戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~
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二十二章 幕間劇
垣根の修理×美味しいご飯
庭を歩いていると俺が見つけたのは、見慣れた小柄な姿。
「・・・・・・」
彼女は何かをするではなく、何かをただ一点をじっと見つめているという感じのようだ。
「・・・・・・」
「どうかしたのか、光璃」
「あ、一真」
「じっと何かを見つめていたが、何かあった?」
珍しいもんか、花でも見つめていたような感じではあったが。言ってから光璃の見ている方をちらりと見ると、そこにあるのは・・・・。
「垣根」
古くなったのか、それとも誰かが稽古の途中で壊したのか。垣根の竹がいくつか折れていて、そのまま放置にされていた。
「壊れているな、誰か呼ぶか?」
「皆、忙しい」
まあそうだな。川中島を目の前にして、躑躅ヶ崎館の誰もが忙しそうに働いている、その辺りは将も小間使いも大して変わらない。まあ暇な部隊といえば黒鮫隊だ、対人戦闘ではなく対ドウターと鬼戦専門だからな。まあ武器の手入れやISの疑似戦闘訓練とかでやっているそうだが、暇な者もいる。
「まあそうだな。だが、放って置くわけにもいかない」
だからこそ、光璃もそれをどうしようかじっと見つめていたのであろう。
「人は城、人は石垣、人は堀。垣の乱れは、心の乱れ。隙を突かれるのは、こんな所から」
蟻の穴から堤も崩れるともいうし、こんな小さな抜け所が重なると大きな油断となって最悪大惨事となる。実際京都で鬼と戦ったときは壁の穴から入ってくる鬼を抑えるのも、大騒ぎしたが一葉と俺の技により後退させてから壁を直したけど。それを直せる人は、戦後になって直している人もいたが今は忙しいとなると。
「なら俺達で直すか」
「直せる?」
「そりゃあね。直す道具もあるから、光璃も手伝ってほしいな」
で、空間から垣根を直す道具を取り出してから直し始めた俺と光璃。
「光璃。そこを持っていて」
「・・・・こう?」
「そんな感じて・・・・」
折れていた竹を新しいもんに取り替えて。光璃が支えている間に、縄や釘で固定をする。
「離していいよ、光璃」
「大丈夫・・・・?」
光璃が恐る恐る手を離しても、支えていた竹がこちらに倒れてくる様子はない。軽く揺らしても問題はなかった。
「これでよし、と」
とりあえず応急処置みたいな感じだけど、壊れているよりかはまだマシだろ。まあ神の力で補強も出来るがそういうのは人の力でやってほしいもんだ。
「・・・・・・」
傍らをちらりと見れば、手伝ってくれた光璃は相変わらずじっと垣根を見つめている。
「本場の職人ではないけど・・・・」
「そんなことない。すごい、一真」
「別に凄くはないさ。光璃が気付いて、手伝ってくれたからできたことだし」
「・・・・光璃は、何もしていない」
「光璃が支えてくれなかったら、こんなに早くは終わらなかった。光璃は気付いて直したいと思ったから直せたこと。俺はそれを手助けしたことに過ぎない」
俺だったら、部下を呼んでやるか。ここまでは直せないのであれば、手っ取り早く再生の力を使うが。
「一真・・・・。・・・・・」
「ふふふ・・・・」
せっかくいい雰囲気なのに、何でこんな時に鳴るんだか。まあ力仕事をしたから自然と腹も減るか。
「・・・・・お腹空いた?」
「そうだな・・・・。今はちょうどお昼だし、光璃は?」
「・・・・まだいい」
「そうか。なら、もう少し後にするか。俺は光璃と一緒に食べたいけど、ダメかな?」
国持ちや上級武士になると、食事を一緒にする相手も色々と決まりもあるという。光璃は俺の妾だから、こういうこと言ってもバチは当たらんだろ。その前に俺は神仏だけどな。
「ううん。光璃もご飯、一緒がいい」
「じゃあ、一緒に食べようか」
「一真・・・・」
と何か言いたそうだったから聞いてみると、薫や心の方がいい?と聞かれるから何の事だろうと思った。光璃の質問は主語をすっ飛ばす傾向があるが故に、説明が足りないのがよくあること。薫や心はご飯上手と言っていたが、薫だったらすぐに作れると言った。
「・・・・男は、胃袋でつかむ」
なぜそういうの知っているんだろうな、この子は。
「男が全てという訳ではないよ。光璃と薫で得意な方が違ってもどちらではなく、どっちも素敵な方だ」
「・・・・・・・」
「光璃には光璃の良い所がたくさんあるだろ?」
「でも・・・・」
「料理が上手な女の子も好きだけど、俺も作れる側だから。一緒に作るのもいいけど、ご飯を美味しく食べる女の子の方も好きなんだよ」
「・・・・・おいしく、食べる」
「光璃は薫や心の料理、美味しいと思うだろ?」
「・・・・とっても」
「それにだ。作る側が美味しく食べてくれるのはとても嬉しい事だ。無論一緒に食べている側もね」
「・・・・一真も嬉しい?」
「無論だ。俺は作る側でも食べる側でも嬉しい事なんだよ」
さっきまで曇った表情ではあったが、明るい表情になってきた。光璃には光璃の良い所があるから、そういうのは気にしなくてもいいことだ。
「じゃあさ。落ち着いたら、みんなでご飯を作ろうか?」
「・・・・ほんと?」
「俺や薫に心とかに教えてもらえればいいことだ。それに一真隊も合流すれば、ころもいることだし。料理を覚えたら、俺がお腹空いたときに光璃がご飯作れるようになれるだろ?」
「うん。一真に、ごはん・・・・。食べてくれる?」
「もちろん・・・・。それに教える側もな」
そう答えると空気が明るくなるのが分かる。それに一緒に調理したり食べたりすると、一緒に喜びもするしな。自分の良い所は自分自身ではなかなか見えないところがある。もちろん俺にもある、部下から見て良い所は?と聞くとたくさんあると聞いた。それに光璃も魅力的なんだから。
「お屋形様ー!」
光璃と話をしていたら、庭の向こうから聞き慣れた声がやってきた。
「何?」
「春日様が、部隊の運用れちょっとご相談したい事があるそうなのれす!織斑一真は『パシイィィィィィィイン』うぅぅぅ!」
「だから呼び捨てにすんなっつうの。それにそれは武田の秘中の秘なんだから言わなくても分かるわ!小娘が!」
「兎々・・・・。めっ・・・・。一真」
「気にしないで行っておいで」
「お昼・・・・」
「別に今日じゃなくても、別の日があるだろ。夕飯のときでもいいし、光璃の都合がいいときに誘ってな」
別に待つという選択肢もあるだろうけど、部隊の編制なら長くなるに違いない。今日の昼は自分で食べるしかあるまい。
「じゃあ、夜」
「よし。夜に行くから、約束」
そう言うと、光璃は無言で小指を差し出してきたので小指を出す。そして絡め合わせてから、約束をすれば光璃は安心したように微笑む。
「それじゃ、一真。また」
「行ってらっしゃい。また夜にな」
と光璃と別れてまた一人での行動となる。あの作業のおかげで結構腹減ったからな、それに時計を見るとちょうど12時だし。トレミーだと食堂がいっぱいのようだ。俺の腹は鳴っているが、何か軽食でも食おうかな。基礎代謝は元々高いし、食べるときは結構食べるから。
「あれ。おーい、旦那ー」
「ん?」
「何やってんだぜ?こんな所で」
「腹減ったから何か食おうか考えていたところ。二人もご飯か?」
縁側に腰掛けて、粉雪は大きな丼にご飯をよそってもらってる。それを見ると凄く腹が減ってくるな。
「はい。出陣の支度も一息つきましたから、こなちゃんと軽いものでもと。お腹が空いたのでしたら、一真様もよろしければ」
「いいのか?」
「構いませんよ。ご飯もお茶碗も余分がありますし」
「・・・・準備早いな」
「ここの前は、兎々ちゃんや夕霧様も良く通りますから」
「だからか、ご飯を大量にしてあるのは?」
粉雪の脇に置いてあるおひつは、二人分には思えないほど大きなものだった。中身がそれに比例している訳ではなさそうだけど。
「はい。湯漬けですが、構いませんか?」
「湯漬けかぁ。お茶漬けの素か」
「お茶漬けって何ですか?」
「ご飯にお茶をかけて食べる事をお茶漬けという。それの元が湯漬けなんだ、だから俺らの知っているお茶漬けの素がこれなんだなーと思って」
とか言いながら、おひつのフタを開けてから驚いたが。おひつ一杯のご飯は二人で食べきれる量ではなかった。晩まで食べて、明日の朝に回しても残るだろうな。粉雪曰くこれが普通なんだぜとか言っていたようだった。俺は空間からお茶漬け専用の茶碗を持ってから、心からご飯をすくう道具を借りてご飯を茶碗に入れる。そして茶漬けの素をかけてからお湯を入れてもらい完成と。
「それはお茶漬け何ですか?凄く良い匂いがしますけど」
「今食っているのより旨そうだぜ!なあなあ旦那ー」
「今は俺が食べてようとしているんだが、まあいいか」
と縁側においてから、粉雪の茶碗にご飯を入れてからさっきの素をかけてからお湯を注ぐ。そして粉雪に渡してから、縁側で腰を下ろして食べる。
「甲斐の米というか、米ではないがこれはこれで美味いな」
「これ凄く美味いんだぜー。ただの湯漬けに見えて違うからびっくりだぜー」
「このご飯、ただ炊いてるわけではないよな?」
「はい。一真様の思うように工夫をしているのです」
「あたいにも教えてくれないんだぜー?」
「まあこれはこれで美味いが、料理を作る側としては研究し甲斐があるな」
こういうのが広まれば、甲斐のご飯事情も今よりも変わると思うのだが。
「まあそうですね。一真様の料理はどれも素晴らしいくらいですから、それに甲斐ではあまり穫れない材料も使っていますから。あまり広めるわけにもいかないんですよね・・・・」
「そういう事情があるのならしょうがないな」
甲斐で生産出来るのなら作れるが、栽培方法が確立しないのであれば広めるのは難しいだろうな。料理や農業に詳しい心が判断するのであれば、何かしらの問題はあるのだろう。今食っているお茶漬けの素だって、現代では広まっているがここでは広めない方がよさそうだな。だって粉雪の奴は凄く美味そうに食っているから。
「この味噌汁も美味いがお手製か?」
「そうですよ。お味噌造りも、甲斐では力を入れていますから」
「ここの料理は何食べても美味しいんだぜ、旦那。でもここ並みに美味い料理を作れる旦那も羨ましいぜ」
「ホントに美味いが、これはこれで研究はしたいな。これも光璃が薦めていると聞く」
「はい。薫様が意見を出して、お屋形様がそれを受ける形で、夕霧様と協力し進められています。お味噌といえば、尾張もお味噌の生産に力を入れている聞きましたが?」
「尾張は基本が味噌味だな」
「でも、尾張は海沿いだから別に味噌なんか作らなくても塩はたくさん取れるんだぜ?」
「そういうことではないよ。甲斐は味噌を作るには塩の節約のためだろうが、尾張や三河で味噌造りが盛んなのは・・・・」
「・・・・盛んなのは?」
「単純に皆味噌味が好きなんだと思うよ」
皆は味噌を付けながら食べるのをよく見るし。でも俺は尾張の人ではないから、詳細までは知らんが。
「へぇぇ・・・・。場所によって色んな考えがあるんだぜ」
「あ、そうそう。味噌もこっちと違って、もっと赤いよ」
「赤・・・・?」
「味噌が赤いんだぜ?」
「赤いというより、この味噌の色が濃い事を言う。そういうのを赤味噌という、白味噌というのもあるが」
「へぇ・・・・。一度食べてみたいですね」
「赤備え隊としても、気になるんだぜ・・・・」
「天下が平和になれば、そういう機会もあると思う。こっちの味噌も意外と向こうと評判良さそうになるかもしれない」
「そうですね」
「だったら、やっぱり次の戦も負けられないんだぜ!ここ、おかわり!」
「はいはい。・・・・一真様はいかがですか?」
「今度は湯漬けで、もう一杯もらおうか」
「はいっ。それにしても料理に関しては私より知識豊富なんですね」
とは言われるけど、実際拠点から持ってきたのは赤と白の両方からだし。それに料理スキルが高いのは、ある外史に行ってから凄く伸びたけど。それに俺のも美味いが心の料理も美味い。きっと朱里や雛里、華琳に流琉に子住結花とは仲良くなれるだろうなと思った。特に華琳とはいい勝負になりそうだし。
「ここ、おかわりなんだぜ!」
「はいはい。一真様はおかわりいかがです?」
「もうお腹一杯だから、もういいよ」
「もう一杯なんだぜ?」
「・・・・粉雪は食べ過ぎだと思うが。普通なら腹壊すぞ」
「たくさん食べないと大きくなれないんだぜー?」
「俺はこのままで充分だよ」
「あー。まあ、旦那はそうだぜー」
そりゃ俺だって食べたいが、限界がある。それにこれ以上どこを大きくしろと言うんだか。粉雪は身長を大きくしたいというが、その理由が強くなれるとか言っていたが。
「それを言うんだったら、綾那や兎々は背小さいけど強さ的には一騎当千なんだよ?」
むしろあの二人や小夜叉とかは小回りがきくから、これで十分とか言いそうだ。
「そうだよ。まあ、美味しいってたくさん食べてくれるのは嬉しいけど」
「同感だな。作り手側はそう思う」
とまあそう考えていたけど、粉雪はまたおかわりとか言っていた。船にいる奴らはいったいあの体型でよく食べれるなと思っているだろうしな。
「あ、そうだ。今回の件で落ち着いたらでいいのだが。光璃が、料理を覚えたいような事を言ってたからさ。薫と一緒に相談に乗ってはもらえないか?」
「お屋形様がですか?」
「珍しい事もあるんだぜ・・・・」
「そうなの?」
「はい。今まで料理の事なんか、気にした事なかったのに・・・・」
「ここと薫に全部任せっきりだったんだぜ」
「ええ。食が大事という事はもちろん理解してらっしゃいましたが、個人的に興味を持っているようには見えなかったもので・・・・」
「へえー。そうなんだ」
「一真様の前では違いますか?」
「ああ。俺とご飯食べたいって言ったり、俺や心や薫は誰かがお腹空いたらご飯は作れるからいいなーとか、色々と気にしているようだったから。少し意外」
「へぇ・・・・・」
「ほへー。あのお屋形様が・・・・」
「ふふっ。でしたら、一真様の影響なのでしょうね。良い事だと思いますよ」
まあそうかもしれないけど。俺がここに来てからなのだろうなと思った、人の心というのは誰かの影響で変わるというものだ。で、光璃が気にしていた事を話したら、なぜか心と粉雪が顔を赤くした。もしかして料理が上手な子とご飯を美味しそうに食べる子も素敵だしとかなのか。まあ分かりやすいことだな。
「そ、それってもしかして・・・・ここもだぜ?」
「こなちゃんも・・・・ですか?」
「そうだなー。粉雪も心もどちらも魅力的ではあるな。可愛いし」
「「・・・・・・・っ!」」
「え、や、ちょっとだぜ?これが詩乃達が言ってたことなんだぜ」
「確かに不意打ちで来るのは、ずるいよね」
「何かおかしなことでも言ったかな?二人とも」
とか言いながらも何でもないというが、さっきのリアクションでもうばればれなんだけど。粉雪もさすがになのか、お腹一杯だという。普段からおひつ分は食べているらしいが、食べるのをやめると心配はするよな。いつも大食いなのが、今回はパスというのも。
「さて。それじゃ、もう一仕事頑張るんだぜー!」
「俺もそろそろ上での仕事あるから、行くとするか。ごちそうさん」
「はい。おそまつさまでした」
「それじゃ、光璃の件。よろしく頼むよ、俺も手伝えるなら手伝いたいけど」
「もちろんです。今回の戦いが落ち着いたらになると思いますが、薫様とも話しておきますね」
「旦那も一真隊と長尾勢の説得、よろしく頼むんだぜ」
「もちろん、任せておけ!」
この戦いが終えたら、光璃の料理を食べれるかもしれないが、まあやる気は出てきた。それに愛紗や桃香や蓮華も始めは料理できなかったのが、俺と出会って恋をしてから料理を始めたんだったな。今はたまに食べさせてもらっているが今は主に俺が作っているけど。
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