クルスニク・オーケストラ
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第四楽章 心の所有権
4-4小節
つまり、わたくしたちの「チーム行動」は特に上が決めたのではなく、セクションのメンバーが賛成してくれたから在る体制なのです。
具体的に説明したいのですが、それも疲れますでしょうから、要点だけ。
まず、事業を始めた時点で、骸殻エージェントは27人おりました。わたくし、ユリウス室長、リドウ先生、社長は含みません。
この27人を、6・6・6・5・4のグループに分けます。
人数に合わせてレベルの近いエージェント同士をチームにして、魔物退治や要人警護などに送り出す。それらの任務で問題がなければ、いよいよ分史への進入。
さて、ここからは当たって砕けろ。むしろ砕けても当たりに行け、でしたね。
…………結果は凄惨、の一言に尽きました。
わたくしは事業の間に、3人分もの《クルスニク・レコード》を脳に刻まれました。
Aチームのキアラとモニカ。キアラは毎朝会社の花壇を世話する慎ましい子で、モニカは気が強いけれどいつもキアラのフォローを忘れない友達想いの子でした。
Bチームのマリさん。バトルフリークは頂けませんでしたが、30代まで「保っている」方でしたから、わたくしもたくさんお世話になりましたのに。
でも彼女たちの犠牲をそれこそ犠牲のままにはしておけませんでした。あの程度を超えられなければ、クルスニク一族へ贈るハッピーエンドなど到底築けませんもの。
プライバシーもへったくれもなく彼女たちの《レコード》をリプレイしました。
何度も、何度も。細部まで覚えるくらいに。自分が誰か分からなくなるくらい。
《レコード》から情報を掬い上げて、何が失敗で何が失敗の原因だったかを追究する。
おかげでリドウ先生の「自我境界喪失症候群」の診断書と、ユリウス室長の病休手続きで強制休暇を取らされましたわね。どうしてあのお二方はジゼルをいじめる時だけ結束なさるのかしら? くすん。
そうして、今日の勤務体制があるのです。
もちろん犠牲者が女性社員3人で終わるほど、《オリジンの審判》そのものは優しくありませんでした。
今日までに加えて、Cのジェームズ、Eのレノンとトマスが殉職しました。
Eのトマスは若くて大人しい男の子でした。彼、何とヴェルが好きだったんですのよね。クルスニク一族でもないヴェルが《審判》に深く関わるのがイヤだった。その感情は今やわたくしの決意です。
同じくEのレノン。Eチームの任務中にハイレベルな魔物と遭遇して、チーム全滅を防ぐために一人残って魔物と戦って死んだ。普段のちゃらちゃらした彼しか知らなければ一笑に付す死に方だわ。本当……何であんな明るくていい子ほど先に逝ってしまうのかしら。
CのジェームズはAリーダーのカール、それにシェリーと交流があって、しばらくは二人ともとても落ち込んでたわね。ジェームズは最期までご両親と友人である二人を案じていた。自分が死ぬという間際で。何と優しい男でしょう。伝えに行ったご両親も泣いてらっしゃいました……
「補佐、いいですか」
Cチームのベンジャミンだった。――いけない。回想に心奪われてる場合じゃないわよ、わたくし。
「何です?」
「何人かで同時に斬りかかった時があったでしょう? あれでセドの奴、『ユリウス室長に剣を向けてしまった』って変にハイになってるんですよ」
ベンジャミンに付いて隣の部屋へ。
入ると、隅っこで毛布を被る青毛の若者を発見。行って、顔を覗き込んで、声をかけてあげる。
「セドリック」
「ジゼル、補佐。お、れ」
「Eチームは滅多に前室長と接する機会がなかったものね。緊張しました?」
「は、い。すい、ません」
「いいのよ。クラウン相手に恐れるなとは、わたくしだって言えないわ。ねえ、テレーゼ」
近くにいたEチームの女子――セドリックの姉テレーゼは相槌を打ってくれた。無愛想だけれど根は弟想いなのよね、テレーゼってば。こうしてセドリックに付かず離れずの距離にいるのが証拠。
「失礼します。補佐、よろしいですか」
あらあら、シェリー。忙しないわね。こっちへ来たと思ったら今度はあっち。
シェリーはこちらの部屋に入って後ろ手にドアを閉めた。
はいはい、今度はなあに?
「ヴェル秘書官の指示だといって前室長の弟さんが来たんです。解析データを持ってくるように言われたって。本当でした」
「そう…でしたら、そのようにお願いします。それと、わたくしがいたことと、わたくしがユリウス前室長と戦ったことは、ルドガー様には言わないでおいて」
懐からFDを取り出してシェリーに渡した。シェリーが部屋を出て行く。ドア越しに聴こえてくるシェリーの声で、FDがルドガー君に渡るのが聴こえた。
窓枠に歩み寄って、ガラス窓に頭を預ける。外は曇りの空。せっかくのリーゼ・マクシアなのに。まるでわたくしたちの未来を暗示してるみたい。
でも、いい。暗い今なら、これ以上暗くはならない。
これから迎える明日に未来に、わたくしたちが明るくしていけるってことですもの。
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