清明ただ一人、遊城十代という不確定要素が入り込んだ時点であやがついた、ということです。これもあるいは、運命の一つなのかもしれません」
「斎王……!」

 いつの間に来ていたのだろうか、三沢の言葉を遮る斎王。エドも斎王には頭が上がらないらしく、嫌そうな顔をしながらもしぶしぶ僕らに背を向けて引き返していった。肝心のエドがいなくなったことで、他の光の結社も潮が引くように遠ざかっていく。その中で万丈目と三沢、それにさっきから一言も喋らなかったものの後ろに回り込んでこちらの動きを見張っていた明日香だけは最後までこちらを見ていた。
 あっという間に人がいっぱいだったデュエル場には僕と十代、それに夢想の三人しかいなくなった。何となく同時に顔を見合わせて、

「戻ろうぜ、レッド寮に。俺、あそこに戻るのも久しぶりなんだよ」

 十代の言葉に、静かに頷いた。





「………なるほど、随分いろんなことがあったんだな。どうりで人数が多いと思った」
「十代がいなくなってから、もうこっちはてんやわんやだったからねー。ね、夢想」
「そうだったね、だって」

 所変わって我らがレッド寮、お茶など出しつつ情報交換タイム。さて、これでこっちにあったことはだいたい話し終わったはずだ。

「じゃ、次は十代の番ね。こんなになるまでどこほっつき歩いてたのさ」
「おう!それが話せば長くなるんだけどな………」





「………ってわけだ。どうだ、すごいだろ!なんてったってネオスは宇宙のヒーローだからな!」

 キラキラした目で興奮を隠そうともせずに話す十代。このひたむきさは、最近地縛神やらなんやらのおかげですっかりすれちゃった僕も見習いたいと思う。
 そしてこの話、他の人ならとてもじゃないけど信じられるようなものじゃない。いつの間にか宇宙にいて喋るイルカがいて人工衛星の中のカードでデッキを組んで変なロボットとデュエルをした?でも、十代の目を見ればわかる。これは、嘘をついたりからかったりしてる目じゃない。ふと横を見ると、夢想も同意見のようだ。そういう不思議なことがあるなんて、これだから世の中面白い。

「なるほどねぇ。さてと、十代。そんな面白そうな話を聞かせてくれたからには、当然やることは一つだよね?」

 光の結社は大至急どうにかしたい問題なんだけど、デュエリストとしての本能には抗えない。えー、と言いたげな顔をしていながらも決して止めようとはしない夢想も無論、そんな一人である。言いながら外していたデュエルディスクを腕にはめ直し、ぐっと腕を突き出してみせる。それが示す意味を、すぐに彼は察してくれた。

「おう、もちろんだ!部屋の中じゃ狭いから、外で勝負しようぜ」
「もちろん!」

 素早く外に出て適当に距離を取り、その位置でデュエルディスクを起動。同じく起動された十代のデュエルディスクと自動的に反応し、デュエルの準備が整った。

「「デュエル!」」

「先行は僕!ハンマー・シャークを召喚、そして効果を発動。自分のレベルを1下げて、手札からレベル3以下の水属性を特殊召喚する。キラー・ラブカを守備表示でターンエンド」

 ハンマー・シャーク 攻1700 ☆4→3
 キラー・ラブカ 守1500

「後攻は俺だな、ドロー!魔法カード、融合破棄を発動!」
「ゆ、融合破棄?」

 十代が取りだしたのは、いつもおなじみの融合に亀裂が入ったようなイラストのカード。

「おう、このカードは手札の融合とエクストラデッキのモンスターを1体墓地に送って、その融合素材モンスター1体を手札から特殊召喚するカードだ。エクストラから新しいHERO、マリン・ネオスを墓地に送ってその融合素材、ネオスを特殊召喚!来い、ネオス!」

 白い光が弾けたのかと思った。全体的に流線形なニューヒーロー、ネオスが空の果てから地面に勢いよく着地する。これが、十代の新しいエースカード………!

 E・HERO ネオス 攻2500

「おっと、これで驚いてもらっちゃ困るぜ。な、ネオス。まずは大地の(ネオスペーシアン)、グラン・モールを召喚」

 N・グラン・モール 攻900

 両肩にドリルを二つに割ったようなパーツを装着した出っ歯のモグラ。可愛らしい見た目だが、Nなんてテーマは聞いたことがない。どんな効果があるか分かったものじゃないから、気を引き締めないといけないだろう。

「そして見せてやるぜ、ネオスペーシアンとネオスの能力、コンタクト融合を!ネオスとグラン・モールを俺のデッキに戻すことで、このカードは融合召喚できる!E・HERO グラン・ネオス!」

 光の戦士とモグラの戦士が同時に空高く飛び上がり、融合の力を使わず1つの戦士に進化する。右腕は肘の先から巨大なドリルと化し、白かった体も茶色がかった渋い色合いへと変化した。

 E・HERO グラン・ネオス 攻2500

「おお!………ってあれ?攻撃力上がらないの?」

 だがその攻撃力は、素材元のネオスと同じ2500。これなら2体のモンスターのうち、どちらかは残すことができるだろう………そんな甘い考えは、一瞬で吹き飛んだ。

「グラン・ネオスのモンスター効果は1ターンに1度相手モンスター1体を対象に、そのモンスターを手札に戻す!キラー・ラブカを手札に戻せ、ネビュラスホール!」
「ラ、ラブカーっ!ってことは………」

 左手から出したなんだかよくわからないエネルギー弾に吹っ飛ばされたラブカの方へ注意がそれた一瞬の隙に、ハンマー・シャークの目の前にはもう高速回転するドリルが迫っていた。

 E・HERO グラン・ネオス 攻2500→ハンマー・シャーク 攻1700(破壊)
 清明 LP4000→3200

「くぅ………やるね、十代!でも、今度はこっちの番さ!」
「おっと、まだ俺のバトルフェイズは終了してないぜ?速攻魔法、コンタクト・アウト発動!」
「コンタクト・アウト………?」

 十代が取りだしたのは、またもや聞きなれないカード。ただ、何か嫌な予感がする。あのカードを通すのはまずいと、理屈じゃなくてデュエリストの本能が全力で叫ぶ。
 もっとも、そんなこと言ってもどうしようもないんですけどね!

「このカードはいわば、コンタクト融合専用の融合解除。コンタクト融合は素材はデッキに戻すことで融合なしでの融合召喚を実現させたけど、このカードはその素材をデッキからもう一度引っ張ってくることができる!再び現れろ、グラン・モール!ネオス!」

 E・HERO ネオス 攻2500
 N・グラン・モール 攻900

「あ、あらら………」
「グラン・モールとネオスでダイレクトアタック!ドリル・モール!ラス・オブ・ネオス!」

 N・グラン・モール 攻900→清明(直接攻撃)
 清明 LP3200→2300
 E・HERO ネオス 攻2500→清明(直接攻撃)
 清明 LP2300→0





「………完敗した」
「まあまあ、清明。たまにはこういうことだってあるから大丈夫だよ、だってさ。ね?」

 まさかワンキルされるとは思わなかったのでさすがにちょっと落ち込む。隣で夢想が一生懸命慰めてくれてるけど、入学以来いまだに無敗とかいう文字通り無双の化け物デュエリストがそんなこと言っても説得力はないと思う。

「十代、強くなったね。僕も遊んでたつもりはないんだけど」
「へへっ、ありがとうな!ただ、一気に種類が増えたせいでこれまでの俺のデッキとの折り合いが難しいんだよなあ。どうせなら全員使いたいし」
「………デッキ枚数、60枚でもいいのよ?」
「いや、40枚に収まるようぎりぎりまで粘ってみるぜ」
「ですよねー」

 なかなか賛同者が現れてくれない60枚デッキの明日はどっちだ。メリットがほとんどないっていうのはすごくよくわかるんだけど、どれも大切なカードだから結局どれも抜けないんだよね。こればっかりはどうしようもない。
 とはいえ、やっぱりどこか寂しいもんだ。

「はぁ……」
「あれ?清明、それなに?なんだって」
「え?ああ、これか」

 ため息をついた拍子にポケットから顔をのぞかせた、トメさんからもらった三沢の手紙。せっかくだし、ここで開いてみようかな。

『あ、じゃあ私はこれで引っ込んでいよう』

 その声を最後に、チャクチャルさんの気配がすうっと消えていく感覚。薄く糊付けされた開け口を開くと、入っていたのは几帳面に折りたたまれた紙が1枚のみ。どれどれ。





 清明へ
 これをお前が読んでいるということは、おそらく俺は負けたのだろう。なので、それを前提として話を進めさせてもらう。
 まず第一に、今日までの俺は光の結社に本当に入ったわけではない。お前が地縛神の力で光の波動を防いだのと同様、俺もウリアの力で辛うじて洗脳を跳ね返すことに成功した。あれは今考えてもかなり分の悪い賭けだったが、わざと万丈目に負けるような真似をしたのもそのせいだ。
 本当はそうやって光の結社の内部に入り込み内部からしかわからない情報を送るなどしてお前たちをサポートしてデュエルアカデミアを取り返すつもりだったのだが、今日の俺とのデュエルでお前の心がかなり限界だったように思えたから急遽予定を変更することにした。すまない、お前を必要以上に追い込んでしまって。そんなつもりはなかったのだが、誰よりも仲間思いなお前がそうなり、自分を追い込むことをまるで想定していなかった俺にも責任はある。
 俺は今日、斎王にデュエルを申し込む。俺が勝てば皆を元に戻してもらうつもりだったんだが、負けたということは次にお前と会う時、俺はもう身も心も光の結社に染まりきっているだろう。非力な俺を許してくれ。
 あまり時間がないのでゆっくり推敲することもできなかったから少々雑な文になってしまったが、俺にはもうあまり時間がない。ついさっきこんなこともあろうかと思ってイエロー寮に保管しておいた対光属性用の俺のデッキを取りに行ったんだが、どうもそれがもうばれているらしく、さっきから妙な視線を感じる。斎王のところにたどり着けるとしたら、まだ警戒が薄い今日しかない。
 お前の心を追い込んだ俺がこんなことを言うのもおこがましいが、それでもこれだけは言わせてくれ。俺はお前を信じている。お前が立ち向かうならば、どんな状況だって最後の希望が消えることはない。お前にはそう思わせる何かがある。
 三沢大地





「…………」

 ど、どうしようこれ。わざわざ日付指定の手紙ってとこでどこか嫌な予感はしてたけど、まさか三沢がここまであれこれ考えてたなんて。しかもこれ、元をただせば完全に僕のせいじゃないの。先代なんかの誘惑に乗せられ手派手にやってたせいだこれ。

「うーん、一緒に頑張ろうね、清明。だってさ」
「へ?」
「そうだぞ、何1人で難しい顔してんだよ」
「夢想、十代」

 ポン、ポンと2人から両肩をそれぞれ叩かれる。左右を見るとどちらの笑顔も屈託なく、どうしようどうしようと思っていたことがバカバカしくなるぐらいで。それを見て、なんだかスッと気が楽になった。

「そう、だね」

 まだ何をすればいいのかもよくわからないけど、とにかく前に進んでみよう。そうすれば、どう転ぶにせよ何かしらの道は見えてくるはずだ。少なくとも、ここでじっとしてるよりは遥かにいい。 
 

 
後書き
次はもうちょっと早く投稿できるといいなー。 
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