戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~
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十七章
長尾勢と交渉
「天下一の免状など、丸めて山の鹿にでも食わせておけばよろしいものを」
「ほれ。四の五の言うておらんとさっさと行くぞ」
「やれやれ・・・。早い内に、一真様も、立派な馭者におなり下さいませ。お求めいただければ、すぐにでも天下一の座などお譲りいたしますので」
「うーん、無理だな。第一こんなじゃじゃ馬を扱えるのは幽だけだろうに。それに俺は帝釈天たちを召喚するときに、集中したいし」
とか言いながら、俺達はひとまず街の外にある美空の陣へ向かうことにした。俺達が行ったあとの一真隊の中で松平の家来であった者同士が話していた。
「歌夜様・・・・」
「小波の言いたい事は、分かっているつもりです。・・・・私も同じ考えに至っておりますから」
「やはり・・・・」
「殿は日の本の未来を憂いすぎるあまり、少しお変わりになられました。恐らく、一真様に近づき過ぎた私たちを、遠ざけつつあるのでしょう」
「御父君広忠様、そして祖父清康様の轍を踏まないように・・・・ということでしょうか?」
「少しの可能性にも備え、手を打つ。・・・・知恵者であらせられる殿ならば、さもありなん」
「正信様の入れ知恵では?」
「・・・・殿と悠季は、向後の日の本を見据えたうえで言葉を交わし、知恵を練っております・・・・私たちはもう、口出しはできないでしょうね。それに殿は武ではなく、学問によって治世を行う遠謀をお持ちのようですから・・・・いつか走狗は煮られるだろうと覚悟はしていました・・・・それが少し早まっただけのこと」
「歌夜様ともあろうお方が、走狗などとは・・・・」
「・・・???小波も歌夜も、一真様のお側で戦うのは嫌です?」
「そんなことはありません!ご主人様は草の私にも本当にお優しく・・・・」
「ならそれでいいです。他の事を考えていたら、頭がわーっとなって、戦場で不覚を取ってしまいますよ?さっき歌夜も言ってたです。ただの綾那がどうしたいかって。そう考えたら、綾那はしたいこと、すぐに分かったですよ?それに一真様も殿さんも、一緒にいるのです。いつか二人の道も交わるって、ただの綾那は思うのですよ」
「綾那様・・・・」
「ただの小波はどうしたいです?」
「ただの・・・・自分」
「・・・・綾那の言う通りね。・・・・小波、これからは一真隊の先輩として、色々と教えてくださいね」
「は、はい!よろしくお願いします、歌夜様、綾那様!」
魚津の町から少し離れた所に張られた美空の陣地に訪ねれば、そこには忙しそうに秋子が指示をしているところだったまあ、もし会えなくともこいつらがある事を言えばすぐ通れるとは思うけどな。
「あら一真さん。公方様も!」
「先程はどうも・・・・美空に話があるんだ、通してもらえるかな?」
「何の御用ですか?御大将でしたら、あまり機嫌は良くありませんけど」
そりゃそうだろうな、養子とはいえ娘が人質にされているんだから。あと、よく見ると秋子もあまり機嫌が悪く見えるけど。
「大事な話がある、それに九頭竜川で会ったが主導権はこちらが握っている。会う会えない関係無しでも進ませてもらうぜ」
「・・・・・・・」
そう言っても黙ったままの秋子。最終手段としてこいつらを見せることも可能だしな。たとえ俺一人でも帰されはしないはず、隣に一葉がいなくてもな。
「・・・・・・♪」
一葉をちらりと見れば、なんだかものすごく得意げな顔をしている。俺が主導権を握っていると言ったからなのか、連れ来たからなのかはわからん。
「ふむ。では、こいつらが会いたいと言ったら?」
と言って、目だけ神の力を発動させて俺の両腕にいる帝釈天と毘沙門天と俺の一歩後ろにいる持国天、広目天、増長天。一葉たちにも見えるようにしたら、驚いていた一葉と幽、それに秋子も。もし、こいつらが美空を拒否したら毘沙門天の加護が無くなると思ってのかな。
「・・・・分かりました。確認を取って参りますので、お待ちください」
やがて秋子は近くにいた兵を呼ぶと、奥に使いを出してくれた。
「お兄ちゃん、これからどうするの?」
「さあな。最悪の場合は帝釈天と四天王が決めることだ。美空のお家流として使われるか、それともその契りを解除するか」
「あの者のお家流として使われるのは、仕方がなくでやっています。なので契りを解除するのはどうかと」
俺はその時はその時だと言ってしばらく待つと、美空に会うことが出来たが警戒しているな。
「・・・・・・・・・」
使いの兵に案内されて、陣の奥に行けたけどな。
「あれ?また来たんすか?って護法神四天王がいるっすよ!」
「・・・なに?忙しいだけど」
顔を合わせて早々、不機嫌な一声だ。
「お兄ちゃんの代わりとして言うけど、その忙しいことを手伝ってもいいと我らの兄は言ってるんだけど」
「毘沙門天?どういうこと?」
「一真隊は美空の春日山城奪還に手を貸すということだ」
「何?長尾景虎が織田に泣きついたって『主導権はどっちが握ってるのか分かってるの?』そうだったわね」
「お前らだけでやっても構わんが、こちらがやった方が楽になるぞ」
「うさんくさ。でも一葉様もいるんだから、そこまで失礼な事はできないわよ。でもこれ以上もったぶるなら突き返すわよ」
「こいつらの目の前でよくそんなことが言えるな。突き返してみたらどうなるのか分かっているのか?まあいいとして、こちらの頼みは鬼との戦いに手を貸してほしい。ただそれだけのこと。だが、今の関係なら信じてもらえなさそうだからな。まずは俺たちの事を知ってからの方がいいな。そしてそれでも力及ばずだったら俺たちはこれで美濃に帰るけどな」
と俺が上を指さしてから、美空たちは上を見たら俺たちの船であるトレミーがいた。
「こ、こんなデカい船がいたんっすか?」
「俺達の船だ。そこには俺直属の部隊がいる。今まで難攻不落だと言われた稲葉山城や観音寺城とかも俺達で落としてきた。弱卒呼ばわりの尾張兵と違うからな」
「これなら共に戦えそうな気がする」
「そういうことだ。まずは行動をして、その背中を見て美空が判断すればいいことだ。俺達がどれだけ役に立つのかをな、それで役に立てれば越後の未来のためにも力を貸せただし、これだけは言っとくが、もし俺たちの話を聞かないで突き返していたら、帝釈天や毘沙門天との契りを解約したいんだと。そしたらお前たちには神の加護は無くなるぞ。それでもいいのかな~?」
「試せってこと?それと突き返さなくてよかったわ。毘沙門天の加護が無くなれば、兵たちはついて来なくなる所だったわ」
「そういうことだ。こちらには食料も武器もあるから、無料お試し期間ってことだ」
「力がなかったら反故にしてもいいのよね」
「まあな。だが、力を貸すと俺は信じる。こいつらがお前を信じるようにな」
「その自信の根拠は何なのかしら?」
「神の勘だ。それ以上でもそれ以外でもない。で、どうだ?」
「細かい条件は?その約束以外にもあるのでしょう?証文の裏書きまで守る気はないわよ」
「基本的に一真隊は美空の下に付く。隊の頭としては、無理難題には応じない。俺の隊なら別だが、一真隊は決死隊ではないからな」
「まあ、あの行軍の様子じゃあ『何か言ったかな~?』な、なんでもないっす」
俺は銃を柘榴に向けながら笑みで言うと黙ってくれた。
「それに一真隊は百戦錬磨の猛者ではない、搦め手専門だ」
「搦め手?」
「城内侵入や偵察とか、門の鍵を内から開けるとか」
「でも鉄砲を持っている。それもたくさん」
「鉄砲は良いわね・・・・」
「越後には鉄砲を扱う商人が少ないっすもんね」
「何丁あるの?」
「うーんと、一真隊全体で考えると百か二百丁で、俺直属のは鉄砲の種類が豊富だからな。鉄砲と爆弾の専門家でもあるから」
黒鮫隊はどれぐらいあるか、数えたことはない。主に使うのがアサルトライフルやスナイパーライフルとかだし。あとはグレネードランチャーにロケットランチャーとか手榴弾にプラスチック爆弾や時限爆弾。あとはISだし。
「なかなかのものじゃない、いいわ。信用してあげる」
「ずいぶん上から目線だな。お前ら、美空との契りを解除するか?」
「待って待って!悪かったから、それだけはやめてー!」
「御大将が壊れたっす!」
「毘沙門天の加護が無くなるとうちらはただの長尾勢になる」
「それとさっき言ったわよね?お試し期間だって」
「それは言ったし、撤回はしない」
それが今は第一歩なわけだ。それにしてもこいつらと契りを無くすのがホントに嫌そうだな。あのお家流があっての美空だしな、それにこいつらは完全に美空と嫌ってはいない。ただ俺の悪口は許さないと。
「・・・なら、さっさと戻って出陣準備しておいて。・・・・近々、ここから出るわよ」
「なるほど。春日山城に行くわけか、たった今からお試しはとっくに始まっているわけか」
「そういうこと。一真隊が使い物になるかは、もう始まっているんだからね」
「分かったよ。一葉、幽。俺達も戻ろう。帝釈天たちは?」
「しばらくは兄様の周りにおります」
「にいにの力になりたいの~♪」
「そういうことなのよ、お兄ちゃん~♪」
と言いながら、俺達は戻る。これから先、激しい戦いの予感を感じたのであった。あと帝釈天たちは、人の目では見えないようにしといた。長尾の兵が見たら、逃げ出すかもしれないからな。
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