戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~
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十五章 幕間劇
あやとり勝負
「うん?梅。これからどこに行くんだ?」
陣幕内を歩いてると偶然梅に会った。
「まあハニー!ご機嫌麗しゅうございますわ。これから、明日の打ち合わせのために、八咫烏隊の二人の所に行きますの」
「ああなるほど。あの二人は、梅の指揮下に入っているんだったな」
「ええ、そうですの。ハニーはどこへ行かれますの?」
「一人でつまらんから、ぶらぶらと歩いていた」
「あら、でしたら私と一緒にいらっしゃいます?」
「いいのか?」
「ええ、構いませんわ。打ち合わせは口実で、本当は二人と親睦を深めたいだけですから」
「なら、同行するか」
「ぜひ!」
八咫烏隊に与えられていた陣屋は、一葉の陣屋を囲むようにしてた。一葉はいる中央と比べると、明かりも少ないのか薄暗く幽霊が出そうな感じだ。同じ傭兵として考えられると、気持ちは分かるが。黒鮫隊は一真隊の影みたいなものだ。
「ここのはずですけど・・・やけに静かですわね」
幕内から物音一つしない。何やっているんだろうなと思ったが。
「烏に雀?入るぞ」
声をかけても返事がないので、梅と顔を合わせて入ることにした。勝手にだけど。
「烏、雀?」
陣屋内には、二人が難しい顔をしながら、烏の手元を凝視していた。こんなに真剣な顔をした二人を見るのは初めてだな。
「二人とも、何をしている?」
「ええいっ、亀でどうだっ!」
はい?亀?
「・・・・・」
「むむむ、茶釜で来たか。だったら・・・・カエル・・・・って、ああああっ!崩れちゃったぁ!」
「(ふふん)」
「あーん、もう、お姉ちゃん強いよ!雀、まだ一度も勝てたことないよぅ!!!」
雀は輪になった赤い紐を放り出して、足をバタバタしていた。
「何をしている?」
「あ、お兄ちゃん!わーい!雀たちはここ、ここだよー!」
だから、分かってるってば。
「で、何してたんだ?」
「雀たちね、今、あやとりしてたんだ!」
「あー、あやとりか」
真剣にやっていたのは、あやとりか。随分前にやってたことがあったな。
「あやとりですって?」
梅は興味がわいたのか、覗き込んでいた。
「梅ちゃん!梅ちゃんも雀たちと遊びに来たの?」
「遊びというか、打ち合わせというか、なんというか・・・ですわ」
梅は陣屋に上がると、雀が放り出した赤い紐を拾い上げた。
「これがあやとりの道具ですの?」
「梅ちゃん、あやとりって知ってる?」
「聞いたことはありますけど、実際にやったことはありませんの」
「じゃあ、雀が・・・・じゃなくて、お姉ちゃんが教えてあげる!お姉ちゃんは器用で上手なの!雀なんて一度も勝てたことないんだよ」
「烏は器用だけど、俺も器用だけどな」
「・・・・」
烏は小さく頷くと、雀に向かって手を伸ばした。
「ちょっと待っててね」
バッグの中に手を入れ、雀がもう一本、輪になった赤い紐を取り出す。それを受け取ると、烏は自分の片手に紐をかける。親指と小指にそれを渡し、器用に何かを編んでいる。しばらくするとその形はほうきになった。
「まあ!」
一旦崩してから今度は両手にかけて、五本の指で器用に動かして綱を作って行く。
「これは橋だね!」
雀の言うとおり、烏の細い指を渡るように橋がかけられていた。烏はそれを崩すことなく、くるりと中指を内側に折り曲げる。
「これは亀!」
「素敵!」
梅から、感嘆の声とともに拍手が上がる。俺は懐かしくて、頭にやり方を思い出していた。烏は気を良くしたのか、そのまま中指を外して広げたあと、交差しているところに人差し指と中指を入れ、手を広げた。
「伸びる紐だよ!」
烏が手を開いたりすぼめたりすると、紐が伸びたり縮んだり見える。
「どうなってるのかしら?不思議だわ」
梅の視線はあやとりで夢中になっていた。
「まだ、これじゃ終わらないの。ね、お姉ちゃん!」
「・・・・・」
最後の仕上げにとばかりに烏は素早く親指と小指にかかっていた紐を、もう片方の指にかけた。
「じゃーん、お魚でーす!!」
「本当だわ、お魚に見えますわね!」
「まだまだ、お姉ちゃんなら色々なものが作れるの。富士山でしょ、はしごでしょ、お日様に、白鳥!」
「へぇー、やるじゃん」
梅と俺は揃って拍手した。烏は照れたのかぺこりと頭を下げた。手先の器用さはこの前のりんごで知ったが、あやとりも出来るのか。俺はたまにだけどあやとりじゃなくて、ネイルとかをやっている。女性隊員にだけど。手先が器用だからネイルとかビーズとか色々と。
「私もやってみたいですわ!ねえ、教えて下さらない?」
「もっちろん!お兄ちゃんも参加するよね?」
「もちろん。それに自分用のがあるからな」
と言って取り出したのは赤い紐ではなく、カラフルな紐を取り出した。昔、女子たちと混ざってやっていたからな。
「わ!準備が早いね。しかも色が様々あるー!」
で、四人であやとり大会が始まった。俺は自分でやっているが、梅は教えながらだけど。
「・・・・・」
「では、まずは基本のほうきです!お兄ちゃんはもうやっているけど、梅ちゃんはお姉ちゃんの真似をして下さい!」
烏は梅に見やすくするように腕を突き出して、ゆっくりと紐を指にかける。俺は俺でやっていたけどね。昔やってたけどどの辺りが昔なのかは分からん。
「・・・こう、ここの指にかけるのが・・・意外と難しいですわ・・・」
梅は絶賛苦戦中らしいが、俺はもう完成している。なので、梅が出来るまで待機してる。
「お兄ちゃんは相変わらず器用だね。りんごの時もそうだったけど」
「こんなの基本中の基本だしな。もっと難しいのも出来たような気がする」
「そうですわね!これぐらい出来ないなんて恥ずかしいですわ」
「だよな。って、はああああっ!」
「う、梅ちゃん、何それ!?」
「(!!??)」
「ほうきに決まってますでしょう?烏さんのやった通りに作ったんですもの。他のものが出来るはずがありませんわ」
得意げに見せてくる梅だったが、明らかに俺と烏が作ったほうきではなかった。ほうきというより投網みたいだったけど。というか短時間で出来るっていうのは凄いな。
「・・・おかしいですわね。烏さんと同じように作っただけですのに。ハニーのも違いますわ」
器用なのか不器用なのか分からないな、これは。梅は頬を膨らませてから、作ったほうきではなく投網を崩す。
「次!次を教えて下さいまし!」
「・・・・」
「えっとね、次はちょっと難しいの。・・・・じゃーん、富士山に挑戦しまーす!」
「富士山なら得意分野ですわ!なんといっても湖の名前を全て言えますもの!」
それとあやとりは関係ないと思うのだが。俺は既に作りはじめている。
「・・・・・」
「お兄ちゃんは作っているから、お姉ちゃんの手にちゅうもーく!」
雀が言ってる間に俺は着々とやっているが、これは初めての者には難しいかもな。
「む・・・・むむむっ・・・・ここを押さえるのが・・・・難しいですわね・・・・」
梅の奴は苦戦中のようだが、俺は完成したので待つ。
「お兄ちゃん、作るの早いねー。あっという間だよー」
「(うんうん)」
「まあな。これでも達人級まで行ったことあるからな」
「・・・できましたわ!見て下さいまし、私のは富士山が二つありますの!」
「どれどれ・・・えええええっ、う、梅ちゃん、それって・・・・!」
「それは富士山な訳ないだろうな。なあ烏?」
「(うんうん)」
「それはつづみだよ!雀も作ったことないのに、梅ちゃんどうやったの!?」
「つづみ?何をおっしゃってますの?これは頭を付き合わせた富士山ですわ!」
「それはつづみだぞ。あと富士山ではないし、そもそも見えないし」
「まあ、ハニーにはこれが富士山に見えないんですの!?どうかしてましてよ!」
「梅ちゃんて・・・・」
「・・・・・」
前から知っていたけど、改めて面白い子だな。
「それにしても、お兄ちゃんはさすがだね。この前のうさぎさんもだけど、お姉ちゃんより器用かも」
「(ぴくっ)」
「さすがですわね、ハニーは。烏さんもですけどハニーも何でも出来て不得意なのはないって感じですわ」
「(ぴくぴくっ)」
なんか、烏の表情が引きつっているな。
「お兄ちゃんはあやとりだったら天下取れちゃうね」
「ははは。大袈裟だな。これで取れたら苦労もしないさ」
「(ぴくぴくぴくっ)」
烏の額に、うっすらと青筋が見えたような気がする。
「・・・・・」
「ん?どうしたの、お姉ちゃん」
「・・・・・」
「ふん、ふんふん・・・・ほええ?」
「なんて言ったんだ?」
「お姉ちゃんが、お兄ちゃんとあやとりの対戦で勝負したいって」
「勝負?」
「・・・・・」
「どちらがあやとり日本一か、ここではっきり決めましょう、だって!」
日本一決定戦ねぇ。烏は負けず嫌いなのか。
「あら、面白いじゃありませんの!この勝負、しかと見届けますわ」
「よし、じゃあ雀も立ち会うの!」
「(キリッ)」
いつの間に立会人が出来てるし。勝負なんてしなかったが、ここで決めるのも悪くはない。
「じゃあ、やるか」
「そうこなくては!」
「じゃあ、先手はお兄ちゃんから!」
烏が梅に教えている間に、昔やってたのを思い出していた。あとデータ状にあったので、創作のもやってたからな。
「じゃあ・・・山!」
「・・・・・」
「お姉ちゃんのは亀だね」
「・・・・橋!」
「・・・・・」
「お姉ちゃんのは塔!」
ふむ、烏は手強い相手だな。だけど、負けてたまるかっつうの。
「・・・こう長引くと、仕合事体地味に見えてきますわね」
いや、これ相当地味な戦いだぞ。
「そうですわ」
なかなか勝負がつかない中で、梅は何かを思いついたのかぽんと手を叩いた。
「ただ仕合をするだけじゃ、つまらなくありませんこと?」
「ほえ?」
「どうせなら何かを賭ければ、もっと緊迫した仕合になりましてよ!」
「おいおい。ここは賭博場じゃねえんだぞ」
「あっ!あー!!雀、いいこと思いついた!」
「一応聞くが、何だ?」
「お姉ちゃんが勝ったら、雀たちを恋人にしてくれるっていうのはどう!?」
烏はキラキラした目で見てたが。
「駄目に決まっているだろうに。俺は物じゃないんだから」
「えー、ダメなの!?」
「・・・・・」
「当たり前だ。勝ち負けで決まるなんて俺は嬉しくもないな」
何か知らんが烏はしょんぼりしてたような気がする。本気にしてたのか?
「ハニーを景品にするのは駄目ですの。違う物にしないと」
「うーん、うーん、他に欲しい物・・・・・なんだろうなあ・・・・うーん、うーん」
「・・・・・」
「西陣織の着物は買ってもらっても着ないし、金の茶釜は持ち運ぶのが大変だし、うーん、うーん」
「買うのより創造できる物なら何とかできるが」
金もあるけど、創造して創っちゃえば早いし。
「あっ、そうだ!雀、一度でいいから『ししや』の羊羹を食べてみたかったんだ!」
「あら、京にある老舗の高級和菓子店じゃありませんの!いいですわね!」
「・・・・・!」
さっきまでしょんぼりしていた烏の顔が明るくなった。というかその店は、前京に行ったときに行ってみたけどあそこか。あのときは堺から京に行ったときだったな。
「梅ちゃんは、ししやの和菓子、食べたことある?」
「ええ!ようかんもねりきりもありましてよ」
「・・・・・」
「ふわー、いいなあ!どんな味がした?」
「あれは・・・・そうですわね・・・・」
美しい想い出を振り返るかのように、梅がうっとりと目を細める。
「口に入れるとすうっと溶けるような甘さが広がって、まるで雲の上にいるような素晴らしい気持ちになりましたわ。あれはもはや芸術品・・・!」
「・・・・いいなあ・・・・」
「雀、よだれを拭け」
「・・・・・」
「烏もな」
「わーい、じゃあ、お姉ちゃんが勝ったら、ししやの和菓子を食べ放題ね!」
「(こくこく)」
「私も久しぶりにいただきたいですわ!楽しみ!」
「梅も参加なのか?」
「鉄砲隊と八咫烏隊は一心同体ですもの、当然ですわ。烏さんが勝ったら、和菓子食べ放題三人前、決まりですわね」
「じゃあ、梅に聞くけど。このようかんを食べてみろ」
と言って俺は空間からようかんを取り出す。これは前にトレミーで作っといた物で余りだ。その高級和菓子店よりうまいと思うけど。で、とりあえず食べてみた梅。
「こ、これは!あのししやよりもいい味でとても幸せになりますわー!これはどうなさったのですの?」
「これ?これは俺の手作りだが。そうだな、烏が勝ったら俺の自慢の和菓子食べ放題でどうだ?」
「ハニーの手作り!!!烏さん、絶対に勝ってくださいまし!」
「・・・・・」
「そんなに美味しかったの?梅ちゃん」
「ええ。これは今まで食べたことのない味でした。どの高級和菓子店よりも美味しいですわ」
食べたあとの皿を返してもらってから空間に入れたけど。その間に烏は燃えていたけど。何せ高級和菓子店ではなく好きな人からの手作りお菓子は燃えるだろうな。
「では、始めようか。亀!」
「・・・・・」
「お姉ちゃんは川なの!」
「・・・・はしご!」
「・・・・・」
「これは三段梯子だね!」
「ほう。では天の川!」
俺の手作り和菓子を賭けた戦いだけど、あまり緊迫感はない。烏たちには勝っても負けてもお菓子あげるつもりだし。
「・・・・・」
「・・・出た!出ました!お姉ちゃんの必殺技!月にむらくも!」
「ふむ。これ以上の技はないな。俺の負けでいいや」
「いいの?」
「ああ、かまわん。ここまで複雑になると、勝負にならないから」
と言って烏の勝ちになったが、勝った気がしない烏。でも俺が作るから、勝っても負けても作る予定だったし。
「雀ね、雀ね、羊羹食べたい!おまめの入ったやつ!」
「・・・・・」
「お姉ちゃんは、栗が入ったのがいいって!」
「私はお干し菓子がいいですわ!あの、口の上でとろける食感!たまりませんの!」
「ふむふむ。羊羹の豆入りに羊羹栗入りに干し菓子ね。あとは何食いたい?作れる範囲ならできるが」
「お抹茶味のようかんもあるって聞いたけど作れる?」
「・・・・・」
「お姉ちゃんは、梅の実をこしたのが入ってるのがあるって聞いたって!」
「抹茶は作れるが梅か。作ったことないが、なんとかしよう」
洋菓子も得意だけど、和菓子も意外と得意なんだよね。主に女性隊員からのオーダーで作るときもあるけど。材料から作るけど、時間を操る事が出来るからすぐできちゃうけど。
「雀、三日前からご飯抜きにする!一生分の和菓子を食べるの!」
「・・・・・」
「ふええ、お姉ちゃんは一週間前から!?気合入ってるね!」
「なんの!それでしたら私は一か月前から抜いて、その日に備えますわよ!」
おいおい。抜いてどうするんだよ。それじゃあ戦のときに腹が減ったらどうするんだか。俺はスマホにあるメモで打ってから、すぐに持って来るよと言って陣幕から出てからトレミーに戻った。
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