戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~
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二十一章
越後から甲斐・甲府へ
「連れて行く妾はきまりやがりましたか?」
「ああ。一緒に行くのはこの4名と・・・・あともう一人は遅れてくるかもな」
「・・・・一緒じゃないでやがりますか?」
「今は席を外している。典厩は急ぎであろう?」
「ふむ・・・・まあいいでやがります。それと、夕霧のことは通称の夕霧と呼べば良いでやがります」
「分かった。俺の方も一真でいい。・・・・よろしくな、夕霧」
「よろしくしてやるでやがります!それではさっさと甲斐に行くでやがりますよ!」
そんな夕霧に続いて、上段の間を出ようとしたときであった。
「一真!」
背中から飛んできたのは、そんな声。
「何?」
「その・・・・」
それきり、美空は何も言わない。怒るとか笑うとかそういうのではなかった。
「美空」
「・・・・な、何よ」
「ちょいと甲斐まで行ってくるわ」
「え、あ・・・・いってらっしゃい」
「おう。風邪とかひくなよ」
「あ・・・・あんたこそ、光璃たちに格好悪い所見せるんじゃないわよ!あんたは・・・・私の未来の良人なんだからね!」
「分かってるよ。未来の奥さんに恥がないように行ってくるからな」
「では行くでやがりますよ!」
夕霧の号令の下、俺達は今度こそ上段の間を・・・・越後を後にした。俺達が出たあとに盗聴器を仕込んだ。あと護法五神は俺が甲斐に行っている間は美空の事頼むと言っておいた。
「・・・・ったくもう。何が風邪をひくなよ、よ・・・・かっこつけなんだから」
「今は主様の無事を信じるしかない。・・・・だが、この後の事もある。美空よ。早々に越後の態勢を整え、反撃に移るぞ」
「・・・・当然でしょ!一葉様は各方面との繋ぎ、しっかり頼むわよ」
「ふふん。誰にモノを言うておる」
「いやちょ、お二方。反撃などと物騒な・・・・」
「何を仰っていますの?あそこまでされて黙ってなどという言葉、私の懐紙には記してなどございませんわ!」
「梅ちゃんまでっ!?」
「ならばまずは反抗勢力の平定じゃな。余らも手伝うゆえ、さっさと面倒事は片付けてしまえ。良いな梅!」
「お任せ下さいまし!」
「この屈辱は、十倍・・・・いや、千倍にして返してやるわ。あの足長娘」
「その意気よ。・・・・お互い、さっさと事を片付けて、主様と睦まんといかんしな」
「・・・・ふんっ」
「・・・・どこの誰ですか。三人寄れば文殊の知恵などと仰ったのは・・・・」
「・・・・牡丹は三輪揃っても狂い咲くだけでしたね」
「まったく。それがしは越後に牡丹園を作るつもりはなかったのですが・・・・」
とそのような事を言っていたが、戻ったらお仕置きだな。とりあえず盗聴器は回収済みだし、トレミーも移動を開始している。微速前進だけど。俺達は典厩・・・・夕霧に連れられて、越後を離れて一路、南へ。目指す先は、甲斐の中心地、甲府。ただし、ある程度の街道というより道らしきものはあるが、さすが敵対国に通じる道だけあるのか、ほとんど整備されていなかった。そこを早馬のような勢いの騎馬で迷いなく突っ走るのは、さすが騎馬軍団で鳴らした武田というかなんというか。現代でいうなら整備されていない道をジープで突っ走るもんだな。
「むぅ・・・・。今日こそは負けないのです!」
「昨日は良い所まで行ったのにね・・・・」
「なら、今日こそ勝つですよ!」
一真隊内では・・・・という注釈がつくが・・・・馬術の腕前の上位に位置するだろう三河の二人でも、夕霧には全く追いつく事が出来ずにいる。客人扱いとはいえ実際は捕虜の扱い。でも神様を捕虜するのもどうかと思うが、今の俺は人間だからしょうがないか。武装解除といっても俺のは解除していない。ハンドガンはホルスターに入れてあるし、剣は空間にしまってある。それにホルスターには俺以外の者には触れられないようにしてある。
「はぁ・・・・はぁ・・・・」
さらに言えば、武田軍団には余裕・・・・というか三河でも普通でも、何とかならない子もいるけど。
「大丈夫か?詩乃」
「はい。・・・・正直、あまり大丈夫では」
呟く詩乃の傍らで、雫も馬上で苦しそうにしていた。俺もだけど。騎馬で突っ走るなんてした事はあまりないし。春日山を出てから数日経っている。連日こんな調子での強行軍が続けば、元々体力のない二人には地獄だ。すぐに息が上がってしまう。なので二人には回復する粒子を注いだあとに俺は夕霧の所に向かう。
「おーい、夕霧」
「何でやがりますか」
「今日はあとどのくらい進む予定なんだ?」
「今日は川中島までは着きたいでやがりますから、夕方までは進むでやがりますが・・・・またでやがりますか?」
「まあな。済まない」
「仕方がないでやがりますよ。越後は道が悪いでやがりますからな」
「信濃に入ったら道はいい方?」
「でやがります。川中島を過ぎたら、今よりはだいぶ楽になるでやがりますよ」
「そうか・・・・」
「この先に小さな塚があるはずでやがります。そこで休憩するでやがりますよ」
「助かるよ」
夕霧からそう約束をしてから隊列に戻った俺。まあ俺の馬はゼロだからな。戻る途中で取り出したのはお守り袋。
「(小波、今どこらへん?)」
「(は。ご主人様たちが見える位置におります)」
そう。俺達一行の6人目は、いまだ俺達と合流せずに別行動を取っている。
「(そうか。遅れていたら休憩だから追いつけると思ったが、心配はなさそうだったな)」
「(ありがとうございます。ですが大丈夫です。いつもお側に侍るのが、自分の役目でございますよゆえ)」
「(川中島を過ぎたら行軍速度が上がるそうだから、小波も無理は禁物だぞ)」
今はほとんど山道での移動だから、小波でも追いつけるけど、夕霧の言う事とトレミーからの報告によるとこの先は厳しくなりそうだ。ちなみにトレミーは自動運転から手動運転だそうで、ラッセたちで動かしている。ガンダムの整備やトレミーの整備もやっているとか。いつも待機任務だったから動かすときはラッセたちがやるんだと。そうしないと戦闘のときになったときに腕がなまると言っていたな。
「(承知致しました。お気遣いありがとうございます)」
小波と連絡が終わる頃には、先ほどではないが少しぐったりしている詩乃たちの姿が見える。夕霧のところに行く前に回復の粒子を与えたからだ。
「詩乃。もう少し行ったところにある塚で休憩だとよ」
「それは助かります。まあ先程よりは疲れは抜けましたが」
既に先頭集団は馬足を緩めつつあった。俺達も塚の所で馬から下りてから腰を下ろす。いい運動にはなるけどこういうのはダメだな。やはり俺はバイクの方がいいなと思ったけど。
「さすがに馬での長旅は疲れますね。ですが、一真様のおかげで足がぱんぱんだったところが癒えています」
「二人ともだらしがないのです詩乃も雫も、普段からちゃんと鍛えないとダメなのです」
俺達と同じように座った綾那は自信満々の様子だったけど、綾那の太ももに伸びる手があった。
「そういう綾那も・・・・・」
「ひゃん!何するですかー!」
歌夜が綾那の太ももをちょんと突けば、綾那は小さな身体をふるふると震わせて変な声を上げる。
「私たちも馬はあまり得意じゃないでしょ。もうカチカチになっている」
「そ、そんな事ないですよ!綾那は乗馬だってひゃううう~!」
「あはは。やせ我慢しちゃって」
「だったら歌夜もですっ!えいですっ!」
「ひゃ、ちょっとやめてよー!」
今度は綾那の反撃が始まったな。二人とも元気だけどやはり早馬みたいなのは慣れていないようだ。俺もだけど。という事で翼を展開して綾那と歌夜に回復の粒子をあてた。そしたら落ち着いていたけどまだじゃれあっていた。
「元気ですねぇ・・・・。まあ一真様の回復のおかげでしょ。私たちも回復のおかげで先ほどよりかはマシになりましたけど」
「はい。一真様は大丈夫ですか?」
「俺もあまり大丈夫とは言えないなぁ。馬には慣れているつもりだったけどこういうのはな。それより夕霧から聞いたが、川中島を過ぎると楽になるんだと」
「武田は街道の整備などの内政にも力を入れているという話ですからね」
「越後方面は敵だが、敵対国に至る道だから入念に整備しているということか」
「その通りです。迅速に作戦を展開できるようにするためです。敵に使われる可能性もありますがそれがないという自信もあるのでしょう」
「・・・・最強・武田騎馬軍団か」
騎馬でも徒歩でも街道が整備されていると効率の良い運用ができる。敵に使われるデメリットよりも、そっちを優先するんだろうよ。
「それで過信に至らないのが、最強足る所以かと」
まあ単に戦に強いだけが最強ではないからな。
「元気そうでやがりますな。その翼は?」
「へばっているのはあっちの二人じゃなくてこっちの二人。この翼で太陽光を吸収してからこの二人に回復の粒子を入れた所」
「ふむ。確かに昨日より息は上がっていないでやがりますが、足は張ってやがりますな・・・・。どれ、ちょっと見せるでやがりますよ」
俺は回復のオーラを出すのをやめてから、夕霧はその場にひょいと腰を下ろすと、詩乃の足を無造作に持ち上げる。
「え、あ、その・・・・・ひゃ・・・・・っ」
「あぁ、この辺りが良くないでやがりますな。だったら・・・・っと・・・・」
そんな事をぶつぶつと呟きながら、詩乃の白い足をゆっくりと撫でさすっていく。
「ぁ・・・・・・ん、んぅ・・・・・っ」
「お、良い感じでやがりますかー?なら、もう少し強めがいいでやがりますかね?」
「んっ・・・・。この位が、いい・・・・です・・・・っ」
「ほう。マッサージか。ずいぶんうまいな」
足を揉みほぐしていく夕霧に対して詩乃は気持ち良すぎなのか、エロい声が出ていた。まあしょうがないと思うがな、俺もマッサージされるとそう言う声が出る時がある。
「ん、この辺がいいでやがりますか?いやよいやよと言いながらも、身体は正直でやがりますねぇ」
「別に嫌とは言っていないだろ」
「まあ、こういうのも良いかと思いやがったのですよ」
「そうだな。ついでに雫の方も頼むと助かる」
「か、一真様・・・・・っ!?」
「体調的な意味だ。俺は少し離れているからやってあげてくれ」
少しの間、俺は少し離れたところで通信をしていた。通信機をはめてのテレビ電話だ。通信先は月中基地本部だ。で、深雪の方はどうだ?と聞いたら今は戦闘経験を積ませていると言っていた。優斗が。あとやはり今22歳になったそうだが、それから先からは年齢が停まったそうだと。あとは奏の子なのか炎を使えるし、俺の子でもあるのか武術や魔法とかのそれぞれの術も使えるようなんだと。そして次は雫の声が聞こえたから通信をやめてから戻ってきたけど。
「ひゃああぁん・・・・・っ」
「むぅ・・・・。良い声でやがりますな。そんなに夕霧がいいでやがりますか?」
「んぁ、そ、そういうわけでは・・・・っ」
ふむ。気持ちよさそうだな。それに声は俺とシているときよりも可愛くあげちゃっているな。
「おかえりなさいませ、一真様。それより私もあんな声を出していたのですか・・・・・」
「詩乃の方がすごかった・・・・ですぅ・・・・・っ!」
「なあ、夕霧」
雫の声を聞きながら、俺は夕霧に声をかける。
「なんでやがります?」
「甲斐に行ったらさ。俺はどんな事になるの?」
「んー。姉上のお考えは、愚妹の夕霧には分からん事だらけでやがりますからなー。まぁ多分、そう悪くはならないでやがると思いますよ?」
夕霧の俺達に対する態度は、口調を除けばそれこそ賓客をもてなすみたいに気を配ってくれているから助かる。
「ひぁあ・・・・っ」
マッサージもそうだし、詩乃達の体調を聞けば行軍が遅れるのも気にせず休憩を入れてくれる。愚妹なんてとんでもない、気遣いができるいい子、と俺は思う。
「悪くはならない、か・・・・」
「一真様は捕虜か上洛の前の織田の交渉に使われるとか思ってやがりますが、さすがに本物の神様と知ったらそのような扱いをしたら神罰はこちらが喰らいやがりますよ。それに今の所、武田は危急の用事もありやがりますからなー」
「危急、ね」
なんだろうな。そういう割には旅の行程も焦ってはいない。詩乃をチラリと見ても分からないといった感じだ。
「これ以上は夕霧にも分からんでやがりますよ。・・・・ほら、雫、もう片方の足も出すでやがりますよ」
「あ、あぅぅ・・・・・もうじゅうぶ・・・・ひぁあ・・・・・っ」
「姉上は軍神と言われるほどに深慮遠謀をお持ちの方。少なくとも、いきなり頸を取られるような事はないでやがりますよ」
「そうなったら全力で反抗してやるけど。まあそうならないようには願いたいね」
「姉上でも知らなかった一真様のご正体については、こちらも知らなかった情報でやがります。きっと夕霧たちがあっと驚く事をしやがるに決まってやがります。よ・・・・っと」
「ひぁあああん・・・・っ」
「あっと驚く、ねぇ。それに俺の正体については今の所知っているのは織田家中とその連合軍の者たちと越後の者だけ。それに俺は人前で姿をさらさないからな。知らないはずだよ」
まあ、今は夕霧を信じて甲斐に行くしかないか。
「さぁ。調子はどうでやがりますか?」
「うぅ・・・・。だいぶ楽にはなりましたけど」
「さて。それでは、ぼちぼち出発でやがりますよー!」
そんなこんなで、甲斐への馬の旅は続く。夕霧のマッサージのおかげか二人ともだいぶ楽にはなっていたけど。
「おおお・・・・っ!道がまっすぐですよー!歌夜、競争なのです!競争!」
「ああ、ちょっと待ってよー!」
「ほほぅ!競争なら負けないでやがりますよー!」
「・・・・元気ですね。皆さん」
「まあ俺も加わりたいけど今はやめておこう。詩乃も雫も前よりかは楽になっただろう」
「夕霧さんと道のおかげですね」
夕霧の言ってた通り、川中島を過ぎてからは途端に道が良くなった。特に諏訪を過ぎた辺りからの街道はストレート。詩乃が言っていた軍用道路に力を入れていると言う話だ。あとトレミーからの定期通信によると、ガンダムの整備は毎日しているが、特に変わった様子はない。が、毎日整備しておかないと使うときに使えないからか、イアンやリンダ、ビリーが交代で整備をしているとフェルトが言っていたな。あとグラハムもたまにブレイヴに乗ってはビームの出力調整をしているとか。
「うぅぅ・・・・やっぱり夕霧は凄いのです。まだまだ綾那も特訓が必要なのです!」
「でも、綾那もなかなかやるでやがります。夕霧も久しぶりに本気を出したでやがりますよ」
俺が定期通信を聞いてる間に競争は終わったようだ。まあ俺が乗っているゼロなら負けないだろう。あと詩乃たちの疲労もだいぶ少なくなってきている。トレミーからの情報だとこの先も道はこんなのとか。長旅の後半戦になると休憩の回数は前半戦より減っている。
「一真様。今日はここで一泊だそうです。明日には甲府に着くと」
「了解した」
時計を見てもまだ14時か15時辺りだけど、無理をさせないペース配分も、甲斐への長旅が無事に終わる予兆なのであろう。この道の整備状況や夕霧の様子見では、武田晴信が悪い子には見えないような気がするけど、俺はあの書状を思い出したのか怒りが少しあった。そして次の日になった。ゆっくりしたペースで宿を出てから、しっかり整備された道を通り東へ。
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