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戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~

作者:黒鐡
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十八章
  春日山探索初日

大きな音を立てて、視線をこちらに向けた。所謂爆竹だけど。

「へいへーい!ここに現れた俺ら一座は、数々の芸を習得しながら旅をしている者!はるか西方から来たこの小さき童は軽やかな芸を仕込んだ者!またはこの私も数々の珍芸を致す。お代は見てのお帰りでございまーす!!!」

とりあえず爆竹やちょっとした花火や俺の口上で、町を歩いていた人たちが少しずつ集まってくる。

「やあやあ!」

「さあさあ!もうすぐ始まるぞー!見ないと損するぞ!御用とお急ぎでない方は、見てってくだせぇ」

「やあやあ!」

そこそこ人も集まってきたな。綾那も元気よく観客に手を振り返してて、場の雰囲気もそれなりに盛り上がっている。

「綾那!出番だぞ。手振っている場合じゃねえだろ。というか何をするんだ」

綾那は何をやるのか分かっていないのか、ただポーズをするだけだった。ヤジが飛んできたので、しょうがないから俺が代わりにやるとした。

「綾那、お前は今日は見学。芸の手本を見せてやるから」

「分かったです!」

俺は後ろから一回転をしてから、二本の扇子を出した。

「さて、これは何の変哲もない扇子だ。そこのお客さん、そうあなただ。この扇子が何も仕掛けがないか触ってみてくれ」

「おう、わかったぜ。兄ちゃん」

観客の一人に、扇子を渡してから何もない事が証明されたので、お客さんに返してもらった。

「これはただの扇子だが、私が使うとこうなる。ほいよっと!」

言っては扇子を上に向けると、水が飛び出した。まあ水芸かな。扇子から出た水に驚きながらも、仕掛けがあるんじゃないかと見る観客たち。扇子を片付けて今度は手のひらから火球を出した事に驚く観客。

「まだまだ増えるぞー!」

投げては増えて投げては増えて、そして火球のお手玉をした。そしてその火球を全て口の中に入れた。
苦しみながらという芝居をしながらの、空に向けて龍の息吹ならぬ火炎放射をした。

「おお・・・・・・・・っ!」

「すげぇーぞ、兄ちゃん!!!!」

「一真様、凄いです!」

辺りは拍手で一杯になったので、今度は鞠の番だ。

「次はこの子による蹴鞠による芸です!鞠、行け!」

「はいなの!行くの!」

といって、いつの間にか鞠を出した。

「おお・・・・・・・っ」

「はーいっ!」

俺が放り投げると、天高くから落ちてきた蹴鞠は、ひょいと伸ばした鞠の足に、吸い付くように乗っかった。

「やっ!」

元気よく振り抜かれる足から落ちることなく、再び空へと舞い上がる。

「お次は・・・・えーいっ!」

蹴鞠が宙に浮いてる間も、鞠の動きは止まらない。楽しそうなステップを踏めば、大きな袖口や長い裾がひらひらと舞ながら鞠の動きに従っている。

「ふわ・・・・すごいのです」

最近は一真隊の皆と蹴鞠をしている事が多かったからな。鞠の一人蹴鞠を見るのは久しぶりだ。

「今度はこっちから・・・・」

背後に落っこちてきた蹴鞠を、後ろを見もせず華麗に蹴り上げ、その場でくるりと半回転。

「こっち、なのっ!」

蹴鞠が正面に落ちてきた時には、鞠の向きは反対になっている。背中側でさっきと同じように一度蹴り上げた鞠は、再び後ろから上空に飛んでいくのかと思いきや・・・。

「え、あれ、なんで?」

蹴鞠が上へ飛んだのは、鞠の前からだ。足で蹴鞠を受け止めて、そのまま股下をくぐらせたのだろう。
そうとうテクニックを持っているな、鞠の奴は。まあそういうのを一瞬でやるのは手品しか見えないだろうし。

「おおおーーっ!」

「兄ちゃんも嬢ちゃんも、すげーぞっ!!!」

「ふふっ。今度はこんなのもやっちゃうの!」

「やれやれーっ!」

「むーっ。なんだか一真様や鞠様ばっかり目立っていて、ずるいのです!」

「じゃ、綾那!この鞠、取ってみるのーっ!」

「よーっし!なら、取ってみせるですよーっ!」

そう言って元気よく飛びかかった綾那を、鞠はひらりひらりと躱しはじめる。しばらくしたあとに、最後のシメとして俺が横笛を吹きはじめると同時に鞠も舞を踊り始めた。そして吹き終えると同時に舞を踊るのを止めると周りから拍手で一杯だった。

「ありがとうございます、ありがとうございます!」

芸を終わらせたあとに、箱を持っているとおひねりが飛んでくる。

「面白かったぜ、兄ちゃん!ところで、火の球と水のあれは仕掛けあるのか?」

「ありがとうございます!仕掛けなどありませんよ、お客さん。あったらとっくに誰でもやってますよ」

綾那のブーイングのせいで、一時はどうなるかと思ったが俺の水芸と火球によるジャグリング。そして、シメの火炎放射。その後に、鞠の蹴鞠と舞のおかげで初めてではあったが、うまくいった。まあこういう芸で稼ぐのも悪くはないけど、目的が違うしな。でも高評価なら、達成感はあったな。今回は俺と鞠で何とかなったが、次こそは綾那にもいいところを見せてほしいところだ。

「可愛かったよ、ちっこい嬢ちゃん」

ひらひらした裾を両手で品良くつまみ上げ、鞠もその中におひねりを入れてくる。

「ありがとうなのー!」

あの可愛らしさなら、思わずおひねりを入れるな。きっと。

「あんなの見た事なかったよ。また見せてくれよな、あんちゃん!」

「ありがとうございます。今度見せる時はまたするから、また来てくださいねー!」

と言いながらおひねりを回収していた。俺のは芸ではなくて精霊たちの力だしな。

「鞠もお疲れさん」

「うん!鞠、すっごく楽しかったの!最後の舞も一真の言う通り踊れたの!」

鞠の裾にたまったおひねりを俺の箱に移しながら、俺は鞠の頭をぽんぽんと撫でてやる。ついでにさっきの舞は即席だけど、舞が得意な隊員に動画での指導をした。ものまねだけど、一発で出来たのは凄いと思ったけどな。アマチュアだと見たのをすぐにできるのは至難の技だと思うな。俺は出来るけど。

「・・・・で、綾那は?」

「・・・・どこいったんだ?」

興業の序盤は、綾那のただのポーズで失敗に終わったのを俺が繋いだからよかったけど。中盤は鞠の蹴鞠を取ろうと必死になっていたな。後半の鞠の一人蹴鞠からは、見てないがどこ行ったんだあいつは。

「あー!いたのー!」

興業を引き上げて、鞠と春日山の城下を歩き回っていた。そしたら綾那がいたのは、食堂らしき場所の前だった。

「あ、一真様!鞠様!」

元気よく手を振るのはいいが、綾那の周りには、春日山の兵士らしき者たちがいた。その並びにまさかと思ったが違うようだった、綾那の周りにいる者たちの様子が違う。

「それじゃ、今日は楽しかったですよ!」

「おう。ちびっ子、またなー」

「東国無双目指して頑張れよー」

「もちろんなのです!」

捕まっているわけではなさそうだ。数人の兵士にむしろ朗らかな様子で見送られて、綾那はこちらに駆けてきた。

「・・・・興業から抜け出して何してんだ」

兵士の人たちに一礼をして、ひとまず何事もないようにして歩き出す。

「情報収集です!」

「情報収集?」

「興業は一真様や鞠様が頑張っていたので、綾那も何かしたいって思ったです。それで町を歩いていたら、あの兵士の人たちと会って・・・・」

「何をした?」

「普通に話しただけです。綾那が情報収集しに来たって言ったら、みんな笑ってたです」

「・・・・・・・」

まあ、綾那の態度を見ると、他国の間者だとは思わんか。それに身長も小さいし、武士だとは思わんと思う。先程の東国無双の話も、子供の夢物語くらいに認識してるんだろうな。あの兵士たちからすれば、情報収集ごっこに付き合っただけなのでは。

「綾那、足軽の人達と仲良くなるの上手なの」

「綾那、ああいう人達大好きなのです」

一真隊でもすぐに馴染んだもんな。もともと綾那は前線特化の武闘派タイプだし、そっちの方が性に合うのだろう。

「で、情報収集はどうだったの?」

「それがですね、なんかすごくやる気がなかったです」

「やる気・・・・」

「美空様は攻めてくるし、兵の仕事は武士に逆らった町の人を引っ立てたり、無礼打ちされた仏さんを運んだり、そんな仕事ばっかりだから気が滅入ってるそうですよ」

「・・・・無礼打ち、だと」

「ひどいの・・・・」

美空が来るテンションだだ下がりというのは予想通りだとしても、他の仕事も話だけで気が滅入るのばかりだな。城の上層部も相当神経質になっているのだろう。そういう嫌な空気は町の中を歩く中でも感じるが、美濃よりも悪いな。今日の興業は絡まれなかったが、俺達も気を付けた方がよさそうだ。いくら正当防衛とはいえ、ここまでとはな。ふむふむ、死神によれば、最近は春日山にいた者たちばかりだそうだ。それも善人ばかりなんだと。あと俺の目の前で切捨御免されたら、死神はこう言っていた。

『旦那の目の前で無礼打ちをされたら、あっしを召喚してくだせい。それも斬った者達しか見えないようにしてくだせい』

とな。

「どうです!綾那、良い仕事したですか?」

「うむ。情報収集としては大手柄。・・・だが!」

スパァァァン!

「ひうっ!?」

小さくため息を吐いたあとにハリセン一発。

「何が起こるか分からないんだから、一騎駆け禁止だと言っただろうが!」

しかも町の状況がこんな感じならなおさらだ。

「そうなの。鞠も一真もすっごく心配したの!」

「あぅぅ・・・・ごめんなさいですぅー」

「今回はこれで許す。だが、一人で行動はするな。いいな?」

「はいなのです」

「(ご主人様)」

「(小波か。どうした?)」

「一真様、どうしたですか?」

「きっと小波ちゃんからの連絡なの。しーっ、なの」

鞠の可愛らしいしーっに、綾那も思わず口を押さえてくれる。

「(はい。先程ころ殿から連絡がありまして、うまく城内に潜り込めたそうです)」

「そうか。ころ、うまくいったと」

小波の念話は俺にしか聞こえない。だから俺はできるだけ二人に聞こえるようにする。

「ほんとですか!」

「よかったの!」

ころは一人だったから心配はあったが、何とかなったな。小波の用意した書状のおかげだろう。

「(ころ殿は利才ありと認められ、納戸役につくこととなった模様)」

「納戸役って確か・・・・」

「倉の管理とかする役なの。倉の中を調べるのが目的だったから、ちょうど良いの!」

「小波の作った書状が効いたのですね」

「そうみたいだ。で、中の様子は?」

「(今日は挨拶のみで、細かい調査はまだだそうです。明日も物資の搬入があるらしく、存外に早く目的も達成出来るかもしれないとのこと)」

「(了解。だけど、安全第一で無理だけはするなと伝えておいてくれ)」

「(承知いたしました。詳細はまた帰ってから)」

倉の中身を確かめるために入ったから、ちょうどいいのかもな。その辺りも全部分かっていて、上手く立ち回れたのだろう。

「上手くいって良かったのー」

「だよな。ころの仕事が終わり次第、隊と合流して美空に報告な。二人とも、明日も頼むな」

「任せるですよ!綾那にも秘策ありです!」

「秘策?さっきの変なのではないだろうな?」

まあ秘策ありなら、明日になったら教えてくれるだろう。 
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