提督の娘
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第十三章
第十三章
「それ位はね」
「それ位はって」
「士官学校での成績もよかったし」
まずはそれを話す。士官学校の成績だけで見るのは確かによくはないがそれでもだった。一つの基準になるのは間違いないことなのだ。
「それに勤務の評判もいいしね」
「そういったものを見ての言葉なんだね」
「そうだよ。君は優秀な軍人だよ」
このことを彼自身に対して話してみせたのだった。
「極めてね。そして何よりも」
「何よりも?」
「人間性がいい」
このことも話すウィルマーだった。
「親切で気が利いて公平だしね」
「おいおい、また随分と高い評価だな」
「士官学校の時からじゃないか。間違ったことはしないし後輩達にも意地悪はしなかったし優しかったじゃないか」
「そういうことは好きじゃないからね」
実際に自分でそんなことは嫌いだったのである。彼は今ははっきりと言った。
「本当にね」
「そうだろう?あのお嬢さんはそうしたところまで見ていたんだよ」
「僕の内面まで」
「それはわかったかな」
またダスティを見て言うウィルマーだった。
「そこまで見ているのかは」
「いや、それは」
そう言われるとだった。実はそこまでわかっていなかった。認めようとしたその時だった。
「わからなかったな」
「迂闊だね、それを見るのがレディーなんだよ」
「そうだったのか」
「君のその内面はしっかりと見られていたんだよ」
ウィルマーはこのことを話していくのだった。
「それを閣下も見ていた。娘さんから聞いていたのかも知れないけれどね」
「それで僕を」
「そうさ。娘さんに相応しい相手だとわかったんだ」
そうだというのである。
「しっかりとね」
「それじゃあ僕はあの人と」
「相応しいんだよ。お相手としてね」
「そういうことなのか」
「わかったら後は」
ここまで話して。また言うウィルマーだった。
「幸せになるんだ。いいね」
「うん。ぞれじゃあ」
ダスティも笑顔で頷く。そうしてであった。
「カクテルをまた頼もうかな」
「何にするんだい?」
「ジャパニーズ=クーラーがいいね」
それだというのである。
「それにするよ」
「ジャパニーズ=クーラーっていうと?」
「日本酒をベースにライムジュースを入れたものだよ」
それだというのである。
「それを頼もうかな」
「日本酒かい」
「僕の永遠の相手のもう一つの祖国」
その国だというのである。
「それを飲もうかな」
「日本酒か。面白そうだね」
「君もそれにするかい?」
「いや、今はいいよ」
その申し出は断るウィルマーだった。微笑んで右手を少しだけ前に出してそれを断ってみせたのであった。
「それはね。いいよ」
「いいんだ」
「今は君が飲むべきものだからね」
「僕がかい」
「そうさ。君がね」
飲むべきだというのである。
「飲むべきお酒だよ、今はね」
「それじゃあ僕は」
「イギリスと日本を飲むんだよ」
その二国がそのままそのジャパニーズ=クーラーにあるというのである。
「それでいいね」
「うん、それじゃあ」
丁度ここでそのカクテルが来た。そうしてそれを飲むのだった。それには確かにイギリスと日本の味がした。他ならぬ彼女の味がである。
提督の娘 完
2009・10・15
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