フェアリーテイルの終わり方
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十一幕 野ウサギが森へ帰る時
3幕
前書き
予期せぬ 助け
5分でよかった。
戦いの宣言をしてから5分。〈クルスニクの槍〉は全て見事に壊れ、それらを持っていたエージェントも床を舐める結果となった。
もちろんイバルも、リドウも。
イバルはミラが巫子だと言ったから、これでも手加減したのだ。
「はっ…さすがエレンピオスの誇る〈妖精〉…ほんっとバケモノじみた力だ」
半分千鳥足ながらもリドウは毒づくのをやめない。
だが「バケモノ」と呼ばれてもフェイは気にならなかった。バケモノでフェイはシアワセだ。こうしてルドガーやジュードたちの役に立てたのだから。
「もうパパたちのこと、追っかけない?」
「――ここまでやられて、こっちだってやってられっか」
他の人間と違い、リドウの言葉は本心か嘘か区別がつきにくい。それでも、ここまで痛めつけたのだからと、安心して背を向けた。
「起きろ、お前ら!!」
リドウの狂喜じみた怒号に、倒れていたエージェントの中から二人ほどが起き上がり、壊れたものよりさらに小さい携帯版〈クルスニクの槍〉をフェイに向けた。
しまった。こちらが陽動したつもりで、相手側こそが自分を陽動していた。
(やっぱりフェイが残ってよかった。もうイタイのなんて怖くないもん)
フェイは避けず、自身を最大限に苦しめる攻撃を受け入れようとした。
それを防いだ者が、あった。
白い背中。交差した双刀が携帯版〈槍〉の砲撃を斬り捨てた。
「メガネのおじさん!?」
「ハッ、飛んで火に入る夏の虫だぜ!!」
リドウは先のダメージなどないように、ユリウスへメスを構えて猛進していく。
ユリウスの双刀とリドウのメス6本がぶつかった。
武器としては脆いはずのメスで、リドウは十二分にユリウスと渡り合っている。
だが、やはりフェイによって負わされたダメージは、リドウの動きを以前より鈍らせている。ユリウスは的確にその隙を突いた攻撃をくり出す。
ついにリドウのほうが膝を突き、床に倒れた。
ユリウスは酌量なく双刀の片方を振り抜き、リドウにトドメを刺そうとした。
「おじさん、殺さないで!」
ユリウスの腕が止まった。
フェイはユリウスを追い抜いてリドウに近寄り、上から覆い被さるようにして、リドウの胸板に掌を当てた。
「――、――、ココと、ココと、ココも。全部いじくってある。これ、すごくイタイのに。命にも関わるのに。どうして?」
「俺こそ『どうして』だよ。何で分かった。ユリウスにも教えなかったってのに」
「電気を使ってるモノなら分かるよ。どんなモノでも、どこにあっても」
「それが〈妖精〉の力かよ……」
リドウは仰臥したまま頭を掻きむしった。
フェイの――〈妖精〉の真価は精霊術ではない。精霊が、己が司る属性を通して掌握する、世界各地の情報。〈妖精〉は霊力野を通してそれらの情報を知ることができる。
〈妖精〉に把握できない事柄はなく、〈妖精〉の前にはいかな機密も通用しない。
全能ではなく、全知。フェイにとってはどうでもよかったモノ。
(だって他人のことなんて知ってもどうしようもなかったもん。〈温室〉の中には人間はいなかったし、何より他人なんてどうでもよかった。わたしは会うことも話すこともない人たちだもん。でも今は違う。知ったから、できることがある)
フェイはリドウの上からどいた。
「何で殺さない」
「パパとお姉ちゃんが大ケガした時、治してくれたの、あなただって聞いた。二人の代わりに、お礼する」
「いいのかよ。ここで俺を逃がしたら、俺はお前のパパを殺しに行くぜ」
「イイの。パパが勝つから。そしたらあなた、死んじゃうから。だから、パパたちができない分のお礼を、フェイが今先にしておくの」
「はっ――今のお前、とびっきり最悪な女だぜ」
フェイはただ笑んで小首を傾げた。
「フェイ!!」
ユリウスの呼び声。フェイがリドウと話す間に埒を明けてくれていたようだ。出口へ続く廊下の掃討は終わっていた。
「じゃあね、お医者さん。パパとお姉ちゃんを救ってくれてありがとう。サヨナラ」
じれったそうに待つユリウスの前まで一直線に駆け抜ける。
ユリウスはフェイが至近距離に来るや、手を掴んで即座にエントランスを抜けて正面玄関へ走り出した。
クランスピア社の外に出てからは、ユリウスに手を引かれるままトリグラフの街を走った。
後書き
ここは原作でも、ユリウスが残ったミラorジュードを助けに来てくれるようなので、ユリウスには今回オリ主を助けてもらいました。
オリ主が最後にリドウを「お医者さん」と呼んだのは、リドウを悪党ではなく、人の命を救う偉大な(と言うと言い過ぎですが)人と見なしたからです。
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