戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~
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十七章
長尾勢×松平の考え
「何すか、一真さん?」
「俺達は通称しか知らないから、俺とこいつらに自己紹介してくれ」
「そういえばそうっすね。柿崎景家、通称柘榴っすー!よろしくっすよ、一真さん」
「甘粕景持、通称松葉」
「直江与兵衛尉景綱と申します。通称の秋子とお呼びくださいね」
と三人に改めて自己紹介してもらった。柘榴に松葉に秋子ね。松葉のそれは何で浮いてるかは、聞かないが。
「早速柘榴に聞きたいけど、俺達はどうすればいいわけ?」
「んー・・・・どうすりゃいいっすか?」
「わ、私に聞くの?」
「秋子は家老。松葉たちは部将。よろしく」
「都合の良い時だけ家老なんだからもう・・・・。でもどうしてこんな時に、一真さんたちを拾ってきたのかしら、御大将は・・・・」
「一つ訂正を入れるとすれば、俺達は美空が言って来た訳ではない。俺が越後に行くと言ったから、来た訳だ」
捨て猫のように言うが、俺達は即座に帰るといえば帰れる。だけど、困っている奴らを放っておくほど俺はバカじゃないからな。
「とりあえず大人しくしておいてもらえると助かります。お連れしてしまった以上、最低限の食事だけは何とか面倒みますので」
聞いている限り、相当無理してるな。美空の態度といい、鬼との決戦どころではないほど困っている状態だ。
「春日山が最優先か」
「あはは。アテが外れたっすね、一真さん」
「春日山城は我らの本拠地。あそこを取り返さなければ、我々は動きようがありません」
「大将は義理堅い。空様と愛奈を取り戻さないと、何も出来ない」
「そうね・・・・」
「義理堅い?」
「っすよ!家臣想い、仲間想いで、民想い。国想い。とても優しい人っす!変人っすけど!」
「・・・・愛するものへの想いが深く、強すぎて、あの方は時折誤解を招きますけれど。だから変人なんて言われるんですよね・・・・」
「御大将は屈折してるんっすよ」
「まだ若いのにね・・・」
「でも、そこがいい。・・・・変人だけど」
「なるほどな。・・・・」
美空の考え方は何となくだが、久遠に似ているな。若い身空で多くの家臣への責任を必死に背負い、善も悪もなく、ただ傍にいる者たちを守るために戦ってきたのであろう。俺は年長者で、そういうときもあったが、一人で背負いこむ事はないはず。仲間で背負いこめばいいとのことだし。あとは、こいつらを見てわかる事は、いつもはやりたい放題だが、時には狙い澄ました一撃を叩き付けることなんだろう。だから、変人と言われても美空を信じて疑わないのだろうよ。
「俺達はしばらく大人しくしとくが、俺達はいつでも力を貸す。それなら約束は出来るだろうしな」
「その時が来たらお願いします」
一瞬、久遠に繋ぎをと思ったが、この騒動を他の奴らに知り渡ればどうなるかわかるし。小波の足なら何とかなりそうだが、俺達の力でできることがあれば使いたいから残ってもらっている。秋子と別れた俺達は、魚津で放置された松平衆の陣所に向かった。
「これは一真様。長尾殿との話し合いはどのような結果に?」
「なにやら春日山が身内に落とされたと聞こえましたが・・・・」
「その通り。美空たちは春日山城を取り戻すために動くのだと。俺が力を貸そうかと言ったが、拒否されてしまったからな。俺達はしばらく放置だ」
「放置!?越後くんだりまで来たのに放置とは、また勝手を申されるものですなぁ」
「久遠様との繋ぎは?」
「できるけど、今はしたくない。通信手段や小波の足でも行けるが、こちらが勝手に動けばあちらに迷惑がかかる」
「それで宜しいので?」
「俺の判断は一度も間違えたことはないはず。今は様子見だ」
「・・・・・・」
「不服そうだけど、現実を見るんだな。確かに松平衆は鬼と戦うために、久遠に呼ばれたこと。越後の内乱に構っていられないと。だけど、これは越後の者を引き入れることが好機かもしれない。でもな、今俺たちが動いたら長尾勢が止めるだろう、それに長尾との信頼関係を結ぶために時間が欲しいわけだし、その間に鬼が食われ続けている時間だということも承知している」
言わなくても分かる状況だろう。情報が足りなかったとはいえ、織田・松平・浅井の三国連合で挑んでのこの結果だ。また再戦するには、時間をかける必要がある。日の本に巣くう鬼を排除するには出来る限りの時間をかけて、必勝の態勢を作るしかない。
「大きな軍勢はともかく、小さな軍勢は出来る限り見捨てられない。大局を見据えて動かなければ、最終的な勝利はないだろ」
今すぐ越前に行って、鬼を何とかすることも俺たちなら可能だが。俺達の兵器で駆逐してしまえば納得しない者はたくさんいるだろう。あとは、勝てるかどうかは五分五分だし。それに俺たちが倒れでもしたらこの日の本の未来は無くなる。たとえ神の力で未来を切り開くより人間の手で切り開いてほしい。
「・・・・出来る限り、ですか」
「俺の腕は二本しかないけど、増やせることもできる。だけど、そうしないようにしてきた」
全ての人間を優しくなどできないし、全てを守ることもできない。それは普通の人間だったらの話だ。俺がヒーローや正義の味方に近いが、この時代とっては死に場所が必要らしい。
「・・・・分かりました。我ら松平衆は、今しばらくは一真様に従いましょう」
呟く葵に表情が見えない。それは本当の本音なのかは知らんが、言いたい事は山ほどあるだろうに。
「それは本音かな?言いたい事あれば聞くが」
「お気遣い、痛み入ります」
本音を言えば楽なのに、葵の表情はその言葉さえ弾き返す。弾き返すと言うより、何もかも飲み込み、閉じ込むような感じだ。
「もし三河に戻りたいのなら、美空に内緒して、転送してやっても構わんが。まあばれたら、しょうがないが」
「はい。その時はお世話になりましょう。・・・・では私は所用がありますればこれにて。・・・・悠季、行きますよ」
「はっ!」
俺の言葉に反応したのか、若干穏やかな感じなのは見れた。ただし、それが本心なのかは俺にも分からない。社交辞令なのかもしれないけど。そうして松平衆に指示を下すべく戻って行く葵たちと入れ替わりに、こちらに駆けてきたのは綾那と歌夜だった。
「・・・・・・っ!?」
けど、彼女たちとすれ違う位置を歩いていた葵の表情を見た二人とも。その表情を見るなり、元気の良い足音は、途端になりを潜めてしまった。
「あのぉ・・・・一真様」
「んー?」
「どうしたですか?殿さんと喧嘩したです?」
「葵様のご様子が少しおかしく思えましたが・・・・」
「意見が相違だけで、別に喧嘩をしたわけではない。安心しろ」
「でも殿さん、怖かったです・・・・」
「悪いな」
葵の様子を見慣れている二人でさえ、あの反応か。俺も気付いてはいたけど、外では納得はしているがやはり内心では不満だったのであろう。
「葵は、この国がよそ者に好き勝手されるのが、我慢ならないんだろうよ。すぐにザビエルや鬼を追い払いたいと焦っているのだろうな」
「そんなの綾那だって同じなのです!あ、でもでも一真様は違うです?」
「ふむ。そうだな。同じではあるが、俺達は越前で負けてしまった。次は必ず勝たなければならない、だからもっと戦力を集めないといけないと思っている」
「・・・・・・」
「三河衆じゃダメですか?綾那、次はもっともっと、もーっと頑張るですよ!」
「それじゃダメなのよ。綾那」
「歌夜までそんなこと言うですか・・・・」
「次に勝てなかったら、何のために一真様が戦っていたのか意味がないわよ」
「あ・・・・・」
「まあ、それについては今後だが。綾那がもっと強くなれるのはあり得るが、綾那一人で背負っても解決しない。もっと力をつけて戦う必要があると俺は思う。だから、美空の力を借りたいがそのために時間を割くことになるけどな」
「与えられた時間をどう使うか・・・・ですか。意見の相違というのは、そういう事だったんですね」
「葵の言いたい事も分かるが、今は難しいところだ」
「・・・・難しいですね。どちらの言葉にも理があります」
まあ、俺だったら神界の神を呼んで、鬼どもを駆逐するのが手っ取り早いが。あくまで人間としての考えだったら悩んで決めるしかない、立ち止まり悩むこともあるが自分の中に答えがあるのならそれを信じて進むしかないだろう。
「それじゃ、俺は戻る。心配かけてすまんな」
「あ、はい・・・・っ」
「・・・・・・」
二人は分かってくれたかどうかは分からないけど、俺は俺で行くしかない。なので、これから一真隊のところに戻って指揮を執るとしようか。
「そうだ、一真様!風邪の対処の件と船酔いの件で、松平衆の皆も喜んでいましたよ。今は本当は、それを言いに・・・・!」
「それならよかった。それが俺のやる事なんだから、それに俺の前で体調を崩されたら困るからな。あまり気にするなよ」
「・・・・はいっ!」
俺は、一真隊の指揮のために行ったが、俺が立ち去ったあとの二人の会話を聞いていた。盗聴器ではなく念話みたいなもので俺の頭の中に飛んできたけど。
「行っちゃった・・・・」
「ねぇねぇ、歌夜ー」
「ん?なぁに?」
「あのですね・・・・綾那は悩んでるです。綾那はいったいどっちの味方をすれば良いですか?」
「・・・・難しい問題だよね」
「・・・綾那はですね、一真様を支えてあげたいって思うですよ。だけど殿さんのことも大切なのです」
「それは私だってそうよ・・・・?」
「だけど二人が喧嘩したら、どうすれば良いです?」
「私もどうすれば分からない。松平のお家は、私にとってとても大切なものよ。だって私だけじゃなくて、お母様もお祖母様も力を尽くして盛り上げてきた、大切な場所だもの。でも一真様も大切だもの。私たちが九頭竜川で渡河をしている間も、一真様一人で戦っていたと聞くわ。それに皆も思うけど、自分でも思っていたこと。一真様がこの世に舞い降りてから、この国の歴史は走る速度を上げている。それまでが徒歩だったのが、早馬に乗ったかのように。・・・・この国の時代の奔流を巻き起こしたのが一真様ならば、この国のためにも、一真様をお守りしたい。・・・・だから私は、松平家の榊原康政として考えるのではなく、松平の家が存在する、この日の本の者として、どちらに付くべきかを判断するつもり」
「それは殿さんとも喧嘩するかもってことです?」
「そうなりたくはないけれど・・・・公平に見て、間違っているのならばお諫めしようと思っているわ」
「うー・・・・歌夜の言う事は、凄く難しく思えるですよぉ・・・・」
「じゃあ、綾那はどうしたい?」
「分かんないから聞いてるですよ!」
「それは、松平家に仕える本多平八郎忠勝と、一真様を好きな綾那がいるってことでしょう?」
「そうですよ。綾那は東国無双になる予定ですけど、綾那と綾那が胸の中で戦っても、決着なんか付かないのです」
「なら、ただの綾那は?」
「ただの綾那・・・・?」
「松平家にお仕えしてる本多の将でも、本多家を継ぐ忠勝でも、一真様を支えたい綾那でもない、ただの綾那は?」
「・・・・・ただの綾那」
「そのただの綾那が一番正しいと思う事をすればいいと思う」
「・・・・そんなことでいいのですか?」
「うん。私はそうするつもり」
「・・・・ふふっ。だったら、そんなの簡単なのです。なーんだ、歌夜もはじめっからそうやって言ってくれればいいのですよー!人が悪いです!」
「そっか・・・・。そうだね。ごめんね、綾那」
とここまで聞いていた俺であったが、これは野暮だなと思い頭の片隅にしまった。今はどうするかを考えるべく一真隊の仲間がいる所まで戻ってきた。これからどうするかの作戦会議だ。
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