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提督の娘

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第十二章


第十二章

「本当にね」
「相手が中将閣下の娘さんだからだね」
「そうさ。提督の娘だからね」
 陸軍で言うならば将軍である。その重みはかなりのものだ。
「話を聞いて僕もどうなるかって思ったよ」
「危ういって思ったかい」
「はっきりとね」
 そう感じていたというのだった。
「首か左遷かってね。覚悟していたよ」
「僕もひょっとしたらって思っていたよ」
 それを危惧していたのは彼も同じであったのだ。
「そうなるかもってね」
「けれど僕は助かった」
「そしてそれだけじゃなくて」
「まさか彼女とね。一緒にいられるなんてね」
「幸せなんだね」
「そうだよ」
 まさにそうだと。言い切るダスティだった。
「幸せじゃなくて何だっていうんだよ」
「しかし本当に奇跡だよ」
 ウィルマーは今の親友の状況を奇跡だと評した。
「全くね。中将閣下の娘さんと一介の少尉がね」
「その閣下の御言葉だけれど」
「うん」
「そういうのは関係ないらしいよ」
 これは実際に彼が言われた言葉である。そのマックソード司令にだ。
「全くね」
「階級の差はないんだ」
「それを言ったら娘は老紳士と結婚させないといけない」
 これも実際に言われた言葉である。彼にだ。
「だからそれはないって言われたよ」
「そうなんだ」
「そうなんだよ。階級は問題じゃないってね」
 中将は実際に言ったのである。
「若いのなら階級が低くても当然だってね」
「当然なんだ」
「そう言われたよ。それに」
「それに?」
「誰だって最初は少尉からはじまるってのもね」
 こう言われたこともウィルマーに話すのだった。そのこともだ。
「士官学校を出たらね」
「はじまるんだね」
「うん、だから階級はいいってね」
 このことをそのまま話すのだった。
「そう言われたんだよ。そんなのは自然とあがっていくものだからってね」
「まあそうだね」
 これはウィルマーも認めることだった。
「実際に僕達は少尉だし」
「うん」
「それにこれから大尉になって少佐になって」 
 イギリス海軍には中尉はない。少尉の上は大尉である。そしてそこから少佐になっていく。イギリス海軍独自の階級制度である。
「偉くなっていくからね、階級のうえではね」
「階級じゃないって言われたんだよ」
 話が核心に近付いてきた。
「それよりも。軍人として人間としてね」
「どうかってことだね」
「そう言われたよ。大事なのは心と素養だって」
「その点君はまあ」
 ウィルマーはダスティをまじまじと見てきた。グラスを自分の前に置いてそのうえで彼を確かに見ながらそのうえで述べてみせたのである。
「合格だね」
「合格なのかい」
「人間性も悪くないし軍人としても優秀だ」
 こう話していくのだ。
「軍人としてね」
「そうかな」
「おいおい、それは自覚しないと」
 笑ってこう話す彼だった。
 
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