フェアリーテイルの終わり方
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十一幕 野ウサギが森へ帰る時
2幕
前書き
全力 で 踊る
一階に降りるや、ホールに展開するエージェントが小砲でルドガーとフェイを狙い撃ちした。
赤黒い磁場の球。覚えている。ペリューン号でフェイを苦しめた、携帯版〈クルスニクの槍〉。
フェイ自身はとっさに避けられなかったが、ルドガーがフェイを抱えてホールに飛び出し、床に転がった。二人してすぐ起き上がる。
次々に撃たれる磁場の球をルドガーが双剣で斬り捨てる。
「ルドガー! フェイ!」
「ジュード! 何なんだよこれ!」
「騒ぐと警備を呼ぶ、とヴェルに言われてな。それでも居座ったらこのザマだ」
ジュードとミラも、通常攻撃をミラが、携帯版〈槍〉の砲撃はジュードが捌いている。
正しい分担だ。全身がマナで出来た大精霊など、一撃でも喰らえば臓器が消し飛んでしまいかねない。
「ここは通行止めだ、ルドガー副社長」
「定番すぎるセリフで申し訳ないけど、社長命令は守らないと」
立ちはだかるエージェントの中心に立っているのは、イバルと、リドウ。
「どいてくれ、イバル。いくら巫子のお前とはいえ、容認できぬことがある」
「ミラ様……俺のことをまだ巫子だと……?」
「任を解いた覚えはないぞ?」
ミラは不敵な笑みを浮かべた。
そこで、エージェントの包囲の一画が崩れた。
刀を振るって鞘に納めるガイアスと、いつでも精霊術を放てる態勢ながら優雅に飛ぶミュゼが、そこに立っていた。
「迎えに来たぞ」
「アースト――」
「王様だっ」
ガイアスが拓いてくれた空白を駆け抜け、フェイとルドガーはようやくジュードたちと合流することができた。
「あーあ。面倒なお方が来ちゃったなあ。けど、こっちもルドガー君を止めないとヤバイんだ。――命が懸かっててね」
リドウがここに来て、フェイにも分かるほど明確な殺意を呈した。
フェイは確信した。自分が前に出るべきはここだ、と。
「わたしが残る。パパたちはお姉ちゃんのとこに行ったげて」
――フェイの中で泣いていた小さなウサギは死んだ。
ここにいるのはフェイ・メア・オベローン。あの籠の中で生まれた、ひとりぼっちの野ウサギ。
精霊に憎まれて体をボロボロにされ、そして今は掌を返した精霊の力を得て――牙を剥く。
「フェイ、けど…!」
〈クルスニクの槍〉は〈妖精〉のフェイにとって天敵だ。ペリューン号での〈ミラ〉を巡る戦いでルドガーにも知られている。
それでもフェイは肯いて見せた。
「今度は、ダイジョウブ。――下に外に通じてる道があるの、感じる。分かる。みんなはそこ通って、行って?」
「地下の試験会場か……フェイ、絶対に大丈夫なんだな?」
「うん。約束する」
「約束」というワードにルドガーはわずか痛みを浮かべたが、すぐにジュードたちをふり返った。
「フェイに任せよう。俺たちはエレベーターに」
「本当にいいの、フェイ?」
「ヘーキ。だからジュード、わたしのもう一人のパパをオネガイ」
エレベーターが閉じるまで、フェイは微笑んでルドガーたちから目を逸らさなかった。
そして、リドウたちに向き直った時、その顔から笑みは消えていた。
「さあて。どう楽しませてくれるのかな、〈妖精〉サン」
フェイは一度だけ自身を抱くようにして、勢いよく体を広げた。
エントランスホールに空色のドームがぶわっと広がった。
ドームは携帯版〈クルスニクの槍〉の磁場を打ち消し、あるいは携帯版〈槍〉そのものを爆発させた。「今何をした」「何が起きた」などと叫ぶエージェントたち。
これもまた〈妖精〉になるまでの過程で身につけた特殊スキル。――どんな属性も付加しない、フェイの体内の純粋なマナの「放出」。
――自らマナを剥ぎ取って放出するなど、少し前までのフェイなら絶対にできなかった。できても錯乱していた。
それができるようになったのは、今日までの多くの積み重ねがあるから。
「〈クルスニクの槍〉の基本構造はマナを吸い取る装置でしょう。ならパンクするまでマナを吸わせれば自壊する。携帯版じゃ、吸ったマナを溜めとくパックの容量も大したものじゃない」
「それだとお前の命に関わるぞ! 人間のマナだって精霊と同じで有限だ、放出すればお前の体が…!」
イバルが怒鳴る。それがイバルの優しさからのものだと今のフェイには分かる。
彼はクランスピアの人間なのに、非情に徹しきれない。きっとミラはそんな彼だから巫子にしたのだろう。
「本気出したの、ミラさまと戦った一度きりだから、わたしもどうなるか分からないけど」
フェイはダンスの誘いに応えるように手を挙げる。
実際こうなったフェイには視えているのだ。フェイを舞闘にいざなう精霊たちが振り撒く、煌々しいマナが。
「わたしのぜんぶを、出すね」
後書き
ついに妖精が本気を出しました。
ここに宣言します。チートにしないようにする宣言をここに撤回することを。
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