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戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~

作者:黒鐡
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十七章 幕間劇
  ひよと買い物×未来の嫁

「ひよがおかしい?」

ころがそんな話を持ち出したのは、俺と雫が遅い昼食を食べている時の事だった。

「はい。具体的には何がどう、って訳じゃないんですけど・・・・」

「ひよがねぇ・・・。雫は何か気付いた?」

「いえ、私は特に・・・・」

「もしかしたら、私の気にしすぎかもしれませんけれど」

「ころだから気付いたのかもしれない。俺も頭の片隅に置いておく」

特にころはひよと付き合い長いし、一真隊で一緒に動くことも多いし。そんなころが何かおかしいのならば、きっと何かあるのだろうな。

「私も注意しておきますね」

「はい。よろしくお願いします」

「ごちそうさん。ころもまた何か気付いたらいつでも言ってくれ」

「分かりました。一真様も、何か気付いたら教えてください」

食い終わった俺と雫は、外に出ていた。

「ころさんの話、気になりますね・・・・」

「そうだな。あとで様子見でもしとくか」

ころの気にしすぎかもしれないが、部下の悩みを聞くのも上司の務め。俺に相談できるのなら、なんでも乗ってやるだ。人生の先輩でもあることだし。

「そういえば、さっきの話になるが鉄砲隊でも問題があると?」

ひよの件に関するのはひとまず保留ということで、今起こっている問題を解決しないとな。

「はい・・・・」

「梅と八咫烏隊は仲は良さそうだけど、他に問題というと」

「鉄砲隊の運用になりますね。この先はどんどん厳しくなると思うのですが」

「そっちの件も問題ないだろう。こちらが用意するし」

尾張にいた頃は堺からも近かったから、鉄砲の火薬と弾丸も予算があれば何とかなった。でも今ここにいるのは越後付近では、本来なら流通量も限られるだろう。しかし、それは本来だったらの場合。

「その件も問題ない。今黒鮫隊が準備をしているところだから、まあ一応考えとしては一発一発を有効にと考えているらしいが。忘れていると思うけどなんでも創造できる力を持っているし大丈夫だろう」

「なら、安心ですね。準備が出来次第、鉄砲に必要な物をこちらに届けてほしいのですが」

「ああ。もう少しで準備がいいとな」

と通信機で連絡を取っていたときだった。

「あ、一真様」

「一真!」

新たな鉄砲運用は、こちらで火薬と弾丸を調達するからと考えていると、掛けられた二人の声。

「二人ともどうした?どこか出かけるのか?」

「はい。ちょっと近くの町まで買い物があるので・・・・」

「そうか。鞠も一緒に?」

「そうなの!一真、鞠がいなくても平気なの?」

「いなくても平気だよ。ここは敵がいないし、気を付けて行っておいで」

「うん!でも、一真に何かあったら鞠、すぐ戻ってくるの!約束なの!」

鞠もなんだかんだで俺の側にいてくれるけど、今の所は大丈夫だしな。美空から話が来るまでは、俺も出かけないし用事もない。たまにトレミーのところに戻りたいと思うが。

「どうしたんですか?一真様」

「なんでもない」

特に変わったという印象はない。覗き込んできたひよの額に手を伸ばす。

「ひゃ・・・・。え、何ですか?一真様っ」

「気にするな」

熱もないな。体調不良の問題ではなさそうだな。体調不良だったら、ころ以外のメンツでも気付くはずだし。

「あーっ、ずるいのー!鞠もお熱見てなのー!」

「ふふふ。分かったよ」

ねだられたので、鞠にも手を伸ばして、そっと額に触れてみる。

「えへへ・・・・お熱、平気?」

「うむ。鞠はいつも元気だもんな」

「一真やひよを守らなきゃいけないから、いつも元気でいるの!」

「そっかそっか。でも俺は強いから大丈夫だけど、いざ戦うときは俺の背中を任せるよ」

鞠に答えながら、ちらりと雫に視線を送る。するとそれに答えるかのように、雫も小さく首を振った。やはりひよには何も変わるところはないか。

「一真様はこれから雫ちゃんと?」

「んー、鉄砲運用についてだったけど変わらずって感じだからな。これから黒鮫隊の者がブツを運んでくるからそれを待っている」

「そうですか・・・・」

「・・・あ、そうなの!ひよ、ごめんなの」

「へ?」

「鞠、今日は雫とする事はあったの。ね、雫」

「え・・・・・」

「ほら、忘れちゃったの?」

「あ・・・・はい。そうでした、すっかり忘れてました。すみません」

なるほどな、鞠は気付いたようだな。だから、俺とひよを二人っきりにするのか。それだったらひよの悩み事を聞けるからな。ナイスフォローだ、鞠。

「雫と話があるなら、また今度な」

「はい。それに黒鮫隊が来てくれるなら、新たな鉄砲運用も相談に乗ってくれますし」

あと雫も気付いたからなのか、乗ってきているしな。

「それとひよさん。町にお一人でなんて危ないですよ?」

「え、大丈夫だよ。そんなに遠い所じゃないし・・・・」

「ダメなの!鞠は行けないけど・・・・一人で行くのはぜったいにダメなのー!」

「雫や鞠の言う通りだぞ、ひよ。越後は今、戦乱が起きている国なんだから」

先程まで鞠が護衛に付くと言う話だったし。

「そうなの。だから一真、今日は一真がひよと行ってあげればいいの!」

「そうですね。一真様、行ってあげては?」

「そうだな。俺も用はなくなったからな。護衛にはなれるよ、俺強いし」

「だったら・・・・一真様。ついてきてもらって、いいですか?」

「もちろん、いいぞ」

「・・・・ありがとうございます」

多分俺がどうにかできるから、鞠は護衛の任を俺に譲ったのだと思う。ひよも素直に喜んでいるからな、とりあえず鞠の案に乗ったほうがよさそうだ。

「それじゃ、雫、鞠。行ってくるな」

「鞠ちゃん、雫ちゃん・・・・ありがとね」

「お土産楽しみにしているの!」

「二人とも気を付けて行ってきてくださいね」

そして、陣から放れて歩いているところだった。

「それでひよは何を買いにいくんだ?食料ならこちらが準備できるはずだが」

「食料は問題ないのですが、他の細かい物が足りなくて」

「そうか」

食料に武器弾薬と軍資金などはこちらが出しているから問題はない。でも、一真隊の都合で必要な物は自分で調達するということか。

「服や薬、あとは武具の手入れ道具も、色んな所で足りないって話が」

「そういえばそうだったな。食料や武器弾薬はこちらが用意するけど、細かくは用意してないからな」

「まあ、そうですね。薬も本来ならそちらからなのですが、合わないと思いまして」

服とか薬も、現代から持ってきた物だ。合う方がおかしいしな。そういう細かい所に気が付くのも、荷駄隊を管理しているひよだからか。

「そういえば一真隊ができた頃は、こうやって色々買い物に行ってたな」

「ですねぇ・・・・。ふふっ。何だか懐かしいです」

「懐かしいって言ってもあんまり経っていないような気がするが」

「そうなんですよね・・・・。でも、もうずっと前からこうやって一真様と一緒だった気がします」

感覚的には俺もそう思うんだけどな。

「いつからだったか、改めて振り返ると、ほんの少ししか経ってない気がするんだよな」

「そうそう!」

そんな事を呟きながら、ちらりと目に入ったのは、ひよの歩みに合せて揺れているひよの細い手だ。

「あ・・・・・」

「昔はこうやって歩いていたもんな?」

揺れるその手を軽く握れば、ひよも自然と指を絡め合わせてくれた。

「もぅ・・・。一真様も、昔って言ってるじゃないですかー!」

クスクスと笑い合いながら、俺達はゆっくりと町へと歩いていく。その無邪気な様子は、一真隊ができたばかりの頃と何も変わらないように思えるが、心の中には何かあるんだろうか。

「まいどありがとうございました!」

「では、また後で取りに来ます」

「はい。お約束の日までに一式、整えさせて頂きます」

「これで武具関係は終わりっと」

書き出された一覧を見ながら、俺達が歩いているのは町の目抜き通りらしき場所だ。

「後は細かい物ばかりですね」

尾張の市ならぐるりと回れば一通りの事で終わるが、ここは知らない土地だ。でも幸い上に船があるし、俺のスマホに町の地図が完成したようなので、それを見ながら歩いているわけだ。唯一の欠点としては、探している物が売ってなかったりすることだ。

「どこに何があるかは、だいたいこれでわかるが。後は虱潰しだな」

「そうしましょう」

金はあるが物がない。だから創ればいい話だが、そうは言えない。人の力だけで生きるのも悪い話ではないし、それに創ってもそれが使えるかどうかは分からない。

「やはり、どこ行ってもないな」

「春日山が取り戻せれば、もうちょっと色々手に入るんでしょうけど・・・・」

規模の大きな町ではないことは分かっていたが、ひよの買い物リストで手に入った物は半分より少し上という感じだ。

「すべては春日山を取り戻したらか」

「とりあえずまだお店はありますから、もう少し探してみましょう」

「そうだな。何があるまではこれで分かるんだし、行ってみるしかないか」

「あ、一真様っ!あそこ!」

そう決めて行こうとしたところで、ひよが指差したのが茶屋だった。

「ん・・・・?団子?」

そういえば最近甘いもの食ってないな。

「一真様。ちょっとお腹空きませんか?」

「そうだな。すみませーん」

入り口に置いてある縁台に腰掛けて、中に声をかける。

「はいはーい」

「お茶とお団子、二人分下さい」

「先払いで頼むよ」

「しっかりしてるな。これでな、あとこれで包めるだけ」

多分だけど、皆も最近甘い物を食べていないだろう。これで雫や鞠にお土産になりそうだな。トレミーに戻ったらチョコが食いたいけど。

「あ・・・・一真様。私の分は・・・・」

「たまにだから、このくらいいいだろう」

「まいどありぃ」

「その代り、ここで食べたのはみんなに内緒だぞ?」

「ふふ・・・・っ。内緒ですね?わかりましたっ」

お茶とお団子を食って休憩したあとに、また歩き出す。

「これで回った店は全部だな」

「やっぱり、思ったほどありませんでしたね・・・・」

周囲に散らばるお店も片っ端から回ってみた。が、リストのチェックは思った以上に埋まらなかった。

「まあ、後は俺が創造の力で何とかするしかなさそうだな」

「後でお願いしますね。それじゃ、帰りましょうか」

「今から帰れば、日が沈む前に帰れるか」

「あ・・・・そう、ですね。ね、一真様」

「んー?」

「手、繋いでいいですか?」

「いつもなら、何も言わずに繋いでくるだろうに」

「いえ・・・・何となく。いいですか?」

「構わないよ、ひよ」

「えへへ・・・・」

で、手を繋ぎながらの帰り道。もうすぐ夕暮れになるところだった。

「あの・・・・一真様」

ひよが声をかけてきたのは、町から離れ、森に入るところだった。

「疲れた?」

「いえ・・・そうではないのですけど」

明らかに様子がおかしいな、それに声もだけど。いつもより抑え気味のような感じがするな。

「顔色が悪いな、少し休んでいこうな」

「・・・はい。それじゃ・・・・ちょっとだけ」

無理やりだけど、繋いだ手も放そうとしない。これが、ころが気にしてた元気のないひよのことか。確かに明らかに変だな。いつも見てきたが、ここまでとはさすがに気付かなかったな。

「ひよ。何か悩んでるのか?周りを気にしているようだが」

「やっぱ分かりますか。一真様は平気なのですか、この森が」

「平気だけど、何かあるのか?」

「みんなには内緒ですよ。私は小っちゃい頃からころちゃん達とこんな森でずっと遊んできたから、今まで怖いなんて思った事なかったんですけど・・・・」

むしろ、森の中に入るとひよは生き生きしてたしな。

「この間の金ヶ崎で、鬼と戦ったから・・・・」

「なるほどな。そういうことか」

「はい。行きは明るかったし、一真様ともお話ししてましたから、平気だったんですけど・・・。あの辺りの暗い所から、鬼が出てくるんじゃないかって・・・」

そう呟いてひよが指差すのは、森の中でもひときわ暗くなっている茂みの奥だ。もちろんこの辺りには、鬼はいなし。いたとしてもトレミーのレーダーに引っかかるからな。それに鬼と戦ったあとは、鬼が夢に出てくるという兵もいる。それを俺は、まとめて癒しのオーラを出して夢に鬼が出てこないようにしたり、恐怖心を克服させたりしている。ひよもそんな感じかな。

「いるはずがないって、分かってはいるんです。いるんですけれど・・・・」

「だから、ここで休むのは嫌だったわけね」

「・・・・はい。たぶん鞠ちゃんは気付いていたのですね・・・・」

「大丈夫だよ、ひよ」

「あ・・・・一真様」

俺はひよに癒しのオーラを手から与えている。左手はひよの肩を掴んでいる。わずかに震えていたが、癒しのオーラと恐怖心を無くすというのも加えてやった。

「とても暖かいです」

「今癒しの力でそうさせている。いいかい、例え鬼が出たとしても俺が守るから安心しろ。怖くなったらいつでも俺の所に来い。相談に乗ってやるぞ」

「情けない・・・・ですよね。他の皆は・・・詩乃ちゃんも、鞠ちゃんも、そんな事言わないのに・・・」

「詩乃は詩乃だ、そしてひよはひよだろう」

「でも・・・・私だって、武人のはしくれなのに・・・。こんな森が怖いなんて・・・」

「詩乃や他のみんなが羨ましいのか?」

「それは・・・・羨ましい、です。凄い作戦をたくさん立てたり、いつもしっかりしてて・・・・私じゃ、全然真似出来ないですから」

「別に真似することはないだろう。ひよはひよのままでいいんだよ」

「そう・・・・ですか?」

「うむ。ひよは荷駄隊を率いているだろ?」

「はい」

「荷駄隊で大事な事は何だと思う?」

唐突だったのか、ひよは少し考えてから答えた。

「・・・・・荷物を管理する力、ですか?」

「それも大切なことだけど、一番大事なのは危険に敏感なところだ」

「危険に・・・敏感・・・」

「ここには鬼が来ないだろう、敵は攻めてこないだろうって油断をすると敵の奇襲を受ける。だが、ここには鬼が出るかもしれない。敵が攻めてきたらどうしよう、といつも考えていたらどうだ?」

「敵の奇襲から・・・・いつでも逃げれます」

「それと待機中でも本隊から離れすぎたら、ひよはどうする?」

「本隊の近くの安全な場所に動きます。・・・・怖いから」

「そういうのを荷物をしっかり守れている、ということだろう?」

「・・・・・あっ」

「ひよがそうやって荷物をしっかり守ってくれているから、俺や梅やころは前線で安心して突撃出来るし、詩乃だって俺達の戦いに集中できることなんだよ」

「そう・・・・なんですね」

「だから、荷駄隊を守る恐がりなくらいがちょうどいいんだ。ここなら大丈夫だろうという考えが一番怖い。その上で、ひよみたいに計算や荷物の管理が出来るなら文句はない」

「うぅ・・・・でも、恐がりなのは変わらないのですよね」

「でもだな、どうしても必要な時は頑張れるだろう。そのくらいがちょうどいいんだよ」

「よ・・・喜んでいいのかなぁ・・・」

「褒めて言っていることだ。前にも似たような事で相談されたことがあるからな」

前にも荷駄隊の兵たちから、こう言う事で相談を受けたことはある。で、答えはひよと同じように問いかけたらこうなった。そして、相談を受けたあとはお祓いをしたけど。

「ありがとうございます。一真様」

「落ち着いただろう?」

「・・・はい。それと・・・」

「何かな?」

「今日は・・・・楽しかったです」

「俺もだ。なんだか最初の頃を思い出してた」

「ですよねー。あの頃は誰もいなかったから、買い出しも大変で・・・・」

「あの頃はまだそんなに大きな規模ではなかった。俺はあれぐらいのを指揮経験があるから引っ張って来れたけど、あと俺が荷車で帰ったことがあったよな」

「あはは、そうですねー。重い時はみんなで押したり」

「あったな!」

「そうだ、一真様。知っていました?」

「何のことだ?」

「あの時って、荷車の後ろに私ところちゃんが乗っている時もあったのですよ」

「ああ、風の精霊で言ってたな。後ろに乗っている二人が」

「知ってて引っ張っていたのですか?気付いたら謝ろうと考えていました」

そういうときもあったな、一真隊が出来た頃は色々とあった。あの時もいつもより少し重いと思っていたが、トレーニングにはちょうどいいと思って引っ張ってたけど。後々、風の精霊から聞いたが怒る気はなかったな。

「えへへ。あの時は楽させてもらいました!」

「だったら、今度は俺をおんぶしてみろ!」

「ひゃ、重いですよぅ。一真様!」

「俺が苦労した分だ、我慢しろ」

小さな身体にのしかると、ひよは楽しそうな悲鳴を上げる。反応が可愛いから、俺はさらにひよの身体にしがみ付く。

「きゃーっ!潰されるーっ!」

「じゃあ、押し潰してやろう。それそれー!」

「あはははは!一真様、やだーっ!」

楽しそうに暴れるひよが、落ち着いてきた頃になって俺は改めてその体を抱きしめる。無論押し潰すのではなく優しくな。それに、初めてのをもらったときもこんな感じで抱きしめていた。

「ひよも俺も昔より変わっているだろう?」

「はい。前より人は増えて賑やかになりましたし、みんなのこと大好きですから」

ひよの言葉が真剣になっているのか、抱きしめた体を離そうとするけど、そっとひよの手が俺の手が離れることを拒絶しているようだ。

「そうじゃなくて・・・・その・・・・。好きです、一真様」

「ひよ・・・」

「あの頃よりも、一真様のことが好きになっているんです」

「そうだな。俺もだよ」

昔と今では好感度は違うだろうな。

「それにあの頃は今みたいに一真様のこと、好きじゃなかったのですよ」

「ふむ。あれか、久遠の恋人だからか。あと天から舞い降りた者で、ひよが俺のことを兄だと慕っているのも」

「分かっていたのですか。それは、たくさんの妻を持っているからですか?」

「まあ勘と何となく接してるとそんな感じになったわけだ」

出会った頃はひよのこと妹だと思っていた所があったからな。

「でも、ずっと一緒にいて・・・・色んな所に行ったり、危険な事もたくさんして、戦いにも加わって。最初は尊敬してる、お兄ちゃんみたいだったのに・・・・今は一緒にいると、胸の奥がもっと温かい気持ちになるのです。一真様は・・・・私の事、今も妹みたい・・・・ですか?」

「そうだな。こうやってじゃれあったり、抱き着いて楽しいのは妹みたいな感じかな」

「・・・・・んっ」

そんなひよの頬に押し付けたのは、俺の唇だ。

「でも、こうすると恋人になるだろう。っと、ひよは今は恋人で愛妾だもんな」

そして、俺はひよにキスをする。昔は出来なかったことを今は出来るようになった。久遠のあの宣言以降になってからな。あれがなかったらこうすることもできなかっただろう。そしてそのままキスしまくった後は。ひよが落ち着くまで身体を抱きしめていたけどな。

「ね・・・一真様ぁ」

「なんだい?」

「もう少し・・・・こうしてて、くれますか?」

「別にかまわんよ。好きな人といた方が帰りが夜になっても怖くないだろう?」

「はい・・・一真様」

俺に身を寄せている小さな身体は、震えていないし怖がってもいない。なので、癒しの力を解除してからこのままにしてた。それにキスをしていたときに、妹と恋人どっちがいいと聞いたらどっちもだと。

「お兄ちゃんで、恋人で、いつか旦那様な人がいてくれるんですもん・・・・三倍心強いです」

旦那か、この世界では無理かもしれない。でも拠点なら何とかなるな。それに俺は決めたんだ、この子もそうだけど俺に好意を持っている子や仲間になった子や力を合わせてくれる子は、必ず助けると。世界が消滅になりそうだったら、その子たちを連れてトレミーで脱出する。足軽とかは無理だけど、八咫烏隊は特例だな。

「今の私は、恋人でもあるしいつかですけど旦那様と呼べる日が来るのですよね」

「そうだな」

「・・・確か堺に行ってた頃に、ころちゃんや詩乃ちゃんと、いつか一真様のお妾さんになれたらいいねと話してたら沙紀さんが、『叶わぬ夢だとは思わないでくださいね』と言ってましたけど。夢は諦めない物なんですね」

「そうだな。人の夢には希望があると聞く。それを叶えるために神が見届けているとも聞く」

「それって、一真様が私たちの夢を叶えたということですか?」

「さあな。それは俺も分からないけど。でも久遠も結菜も妾だ、今はな」

と考えている内にイチャイチャしてから帰ることに。街道を歩きながらの帰り道、神社の手前まで着く頃には夕方から夜になっていた。時計を見ると見事に夜だなと。

「今日は一真様と一緒にいられて、楽しかったです」

「俺も久しぶりにひよと二人で楽しかったけど、今度から悩み事があったらいつでも言ってくれ。いつでも聞いてやるからな」

「はいっ!」

と言いながら手を繋いでのんびりと歩いていた。こういうのはいつぶりだろうと。拠点のときは、人数が多かったから暇なときはデートしてたもんな。

「あと、次はころちゃんと三人がいいです」

「そうだな、こっちの手が空いてるし」

で、ひよが森のことを怖がるのは隠してたらしいけど。ころには気付かれていたんだと。まあひよところは、俺よりも付き合いは長いからだろうし。ちょっとした仕草で分かったのだろうと。

「早く美濃に戻りたいですね。そして一真様の料理が食べたいです」

「そういえば、最近はころに任せっきりだったな。落ち着いたら、俺の料理を。南蛮料理を食わせようじゃないか」

「だったら、準備大変ですよー。今は梅さんも雫ちゃんも、八咫烏の二人や一葉様や双葉様も。それに久遠様や結菜様も・・・あ、お市様や和奏さん達も!」

「ふむ。そういうと思って既に考えてある。大人数で食える料理を作ってやるよ」

とレシピを考えていると、声が聞こえた。

「あ、一真なのー!一真、ひよ、おかえりなさいなのー!」

「鞠か、ただいまだ」

「ただいまです、鞠ちゃん!」

「ひよ、楽しかったの?」

「うん。・・・・それと、ありがとね」

「いいの。一真と一緒でひよが怖くなくなったのなら、それが一番いいの!」

やはり、鞠も分かっていたようだな。人生長いと何となくだが分かるんだよなー。

「うん。もう大丈夫だよ。ホントにありがとう!」

「鞠もありがとよ」

「ううん。ひよが元気ないの、鞠も嫌だったの。ひよの怖いのがなくなって、鞠も嬉しいの!」

「あ、そうだ。お土産にお団子買ってきたから、後でみんなで食べような」

「わーい!お団子なの!一真、ひよ、大好きなのー!」

俺の空いた手をきゅっと掴んで、鞠は神社に向けて元気よく走り出す。

「ほら、早く帰るのー!」

「分かったから、そんなに引っ張るなよ」

「ほら、急いでくださいよ。未来の旦那様♪」

「あいよ。この先の未来でもよろしくな、未来のお嫁さん」

「もちろんですっ!」

一番星の輝く空の下。帰路を急ぐ二人に負けないように、俺も皆の元へと走り出すのであった。 
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