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ソードアート・オンライン 少年と贖罪の剣

作者:星屑
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第五話:笑う棺桶

 
前書き
今回は短めです。キリが良かったもので。
あと、ヒロインの案ありがとうございます!まだまだ受け付けておりますので、ドンドン意見ください! 

 


「ふむ、流石は希望の剣士か」

攻略作戦の成功を報告に来た部下を下がらせ、血盟騎士団団長ヒースクリフは満足気に笑みを浮かべた。

「さて、リハビリはこれで終わりだレン君。後は君の判断で、私の下へ辿り着いてみたまえ。そうすれば、すべての決着をそこでつけよう」

『全プレイヤー中最強』。その名を欲しいままにし、いつもその無表情を崩さない男は今、人生で一番の笑みを浮かべていたに違いない。



† †



第71層攻略完了と、希望の剣士復活の報告は瞬く間にアイクラッド中に駆け巡った。それに最も喜んだのは中層以下のプレイヤー達であり、レンの影響力が如何に強いのかを如実に示している。
親しみやすい性格に、裏表のない清廉な人格。凡そ本人に伝えたら断固否定されそうなレン像というのが出来上がっているようだった。
そんな英雄的存在であるレンは今、途轍もなく不機嫌そうな表情を浮かべて飲み物をストローで啜っていた。

「な、なんか機嫌悪いね、レン君」

「折角パーティ開いたのになんでそんな不機嫌なんだよ」

パーティ、というには余りにも参加人数の少ないお食事会で、キリトとアスナがレンに突っかかる。それなりに付き合いが長いからか、二人は彼がヒースクリフと会った後以外でこんなにも不機嫌になるのは初めて見たという。

「そりゃ不機嫌にもなるさ……いいか、オレの目的は勿論この鉄城を最小限の犠牲で一刻も早くクリアすることだが、堕ちてしまったアイギスの汚名を晴らすという使命も同時にある。だからこそ先の戦いで柄にもなく突出したというのに、なぜ有名になるのはオレの名だけでアイギスは有名にならんのだ」

ダンッ、と持っていたグラスをテーブルに叩きつけレンは捲し立てる。その剣幕にキリトとアスナは思わず後退りするが、レンに逃がすつもりはない。

「そもそもなんなんだアレは。オレの事を英雄だとか救世主だとか…オレはそんなもんになりたくて攻略組に戻ってきたわけではない!」

「前から溜め込む癖はあったけど……」

「ちょっと溜め込みすぎよ、レン君」

変なスイッチが入ってしまったようで、レンは珍しく感情を露わにして愚痴をこぼし続けた。
それを、キリト達は宥めながらも聞くことにした。昔から彼は1人で溜め込む癖があったのだ。吐き出せる時に吐き出させた方がいい。


「オレは…アイツらがただの裏切り者と呼ばれるのが、許せないんだ…」

最後にそう呟いて、レンは瞳を閉じて眠ってしまった。
聞くところによると、黒鉄宮から釈放されてから今まで一度も眠っていなかったのだという。
ゲーム世界であっても睡眠や食事は必要不可欠な事であるし、一度も寝ずに部隊を率いて迷宮を攻略したその精神力は異常の域だ。
レンの愚痴の嵐を凌ぎ切ったキリトとアスナは、溜息をつきつつ神妙な面持ちだった。

「『アイギス』か…どうしてあんなことになったんだろうな」

キリトは、アスナから以前レンが所属していたギルドの最期を聞いていた。勿論、レンの手によって最期を迎えたということも。

「ネロさんもみんなも、いい人たちだったのにね」

『アイギス』は比較的に新しいギルドであったが、レンが所属していることやその功績も相まって最終的にはそれなりに有名なギルドであった。
少人数でありながら、一人一人の戦闘スキルはかなりのモノで、特に防御スキルでは鉄壁と称される程。レンはその中で唯一のアタッカーとして在籍していたようだ。
アスナもキリトも、アイギスのギルドマスターである女性プレイヤーの『ネロ』には何度も助けてもらったことがある。
彼女たちの意思と信念は本物だった。護り切るといつも言っていたのを思い出す。

「……アイギスがいなくなったのは攻略組にとっても痛手だ。だからこそ、もっと俺達が頑張らないと」

「うん。ずっとレン君に無理させる訳にもいかないもんね」

そう言って二人はテーブルに突っ伏して眠っている黒髪の青年を見やった。
こうして寝ていると、とても彼が何千人もの人間の期待を一身に背負っているとは思えない。

「…あれ? これって」

「アスナ?」

もう一度レンを見たアスナが、なにかに気づいたようにレンの右手を持ち上げた。
持ち上げられた右手の人差し指、白い指貫グローブに覆われたそれが、青く透けていた。

「これは、どういうことだ…?」

キリトが疑問の声を漏らす。プレイヤーのアバターたる体が透けるのは、唯一その命が散る時のみ。透けた後はモンスターと同様にポリゴン片に分解されて散っていく。
それ以外はあり得ないはずである。

「まさか、ナーヴギアとの接続が不安定になっているのか…?」

ソードアート・オンラインというソフトを使って現実の脳にこのアインクラッドの風景を投射する機械であるナーヴギアとの接続不全は、このデスゲームの世界において致命的な問題だ。
なにせこの身がなくなれば現実の自分も死ぬのだから。強制切断によってこの世界から退場していった人間も、少なくはない。
キリトがその考えに辿り着いた時、しかしレンの右の人差し指は実体を取り戻していた。

「…戻った? 接続がよくなったのか?」

「わからない。けど、聞いてみた方が良さそうだね」

恐らく聞いた所でレンは何も言わないだろう。しかしそれでも、今彼を失う訳にはいかないのだ。例え無駄だと分かっていても、言うだけ言った方がいいに決まっている。



† †



夢を見ていた。オレがこのデスゲームに閉じ込められる時よりもっと昔。
まだオレが、近所の道場に通って剣道の鍛錬をしていた時の夢だ。
それなりの期間剣道に打ち込んできたわけだから、必然的にオレの力は上がっていった。全盛期では大人にも引けを取らなかったくらいだ。
しかしオレに自慢できるのは剣道しかなくて、剣道こそがオレの生き甲斐だった。
けど、それでも勝てない奴がいた。どれだけ打ち込んでも、いなされ、返し技で決められる。奴はいつもオレに先手を取らせて動く。まるで、お前の技など取るに足らないとでも言うように。
初めて負けた時、オレはまるで自分を否定されたかのような衝撃を受けたのを鮮明に覚えている。なにせ生き甲斐、文字通り人生を懸けてきたのだ。それを軽くあしらわれてしまったのだ。
だから、オレは奴に勝つ為に闇雲に鍛錬を行った。自身の疲労を顧みず、怪我を押し殺して剣を振り続けた結果。
オレは二度と剣を振るえなくなってしまった。
そんな時だったのだ。ソードアート・オンラインの発売が決定されたのは。ゲーム世界ならばまた剣を振ることができる。嬉々としてオレはこのゲームを購入し、そして、この地獄に取り込まれた。
この世界に来て、多くの絶望を味わった。生きて帰れないと確信した。しかし元より、オレは現実での生活に未練などない。故に、最後まで剣を振るっていられるこの世界に骨を埋める覚悟さえあった。
だが今になってそれはできなくなった。約束したのだ、あいつらと。あいつらの分まで生きて、そしてこの鉄城を攻略すると。
ああ、そうだ。オレに残された時間はもう少ない。いずれこの意識は闇に沈むだろう。だからそれまでに、この世界を終わらせる。

「オレが、終わらせる」



† †



いつの間にか眠ってしまっていたのだろう。目を覚ましたのは最後に記憶のあるNPCレストランの座席。
しかし向かいに座っている人物はオレの記憶とは少々違った。

「あ、起きた」

「……なぜお前がいる?」

黒髪をサイドテールに纏めた少女、プレイヤーネームに《yume》と記された彼女は、オレの問い掛けににっこり笑った。

「アスナから救援要請がありまして」

「……余計なことを」

正直に言って、オレはコイツが苦手だ。昔のままのテンションならある程度まで流せたが、今の状態でそれは無理だ。こいつの何もかもを引っ掻き回して混沌とした空気を作る才能には太刀打ちできない。
オレとしては情報屋である《鼠のアルゴ》並みに苦手な人物だ。

「それでそれで、なんだったのかなー? さっきの寝言は?」

「寝言?」

心底楽しそうに詰め寄るユメを手で抑えてオレは首を傾げた。はて、寝言など言っていたのだろうか。

「『オレが、終わらせる』って言ってたよー? すっごいキメ声で」

「……それがオレの声真似のつもりだとしたら、あまりにも似ていないから止めた方がいいぞ」

思わず溜息をつく。
『終わらせる』などと言っていることから、恐らくこの鉄城を攻略することを言っていたのだろうか。
この世界でそれを言うとバカの妄言としか捉えてもらえない。勿論、一部の攻略組プレイヤーは自分こそこの鉄城を終わらせるのだという気概を持って生きているだろう。だがそれはどちらかといえば少数派だ。皆が皆、いつか誰かが攻略してくれるのではないかと思っている。
だがオレは本気だ。オレこそ、この鉄城を攻略する人間だ。そうでなければ、アイツらに示しがつかない。
その決意を今更誰かに笑いモノにされようが一向に構わないが、ムカつくものはムカつくのだ。

「用がないのならオレは帰る。お前も帰った方がいいぞ」

「用ならあるよ?」

チョコンと首を傾げて何を言ってるんだコイツは、みたいな目を向けてくるユメだが、こいつの持つ前科故にその要件の内容に期待はできない。

「ある人から依頼を頼まれたんだけどね、私一人じゃちょぉっと厳しいから手伝って欲しいんだよね」

「依頼?」

そう言えば、コイツは何でも屋をやっていたっけか。
オレとこいつが出会ったのも、同じ人の頼みを聞いてたのがきっかけだったしな。
正直気分は乗らないが、話くらいは聞いてやるか。

「そう。ある小規模ギルドの人からの依頼なんだけどねーー」

立ちかけた座席に座り直して、ユメの言葉を待つ。


「ーーレッドギルドを潰して欲しいらしいの」

それは、オレの因縁に深く関係する組織だった。


ーー『笑う棺桶(ラフィン・コフィン)


その名を知らないプレイヤーは恐らくいないだろう。
犯罪を犯したプレイヤーに課せられるオレンジの烙印、更に好んで犯罪を犯すプレイヤーを、レッドプレイヤーと呼称する。
そして、そのレッドプレイヤーのみで構成された犯罪ギルドをレッドギルドという。
その中でも、殺人という禁忌を好んで実行する過激派ギルドが『ラフィン・コフィン』だ。

「だがラフコフはこの間の掃討戦で黒鉄宮へ総送りにしただろう?」

「でも全員じゃなかったってことだね。最悪な事に、リーダーである『PoH』と幹部である『ザザ』、『ジョニー・ブラック』は捕まってなかった」

「……ザザはキリトが相手していたはずだが…あの混戦状態では逃がすのも仕方ないか」

もしくは、何者かに邪魔をされたか。キリトがそう簡単に標的を逃がすとは考えにくいからな。

「…あれは、酷い戦いだったね」

「ああ。攻略組にとっても大損害だった」

ラフコフ掃討作戦は、血盟騎士団や聖竜連合を筆頭とした有志50名によって行われた。勿論その中にはオレやアイギスの姿もあり、そして、その中でオレはアイギスのメンバーを全員殺した。
ユメも手腕を買われて掃討作戦に参加していたから分かるのだろう。あの戦いの酷さが。

「あの三人を放っておく訳にはいかない。もう既に一つのギルドがアイツらのせいで壊滅させられてるしね」

「…それが依頼主のギルドか。成る程、弔い合戦とやらだな…いいだろう、その依頼、オレも受けよう」

ラフコフを野放しにすることはできない。アイツらは人を平気で殺す狂人の類だ。殺しはしないが、せめてこのゲームが終わるまでは牢獄で頭を冷やしてもらおう。

「あの三人は今は25層にいるらしい。大人数で行ったら逃げられるから、二人で行こうと思うんだけど」

「お前がいいのならオレは構わない。なに心配するな、道を踏み外した外道共に遅れはとらん。必ず黒鉄宮に叩き込んでやる」

今度こそ、完全に奴らを潰す。




to be continued 
 

 
後書き
それにしても、中々お気に入りや評価が伸びない… 
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