フェアリーテイルの終わり方
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十二幕 これからはずっと一緒だよ
5幕
前書き
妖精 の ワルダクミ
「ね、ルドガー、立たせて」
「……ああ」
エルがルドガーの両腕に抱えられながら、フェイの腕の中から抜け出して立ち上がった。
ふたりは支え合い、カウンタードラムの前まで歩いて行った。
フェイはふたりの背中をただ見守った。
ルドガーの手と、エルの手が、カウンタードラムに触れた。
カウンタードラムは白い光を放ったかと思うと、中心線から左右に割れて扉のように開いた。
奥に蠢くのは、風の吹く水面のように揺れ、緩やかに昇る煙のようにたゆたう、瘴気。
その瘴気の中から、全身が真っ白な一人の少年らしきシルエットが、焼かれながら現れた。
「精霊王……オリジン」
『そうだよ。初めまして、エレンピオスの〈妖精〉』
「フェイのこと、知ってるの?」
『もちろん。魂たちが、世界中の出来事を教えてくれるからね』
「ずいぶん、人に興味があるんだな」
『君ほどじゃないよ。新しいマクスウェル』
ミラが一歩前に出た。
「さっそくだが頼みがある」
『分史世界の消去と、魂の浄化のことだね』
「そうだ。お前が限界なら、私も力を貸そう」
『何千年も瘴気の中で焼かれるんだよ?』
「承知の上だ」
フェイはついミラから目を逸らしてしまう。やはりミラは強い。フェイがミラの立場ならば、怯んでしまって即答はできないし、そもそも、あえて苦しい境地に身を置きたくないと思ってしまう。
(やっぱりわたし、王様の言う通り、ヨワムシのヒキョーモノだ)
「ふざけるな!!」
フェイは急いでエルとルドガーを背にする位置に立った。クロノスが、胸の傷を押さえながらも起き上がったからだ。まだ後ろの二人に敵対するようなら、フェイが全力で守らねば、と決意して。
「まだオリジンに浄化を強要するのか! 貴様らは、自分の不始末をオリジンに押しつけているだけではないか!」
するとオリジンはクロノスに向けて手をかざした。それだけでクロノスが受けた傷が消え去った。
『ありがとう、クロノス。ずっと僕を心配してくれてたんだね。ふふ。まるで人間の友愛の表現みたいだ』
「な――」
クロノスは絶句し、そうしてから歯噛みしてそっぽを向いた。
『そして、願いを叶える権利は、そんな人間たちの代表……ルドガーとエル。試練を超えて扉を開いた君たちにある。二人で一つの願いを決めて。望むなら、時歪の因子化だって解除できる』
エルが、肩に回されたルドガーの手に、手を重ねてルドガーを見上げた。ルドガーは厳しい面持ちで、エルに肯き返した。
「分史世界を全て消してくれ」
ルドガーの胸には、言えた、という安堵と、言ってしまった、という恐れが同時に在った。
これでも必死で己を宥めすかしているのだ。ジュードたちには悟られないように。本当はエル一人を救う願いを告げたかった己を黙殺して。
「フェイ」
呼ぶと、フェイは素直にルドガーの下へ歩いて来た。ルドガーはフェイにエルを支える役を任せた。
フェイは全て知っているかのように、彼女の小さな姉の肩を抱いて共に下がった。
『エルのことは、いいんだね?』
空いた両手に二つの懐中時計を出す。
ルドガーにとっての「たった一人」を救うための、ただ一つの方法を実行するために。
「エルは俺が助ける」
エルを助ける方法、エルの因子化を解く方法は――別の骸殻能力者がエルより先に時歪の因子となり、因子定数をカンストさせてしまうこと。ルドガーが完全に因子化すれば、進行中の因子化は解け、全ての骸殻能力者の体は――エルの体は治る。
共に生きたいとエルに告げた。今でもその気持ちに嘘はない。
ただルドガーは、エルが消えるのが我慢ならない。
たったそれだけの、どうしても譲れない想いから、己の犠牲を決意した。
いざ、変身しようとした時だった。
構えた銀と真鍮の時計が、両手から消え失せた。
「え!?」
ふり返り、辺りを、仲間たちを見回す。
二つの懐中時計は、両方がフェイの手の中にあった。
「いつのまにっ……何する気だ!」
姉妹して、瞳に宿るのは、たった今のルドガーの決意と同じもの。
(まずい、まずい、まずい!)
「ここで骸殻を使ったら、ルドガーが時歪の因子化しちゃう。だから」
フェイの両手の中で懐中時計が――熔けた。
「もう使わせない。ルドガーにはお姉ちゃんを救わせない」
後書き
すぱすぱ行きましょう。
オリ主、エルの望みを受けてとはいえ、ルドガーから時計を奪っちゃいました。
この後に来るのはノーマル? トゥルー? さあ、どっち?
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