戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~
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二十一章
躑躅ヶ崎館×綾那の蜻蛉切り
「着きやがりましたー!」
辿り着いたのは、巨大な屋敷の門前だった。
「ここが、噂に聞く躑躅ヶ崎館ですか・・・・」
「そうでやがります!我が武田軍団の本拠でやがりますよ!」
「これはまた、エーリカさんの喜びそうな風格のある建物ですね」
「ほわー・・・・大きな御殿ですねぇ。もしかしたら二条館より大きいかも」
「でもこんな大きな館、敵に囲まれたら防げないです」
「そうね。壁も低いし、防衛には向かないわね。私なら壁をもっと高くして・・・・」
「壁は高すぎてもダメなのです。それより、もうちょっと矢狭間を増やして横矢を掛けられるように・・・・・」
そういうことか。三河の二人にとっては城は防御施設だったな。まあ俺の拠点にある豪邸より小さいけどな。それに拠点の家は強力な結界が張ってある人間界のとこと次元の狭間にある家だ。話がずれたが詩乃や雫と感想が違うな、いつもはそう見えない歌夜もやはり三河衆なんだなと思ってしまう。ちなみにトレミーは再び自動運転にしてからステルスモードにしている。俺達の真上にいると。
「それで良いのだ。人は石垣、人は城。躑躅ヶ崎館を敵が包囲するという事は、すでに勝敗は決しているという事だからな。典厩様、お帰りなさいまし」
「おお美濃ー!ただいま帰りやがりましたよ!出迎え苦労!」
「無事のご帰還何よりでございます。そしてお客人。甲斐へようこそ」
そう言って俺達を迎えてくれたのは、いかにも武人という感じの女の子だった。
「拙は武田家にて侍大将を務める、馬場美濃守信房。通称は春日と申す」
「(美濃守?官職なのか?)」
美濃は今現在織田の支配下だけど、どうなんだろうな。
「(それはないでしょう。外つ国での官職の多くは自称。あまり意識されなくても大丈夫です)」
「左様。所詮自称だ。だがまぁ・・・・官職などは自称で充分である」
何だか古風な言い回しをする、春日と名乗る少女。馬場信房は確か武田四天王の一人だったな。雰囲気だけは大人な感じだが、歳は俺より下と見える。まあ実年齢は何千何億だと思うし数えた事ないからな。なので年齢は23歳としているけど年齢不詳ともいえる。
「そちらは・・・・・」
おっと名乗っていなかったな。こちらも名乗らないと思ったら・・・・。
「織斑一真殿に・・・・今孔明の竹中半兵衛殿、播州の知者、小寺官兵衛殿・・・・三河の本多平八郎殿と、榊原小平太殿にあらせられるな?」
「にゃっ!?まだ綾那、名乗っていないですよ!?」
「夕霧。どういうことだ。早馬でも出したか?」
「出してないでやがりますよ。それと美濃。一真様には様付を。こちらのお方は阿弥陀如来の化身ではなく本物の神様でやがりますぞ」
「ではどうして・・・・・」
「この武田に知らぬ事などありはしませぬ。ましてや、こちらからお招きしたお客人の事であればなおさら。それと織斑様が本物の神というのは本当ですか?典厩様」
これも武田の情報網という奴か。まあこちらにも隠し球はいくらでも持っているが、一つは俺のことだ。何やらひそひそ話で春日と夕霧が話していた。どうやらそこだけは情報と違うらしい。そりゃそうだ。周りは化身とかだけど本物の神様であるし。
「なるほど。つまり織斑様は拙たちを創った神様と言った感じでござるか。あと典厩様。お屋形様が主殿でお待ちでござる。お客人は拙に任せ、まずはお屋形様と楯無にご報告を」
楯無・・・・源義光より伝わる源氏八領の一つ。甲斐武田家の至宝。新羅三郎義光と、それに連なる源氏の思念が籠められている。
「うむ!では美濃に任せるでやがりますよ!では一真様、あとは美濃に聞きやがれです!」
「ああ。ここまでありがとうな。いってらっしゃい」
「行ってくるでやがるー!」
さてと。まあこの春日というのは大丈夫であろう。
「さてさてお客人。まずは越後から遠路はるばるよう来られたな」
「まあな。ホントに大変な道乗りではあった」
馬に揺られて十日間くらい。川中島からは道も楽にはなったけど、大変な旅ではあった。
「出来れば部屋で休ませてほしい。俺はともかく、連れ合いが疲労しているから、ゆっくり休ませてほしい」
「うむ。己が妾に対する細やかな気遣い、さすが天下御免の者であるな」
「・・・・それだけしか伝わっていないのかー」
「その事ばかりではないがな。墨俣の一夜城、多くの城攻めの手際、織田足利の同盟のこと、鬼どものこと、金ヶ崎の退き口・・・・そして。・・・・ザビエル某のこと」
「なん・・・・だと?」
「我々の事だけならまだしも、武田の情報網とは、そこまで・・・・?」
「この日の本の事であれば、武田の知らぬ事ではない。と言いたいところだが、一つだけ知らぬ事がある。織斑様の正体と部隊についてだが」
春日は自信たっぷりと言う様子であったが、やはり知らない事もあるようだな。黒鮫隊について。自分の属する武田を誇る気持ちが伝わるが、やはり俺と黒鮫隊に真上にいる船については知らない様子だった。そりゃそうだろうよ、トレミーはステルスモードになっているし、間者に見られたらその記憶を消去するから。
「だとしたら、それは・・・・」
「・・・だが、今はひとまずゆっくり休まれよ。既に部屋も用意させておる」
「気遣い感謝する。俺達はそのお屋形様に挨拶しなくてもいいのか?」
「今は典厩様と面会なさっておる。お屋形様は織斑様の事と部隊について以外は全てご存じゆえ、夜までゆるりとされよ」
「夜にはお会いになる、という事ですか?」
「そう思っておいてもらって構わん。・・・・少々立て込んでおってな」
「俺達は疲れているから、それについては助かる」
まあ今は考えても仕方がない。身体を休むのは最優先だ。詩乃たちも疲れているし、何かあったとしてもトレミーからの報告を待つしかない。鬼が出たとかね。
「そう言ってもらえるならかたじけない。では、部屋をご案内いたそう。ついて参れ」
館の中に入ったあとに部屋に通された俺達。
「・・・・では、ごゆるりと」
そう言って春日が部屋を去ってしまえば、残されたのは俺達のみ。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
しばらく黙っていたけど、辺りから物音一つ聞こえない。警戒はされているけど、今すぐにどうこうというわけではなさそうだ。とりあえず防音結界だけ張っておこう。
「とりあえずは一息つけそうだな」
何も進展はしないが、床に腰を下ろせば問題はなさそうな感じだし。
「そうですね・・・・」
「ここで一緒に寝起きすることになるのでしょうか」
「たぶんな」
まあ愛妾といっても妻だからなのか全員連れてきたのだからそうなるよな。
「少々恐いですね」
「まあな。一応今してる会話は外には漏れてないから大丈夫だろう。それに一つに集めて見張るという事はまとめて処分しやすいという事か」
「はい。その通りですが、一真様の結界のおかげなのでしょうか」
「まあ、外の警戒はした方がいいかもしれませんね」
「むふー、大丈夫なのです!そんな事される前に、綾那が武田の人達全員、殺ってやるですから!」
「得物もないのに、ですか?」
「蜻蛉切り、ちゃんと持ってるですよ?」
「え?でも・・・・」
「得物は取り上げられたが、幸い俺のは取り上げられていない。それに皆の武器は夕霧が持って行っただろうに」
一度だけ俺のホルスターにある銃に触れようとしたけど弾かれたし、一度剣を出して渡しても俺の手に戻ってくる。それに空間にしまっているからいつでも取り出せるし。
「一真様のは特殊でも、歌夜さんの槍とまとめて運ばれたのだと思いましたが・・・・・」
あのバカデカい槍をしまえるスペースは空間しかないはずなのだが。
「私の槍はそうですが・・・・綾那の蜻蛉切りは、一真様みたいに特殊ですから」
「特殊とはどういう?」
「ええとー、確かこの辺に・・・・」
何やらブツブツと呟きながら、綾那は懐に手を突っ込むと・・・・。
「じゃーんです!」
そんな効果音と共に懐から出した手には、綾那の得物である蜻蛉切りの姿があった。
「マジ?」
「ど、どこをどうすれば・・・・」
「綾那の蜻蛉切りは、名工・藤原正真さんが作った、便利な名槍なのですよ!」
藤原正真・・・・三河文殊派に属する刀工。蜻蛉切りの他に、酒井忠次の槍・猪切なんてのを作っている。お茶目な人。
「便利、ねぇ」
何その四次元ポケット的なのは。俺の剣も空間にしまっているから摩訶不思議に思われるが、綾那のも似たようなもんかな。
「ええと、まずは収納機能です!こうやって・・・・。こう!」
なんか収納というか消えたというのが正解なのかな?
「無くなりました!これはもはや妖術としか!」
ああなるほど。この時代ではそう言う表現なのか。
「ぶー。妖術だなんて失礼なのです・・・・。おにぎりだって出てくるですのに・・・・」
もはや手品以上だと俺は思うが、手の上からほかほかのおにぎりが出てきた。
「今どこから出したんだ?」
「中に大容量のの収納があるのですよ!」
「どこにあるんだ?」
もはや四次元ポケットしかいえないな。俺の空間も似たようなもんだけど、保存用とか武器とかしまうとことか。
「あとは、のどが乾いたら水筒も出てくるです」
「水筒、ね」
たぶん春日山を登っているときに使ったのだろうな。あとは手の届かない所の枝を切ったり、遠くの敵も叩けるそうだ。もうそれ槍じゃなくて高枝切りハサミだろう。
「まあ、使い方を間違えればハズレが出てくるですけど・・・・」
い、いらねえ。ハズレがあるなんてそんな機能は。いらないところにこだわってどうすんねん。
「とにかく綾那の蜻蛉切りにお任せですよ!」
「まあこちらも武器はあるからな。綾那だけではなく俺も頼ってほしいところだ。こちらにも綾那に似たような感じで俺の剣は出てくるからな。ハズレなしで」
と俺は空間から刀を取り出したけどね。すぐにしまってからハンドガンも取り出した。一応チェックしてからホルスターにしまったけど、綾那のその槍で消えたりできるのであれば大道芸で使えたんじゃねえのかな。
「しかし・・・・武田の情報収集力は黒鮫隊と同じぐらいに侮れませんね」
綾那と俺が頼りになることを再確認した俺達は、脱線した話を戻したのは詩乃だった。
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