戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~
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二十一章
祝言後×今川の事
「・・・・不思議でいやがりますか?」
俺の様子に気付いたのか、夕霧がそんな声をかけてくれた。もう護法五神も神界に戻っている。
「まあな。さっきまで敵呼ばわりされていたんだから。それに詩乃たちが部屋に入ってきたとき、皆の顔は不審や不満が見れた。夕霧もだいぶ困惑しているところを見たが」
「・・・・見抜かれてやがりましたか。さすがに、一真兄上が鬼退治に出られた後に祝言の話を聞かされやがれば・・・・妹としては心の準備が。それに先ほどの無礼は代表をして言いやがります。申し訳ない事をしやがりました。そして蘇らせてくれて礼を言いやがります」
やはりか。あと死者蘇生させたのは、俺の気分の問題だからな。
「夕霧が困るのは当然の事だ。まあこんなにあっけなく終わるは不思議なもんだ」
しかも夕霧が俺の事を兄上と呼ぶくらいだから、もう心の中で整理でもついたのかな。まあ先程のことはもう過ぎたことだし。許している。
「その答えは言葉にある」
「言葉?」
「未来の良人様も聞いたろう。御旗、楯無も御照覧あれと」
杯を交わしたあれか。その一言で場の空気は変わったな。あと夕霧が帰ったときも、楯無に挨拶すると言っていた。
「楯無とは・・・・?」
「楯無は無論人ではない。御旗も楯無も、家祖・新羅三郎義光より受け継がれる武田家伝来の武具。御旗、楯無に対して誓約した事は、例え何人もであろうとも覆す事は叶わぬ」
「その御旗と楯無が、武田家の奉るものか」
「そうなんだぜ。お屋形様が御旗、楯無に誓いを立てた以上、武田の武士として出来るのは、お屋形様が誓約を貫けるように全力を尽くすだけなんだぜ」
だからなのか、今まで不満そうだった武田の将たちも、その誓いの言葉を聞いて光璃の決意を分かってくれたことか。というか新羅三郎義光なら俺の隣にいる。
「もしかして新羅三郎義光とはこいつのことか?」
と俺は隣にいるであろう者に指を差した。すると光璃でさえ驚きの顔をしている。
「な、なぜそちらにいらっしゃる?」
「こいつも俺の友だ。霊界あるいは神界から呼んだ」
「まあ驚きはたくさんありますが、一真様も武田家の一員となった以上、全力を尽くして頂きますよ」
「ホントならそうしたいが、俺はあくまでどこにも属していない。俺は本来人間の世界に介入してはいけない法則なのだから。どこに属しているというのであれば、俺は武田家でも織田家でもない。俺が乗ってきた船が俺の場所だ」
と言ってもあまり理解はしていなかったが、いずれ分かること。それに兎々は納得していないけど、光璃が何かを上げたら大人しくなった。それは桃だった。それを与えると大人しくなるようだった。
「して、お屋形様。先ほどの下山からの鬼の報告であるが・・・・」
「薫から聞いた。苦労」
「左様か。しばらくは周囲の警戒も厳に行ないまする」
「任せる」
「あ、そうだ。ついでにさっきの話の続きをしようか」
「そうであったな。それもせねばなるまい」
「話?」
「鬼退治の時に、春日たちとお兄ちゃんで少ししてたの。どうして甲斐に鬼が出るようになったのかとか、駿府の事とか」
「良人様は駿府の状況を気にしておりましたな。織田の同盟に、足利、近江の浅井と三河の松平、大和の松永がいるのは調べが付いておりますが・・・・三河の頼みか?」
「いえ、我々の頼みではありません。隣国ですから、気になる相手である事は否定しませんが・・・・」
「そういえば、お兄ちゃんのお連れには三河の人が多いよね。お二人ですか?」
「・・・・三人」
「三人?ですが、竹中殿と、播州の小寺殿のお二人は三河の出では・・・・」
「・・・・降りてきて」
そう呟いて天井を見上げる光璃だった。ついでに俺が落ちてくるときには避難しておけと言っておいたんだった。今は元のとこにいる。まあ最初から気付いていると思っていたし、俺が気配を消す結界さえ張らなければバレているだろ。
「・・・・小波。いいから、降りてこい」
「草っ!?」
「お屋形様、気付いてたのかよだぜっ!?」
「なんと・・・・草の侵入を許すとは・・・・」
「侵入ではなく、入れてもらっただけだ」
「・・・・一真の仲間だから、いい。名前は・・・・?」
「・・・・・・」
その問いに、小波は俺を見る。そういえば俺達が紹介することが多かったが、名前を聞かされることはなかったな。
「許可する。名を挙げよ」
「はっ。服部半蔵正成。通称小波と申します」
「ああ・・・・。だから、五人目は遅れて来やがるですか」
「まあな。内緒にするつもりではなかったが、何が起こるかは分からんかったからな」
「まあ、仕方がないでやがる。お互い様でやがりますよ」
「なあ・・・・あんたもこっちの四人みたいに、旦那の未来の嫁なんだぜ?」
「え・・・・・っ」
「ちょっと、こなちゃん。失礼でしょ」
「でもちょっと気になるんだぜ。武士も軍師もお構いなしなら・・・・」
「はいそこまで。俺は無節操ではない」
「・・・・・・・」
発言していいのか、とちらりと視線を投げてくる顔も先ほどより顔を赤くしていた。俺は軽く頷いておく。
「わ・・・・。わわ・・・・私も、一真様の愛妾ですっ!」
「おおー!小波、良く言ったのです!」
「小波、ようやく言えたのね・・・・良かった」
「小波もそうだし、ここにいない者もいるが大切な者たちだ」
「ご主人様・・・・・!」
「れも、これで五人・・・・」
「これでも、越後に半分以上残してやがりますからな」
「・・・・・・・」
「美濃や京を合わせれば、もっといる」
「・・・・・・・」
「なんとまぁ・・・・幕府のお墨付きとはいえ、お屋形様、本当に一真様と祝言上げて良かったので?」
「・・・・いい」
頷いた光璃は少し微笑んでいたけど、訂正がいるな。
「一つ訂正を入れておく。俺の愛妾はその通りだが、正室は一人だけだが、側室は愛妾の倍だ。百人近くはいるぞ」
と言ったら何だから驚いてたけどまあいいか。
「・・・・でもお兄ちゃん。だったらなんでそんなに駿河を気にするの?武田としては、感心をもってもらえるのは嬉しいけど・・・・」
「実はな・・・・織田の同盟には今川も加わっている」
「なんれすとーっ!?」
「それは・・・・越後みたいに、後から加わったって事かだぜ?」
「いんや、初めからな。・・・・正確に言えば、加わっているのは駿河そのものではなく、今川氏真一人なのだが」
「氏真殿が・・・・?」
「どういうことだぜ?今川って、義元公が死んだあと、氏真が継いで、そこからおかしくなったんじゃねーのかだぜ?」
「違います。氏真公が継いだのは間違いはございませんが・・・・その後の顛末があるのです」
「顛末?」
「田楽狭間の件があった後は確かに駿府は氏真公が継いだ。・・・・ただ、その後で駿府屋形で叛乱が起こった。氏真公は駿府屋形から脱出した」
「そのような事が・・・・」
「で、色々あって、今は一真隊の一員となり、俺の恋人の一人だ」
「また恋人なのら!?」
「まあな。そうツッコまれると予想はしていたが、その通りだ」
「お兄ちゃん、たくさん恋人がいるんだね・・・・」
「ちょっと待つのら!駿府のお屋形の氏真がいないなら、今の駿府はられが支配しているのら?」
「・・・・・・」
なるほどな。四天王や夕霧は知らされていなかったわけか。でも光璃は知っている。
「それも知っておるのですかな?良人様」
「知っているが、その前に一つ聞きたい。光璃はこの件を知っているんだよな?」
「知ってる」
「知ってるでやがりますか、姉上」
「・・・・けど、今までは言うべき時じゃなかった」
「それって・・・・まさか・・・・」
「・・・・言っていいの?」
武田家の妹二人も、四天王も、それが誰なのかは何となく感じ取っているのだろう。普通なら知りたくとも肯定したくはないものだ。
「・・・・今が知る時」
まあいつまでも黙っているわけにはいかないか。俺は光璃が頷いたのは確かめてから・・・・静かにその名を口にした。
「・・・・駿府屋形は今、武田信虎が支配している」
「「「なんですって!?」」」
「・・・・説明して」
「田楽狭間が起きたあと、氏真・・・・通称は鞠という。今川を継いだ鞠は駿河を治めきれなかった。理由は色々とあるが」
「要は無能だったんだ『パシィィィィィイン!』いったーーーー!」
「こなちゃんの代わりですが、申し訳ないです」
「で、続き言うけど。鞠は頭もよくて、心根もすごくいい子だ。ただし若すぎたというのもあるし、光璃や俺みたいに、忠実な部下があまりいなかった。で、その隙を突いて、客人として身を寄せていた信虎が勢力を伸ばして、最後に駿河を乗っ取った。という訳」
「なんつー母でいやがりますか・・・・!軒を貸してくれた母屋をかすめ取るなんてサイテーでやがります!」
「お母さん、そんな人じゃなかったのに・・・・・」
「・・・・それで?」
「鞠は忠臣に守られて駿府屋形から脱出。その後に俺と出会い、それからは一真隊の一員として、俺の背中を預けている存在だ。まあ護衛みたいなもんだ」
「護衛なのに、越後からは連れてこなかったんだぜ?」
「・・・・状況が分からず仕舞いだったし。鞠の正体がバレたら駿府を攻める口実になるやもしれんからな。俺たちは鞠に駿河を取り返す約束で鞠に仲間になってもらったというわけだ。・・・・駿河を武田領にするわけにはいかないからな」
「・・・・なかなか考えていやがりますね。夕霧が席を外してた間に、そんな話をしてやがったですか」
「すまないとは思っているが。鞠を守るためには、必要なことだ」
「・・・・・・・・」
そう言っていた俺達を、光璃は黙って見つめる。
「・・・・連れてきてほしかった」
「悪い」
「・・・・(フルフルッ)仕方ない。駿府屋形の異変は、三つ者たちから報告を受けていた。だけど、家中を動揺させる訳にはいかなかった」
三つ者・・・・武田家の隠密集団のこと。情報収集に長けていた。
やはりか。まあ今も信虎派がいるか分からない状況だ。それに反信虎派の勢いや、駿河を攻める意見をより強硬する可能性もある。
「氏真のその後も同じ」
「・・・・やはり、知っていたか」
「鞠ちゃんが動いていたのは、三河から美濃、京。そこから越後までぐるりと回って、ちょうど武田を包囲する流れでしたからね」
「武田包囲網というわけでは、ないのですよね?」
「鞠にそういう領土的な野心はない。ただ、奪われた自分の国を取り戻すだけだ。皆が笑って過ごせる国にしたいとな。凄く良い子だから、武田の諸君にもきっと仲良くなれると思う」
「だから一真と一緒に氏真を腹中において、駿府奪還を名目に攻めるつもりだった・・・・」
「・・・・駿河はいらんのか?」
「・・・・義元公には恩がある」
「それに、身内の恥でやがりますからな。この件で駿河まで手に入れやがったら、それこそ家祖・新羅三郎義光に顔向け出来ないでやがります」
「なるほどな・・・・」
まあここにいるけどね、その人物は。ホントは源義光というそうだが。まあ家中の動揺を避けるために必要最低限の情報のみ開示して、俺を手に入れた。手に入れた時点でおかしいがいいか。そこまではよかったが、いくら俺が神でも人の真意までは見抜けられないし、安全策として距離を取ったことで光璃のもくろみは失敗に終わった。夕霧に真意を伝えておけばよかったものを。
「それでお屋形様。こうして良人殿を手に入れた後、拙らの方針はどのように?」
「同じ。今川と同盟を組み、駿府を攻める」
「鞠の駿河攻めに協力するということか?」
「・・・・海は欲しい。けど、今川から駿河は取れない」
「戦でやがりますね!腕がなりやがります!」
「うーっし!赤備えの出番だぜ!」
「ちょっと待て!鞠はどうする?」
「呼べない?」
「呼べるけど・・・・」
さすがに今から来いなんていうのはな。
「一真様を手に入れたやり方がやり方ですから。いくら一真様からの要請でも、あの美空様が、素直に動いてくださるかどうか・・・・。それに甲斐を滅ぼす要因にもなりましたしね」
「武田家との新たな恋人によって、ヤキモチを妬く可能性もありますしね」
ありえるな。ここまで速攻での祝言なんて予想外だし。
「一葉様たちは大丈夫です?」
「ええまぁ。いつもの事ですから・・・・」
「慣れてらっしゃいますねぇ・・・・」
「むしろ公方様は、良い仕事をしたとお喜びになるでしょう。ですが・・・・」
「だなぁ・・・・」
「・・・・気分屋」
「美空?否定はしないな」
「・・・・やっぱり信用できない。それと甲斐を滅ぼす要因となった書状って何?」
「ああ。姉上が美空様に渡した書状でやがりますよ。で、それを読んだ一真兄上が飛び出そうとしたと聞いてやがります。それが甲斐を滅ぼしに行く寸前だったと」
そういえばそんな事もあったな。まあ俺はもう気にしてないけど。
「とりあえず美空に使者を出してくれるかな?」
「・・・・仕方がない」
小波のお家流じゃ範囲外だし、トレミーの小型船も使えるが今はそのときではない。それにどっちも俺の恋人だけど、武田と長尾の間で何が地雷なのかまでは知らんし。俺が動いたらアカンと思う。とりあえずは武田と長尾とのやり取りで何とかしてもらおうか。しかし美空と光璃の間で何があったのやら。
「そうだ。駿河を攻めるなら、越後に残してきた一真隊も呼びたい・・・・」
「良人殿の奥方衆か」
「奥方衆じゃないよ。仲間で恋人さ。それに奥方衆なら俺直属の部隊の方だ。それに鬼と戦うのなら連れてきた方がいいと思うが。戦闘経験多いから」
「それはいた方がいいかもだぜ。旦那も普通ではない力を持っているしなぁ」
「普通ではなくて、もはや人間じゃないよ、俺は神仏の類だ。それに金ヶ崎の退き口のときは俺直属の部隊が活躍したんだから」
俺直属の部隊と言って、詩乃達以外は皆頭に?だったが、いずれ分かることだ。
「一真隊は総勢300人くらい。俺にとっては大切な仲間だが、今はまだ早いか」
「・・・・(コクッ)まだ」
「うむ。お屋形様の目と誓いを信じぬわけではないが、我々もまだ良人殿の為人はよく知らぬのが本音だ。頼りにしたい想いはあるが、さすがにほんの十いくつかの手勢で城を落とした軍師と将に組まれて、その申し出を受けるのはな・・・・いささか勇気がいる」
「まあ、そうだな」
というか数名で落としたんだけどな、城を。そんな物騒極まりない一団に手勢を与えたら、俺だったら同じことを言うだろうな。あと黒鮫隊は上にいるし。
「・・・・ごめん」
「別に構わん。光璃の考えている事は分かっているつもりだ。あまり気にすんな」
「・・・・ありがとう」
「まあ俺も戦闘から料理に、なんでもお任せあれだからな。それに俺は空に行くときがある」
「今回の鬼退治でも十分な腕を持つことは既に見ておる。拙らが苦戦した鬼の強化体を難なく倒したと聞いている。ところで空とは?」
「鬼との戦い方も色々ご存じなのでしょう?」
「まあな。尾張や美濃にいたときは、三人で数十匹とか退治してたしな。あと空と言うのはいずれ分かる事だ。詩乃は知っているけど」
「三人で・・・・!?やっぱり何か凄いお家流でも隠してるんだぜ・・・・!」
「ないない。お家流は一切持っていない。持ってるのは剣と銃だ」
お家流じゃなくて神の力というのが正しい。あとは銃な。銃とはと聞いてきたので見せた。鉄砲だとな。
「お兄ちゃん。今日戦ってたときも強かったよね?」
俺はまあなと言っておいた。数分で10匹は倒してたし。
「では、その辺りを頼みやがるですよ。そのうち、甲斐の事も案内してやがりましょう!」
「そうだね。お兄ちゃんにも甲斐の事、もっと知ってほしいし」
「まあそうだな。俺も他の皆の事も知りたいし。よろしくな」
意気投合が鬼と言うのは少々寂しいが、きっかけがあればちゃんと話し合えると思うし。何かあれば黒鮫隊が動くだろうし。何とか久遠や美空たちとも仲良くなってほしいんだが、今は無理そうだな。
「・・・・・・・?」
「なんでもない。これからもよろしくな、光璃」
「・・・・・(コクッ)」
今の光璃たちは敵ではない。時間をかけていけば何とかなるのかもな。そのあと俺は一度船に戻ると言ってから空に上がった。翼を出してから。そして他の神話である女神たちの怒りを鎮めたあとに船に戻った。
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