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戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~

作者:黒鐡
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十八章
  春日山への道×長尾家の事

今俺たちは、春日山に続く街道を馬に乗ってゆっくりと進んでいた。

「んふぅぅ・・・・ふぁあ・・・・」

俺の鞍の前にまたがったまま、馬上の鞠は大あくびしていた。

「鞠。眠いなら、荷車の上に行け。馬の上で寝てたら危ないだろう」

「んー。一真と一緒がいいの・・・・」

「だったら、ちゃんと起きる」

「ぅー」

鞠は相変わらずの眠り姫だ。これまでの行軍も俺達黒鮫隊がいたから、スムーズな行軍ができたからな。疲れはないはずだけど、たぶん太陽に浴びて眠気が来たんじゃないのかな。

「うらやましいですわ、鞠さん」

「梅もこういうの憧れるんだ」

この時代に白馬の王子様なんていうのはないと思うけど。それとも白馬の殿様か、だとすればどこの暴れん坊将軍なのだか。

「当たり前ですわ。素敵な殿方の傍に寄り添う夢に、歳は関係ありませんもの」

「梅はどういう馬が好みなんだ?白馬か」

「白馬・・・?いえ、私は連銭葦毛のたくましい馬の方が好みですわ」

「連銭葦毛、ねぇ」

「ですわ。武人としては戦場で手柄を上げて、主から名のある馬を賜る事は最高の誉れですもの!私は六角にいた頃は、いつか久遠様にお仕えして手柄を上げて、名馬の一頭も賜れれば・・・・などと夢見ていましたわ」

「そうか。俺がそういう馬を持っていればいいんだが、あいにく名馬というのは持っていなくてな。悪いとは思っているが」

「ふふっ。ハニーはそのような事、気にしなくても構いませんわ。名馬よりももっと素敵な物をもらいましたから」

そう言って嬉しそうに微笑んでいる梅の傍らで・・・・。元気なく馬を進めている女子二人がいた。綾那と歌夜だ。ちなみに俺が乗っている馬はゼロな。

「・・・・どうした、二人とも」

歌夜はともかく綾那まで元気がないのは、とても珍しい事だ。

「いえ・・・。申し訳ありません、一真様」

「何の事だ?」

「殿さんのことです・・・・」

「ああ。そういうこと」

春日山に続く道を進んでいるのは、足利衆や姫路衆を含めた一真隊だけ。松平衆は戦力不足を理由に、俺達が陣を張っていたあの場所で待機するんだと。

「葵には葵の考えがあるのだろうよ。・・・・美空だってその件は承認しているんだし、俺達が口を挟むとこではない」

葵たちは美空の許可を取ったと言っていたが真意は分からない。多分だけど、美空の側も葵と距離を置きたいのではないかと思っている。こっちにその他の分を補給してくれた秋子と話したときも、松平衆の事はあんまり口にはしたくないみたいだったし。

「だから二人は気にしなくていいんだよ」

「そう・・・ですね。・・・殿はきっと、遥か未来の日の本を考えて行動されているのでしょう」

「きっとそうです!ね、一真様!」

「そうだと思うよ。出立の挨拶に行った時も、皆の事を心配してたんだから」

「そうですね・・・・」

それでも、歌夜は色々と思う所があるのだろうよ。葵という名前で色々考え事をするのは、悪い癖というより事かな。こういう風に悩む歌夜たちを見るとな。

「一真様もありがとうございます。今は目の前のことこそ、重要ですから。・・・・集中します」

「うむ。だが、無理だけはするな」

俺の心中を察したのか、歌夜は弱々しいながらも、優しい笑顔を見せた。その言葉を受けただけでも、今やることについて頭を切り換えなければな。

「一葉!」

声を掛けると、前にいた一葉はちょうど幽やころ達と話し込んでいる所だった。

「なんじゃ?主様」

「美空の事。長尾家のことを詳しく教えてほしいのだが。いいかな?」

今までも美空や秋子から断片的なことだらけで、あんまり知らないんだよな。ここでの長尾家は。一応史実というか、歴史上では知識だけは知っているが、史実と違うし、それに女の子でお家流を使うという設定は史実にはないしな。

「はい。私もちょうど、その事を一葉様にお聞きしようと・・・・」

「流石だな。助かる、ころ」

「えへへ・・・・」

「なら、綾那も聞いとかないとね」

「えー。お勉強ですかー?」

「必要なことだし、重要な事だ。鞠も起きろ、お勉強の時間だ」

「んみゅぅ・・・・・わかったのー」

「後は小波だな・・・・」

そう言いかけたら念話が飛んできた。小波だった。

「(・・・・ご主人様)」

「(気になる事でもあったか?)」

「(いえ、進路上に春日山の草は見受けられません。そちらは問題ないのですが・・・。自分はこのまま春日山に先行して、城下に拠点を作っておこうと思います、お許し頂けますか?)」

「(こっちは今から一葉が、美空や長尾家について聞くが聞こえるよな?)」

「(はっ。お守り袋を通じてこちらにも聞こえます)」

まあ、小波の場合はこの辺りの事知ってると思うしな。

「(許可する。どこかの旅籠に拠点を置いて、4~5日くらい、滞在して探る予定だ)」

「(かしこまりました)」

「(くれぐれも無茶だけはするな。いいね)」

「(承知!)」

それきり、小波の声は聞こえなくなる。

「小波さんですか?」

「ああ。敵の影がないから、このまま春日山城下まで先行すると」

「さすが小波さんですね。助かります」

「主様。もう良いか?」

「悪い悪い。小波も聞いてるからだそうだ。なので頼む」

梅や歌夜たちも、一葉の声が聞こえる距離まで馬を進めていく。それをぐるりと見届けて、一葉はゆっくりと話し始めた。ちなみに通信機からも録音モードにした。

「うむ。まあ、実のところどこにでもある、つまらんお家騒動なのじゃがな・・・。元々越後は、上野(こうずけ)に本拠地を置く関東管領・山内上杉が外戚の越後長尾氏を守護代に命じて治めておった。ここまでは良いか?」

「この前の京で教えられたよ」

将軍の下に関東の管理組織があって、そこの要職の一つが関東管領。その下にあるのが地域ごとのいわゆる支部長が守護。ただし、守護は京務めで忙しいからと、現場には支部長代理の守護代というのが置かれている。幕府がグダグダな今は、京にいた守護は実質無力化している。力を付けた守護代や国人衆とかの雑多な勢力が、やりたい放題にやっているという状況。ここらへんは京にいたときや黒鮫隊の者たちから教わった。

「じゃが、その関東管領の山内上杉氏は、相模の北条や武田から散々に攻められての。甲相駿の三国同盟の影響もあった上野の大半を失い、越後長尾に頼る羽目になった」

なるほど。当時の駿河は今川勢力であったか。腕の中の鞠を見ると、鞠も神妙な顔をして一葉の話を聞いている。

「管領が守護代に助けられるようじゃ、おしまいです」

「まったくじゃ。その後の山内上杉は越後では飾り物での。貴人として持ち上げられてはおるが、実際の権力は相も変わらず守護代の越後長尾が握っておる」

「まさに下克上ですぁ・・・・」

「その越後長尾が美空の家ね」

「左様。で、ここからが本題じゃ。管領を床の間に据えて実権を握った長尾家じゃが、当時家督を継いだのは美空の姉の晴景での。こやつが少々使えんかった。もともと耕せる土地も少なく、荒武者揃いの越後だ。使えん晴景では豪族どもを押さえきれず、来る日も来る日も戦の日々であった」

「で、そいつらを担ぎ出されたのが美空か」

今の時代は戦国時代だからな、トップがお飾りや使えん者でさらに不安だと、他国から攻められる可能性は大だ。だったら、今のリーダーを追い落としてでもしっかりしたリーダーが欲しいという気持ちは当たり前だ。 
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