戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~
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二十二章
武田家軍議
「織斑一真!お屋形様がお召しら『パシィィィィイン』うぅぅ・・・・・」
「呼び捨てをしていいのは一部の者たちだけだ。さん付けか様付をしろ。馬鹿者」
「痛いのら・・・・。って薫様!?ろうしてこんな男の元に!『何か言ったか、小娘!』な、何も言っていないのら」
とりあえず脅してみたけど、タイミング良すぎだな。あと綾那たちも軍議に出てもいいけど、桜花たちは?と聞くといいのらと言っていた。まあ側室だからなのかな。
「そういうことで、俺達もすぐに行くよ」
と行ってしまった兎々。何か言おうとしたが、俺のハリセンを見たのだろう。何か言ったらはたかれると畏怖でもしているのかな。
「まずは武田も大方針を決める段階なのでしょうね」
「だろうな。それに呼んでもらえるだけでありがたいことだ」
御旗・楯無に大方針を誓わせた後に軍議に呼ばれたら、俺達の案を通すのは不可能に近い。
「お兄ちゃんも武田家の一員だもん。呼ぶのは当たり前だよ」
「それについてですが、以前にも言った通り我々はどこにも属さない者の集まりです。詩乃たちは一員でも我々は・・・・」
「そこまで言わんでもいいぞ。きっと分かっていて呼んだのだろ。一真隊の四人は一員でも俺たちは別動隊だからな」
とりあえず普段着からいつもの戦闘服に着替えた。そのあと俺の妻たちは髪をとかしてくれた。桜花たちに。そして支度が出来たので、上段の間に行ったらもうほとんどが揃っていた。
「おお良人殿。いつお帰りになられたので?」
「ついさっきだ。あとこの三人も俺の隣に座っても構わんか?」
「そちらの三人の内一人は知っておりますが・・・・」
「一応紹介すると、桜花、結衣、沙紀。この三名は俺の妻の一人で側室だ。光璃は愛妾だから、その上ということになる」
「なるほど。ならば宜しいでしょう。良人殿の後ろにてお座りください」
といって詩乃たちはいつも座るところに、俺と桜花たちは光璃が座っている所に座った。桜花たちは俺の横に座っている。
「揃った」
「では、軍議を始める。粉雪」
「応!現状の報告をするぜ。先日、旦那の使いで越後に向かった早馬が、春日山に向かう途中で、春日山から南進する越後の大部隊を発見したんだぜ。で、事態は急を要すると判断した使いは、踵を返して武田領に帰還。国境の狼煙台を使って、躑躅ヶ崎館まで越後の異変を伝えてきたんだぜ。これが昨日の晩のことなんだぜ」
「狼煙でそんな細かいことまで分かるのか?」
「さすがにそれはないですよ。既に詳細な情報を持った早馬も届いていますから、詳細はそちらで」
「そういうことか。ということは、川中島からここまで、二日かかってない計算になるな」
「文だけであれば昼夜問わずに人と馬を替えつつ走れば、不可能ではないでやがりますよ」
「・・・・なるほど。理解はした」
「狼煙の報を受けた時点で、既に国人衆は兵の収集を始めております。後は必要な数と出陣の知らせを待つのみ」
「苦労」
流石と言いたいところだけど、こちらとしては当たり前ではあるな。まあこの時代だと武田軍団は凄いと聞こえるけど、動きが早いのは狼煙や騎馬軍団だけではないということ。まあこちらは1分1秒で分かるけど。やはり書状は越後に届いていないのは分かっていた。あちらに鞠がいることも。
「以降の動きはどうでやがります?」
「海津城の一徳斎殿からも詳細の報告があったんだぜ。越後勢は飯山街道を南下、飯山城に兵を集結させつつ、戦の準備を整えてるそうだぜ」
飯山城・・・・長尾(上杉)方の、対武田の前線基地。室町時代に建てられ、その後は持ち主が転々としていた。
「・・・・飯山なら、行き先は決まりなのら」
飯山から千曲川を遡れば、川中島だな。長尾勢が川中島を攻める時にいつも使うところだと。こりゃ川中島を目指しているのは間違いないな。船からも同じような報告が来たし、兵もすでに休ませているから大丈夫だ。
「今回の長尾の侵攻、腑に落ちない点が幾つか見受けられます」
「・・・・続けて」
「一徳斎殿は、越後に忍んでいた吾妻衆の報告も合せて送って下さいましたが・・・・どうも今回の長尾勢は、いつもほどの準備もなく春日山を発ったようなのです」
「あの戦巧者がでやがりますか?」
「慢心して勝てる相手って思われているなら簡単だぜ。そんな相手じゃないって、徹底的に教え込んでやるだけなんだぜ!」
「だが、罠という可能性もある」
「・・・・その可能性は高いですね」
「お屋形様はろうお考えれす?」
「・・・・・・・」
兎々の問いに、光璃は瞳を閉じ、黙ったままだ。しばらく沈黙が続いたあと光璃はその瞳をゆっくりと開けた。
「・・・・一真」
「ん?」
「どう見る・・・・・?」
「俺達もそうだが、状況を理解している詩乃達の発言許可をもらいたい」
「構わない」
「ありがとよ。・・・・ということで詩乃、頼む」
「はっ。では・・・・」
俺は光璃の許可をもらったのでそう言ったら立ち上がった詩乃が、軍議に参加している者たちを見回しながら言葉を続ける。
「そも今回の越後勢の拙速としか取れぬ出陣、その目的は十九八九、一真様の身柄の確保が狙いかと考えます」
「ほぅ。良人殿が目当てか、越後の龍は」
「どういう事だぜ・・・・?ここは分かるんだぜ?」
「まあ・・・・何となくは」
「うぅぅ・・・・ずるいんだぜぇ・・・・」
「まあ、当然といえば当然でやがりますな。恋人になることで結んで間もない未来の夫を敵国にかっさらわれた挙げ句、その敵国で祝言でやがりますからなぁ」
「越後国主とか関東管領とか関係なく、怒るよね・・・・・」
「その通りでございます。恐らくこれは、美空様の気性的な所が大きいかと」
「相変わらずの気まぐれですか。・・・・気まぐれで攻められるこちらの身にもなって欲しいです」
「・・・・・・・」
「そして、向こうにとって幸いな事がさらに二点」
詩乃の視線をちらりと受けて、その言葉を継いだのは雫であった。
「まず一点目は、相手が何度も兵をまみえた武田勢であったこと。本来であれば、この手の作戦を行うには甲斐国府、躑躅ヶ崎館まで攻め寄せる必要がありますが・・・・」
「・・・・なるほど。この流れで行けば、我々は今までと同じく川中島に向かう他にない。釣り出されたようで面白くはないが・・・・」
「れも、行かないわけにはいかないのら!」
「その通りです。・・・・さらに二点目は、標的である一真様が、前線に自ら行くという事をお持ちの事」
「なるほど。川中島に一真様が出陣しなければ、越後勢は目標のない川中島に顔を出すだけになる・・・・」
「そんなの、勝ったも同然だぜ!」
「全力で迎え撃って、懲らしめてやるれすよ!」
「・・・・・・・」
気勢を上げる粉雪たちではあったが、光璃はその様子を見ても先程と同じように目を閉じている。
「姉上?」
「・・・・一真の話は、まだ途中」
「うむ。向こうの利に、良人殿が自ら前線に行くということは・・・・」
「はい。この前提を踏まえた上で、一真隊と一真様直属部隊から提案する策ですが・・・・。一真様を最前線に出します」
「はぁぁ!?意味が分かんないのら!」
「相手の狙いが旦那って分かってるのに、なんで旦那を出すんだぜ?」
「俺が美空を説得する」
「・・・・停戦を狙うとおっしゃるか?」
「用兵の法は、国を全うする上と為し、国を破るは之に次ぐ・・・・という事だ」
国の損害を出さずに勝つのがベストマッチ。戦って破るのは、その次という意味。詩乃やこの時代に合せて言ってみただけだし、台本に書いてある事をそのまま言ってみたけどな。
「なんれいきなり孫子なのら?」
「諸君も分かってはいるが、武田は今一番する事は、駿河の鬼退治なんだろ?」
「でやがります。身内の恥を雪いで、甲斐の民の不安を取り除くのが一番でやがりますよ」
「確かに今の甲斐に長尾の相手をしている暇はない。長尾との戦で損害を出すのは確かに下の下だな。・・・・故に孫子を持ち出したか?」
「それだけではない」
「ほぅ」
「・・・・俺は、長尾にも損害を出したくない」
「双方の意味であの一文を読み解くか。面白い」
「これについては、あれの注釈書を書いたことがある者がいてな。徹底的に教えられた」
「注釈書とな。それは語学のために、一度読んでみたいものだな」
「・・・・多分だけど読んだ事あると思うな」
魏武注孫子については、この時代にも出回っているはず。戦国時代からはるか昔の三国志時代だから千五百年くらい前の書物だ。俺の妻の一人に曹操、真名は華琳に教わったからな。あとこの書は孫子に曹操が注釈を入れたものだ。俺は「真・恋姫†無双」の外史にて華琳から直接読んだ本だ。あとは拠点の図書室に丁重に保管してある。
「一真。同盟に加わるつもりは、まだ・・・・」
「それなら今はまだだ。でもな、今の甲斐に長尾と正面からぶつかっていい事なんて一つもないだろ?」
「それに何より・・・・駿府攻めの大義名分は、いまだに越後側に残っています」
「あ・・・・・・・」
「そういう意味では、俺の文を持った兵が途中で引き返したのは良い判断だとは思う」
武田が鞠にどういう意味を見いだしてるか、悟らせないという意味でも。おそらく光璃もそれを美空に知られたくなくて、夕霧にも鞠の存在を黙っていたのであろう。もう一つの本命である俺のついで・・・・というより偶然連れて来られたように見せるために。
「策はある?」
「一真様の書状を持った早馬が春日山に届いていない以上、鞠さんも一真隊と一緒に前線にいるはずです」
「そして一真隊に一真様が合流出来れば、鞠ちゃんも一真隊も一真様に力を貸してくれるでしょう」
「妾部隊の本領発揮でやがりますな」
「・・・・その後は?」
「その後、ね・・・・」
「美空の説得」
「そこからが肝心でやがりますよ?」
「・・・・そこは美空次第かもな」
「なんだ。肝心の所がそれとは」
「だって、美空だし」
「そういう所が信用できない御仁なのは知っておりますが・・・・」
「やっぱり美空はダメ」
「そう言うな。俺が何とかする」
相手は美空でたぶん護法五神がいるはず。そいつらを使っても説得か、俺自身が神の姿となり双方の戦闘を停止させるか。俺の部隊が介入して武田と長尾を叩くかのどちらかだな。
「・・・・とはいえ、不要な戦を避けられるならそれは重畳。最悪、長尾と戦うにしても、氏真公をこちらに引き込めるだけでも良人殿の策に意味はあろう」
「ま、長尾が殴ってきたんだから、殴り返してもバチは当たらないだぜ」
ふむ。まだ弱いな。鞠と一真隊を仲間に出来ても、美空たちがやられると俺達の本当の目的が果たせなくなる。武田が長尾と戦いたくなくなる、という決定的なのがあればいいのだが。
「後は、一真隊が越後勢の中にちゃんといるかだぜ」
「一真様を取り返すという状況で、一真隊が春日山に残るという選択肢はないでしょうが・・・・」
「一徳斎殿の報告に、越後勢の旗印に関するものはありませんでしたか?中に獅子の旗か、二つ引き両があれば確実なのですが・・・・」
「・・・・・・は?」
「ですから、獅子の旗か・・・・・」
「・・・・いえ、そちらではありません。なぜ足利の二つ引き両が越後勢に・・・・?」
「ちょっと待て。それは、公方様が越後におられるという事か?」
「それもご存じなのでは・・・・?」
「一葉とは越前攻めで一緒に行動していた。そのときからずっと一緒にいたけど・・・・」
一真隊が旗を揚げて行動していたというのは、あまり無いからな。しかも一葉の旗が揚がっていたのは、夜戦と裏口攻めだった。気付けというのは難しいと思うが、俺は知っていると思った。だが、武田の反応から見て知らないという状態かな。
「典厩様!春日山にいたという一真隊の陣ぶれはどのようなものでござったか?」
「公方様の顔は噂にも伝わってこないでやがるからさすがに、ちょっと見ただけじゃ分かんないでやがりますよ・・・・。美空様が奪還した春日山にも、足利の二つ引き両は上がってなかったでやがりましたし」
そのときにはもうすでに回収済みだったからな。ひよところが。
「・・・・まあ、本人も下段の間に詩乃たちと一緒に座ってたけど」
うん?これはもしかして・・・・!
「それは・・・・義輝公は、それを許すような御仁なのか?」
「むしろ本人から下段に座りたいという者だ」
「ということは、ここで川中島で正面から相対すれば、我らは将軍家に弓引くことに・・・・?」
「・・・・一真」
なんか知らんが光璃がムッとしているな。黙っていたからなのか?俺らは気付いていると思っていたが。
「悪いな。俺らは一葉がいるのが当たり前という感じになっていた。それにだ、まさか一真隊に一葉がいるのを知らないなんて思わないしな」
武田勢は何でも知っている諜報部隊もいるから、てっきり知っている事だと思っていた。将軍家と戦うことに対して、春日たちが及び腰になっているな。ここなのかもしれないな。
「このまま越後勢とぶつかると、一葉と戦う羽目になることは間違いない」
「れも義輝公は一真隊の所属なんじゃないのら?織斑一真が一真隊を取り込めば、義輝公も・・・・」
「一葉の性格や立場的に、一真隊ではなく美空の本隊と合流している可能性大だ。俺と同じく戦いが大好きな子だからな」
「旗印に関してはこの後の話になるでしょうが・・・・殊に注意を払うよう、一徳斎殿にもお伝えしておきます」
「・・・・いずれにせよ、戦を止めねばならん理由が出来てしまったようですな。国賊の汚名に加えて征夷大将軍に弓を引いたとあってはそれこそ家祖・新羅三郎義光や御旗、楯無に顔向けが出来ませぬぞ」
「・・・・なら、方針はそれで」
「で、旦那はどうするんだぜ?まさか、一真隊とやらの合流するまで、その九人で突っ込むんだぜ?」
「兵を使う?」
「そうだな。おい兎々」
「嫌なのら!兎々はお屋形様直属の・・・・」
「兎々」
「むぐむぐ・・・・・」
そう言いかけた兎々は、光璃がどこからともなく取り出した桃の欠片で静かになったが。
「うむむ。一門衆も貸せないでやがりますし・・・・他に兄上の言う事を聞いてくれそうな兵でやがりますか・・・・」
「それなのだが・・・・・」
「お姉ちゃん。薫が同行していい?」
「薫が?」
「うん。今回はお姉ちゃんも出るから、逍遙軒衆はお役目がないでしょ?・・・・お願い」
「・・・・・・」
「危ないでやがりますよ?」
「分かっているけど・・・・お兄ちゃんや、詩乃ちゃんたち・・・・それに、武田のみんなのために働きたいの」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「お願い」
「・・・・ダメって言ったら?」
「お・・・・・・」
「・・・・・・お?」
「お姉ちゃんに淹れるお茶、これからずっと山葵入れちゃうんだから!」
「・・・・・・・」
「わ、山葵・・・・」
「あ、姉上・・・・・?」
光璃と薫は黙ったままだったが、こちらの部隊の人間もお忘れなくとでも、言いたいくらいだ。あとは神界にいる夜叉たちとか。で、じっと見つめる光璃の視線を薫もそらさないまま、目力を込め見返している。その視線のやり取りは俺ら以外の者たちは息が詰まるという感じだそうで。そして・・・・。
「・・・・山葵は嫌」
「じゃあ・・・・!」
「一真」
「分かっているし、忘れては困るがこちらには俺直属部隊の人間がいる。そして、こほん。神界よ、我の声を聞いて参上されたし。来い!」
と言って、俺は神界から我の仲間たちを呼んだ。八大夜叉大将と夜叉の一部、阿修羅や鬼子母神、十羅刹女、金剛力士、八部衆、十二神将、二十八部衆、八大竜王。とこれでも一部かのように俺の前に召喚をしたことに対して詩乃達以外の者たちは何が何だか分からず仕舞いだったけど。
「一応自己紹介をしておこう。右から八大夜叉大将と夜叉の一部、阿修羅や鬼子母神、十羅刹女、金剛力士、八部衆、十二神将、二十八部衆、八大竜王だ。皆、神界にいる護法善神のメンツだ。あと光璃の隣には俺から呼んだお前ら武田家の家祖・新羅三郎義光がいるけどな」
「こ、こんなに神仏を見たのは初めてでござる!」
「あと護法五神も俺の仲間だ。あとこの三人も俺直属部隊の仲間だ」
「隊長は我々がお守りしますので、といってもこの中で一番強いのは隊長ですが」
「ということで、護法善神の者共よ。いつでも戦えるように待機せよ!」
言った直後に消えた神々たち。それに俺を守るより、他の者を守れっていうんだ。
「一真様は綾那たちが守るですよ!ねっ、歌夜~!」
「はい。お二人の安全はお任せ下さい。といっても一真様自身が最強の座におりますので、薫様とその衆をお守り致します」
「・・・・任せる」
「なら、逍遙軒衆は兄上と行動でやがりますな」
「良人殿。この際ですので、一真隊と良人殿の直属部隊の詳細をお教え願えぬか?義輝公といい氏真公といい、良人殿の隊は不明な点が多すぎる」
「まあ俺の直属部隊については、まだ教えられないが、部隊名は黒鮫隊だ。一真隊が太陽なら黒鮫隊が月とでも言おうか。で、一真隊の詳細については。一真隊は元々墨俣城を設営するための工作部隊から始まってから、織田家の鉄砲運用試験部隊としての扱いとなった」
「なんでいきなり鉄砲隊になるんだぜ?」
「さっきも言ったが、俺に部隊である黒鮫隊に関連している。俺は剣も得意だが銃、ここでは鉄砲というがそれが得意だからだ」
そして俺はホルスターからハンドガンを抜いた。これが俺の鉄砲だとね。この時代から見れば凄い軽量化した小型だと見るかもな。エーリカが久遠を手伝うようになってからだったし。気付いたら鉄砲が多くなっていたからな。
「一真隊の現在の兵は三百ほど。将軍近衛の足利衆や姫路の鉄砲部隊、その他武将の引き連れた衆の混成部隊と言った様相を呈していますが、出自もあってかなり特殊な集団です。特殊なのは黒鮫隊ですけど」
「そうだな。黒鮫隊は同じく三百だが、鉄砲の種類が豊富だし。俺らの技術を使っている。この前祝言のときに沙紀が纏っていた全身装甲のあれとかな」
「混成部隊なんか別段、珍しくもないのら」
「鉄砲隊って、そんなに鉄砲が多いんだぜ?それと黒鮫隊が持っている鉄砲の種類が豊富というのもだぜ?」
「何十丁ほどあるのですか・・・・?」
「そうですね。一真隊のは二百丁ほどで、黒鮫隊は『三百から六百だな』だそうです」
「なんれすとー!?」
「試験部隊の本隊に加え、姫路衆や、紀伊国の鉄砲傭兵なども加えておりますし、鬼との戦いを含む多くの実戦経験を積んでいます。練度も並みの鉄砲足軽より上ですが、黒鮫隊は何十倍も上です」
「他の将は?」
「一葉様、鞠ちゃんの他は、将軍家に仕える細川家の細川与一郎殿がおられるくらいで、そこまで特筆すべき家柄の者はおりません」
変わった経歴の持ち主は多いが、家柄で言えば、そんなもんだろ。というより一葉と鞠の家柄が最高ランクなんだから。
「強いて言えば、将のほとんどが一真様の妾ですが。黒鮫隊も半分ほどが側室の方と聞いております。そちらにいらっしゃる桜花さんたちみたいに」
「そこが一番おかしいんだぜ」
「ちょっと、こなちゃん・・・・!」
「その上、頭は御免状を許され、城落としの名人か・・・・。確かに異能集団を自称するのも無理もない」
「鉄砲二百が味方になるのはでかいでやがりますね」
「薫。必ず一真隊を取り込んで」
「了解だよ、お姉ちゃん♪」
「一真も・・・・。それと黒鮫隊の者も」
『お任せを。我々は隊長の命で動きます』
「任せておけ。ただし、黒鮫隊はあくまで対人戦ではない部隊だ。そこだけは分かってくれ。俺達の本来の使命はドウターを倒すこと。俺達以外の戦力では倒せない化け物だ」
これでなんとかなったか。まあ黒鮫隊の実力はまだ未知数だけど。光璃たちの説得は終わったから、あとは美空だな。どうしようか、護法五神に頼むか。実力行使だな。
「・・・・・・」
詩乃たちと僅かに顔を見合わせた俺や桜花たちをちらりと横目に見て、光璃はすっと背を伸ばす。
「国人衆を招集。一万五千を目処に」
「御意。皆、既に動いておりますれば、急ぎ必要数を絞り込みましょう」
「・・・・戦うのかい?」
「大方針は、一真の策でいい・・・・でも、それが当たるかは分からない」
「そうだな」
俺らの案に油断をして反撃喰らう可能性も零ではないからな。美空や一葉がそんなことをするなんて、考えたくもないが。するだろうな。何度も戦場で相対している光璃や武田家の者たちからすれば、当然の考えだ。
「こちらも荷駄を整えますが、七割は後々の輸送になるかと」
「構わない」
「寄子たちはどこに集めるんだぜ?」
「一端、若神子城近辺に集合させたあとれ、部隊を再編戦するのがらとーなのら!」
若神子城・・・・甲斐源氏の祖にあたる新羅三郎義光によって築かれたという伝承がある城。
「妥当だな。いかに景虎が神速に用兵を用いようとも、飯山から八千の兵に川を遡らせるには、それなりの時間がかかるだろう」
「やはり兵は八千なんだな」
「美空はそれ以上の兵は用いない」
「それで一万五千か・・・・」
美空の用兵からの算定なんだろうけど・・・・ギリギリ倍に足りない数というのはどうなのだろうな。
「この日数で集められる数の上限なのでは?」
「ううん。お姉ちゃんは、一万五千の戦力を二倍にも三倍にも出来るから・・・・これで十分なんだよ」
「それはどういう・・・・?」
雫たちの問いに薫は小さく首を振るだけだった。まあ俺だったら夜叉を大量に集めるか、だけど量より質と考えているからな。おそらく光璃のお家流に秘密があるのかな。
「こちらの移動の時間も考えれば、兵を集められるのは残り四日が限度だろう」
「それで良い・・・・」
そう呟いた光璃に、武田衆が姿勢を改める。
「御旗、楯無も照覧あれ・・・・四日後、出陣する」
「「「はっ!」」」
光璃が口にした絶対不変の一言に、武田の猛将たちの力強い答えが響き渡った。そして軍議は終了し、俺らの部屋に戻ってきたところで、桜花たちの待機任務を解いて船に戻らせたと同時に黒鮫隊に四日後に出陣する事も伝えた。
「とりあえず、何とかなりましたね」
「そういう意味では、一葉と鞠が残ってもらって正解だった気がする」
一時はどうなるかと思ったが、一真隊の情報が少なくてよかった。越後での働きは目立たないような任務ばかりだったし。
「元々越後で対武田用に準備していた策でしたが、ここで役に立って良かったです」
そうだな。あのときは武田への嫌がらせ目的の策だったし。
「ふにゅ~・・・・」
ほっと胸をなで下ろしていると、聞こえてきたのは、ため息とは言わない変な声。
「どうした?綾那」
「越後勢と一真隊の話は出たですけど、松平衆の話がいっこも出なかったです。殿さんたちは元気なんです?」
「殿の事だから息災でいらっしゃるとは思うけど」
「葵様は越後の内乱にも不干渉を貫いていらっしゃいましたから。今回もその可能性が高いでしょうね」
「そうだね。駿河攻めはともかく、武田攻めは葵のやりたい事ではないからな」
鬼退治後の事を考えている葵だからな。でも三河の隣国である駿河なら力を貸してくれると思うし。鬼退治の仲間を作るのはいいが、美空と光璃の私怨に力を貸すとは思えない。
「まあその辺りは、一真隊に合流すれば分かる事だろうし。そこから情報集めればいいことだ」
「はい。旗印の情報はこれからでしょうから、三つ葉葵についても気を付けていただくよう、心さんに伝えておきましょう」
「むぅぅ・・・・。お元気ならいいですけどー」
「我らは、明日からは逍遙軒衆の編成の手伝いに入りましょう。一真様も黒鮫隊と出陣の準備をお願いします」
「うむ。明日から黒鮫隊の方で色々と準備する。無論監視も忘れてはいない。あとは四天王との交流だよな?」
「はい。この戦は武田の皆さんと初めての大戦ですから。他の部隊との将と話して、各隊の癖などを」
「了解した」
こちらも準備を忘れてはいないし、あとは交流すればいいとのこと。一応俺の機体も整備させたあとに試運転にでも行きますか。あとはISと最近使っていないドライバーとメモリに関してだけど。
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