フェアリーテイルの終わり方
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十二幕 これからはずっと一緒だよ
6幕
前書き
姉妹 だから できる コト
液体になった真鍮と銀が地面にボタボタと落ちて、消えた。
フェイはしゃがみ、自らが支えているエルの小さな手を取った。
「これでよかった?」
「…うん…ルドガーが、生きてるなら…いい、の…ルドガーは、エルの… ――」
フェイの耳だけに届いた続きの言葉に、フェイはエルを強く抱いた。
「じゃあ、最後の仕上げをしよう」
「え?」
フェイは天を仰ぐ。図ったように天から飛来する存在があった。
――エルの時歪の因子化が進行していると知ってから、ずっと考えていた方法の実践に欠かせない存在。
ふおん。
降り立ったそれは、オーロラ色の光粒を振り撒く、九尾の狐の形をした精霊だった。
予想外の介入者に、ミラやクロノスでさえ驚きをあらわにしている。ここで少し気分がよくなるのは、きっとフェイの性格が悪いからだ。
「来てくれてアリガト。ヴェリウス」
『〈妖精〉のお召しとあらばいつどこなりと。しかし今のあなたが心に描く未来は、この場の誰にとっても喜ばしいものではありませんね』
「でも、誰かがやらなきゃいけないの。だったらわたしがやりたいなって。たった一人の姉妹のためだもん」
『あなたの心には一点の曇りもありません。あなたの望むままを成しましょう』
フェイはエルを支えながら立ち上がった。
「心の大精霊ヴェリウス。わたしとお姉ちゃんの〈心〉を入れ替えて」
姉妹を囲って、虹色の陣が光り刻まれる。エルとフェイの体が平面陣の中で浮かんだ。
「待って、フェイ! どういうことなの? ココロを入れ替えるって、え?」
「わたしね、お姉ちゃんが時歪の因子化するのも、ルドガーが時歪の因子化するのも、イヤ。それって結局片方しか助からないってことだもん。そんなのフェイ、ガマンできない。だからフェイが最後の一人になる。ルドガーもお姉ちゃんも消させたりなんかしない」
フェイは浮いたままエルの右頬に指を添わせた。ひどく慈しみ深い手つき。
「フェイが時歪の因子化するのも考えたけど、タイミングが合うか分からなかったから。こんな方法になっちゃったけど、いいよね? これならお姉ちゃんとルドガー、ふたりでずうっと一緒にいられるよね?」
姉妹を囲んだ陣から乱気流が生じ始める。
少しずつ「自分」が体からブレていくのを感じる。エルもきっと同じ状態のはずだ。
「ダイジョウブ。フェイの体は一度も時歪の因子化してない。まっさらな体だから、お姉ちゃんにイタイコトは一つもない」
「けどそれじゃフェイが…!」
「いいの。フェイはもういい。お姉ちゃんにまた会えた。ルドガーにパパになってもらえた。ジュードに会えた。みんなに優しくしてもらった。楽しかった。うれしかった。もうわたし、何にも要らない」
フェイはエルと手を絡めて繋ぎ、額を重ね合わせた。
「明日なんて欲しくない。わたしは今何より、お姉ちゃんの未来が欲しい」
マナの乱気流が勢いを増す。さながらミラ=マクスウェルが召喚された時のように、踏み止まれないほどの気流がルドガーたちを襲った。
やがて気流が晴れたそこには、色を入れ替えたような二人の少女がいた。
彼女たちは虹色のマナを零しながら地に足を着け、目を開けた。
「これが……エル?」
フェイ――否、エルがまじまじと自分の手足を、体を見渡す。色の抜けた髪は蜂蜜色に、濁った赤眼は澄んだ翠に染め直されている。顔立ちも違和感がない。元よりよく似た姉妹だったのだ。フェイの外見であってもエルとして認識するのに驚くくらい支障がなかった。
「アリガト、ヴェリウス」
さっきまでエルのものだった声。ルドガーもエルも慌てて声の主を顧みた。
元はエルの体だったものは無残なありさまだった。急激に老化したように髪の色は抜けて、帽子とリボンは滑り落ちてしまった。目の色も赤く濁っている。
『本当にこれでよかったのですか。フェイリオ・メル・マータ』
「うん。ホントにこれでよかった。ホントに――――ありがとう」
空気に融けるように、ヴェリウスは〈審判の門〉から姿を消した。
後書き
オリ主が、そして作者が頭をひねりにひねって弾き出した、もう一つの選択肢です。
犠牲を自分にすり替えるというのは前作のオリ主もやりましたね。
ついでに、入れ替わったのでエルの肉体年齢大幅アップです。ルドガーと並んでもおかしくありませんね。
そうです。その年齢差克服も作者の狙いの一つだったのです。
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