提督の娘
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第十一章
第十一章
「そして君に頼みたいことがある」
「頼みたいとは」
「娘に会ってくれないか」
「娘さんにですか」
「わかるな」
微笑んで彼に告げた言葉であった。
「娘とな」
「宜しいのですか?」
「実はずっと前から考えていたのだよ」
父親としての言葉であった。暖かくそれでいて心配する。それは顔にも出ていた。そのうえで言葉を出していくのである。
「娘は奥手でな。見合いの話も断り続けてだ」
「そうでしたか」
サエコのそうした事情は今まで知らなかった。しかし彼は今それを知ったのである。
「娘さんは」
「しかし君と会ってそのうえで私にも君のことを話してくれた」
「私とですか」
「いい人だとな」
またここで微笑んでみせたのだった。
「そうな」
「私をですか」
「そうだ。また会いたいとも言っていた」
このことも話してみせたのだった。
「ずっとな」
「それでは私は」
「会ってくれ。またな」
また彼に告げたのだった。
「君さえよければな」
「わかりました」
こうして全てが決まったのだった。彼はサエコと付き合うことになった。そうしてそれから数ヶ月して。ダスティは今度はバーでウィルマーと会っていた。士官用のバーは落ち着いた雰囲気の中にあり暗さの中に趣がある、そんな部屋であった。
「そうか、君はもうすぐか」
「ああ、話が早いけれどね」
二人はカウンターに横に並んで座っている。そのうえでカクテルを飲みながら話をしている。ウィルマーはダスティの言葉に笑顔で応えていた。
「決まったよ」
「そうか。それは何よりだよ」
「結婚か」
ダスティは彼の言葉を聞いて少し遠い目になった。
「まさか君がこんなに早くなんてな」
「艦長が急かしてね」
だからだと笑いながら言うウィルマーだった。
「それでだけれどね」
「けれど結婚するのは事実じゃないか」
そのことを告げるダスティだった。
「それはね」
「まあね。いや、嬉しいね」
ウィルマーの顔は確かな笑顔であった。
「本当にね」
「それは何よりだよ」
ダスティもウィルマーのその言葉を受けて微笑んでみせたのだった。
「おめでとう」
「有り難う」
ここでカクテルを打ち合わせる。そのうえで今それぞれの手に持っているそのカクテルを飲み干す。そのうえでまた話をするのであった。
「それだけれど」
「僕かい」
「そうさ、君だけれどね」
今度はウィルマーがダスティに声をかけてきたのだった。
「どうなのかな、今は」
「そうだね。いい感じだよ」
微笑んで答えるダスティだった。
「交際は順調だよ」
「結婚はまだかい」
「今度指輪を渡そうかなって考えてるよ」
自分のことなので微笑みはさらに深いものになっていた。
「今度ね。こういうのはやっぱり自分で選んでいきなり出すべきかな」
「そうだろうね。それがいいだろうね」
ウィルマーもそうすべきだと答えた。
「やっぱりね」
「じゃあそうしようか」
「いや、一時はどうなるかって思ったけれどね」
ここでこんなことも言うウィルマーだった。
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