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戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~

作者:黒鐡
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十九章 幕間劇
  礼拝

「それでは一真様。補給物資の受け取り、行ってきますね!」

「ああ。秋子によろしく言っといてくれ」

「はい。今の一真隊の生命線ですから、お任せ下さい」

本来の補給物資は黒鮫隊から何だが、食べ物があまりにも現代と違うために、長尾勢に頼んだのだったな。最初は無料お試し期間とか言ったが。あとは美空たちとの繋がりだけど。特に美空は一度連絡が途切れると音信不通になることがあるので、その時は発信器で探すだけだけど。春日山攻めを目前と控えているから、そんなのはしないと思うが。

「それと・・・・一真様」

「そんなに心配するな。一人で戦えるからな」

補給に向かうひよから頼まれていたのは、近くの町の用事だった。

「お願いします。量は多くないですから、馬を使えば大丈夫だと思います」

美空たちに頼むほどではない、細々した物の引き取りだ。食料や火薬とかは秋子達からの調達だが、生活物資の中にはこちらでもないもので、頼みづらいものだ。

「まああまり心配はすんな。それぐらいは出来るのだから」

「急がなくていいですよ。今日中で大丈夫ですから」

「それでは一真様。行って参ります」

「行ってきまーす!」

「二人とも、気を付けてな」

と二人を見送ったあとに、先に頼まれた物からやろうとしていた。ひよは急ぎではないとしても、何があるか分からない事だし。いつ偵察型小型ゼットンが現れるのかも分からない事だ。あとはひよ達が戻ってきた直後に動きがある可能性もある。町の人達には何だかんだで世話になっているから、すっぽかすわけにはいかない。

「馬と銃と剣さえあればいいか」

そう遠くないからな。まあ至近距離からも撃てる鉄砲なんて黒鮫隊ぐらいだし。

「よう、一真じゃないか。どうしたんだ?」

「小夜叉か。桐琴はどうした?一緒ではないのか」

「ああ。母なら昼間から酒を飲んでるよ。あとは森一家の力の温存だとか言ってたけど」

「まあ桐琴らしな。今から町に出かけるんだが」

「一真一人か?護衛は・・・・いらないか」

「まあな。だいたい護衛なんていなくとも、勝てるからな。これで」

と俺は銃があるところにぽんぽんと叩く。まあ、一真隊の頭でもあるが黒鮫隊の長でもあるからな。

「あら、ハニー。小夜叉さんとお出かけですの?」

「なんだ、ちょろぎか」

「・・・・何だとは失礼なちんくしゃですわね」

「ンだと・・・・?」

「何ですの・・・・?」

ったく、こいつらときたら。顔合わせたらこの態度はもう治んねえんじゃねえのか。まあこの二人にとってはそれが挨拶なんだろうけど。

「いや、俺一人で町に出かけるつもりだ。梅は何か用事でもあるのか?」

「そうですの。私は午後の礼拝のに・・・・」

「礼拝・・・?この辺りに礼拝堂なんてあったかな?」

堺や雫のいた播州辺りの大きな街には、礼拝が出来る建物がそれなりにあえうらしいが、この辺りまで天守教が広まっていたっけ。

「まさかまた雫と何かしでかそうとしてるのか?」

「とんでもありませんわ。小谷ではエーリカさんがいらしたから懺悔室も出来ましたけど・・・・私のような新参がでうすの教えを広めようなど、おこがましい」

「まあそうだな」

「それに、仮に私や雫さんで教えを広めるにしても、美空様のお許しは頂けないでしょうし」

「確かにな」

京じゃ寺社の影響が強すぎて布教しにくいなんて話があるらしいし、美空には影響はないだろう、仮にも毘沙門天の加護があるし。

「私も天守を信仰している身ですから、神様の存在はハニーに会うまでは信じていましたけど。本物の仏様を見たのは、ハニーと初めてお会いしたあとの鬼退治でしたから。九頭竜川で美空様が仏様を召喚したときは驚きましたけど」

「・・・・・あいつらか」

「小夜叉。一応あいつらは俺の妹になっているから」

「ハニーは神様の頂点に立つ者でしたわよね。綾那さんは如来様の化身と言っていましたが」

「まあ神仏関連のツテなんていくらでもある。神界にいる神もおれば罪人を裁く神や僕がいる冥界にもいるけど」

美空が護法五神を召喚したときも、多少は驚きもしたらしいと言っていたな。あと、美空が私の妹とか言ってたけどな。

「けど・・・・礼拝なんてどこでやるのさ?」

「ふふっ。気になるのでしたら、一緒にしますか?」

「そうだなぁ・・・・」

まあ、俺がその場でデウスかヤハウェ呼んじゃえばいいんだけど。こういうの興味なさそうだもんな、小夜叉は。

「行きたいのなら行けばいいじゃねえか、一真。一真は礼拝をされる側だろうに。オレは興味ないからな」

小夜叉は神仏関連興味ないけど、俺が神だと知ってからは少しは丸くなったけどな。

「小夜叉さんも少しはでうすの教えを受けて、心に平穏をお求めになってはいかがですの?」

「そんなモン、何の足しにもなりゃしねえ。そういう話は他所でやれ、他所で」

「人はパンのみで生きるにあらずですわよ」

「・・・・パン?」

「これの事だ」

と手のひらにいつの間にあったパンを取り出して食ってみた小夜叉。ちなみにトーストだからモチモチしていて美味しいけどな。

「初めて食ったけど南蛮のか。これがなくとも、米や肉を食えばいいだろ」

「ともかく、礼拝に興味というより目の前に神様であるハニーの前で礼拝した方がいいと思いますの。来てもらっても構いませんの」

「別に構わんがな。というわけで小夜叉、また後で仕合してやるから。今日はそれで勘弁してくれ」

「分かったよ。一真と仕合出来るならな。あとちょろぎ、一真が後で街に買い物に行くそうだから、護衛を頼むぞ。じゃあな」

と言って行ってしまった。俺が買い物に行くと言ったら、礼拝が終わったら一緒に行ってくれるとの事。梅について行ったけど。

「ここですわ」

「ここは・・・・・」

梅について行って数十秒で着いた。さらに詳細に言えば、角を少し曲がっただけ。

「ああ。なるほど、拝殿か」

「そうですわよ・・・・」

そして拝殿に入ったあとに、梅はその場でそっと跪き、両手を組んで静かに祈りを捧げている。

「・・・・・・」

拝殿は最初はホントにボロボロだったのを俺の力で復元というかちょっとしたリフォームをした。あと本当なら勝手に拝殿に入るのはダメだが、ここの神社の主には許可をもらっている。あと俺達が撤収したあとも綺麗のままにとっておく事にしたけど。で、俺は神の力を目と翼だけ解放し、梅の前にはこの神社の主と天守教の神とされているデウスを呼んだ。あと一応旧約聖書のヤハウェを呼んだ。神社の主とヤハウェは女神で、デウスだけは男神だけど。

「・・・・・・・」

梅は口の中で、静かに祈りの言葉を捧げている。よどみなく流れるお祈りだけど、何を言っているまでは分からないけど。デウスには分かるそうで。祈りを捧げられる側だからなのかなと思ったけど。ちなみに神召喚で実体化しているから、梅の目にも見えるけどまだ祈りが終えていないのか気付いていない。あとはここにいる一真隊の兵たちや将たちから聞こえる願いを受け取りつつ、それを叶えさせるために運気を少々アップしといてあげた。願いは、いろいろあったが、この場所を借りているお礼や戦いが無事に終わる事やこの地に住む者たち、いや日の本に住む者たちが静かに暮らせるようにとのこと。俺もだけど、生き残った者達で無事に美濃に帰れるようにとか、久遠にまた会えますようにと。まあ神が神に祈るのもおかしな話だけどな。

「・・・・・・・」

俺は梅の隣にいたけど、デウスたちは浮きながら梅の前にいた。梅の祈りはまだまだ捧げていた。拝殿のあちこちから穏やかな太陽光が俺の翼や梅の髪に受けて、きらきらと輝く俺の翼と梅の髪だった。梅を観察していると、表情は真剣そのものだけど、どこか穏やかな雰囲気も漂わせている。奉教人の名の通り、神の教えに身を捧げた子と思えてしまうほどだ。そう感じるのは拝殿は神聖な場所でもあるからなのかもしれないけど。

「・・・・どうなさいましたの、ハニー。その目と翼は?」

「お祈りもいいけど、目の前を見てごらん」

と言って梅は俺が指差したところを見たら驚いていたけど。祈りを捧げる前はいなかったけど今はいる存在を。

「このお方は神社の主ですわね。そしてこのお方がでうす様。ですが、そちらのお方はどなた様ですの?」

「こいつの名はヤハウェ。旧約聖書の唯一神である。まあデウスと似たような存在と言うべきなのかな」

「そうなんですの。でうす様の前で祈っていましたとは驚きですわ。あとずっと見ていましたの?」

「まあこちら側は祈りを叶える方だからな。真剣に祈りをしている梅は綺麗だったよ」

「そんな、綺麗だなんで・・・・。ハニーに改めてそんな事を言われると・・・・何だか、恥ずかしいですわ」

まあ祈りの内容はデウスから聞いたが、俺やみんながいつも健やかにありますように、日の本に仇なす悪魔の使いがでうすの名の下に全て打ち払われますように、あとはその力を俺達に貸し与えてくださいますように、とのことだ。神は願いを叶えるというのはほんの一部のみ。力は貸すが、それを叶えるのはあくまで己の意志と力という事。

「そうか。だから、祈りか」

「ええ。そのおかげで、皆が無事にここまで来れたのですから」

「そうだな。その祈りは毎日してたのか?」

「一日たりとも欠かしたことはありませんわ。というより気付いていたのでは?」

「まあな。デウスからここにいる者で毎日欠かさず祈りをしているとは聞いていたけどな」

でもそういう素振りは見ていないから、どこかでやっていたのではないのかな。

「雫さんも今頃、馬の上でお祈りをしているのではないかしら?」

「あー。そういえば雫も奉教人だったな」

「そういう事ですわ。それに天は自ら助くる者を助く。天の父は、私たちを見守り、助けようとはしてくれますけれど・・・・諦めてしまえば、その手は届きませんもの」

「皆が頑張って、梅たちが祈りを捧げたからか。でも礼拝をするのならなぜ神社の拝殿なんだ?」

「以前、エーリカさんからお説教がありましたの。でうす様は今は私の目の前に居りますけど、どちらにいると思いますの?」

「俺?神界にいるから、天なんじゃないの?」

「はい。私もずっとそう思って祈りを捧げて来ました。エーリカさんが言うには、ここだそうです」

梅は穏やかに微笑むと、自らの胸元にそっと手を当てていた。

「心の中から、いつも私たちを見守ってくださるのだと。ですから、例え礼拝堂がなくとも、祈りを捧げたその場所が私たちの礼拝堂になるのだそうです」

「そういうことね」

「最初はそのお話に驚きましたけど、今はその通りだと思いますわ。だって京での戦いでも、一乗谷でも・・・・私たちの祈りはちゃんと届いていましたもの」

まあ俺自身が神だとは思っていても、同じ人間同士なんだと思う時がある。それに生き残れたのは神の加護を受けたのではないのかなと思っている。美空たちは毘沙門天の加護を受けているのならば、こちらは全ての神の頂点である創造神による加護なのではないかと。創造神という説もいくつかある。

ここにいるヤハウェもその一人とされている。ユダヤ教成立後のヤハウェは唯一神であり全世界の創造神という説もあれば、古いヴェーダ神話ではヴィシュヴァカルマンが創造主とされたが、後にこれは工匠神とされ、代わって宇宙の根本原理ブラフマンを神格化したブラフマーが創造神というのもある。他にも神道では、天地開闢の初めに現れた天御中主神などの独神が造化三神と呼ばれ創造神ともされるが、具体的に何を行ったかは明記がなく、それらに続いて男女一対で現れ国生み・神生みを行ったイザナギ・イザナミが事実上の創造神ともな。

俺の場合はそういう細かい設定はないが創造神であることには変わりはない。第一この世界での神の立ち位置は頂点に立つ創造神なのだから。拠点では、口の悪い帝釈天もいれば、オッサンに見えるゼウスとかもいるし、ハーデスだっている。でもその神全てが俺の味方なのかまでは知らん。一度だけ謀反した冥府の神であるハーデスが刺客を送ったときがあったからな。

「エーリカ達も無事にいてくれたらいいのにな」

「無事に決まってますわ。だって冷静に戦って久遠様たちを逃がそうとしたのはハニーではありませんの?」

「まあな。俺もだけど、一番は久遠だからな。それに俺たちの仲間でも犠牲者は出ない方がおかしい」

犠牲者はほとんどが兵たちだけど、それでも俺の恋人である仲間たちは倒れていない。むしろ、この先の未来のために戦おうとしている。立派に戦って死んだ兵たちは天国や極楽に行っているだろう。それか輪廻転生で生まれ変わりで生まれるか。その時は今度こそ死なないで生き続けてほしいものだ。鬼達は地獄や修羅道かもしれんが。それは神社ではなく寺で祈る事だけど。

「それに私は祈りをする前にお断りをしていますわ。そちらの方がこの神社の方ですわよね。悪いと思って境内や拝殿も毎日お掃除していますし」

「どおりでこの神社の主からお礼の言葉をもらっていたが、ようやく意味が分かったよ。こちらこそありがとうと伝えてほしいと言われてたな」

「それにいくらでうす様が胸の中にいらっしゃると言われても・・・・なるべく整った所でお祈りしたいではありませんの」

「だな。でも最初は神社でデウスに祈りを捧げるのはどうかなと思ったことはあった?」

「そんな事はあったかもしれませんわ。六角様にお仕えしてた頃は、そうだったのかもしれませんわ。久遠様にお仕えするようになって、同じでうすを信じるエーリカさんや雫さんや・・・・公方様にもお目に掛かって・・・・。そんな小さなくくりでは、どうにもならなら事もあるんだって、分かったんですの」

「そっかー」

「一番の原因はハニーですのよ?」

「俺?」

「初めは天の使いで、久遠様の恋人でもいらっしゃるのに、お城に忍び込むわ、普段から冷静なのにどこか他とは違うように見えましたの。ですが、本物の神様と知ってからは、救世主なのかと思ったくらいでしたわ。久遠様にお会いしなかったらこうやって本物のでうす様にも会わせてくれないと思いましたし」

救世主ねぇー。まあ俺が捕虜なんてしなかったら、死んでたのかもしれないし。それに俺が神でも普通に接してくれるところが有難いことだ。

「そういえばこうやって二人っきりなんてあんまりないな」

「ですわね。それにこうしていると、自然とハニーの事を好きと言えますわ」

「俺も梅の事は好きだよ。こういうのはちゃんと言わないといけないなーと思っていたし」

「ハニー・・・・」

「だから、これからも俺のことはそう呼んでほしい」

「はい。・・・・やはりあの時、ハニーとお呼びしたいと思った事は、間違っていませんでしたわ」

で、礼拝を終えた俺と梅は外に出た。ヤハウェとデウスは神界に戻して、ここに祀られている者は人には見えないようにした。あといつでも神界に戻れるようにと。

「そうですわ、ハニー」

「何?」

「ついでだからお伺いしますけれど・・・・。あの時・・・・ハニーと初めてお会いした時、ホントに何もしていませんの?」

「今更だな。あの時はしてないよ。梅でも分かるだろう?」

「そうですけど。それ以外の・・・・例えば口を吸ったり、胸に触ったり」

「してないよ。気絶させたあとに俺の部下と鞠がいたのだから。桜花たちな。それにそういうのは、行為のときにしてるから」

「・・・・・まあ、確かに。あの時本当にしていたのなら手打ちにしていたと思いますわ。ですが、それだと今の私ではここにはいないかもしれませんわ」

確かにそうだな。もし俺ではなく他の誰かだったら一生男嫌いになってたのかもしれないし。

「この話はもうやめて買い物に行こうか?」

「はい。小夜叉さんに頼まれましたし、こうやって二人っきりになれたのは小夜叉さんのおかげですし」

「小夜叉にはお礼とかは言わない方がいいぞ。きっと『ちょろぎからンな事言われるなんざ、気持ち悪ぃ!こっちくんな!』とか言いそうだし」

「そうですわね。間違いなく言われそうですわ」

戦いの最中に礼を言うのは慣れていると思うけど、こういう方面での礼は慣れていなさそうだし。

「とりあえず行こうか」

「あ・・・・・」

「ん。どうした」

つい手を繋ぐ癖がついたんだったな。梅の手を握ったが、いきなりは失礼すぎたか。

「いいえ・・・・。なんでもありませんわ」

けど、梅は握り返してくる。

「さてと、空間から馬を出して行かないと、のんびりしてると夕方になってしまう」

とまあ、手を握ったままだとそのまま歩いて行った方がいいのかなと思ったが、馬に乗ったあと一緒に買い物に行ったのであった。 
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