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少年は魔人になるようです

作者:Hate・R
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第95話 大会に黒と銀が降り立つようです

Side ラカン

「ふぅぅん、ジャックのコネならエントリー出来るのねぇ。」

「・・・・・不遜。」

「「「「………え?」」」」


不機嫌オーラを超サイヤ人4並に纏った声に振り向くと、そこに居たのはノワールさんとアリアちゃん。

それを見た反応は様々だった。テオは喜んで飛びついてったし、セラスは状況を飲み込むのを放棄して

固まってやがるし、リカードは腰が引けまくってやがる。で、俺はと言うと。


「あぁぁぁらジャック、どうしたのかしらぁ?凄い汗よ?そんなに暑いのなら涼しい所に連れてって

あげましょうか。そうねぇ………地獄の最下層なんて最高じゃないかしらぁ?」


これまで見た事がねぇ程良い笑顔でこっちを凝視してくるノワールさん。青筋立ってっけど。

勿論俺が汗を流してるのは暑いからじゃねぇ。冷や汗って奴だ。うん、何故かって?

こいつらが"英雄"の方にしか意識が行かなくなる認識阻害魔法をこの星まるっと全部覆って姿を現した所で

何かしらやりやがると思った俺は、即座に最大のお祭り事・・・即ち拳闘大会にエントリー出来ねぇよう

根回しした訳だ。そんな俺が今主催者権限振りかざしてエントリーしたとなりゃあこらもう、アレだ。


「ねぇジャック。」

「はひぃぃぃぃっ!!」


優しく、あくまで優しく俺の名を呼び、スゥと眼を閉じて、恐怖を煽る間を空け・・・・

そして、カッ!と眼を見開いて髪を戦慄かせながら槍を床に叩き付ける!!


「分 か っ て る わ よ ね ?」

「今すぐエントリー申請通してくるであります!サーーッ!!」

「・・・・よろしい。」


アリアちゃんの許可が下りた所で、俺は逃げる様に・・・ってかその場から逃げだした。

俺がエントリーしたのは一人で出場してる奴の相方としてなんだが、んな理論が通用する人なら苦労はねぇ。

無理無理。あの人らの相手するくらいならマジモードの愁磨相手にした方が幾分かやりやすい。

にしてもあいつら・・・・・。


「何がしてぇんだろうなぁ。」


マジで頭がこんがらがって来て、つい口から出た愚痴とも疑問ともつかねぇもんに答える奴も、

どーやって答えを導きだしゃ良いかっつー案も、俺には無かった。

んな事より、今はどーやってトーナメントに出場させるかを考えねぇとなぁ・・・・・。

Side out


Side ネギ

『ナギ・コジローコンビ圧勝ーーーーッ!!決勝トーナメント出場を決定しました!』


「ネ……ナギさーん。決勝トーナメント出場おめでとうございますー。」

「やーるじゃんネギ君コタ君!あたしらの脱奴隷も近いね!」


予選決勝トーナメント相手を一撃で倒して、僕達はついに決勝トーナメント出場を決めた。

何となく以前から感じていたモヤモヤを抱いたまま控室に戻るとすると、尚も首に小さな南京錠と首輪を

つけられ、メイド服を着せられたのどかさんとハルナさんが激励に来てくれた。


「はい!もうすぐ自由の身です、待っていてくださいね。」

「トーゼンやないか。っつーか俺なんもしてへんけどな。」

「で、でも大丈夫ですかー?これまでと比べ物にならないくらい強い人達が集まるってー……。」

「…大丈夫。僕達は必ず優勝しますよ。」


心配そうなのどかさんの問いに、僅かに苦い物を混ぜて答えた。

決勝までに戦って来た"優勝候補"とか"前年ベスト8"とかの相手でさえほぼ無傷で倒せた。

そう、ラカンさんもそう言ってたし―――と今朝の会話がふと思い出す。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ぼーず、てめぇは確かに強くなった。この短期間で驚く程にな。それこそ成長スピードで言やぁナギを

超えたかも知れん。」

「ほ、本当ですか!?」

「それでもあのフェイトにゃてんで敵わねぇだろうがな。」

「ですよねぇーー!!」


これでもかと上げた後に落とされた!・・・まぁ自分でも分かってるんだけれど。

あの時、フェイトと僅かにでも戦えたのはあいつが僕を品定めする為に手加減していたからだ。


「ま、仕方ねぇ。アレは奴らの中でも最強の部類だ。俺等が苦戦したくらいだからな。映画見たろ?」

「……映画。」


考えていた所で話しを振られ、自動的に映画が頭の中で再生される。

父さんとラカンさん、フェイトの戦闘。戦場での戦い。そして愁磨さんと"造物主"なる存在の戦闘。

・・・つい戦いに目を惹かれるけれど、僕は出て来なかった一人の存在について、抱いていた疑問を問う。


「あの映画、色々聞きたい事はあるんですが……。」

「あん?もう無料昔話サービスは終了してるぞ?」

「分かってます。……あの映画が本当だとするなら、『黄昏の姫御子』アスナさんは未だこの世界にとって

重要な鍵である筈です。」


"世界を無に帰す魔法"、それが何を指しているか分からないけれど、明日菜さんの"完全魔法無効化"能力と

無関係じゃない。父さんが造物主と交わしたと言う取引。その成果が明日菜さん。

フェイトも初めは明日菜さんを連れて行こうと(結果的には無意味だったけれど)取引を持ち掛けて来たし。


「あいつらが何を企んでいるにせよ、明日菜さんが危険な事に代わりありません!

まずは明日菜さんの事を考えなくては……。」

「安心しな、あの騒ぎの後だし祭りも最高潮の時期。警備は最大レベル。昨日の今日じゃ奴らも手を出しては

来ねぇだろ。何なら護衛もつけてやる。つーか俺が護衛についても良い。」

「それは、そうですけれど………。」

「それより今は目の前の大会に集中しな。優勝してのどかちゃんら解放してやるんだろ?

"戦場では常に目前の状況に集中せよ"。他人の心配をしていいのは一人前になってからだ。」


ラカンさんのまさかの申し出と最優先の事実にぐうの音も出なくなる。

確かに、今はのどかさんとハルナさんを解放するのが先決だ。仮にあいつらから逃げる事になった場合、

二人が奴隷のままだったらそれさえ出来ない。


「……分かりました、お任せします!」

「よぉし!ってまぁ、今のお前なら拳闘大会優勝は楽勝だろうがな。」

「えぇぇーーーっ!?そうなんですか?」


安心して下がった所を更に下げられた!と言っても、拳闘大会に手応えを感じていなかったのも事実なので

何とも言えない。多少強い人は出て来たけれど、それも圧勝と言える試合結果に終わっている。


「よぉし久々に俺式強さ表で解説してやろう!ご苦労千雨君。」

「パシリに使うんじゃねぇよ。」

「わー懐かしいですねー。」


第二回強さ表と書かれた黒板を、何故か助手と化したロリ千雨さんがコロコロと押して来た。

それを縦にして、この間の表を書く。ど、どこまで行ったんだろう?少なくともタカミチやカゲタロウの

not本気レベルまで上がれていないと、この先不安だ。


「まず以前はあの影使い以下だったが、俺と言う超師匠の下で修業した結果、基礎力は奴と同等の2000だ。」

「えぇっ?」

「更に『闇き夜の型(アクトゥス・ノクティス・エレベアエ)』起動で出力50%アップ!3000!」

「おお!」

「そして『闇の魔法(マギア・エレベア)・術式兵装』で更に倍!4000以上!」

「えぇえーーーっ!?」


予想外の進歩だった!す、スゴイ僕、こんなに強くなったんだ。術式兵装の種類にもよるけれど、

ざっと見積もって4倍くらい―――


「そして以前のフェイト予想はココ、更に1.5倍だ。」

「ですよねぇーーー!!」


うぅう、前にも言われた通り、もうこの差は戦術で覆せるレベルじゃないんだよね。

戦争の1:1.5と個人同士の1:1.5では訳が違う。位が上になればなるほどその差は大きくなる。

それに映画を見た感じだと、フェイトは多分、予想値の3,4倍以上の実力を持っている。


「だが、拳闘大会は楽勝だ。」

「は、はい………。」

「あの影使いも大戦期の猛者だ。何か隠し玉を持ってるかも知れねぇがフェイト以上って事はあり得ねぇ。

ま、よっぽどのイレギュラーでもない限りお前が負ける事はねぇ。とっとと優勝して賞金掻っ攫って来い。

これは師匠命令だ。」

「ハイッ、ラカンさん!」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

そう、ラカンさんにも太鼓判を押して貰ったんだから、大丈夫。


「おいナギ、カゲタロウの試合始まるで。あいつだけは研究しとかな。」

「あ、うん!今行くよ!」


回想に耽っていた所で小太郎君から声が掛り、認識阻害サングラスをかけて客席へのどかさん達も連れて

向かう。着いたと同時にカゲタロウがコロシアムへ姿を現すと、大歓声が巻き起こる。

伊達にタッグマッチを一人で勝ち上がって来ただけあって、人気選手の一人の様だ。


「あ、あのー……あの人が、ナギさんと前に戦ったって言う……?」

「ええ、そうですよ。いやぁ強かったなぁ。」

「つーてもナギさん魔力切れで負けちゃったんでしょ?なーんかスッキリしないねぇ。」

「続けてたら死んでたやろうけどな。」


サラッと小太郎君が流していうけど、実際その通りだ。あの時点で僕に出来る事はもう何もなかった。

だから、カゲタロウさん。あなたとの戦いがきっかけでラカンさんの下で修業して、強くなれた。

感謝すべきなのかもしれません。だから・・・・決勝トーナメントでは本気で行きます!


『さぁここまでタッグ戦を一人で勝ち進み話題を作って来たカゲタロウ選手!予選決勝において遂に新たな

パートナーをエントリー!そのパートナーとは、驚くなかれ!公式の場に姿を現すのは実に十年ぶりに

なります!!』

「え……?」


司会のお姉さんの勿体つけた紹介に、会場はどよめきだす。

まさか、ここでカゲタロウさんに相棒登場とは・・・。でも、これでいい。これで2対2なんだから、

悪いけれど小太郎君には相方の相手をして貰って―――

とそこまで思考した所で、紹介の続きに思考が切られる。


『彼こそは伝説の傭兵剣士!自由を掴んだ最強の奴隷剣闘士!!大戦期平和の立役者、英雄の一人―――』

「「「「…………え?」」」」



『"紅き翼(アラルブラ)"!!"千の刃"の!!ジャック・ラカァぁーーーーーーン!!!』
ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

それまで上の空だった皆が、一瞬にしてコロシアムに釘付けになり、大歓声が上がる。

でも僕は・・・頭の中が真っ白になった。・・・いや、え?


「何やて!?」

「バ……バカな、ラカンってあのラカン!?ちょっと待て主催者聞いてないぞ!」

「あわわわ、これはえぇと……さ、サインもらわなきゃ!!」

「アホぉ!!」


ラカンさんにしか見えないその浅黒い男が現れ、小太郎君と対戦相手の半魔族二人が大きく動揺する。

あの姿、纏っている気、僕の知っているラカンさんそのものだけど・・・。

ま、まさか僕たちの事情を知ってるあの人が邪魔をする訳がない。


「っちょぉ!あの人ネギ君のお師匠さんだよね!?」

「オイッどーゆーことやネギ!あの人が出て来たら優勝なんて無理やろ!」

「ぼ、僕にも何がなんだか……ハッ!そうだ、ソックリの偽者かも!僕みたいに!」

「ニセモノ!?そうか、そう考えれば納得が―――」

『このサプライズには対戦相手も驚きを隠せません!さぁ―――"開始"!!』


僕が僅かな希望に縋って答えを導き出し、小太郎君がそれに乗っかったと同時、試合が開始された。

そしてラカンさん(?)が気合を入れながらなにやらポージングを取り高々とジャンプ。

十回転宙返りを決めると、そのまま空中で打ち下ろす様に右正拳を構えた。

相手の半魔族は一人は防御の構えを取ったけど、一人は・・・色紙を持っている。


「ぐ……!」

「あ、あのー、やっぱりサインを―――


「『 羅 漢 適 当 に 右 パ ン チ ! !』」

          ド ン ッ ッ ! ! ! 

気で強化され、具現化した巨大な拳は技名とは裏腹に、拳闘場の結界を超えて外までその衝撃が奔った。

煙が晴れ、拳型にへこんだ地面には対戦相手が二人ともめり込んでいた。


「安心しな、寸止めだ。」

「寸、止め……?」


この滅茶苦茶さ、バカっぽさ、強さ。うん、もう見紛う事ないね。


「本物だァーーーーーーーッッ!!?」

「どこが寸止めや、粉々になってないとこか?……どーすんねん、ナギ。」


『ラカン圧勝ーーーッ!!伝説の英雄の復活に場内割れんばかりの大歓声ーー!!』


「オッサンがエントリーってどういう事だ!?」

「それを今から聞きに行くねん!!」


もうラカンさん本人だと言う事は間違いない。だけど、なんで大会に参加してるんだ・・・!?

こ、これじゃ優勝してのどかさん達を解放出来ないじゃないか!

ラカンさんに事情を聞くべく廊下を走ると、千雨さんが合流して来た。


「どういう事ですかラカンさん!?」

「ん?何の話だ?」

「なんでカゲタロウさんが……ってそうじゃなくて!何でラカンさんが大会に出ているんですか!?

今朝楽勝だとか優勝してこいだとか言っておいて……。」

「俺が出ないとは言ってないじゃん♪」

「ちょっとぉーー!!」


くっ、駄目だこの人。カゲタロウさんと飲んですっかり出来上がってる!

元々話が通じる人じゃないけれど、手がつけられない。ラカンさんが参加するなんて珍事もいい所だ。

あ、まさか師匠から弟子への免許皆伝の最終試験的な意味で・・・と願いを込めてみるが。


「あぁ~~ん?俺がんな事するわきゃねぇだろ!当然俺が勝ったら賞金は俺のもんだ!」

「えぇーーーっ!?じゃあのどかさん達は…!」

「嬢ちゃん達の能力なら別の方法でも稼げんだろ?それが嫌なら俺に勝ちゃいいだけだろうが。」

「ムチャクチャ言ってんじゃねぇーー!!」

「絶対勝てる訳無いじゃないですか!!」


な、何を考えているんだこの人は・・・!!別にお金が欲しい訳でも無いだろうし、態々僕たちの

邪魔をして得る物なんてなにも無いはずだ。

と、それまでふざけた雰囲気だったラカンさんが、急にまじめになった。


「まぁ考えて見ろよ、ぼーず。てめぇ、フェイトと決着を付けたかったんじゃねぇのか?

俺様とナギは永遠のライバル、負けはしたが奴とナギは同格。て事はどうだ?あぁん?」

「そ、それは……。」


言っていることは簡単だ。力関係としてラカンさん≒父さん≧フェイトが過去の戦績上成り立っている。

即ち。


「俺に絶対勝てないとか言ってる様な奴がフェイトをどうこう出来んのか?ましてやナギに……

愁磨に追いつけると思ってんのか?」

「…!で、でも、フェイトとラカンさんは違います!ラカンさんはもっと別の強さって言うか、

別次元と言うか……!ベクトルが違いすぎるじゃないですか!」

「別次元とかベクトルだとか、何もかわらねぇよ。やれやれ、何も見えてねぇな。

―――『本当の強さ』が欲しかったんだろ。」


その言葉に、心臓が鼓動をあげた。そうだ、僕はいつも思っていたじゃないか。あの人達のようにと。

みんなを守れる力を、と。フェイトや、父さんや・・・・・。


「……俺が、その舞台への扉だ。ぼーず。」

「………!で、でも……!」

「御託はいらねぇ。戦ろうぜ―――ネギ。」


ゾクリと底冷えする、本気の気を僕にぶつけてくる。そうだ、ここで立ち止まっていては、誰も何も

守れない。ならば―――!とラカンさんを見据える。


「それに、まぁ、俺は前座かもしんねぇぜ?」
ピッ
「「「え?」」」


そう言いつつ、映像機を起動させる。呆気に取られそれを見ると、次の試合が始まる所だった。

おかしい。次の対戦は確かシード戦だから、インターバルを経ての開始の筈だ。

とラカンさんに事情を聞こうとすると、黙って見てろと顎でしゃくられる。・・・それに、なんだか。

さっきより真面目な顔・・・と言うか、若干、恐怖?見たいなものが混じっているような―――


『さ、さーて英雄復活の興奮冷めやらぬ中!なななんと!前大会優勝チームに挑む新規参加者の登場だ!

式典開会式に現れ颯爽と復活を果たし!なんとここに示し合せたかのように!あの、あの英雄達が!

登場だぁぁぁぁああああぁあああああああああああ!!!』
ウォォオオオオオオオオオオオオォォォオオオオオオ!?

司会の悪魔っ子お姉さんがなにやら緊張しつつ、すごい大仰な名乗りを上げる。

開会式・・・そう言えば見てなかったな。あの英雄達って、まさか詠春さんとタカミチがこっちに

来たのかな――と無理矢理思考をそっちに持って行こうとしたけれど、僕も冷や汗が出て来た。

隣を見て見ると、小太郎君もダラダラと冷や汗をかいて僕を見つつ首を横に振る。いや、でも・・・。


『彼女達こそ最強にして最艶・最閻の英雄!伝説に寄り添う黒と銀の翼!!

"黒姫"!ノワール・P・E・織原とぉぉおおお!!"狼幼姫"!アリア・P・W・織原ぁぁああああああ!!』
ゥウぉおおぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

「「……………………………はぁぁぁあぁぁぁああああああああああああああああああああああ!?」」

「はっはっははは………悪夢だろ、こりゃ…………。」


闘技場に入って来た、見慣れた黒い女性と銀色の少女を見た僕と小太郎君は今度こそ壊れ、

千雨さんは目が死んだ。そしてラカンさんは・・・真面目な顔のまま、遠くを見つめていた。


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