ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~
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聖夜に捧ぐ『フローエ・ヴァイ・ナハテン』~クロスクエスト~
第一幕
キミには、愛する誰かがいるだろうか?キミの性別は問わない。だけど、キミに愛するひとがいるのなら、僕の召集に答えてほしい。
なに、損はさせないよ。多少の違和感は有るだろうけれど、僕は僕だし、キミはキミ。この世界に『嘘はない』。
さあ。幕を開けよう。舞台装置は出来ている。機械仕掛けの神の存在まで、何から何まで準備万端だ。多少の無茶ぶりは許してほしい。僕の脚本が力不足だったということなのだから。
キミ達の《脚色》も任せてほしい。不安がることはない。きっとお互いいい結果で終われる。もし要望が有るなら言ってほしい。可能な限り答えよう。
さあ――――あとはキミ達の準備が出来るのを待つだけだ。
聖夜に捧ぐ、喜劇の幕開けだ――――
「フローエ・ヴァイ・ナハテン」
***
「……運が……無」
美風真夜美は、ベッドの上でため息をついた。
本日は12月24日。世間一般で『クリスマスイヴ』と呼ばれる日である。幼い子ども達はクリスマスケーキと翌朝のプレゼントに期待を募らせ、若者たちは恋人との触れ合いあるいは嫉妬の壁ドンに明け暮れ、大人たちはクリスマス商戦で疲れ切る、そんな一日。
世間一般から様々な立場で少々隔離されている真夜美だが、一応はそんなイベント日に心を動かされないこともない。
普段はうまく想いを伝えられない恋人――――桐ヶ谷和人に、何かプレゼントでも買ってこようか、と、この少女にしては珍しく本気で悩んだのだが……。
生憎、今朝から高熱が出てしまっていた。
真夜美は他人と比べると病弱だ。まぁ、多少の高熱程度なら個人的にはそれほど気にならない。だが、何より和人がそれをひたすら心配する。彼は過保護だ。加えて、真夜美がかつて一番苦しんでいた時期を知っているがゆえに、輪をかけてそれがひどい。
故に、今日一日は家の中で安静にしていること、と厳命されてしまっているのである。
「ちょっとは……本気、だったんだけどな……」
日頃、和人には迷惑ばかりかけている気がする。立場、体質、その他もろもろ。けれど彼は、そんな自分に文句の一つも言わずに付き合ってくれている。
大好き。
大好き。
愛してる。
何度、そう伝えたいと思った事か。けれども真夜美自身の性格が邪魔をして、ストレートにそれを伝えられない。まぁ、逆にドストレートに伝えられる奴も少ないのだろうが――――
『Bonum? Nampraeterquamquodes?』
その声が響いたのは、その時だった。
部屋の入口に、いつの間にか誰かが立っている。和人ではない。見知らぬ男。
年のころは十七歳ほどか。くせ毛で、先端にいくにつれて薄い赤色になっていく、白いマフラーを巻いている。表情は、全てを小ばかにしたような、笑顔。
何より、ラテン語で喋ったのがあまりにも奇怪だ。つまり彼は、真夜美がラテン語を始めとする様々な言語をマスターしていることを知っている、ということなのだ。だが、真夜美はあの少年に見覚えがない……。
「……誰。どこから入?」
いつもならここで、さらに違う言語で撃退する真夜美だが、今だけは衝撃が先走り、日本語でカウンターしてしまう。
いや、恐らくはこの少年に何語で…例えば旧ヘブライ語で…返しても、きちんと答えが返ってくるだろう。
「初めまして。ミヤビさん」
「……ッ! なぜ、その名前を、知?」
その名前は、真夜美のもう一つの名。仮想世界で彼女が操るアバターの名前。
「なぁに、多少の情報網があれば分かる話さ。……第一の質問に答えよう。僕の名前は《天宮陰斗》。いわば、この世界の《神》の化身だ」
そう言って、《天宮》と名乗った少年は笑う。
「どこから入ったのか、と言われると返答に困るけど、なぜ来たのか、なら言えるよ――――君の願いに、答えよう。愛する誰かのためへのプレゼントを、その手で得るための試練を与えよう。『この世界に嘘はない』。さぁ、おいで――――」
瞬間。
ぐるり、と、視界が回った。
「なっ――――……!」
目を覚ました時には、そこは寝室ではなく、青空が広がる外の光景。それも、どこか旧SAOやアンダーワールドに似通った、大自然。
ふと見下ろすと、その服装は、美風真夜美のそれではなく、《翡翠の剣士》ミヤビのものに変わっていた。
***
「あれ……どうすれば再現できるかなぁ……」
影村隆也は、机の上に突っ伏して舌打ちをした。
隆也が悩んでいるのは、今から二年と少し前、自分達の運命を大きく変えた、《ソードアート・オンライン》内でのことに関する事情だった。
隆也の恋人である中本理奈は、かつてSAO内で《リナ》というプレイヤーネームを名乗っていた。武器は片手剣。受け流し系の攻撃を得意とする、女性プレイヤーにしてはなかなか上等な腕前の持ち主だった。
そんな彼女と、隆也ことプレイヤーネーム《ゼツ》がSAO内で最初に出会った時、彼女が巻いていたマフラー。隆也は、それが死ぬほど再現したかった。
「だってさ……可愛かったんだもの……」
残念ながらリナはその後はマフラーをつけない事が多くなってしまったのだが、隆也はあのスタイルが好きだった。
突然であるが、影村隆也は俗に言う『嫁馬鹿』である。寝顔を他の男に見られただけで切りかかりに行き、仮想世界でぼっこぼこに叩き潰してから燃やしてしまう程度には嫁馬鹿である。
そんな隆也が、過日のリナが身に付けていた装束を再現したい、と思うのは当然のことと言っても差し支えないかもしれない。
隆也は、それを今年のリナへのクリスマスプレゼントにしたいと思っていた。
のだが。
「なぜだ……なぜ今日が12月24日なんだ!!!」
不自然なことに、いつの間にか12月24日だった。遅くても明日までに、マフラーを再現して彼女に渡さなければならない。
だが、今だそのマフラーは素材購入にすら至っていない。というか触ったことがないので、どんな素材だったのかもわからない。サプライズにするつもりなので、リナ本人に直接聞くわけにもいかない。というか今彼女は友人たちと買い物に出かけており、さりげなく聞く、という手も使えない。
「チクショウ!! 何でもっと早く聞いておかなかった俺!!」
だが後悔後に立たず。すでに打つ手はない。どうする。とりあえず質感はこの際無視することにして、素材を買い込みに行かなくてはならない。だがこれまた不自然なことに、既に時刻は午後の2時。これから買いに行って編んでいては、リナが帰ってくるまでに完成させることができないかもしれない。
どうする。どうする。どうする――――
「お困りのようだね、ゼツ君?」
ふと、軽快な声を聞いて、後ろを振り返った。
部屋の入口に、見知らぬ人物が立っている。くせ毛の少年だ。自分と同じくらいの年齢だろうか。先端にいくほど赤なのに、基本色は白、という奇妙な色のマフラーを巻いた少年。どこかで見た様な気がしなくもないが、たぶん無い。
「誰だ、あんた……というか、どうやってこの家に入った!」
隆也の家には、様々なセキュリティシステムや原始的なトラップが仕掛けられている。今でこそリナはそれらを悠々と避けて通れるようになったが、所見ではキリトですら見事に引っかかったシロモノだ。それを無効化してきた――――?
「因みにセキュリティは全部無視して、直接ここに来た」
心を、読んだ……?
隆也の困惑をよそに、少年は続ける。
「僕は《天宮陰斗》。君の願いを叶えに来た。マフラー、欲しいんだろう?自分の手で勝ち取る方法がある、と言ったら、どうする?」
「……何?」
その話には、少々興味があった。
猫の手も借りたい状態である隆也だが、もし「あげるよ」と言われたのだったら断っただろう。それは自分が自分の手で成し遂げたことではないからだ。
だが今、この少年は――――
「勝ち取れ、だと……? 面白れぇ!」
乗った。隆也が頷くと、少年は「決まりだね」と笑った。
瞬間、視界が動く。
気が付いたときには、既にそこは我が家ではなく――――ファンタジーチックな大自然の中だった。どこかアインクラッドっぽくもない。
「な……なんじゃこりゃぁぁぁぁ!?」
その服は、いつの間にか《ゼツ》のモノに変わっていた。
***
「ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ、いぃ、むぅ、なぁ、やぁ、ここのたり……」
なんてこったい。
歌原理央は、自らのサイフの中を開いて愕然とした。
本日12月24日は言わずと知れたクリスマス・イヴである。一年で最もリア充がたぎり、非リア充が叫ぶ日でもある。
理央はリア充組なので、本日は彼女である朝田詩乃に何かプレゼントを買おうと決めて、数日前から色々模索していた。
結果として、かつてSAO時代、彼女とゲーム内での婚約の証として分け合った、お揃いのネックレス…ペアリングが通されているもの…に似たものを購入し、彼女に渡そうと決心。
したのだが。
「まさか……まさか財布の中に千円しか残っていないとは……」
ちょっと想像していなかった。
そう言えば先日、色々と高い買い物をしたことで使い切っていたことを忘れていた。今から銀行に引き落としにいこうか、と考えたのだが、世にも最悪なことに今日は近所の銀行、なんかよく分からない社内イベントのために休業である。
銀行が休業とか何考えてんだ、というかご都合主義すぎるだろ……というつぶやきはさておき。
「しかし……まいったなぁ」
千円でもなにかプレゼントは買えるだろう。だが、理央は詩乃に、先日「クリスマスプレゼントは奮発するからなっ!」と宣言してしまったのだ。あの時の「ありがとう、楽しみにしてる」という詩乃の笑顔を無為にするわけにはいかない。
「だが……どうする、おれ!」
金の問題は解決しがたい。そうだ、この際どこぞの黒の剣士にでも頼んで貸してもらうか、いやいや、あいつこそ金欠の気がしてきた。というか借りたらめっちゃ利息取られそう――――
その時だった。
理央は、何者かの気配に気が付いて、勢いよく振り返った。
「誰だ!!」
泥棒――――?金目のものはない!所持金も千円だ!
だが、その人物は、金をよこせ、などとは言わなかった。
「やぁ、リオン君。困ってるっぽいね?」
「っ! あんた、その名前を知ってるのか……?」
リオン、と言うのは、理央の仮想世界における名前だ。スペルは《Rion》にするつもりが、名前被りのせいで《Lion》。おかげで一部の人々にはライ坊だのライ君だの、ライオンだの《流星の獅子》だのと言われて散々いじられてきた。
そしてこんなふうに見知らぬ人間に名前を問われると、どうにも悪い記憶しか思い浮かばない。
「ふふっ、一応悪者であるつもりはないよ。そうだな――――脚本家、と言った所か。初めまして、僕の名前は《天宮陰斗》。君の願いを叶えに来た」
「願いを……? もしかして、貯金を殖やしてくれたりするのか?」
しかし《天宮》は首をふる。
「ちがうよ。そんな単純な結果では面白味に欠ける。キミが愛する人にささげたいプレゼント……それを、君の手で勝ち取るチャンスを与えに来た。僕は脚本家であると同時に『《神》の使い』でもあり、《セント・ニコラウス》でもある。さぁ、どうする?乗る?それとも反る?」
――――これは、チャンスなのか?
今、理央は怪しい男との契約に乗るか、それとも詩乃に悲しい思いをさせるかの二択に迫られている。
「乗る」
コンマ二秒で決めた。
この男、相当な嫁馬鹿である。自分の危険なんかよりも、嫁の笑顔の方が二億倍大事を心情とするタイプの人間である。
「承った」
にこり、と《天宮》は笑った。
そして、世界が歪んでいく。
ぐるり、ぐるり。
「って、なんでSAO時代の服装!?」
気が付くと、理央はあの《リオン》の姿になって、どことも知れない草原に立っていた。
後書き
因みに今回のコラボ編はどれも『神話剣』時系列における全編終了後……つまりは2026年の12月24日のことであるため、どの作品の主人公&ヒロインも同棲している設定になっております←
そんなわけでクリスマスコラボ第一話でございます!今回は《天宮陰斗》の誘いによって、ミヤビさん、ゼツ君、リオン君の三人がフィールドにダイブ。残りは六名の作者様のオリ主たち。
刹「こんな怪しげなコラボに参加してくださった作者様方、誠にありがとうございます。それでは次回もお楽しみに!」
……なんかダイブだけで四話位遣いそうで怖いわ。
刹「」(ざしゅっ
ぁいたぁっ!
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