ソードアート・オンライン 神速の人狼
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武具店
アスナにボス戦参加を頼まれた翌日、ついにボス部屋が発見され、ボス攻略は三日後ということになった。
そして、現在アスナに教えてもらった武具店を探しにアインクラッド第48層【リンダース】まで足を運んでいるのだが一向に見つかる気配がない。
「リズベット武具店ってどこだよ!」
「……アレじゃない?」
シィの指差す方向には、大きな水車が備え付けられた一軒家。アスナの証言と一致している。そして、【リズベット武具店】と看板もあるのでここで正解らしい。
「なんか武器屋って言うくらいだからもっとゴツいかと思ったぞ」
「確かに。けど、このお店すごくセンスがいいね。店主は女の子かもね〜」
扉を開けて入るとカランコロンと入店を報せる鐘が耳に心地よく響き、「いらっしゃいませ〜」とNPCの売り子の声が聞こえてくる。
「店主を呼んでくれる?」
「かしこまりました〜」
ぱたぱたと店の奥へと引っ込み、入れ替わりでピンク頭にフリルのついたエプロンドレスを着た少女が出てきた。
「どうも、この店の店主のリズベットです。え…と…?」
此方を見て、言い淀むリズベット。隣でシィが「フード取りなよ」と小声で言いながら脇腹を突っついてくる。いつもの癖でついついフードを被ってしまいがちで急いで取り、素顔を見せる。すると、リズベットと名乗った少女は目を大きく見開いて此方を凝視してきた。
「…………可愛い」
フードによって隠されていた顔を見た時思わずそう呟いてしまった。肌は雪のように白く、セミロングの艶のある黒髪は惚れ惚れしてしまうくらい美しい。友人であるアスナも美少女であるが、"彼女"は守ってあげたくなるような可愛さを持っていた。
改めて、"彼女"の方を向くとムスッとし、明らかに不機嫌である。さらに隣のポニーテールの女の子は口を手で抑えて笑うのを必死で我慢している。え?私何かした⁉︎
「可愛いって……俺は男だぞ」
「え?」
耳に手を当てて、もう一度お願いと催促をする。
「俺は男だ!!」
「エェェェェェェ!!??」
リズベットの絶叫が店内に響く。
◆
「全く……。ユーリだ。よろしく、これでも男だからな」
「あはは……はぁ〜、笑った笑った。いや〜、ナイスリアクション、リズさん。私はシィって呼んでね」
なんとか事情を説明……というか、ユーリが男だと納得させたわけだがその間、シィは腹を抱えて笑い、リズベットはマジか……と頭を抱えていた。
「よろしく、リズでいいわ。しかし、ほんっとうに、男だとはね……。」
悪かったなとユーリが不貞腐れ、シィがそれを宥める。割といつもの光景である。
「しかし、ユーリってどこかで聞いた事のあるような……」
「まぁ、これでも攻略組だしな」
「へ?攻略組⁉︎あぁ!思い出した!」
攻略組と聞いた時、何かを思い出せたようでポンッと手のひらを打つ。
「アスナと双璧を成す美少女プレイヤーで、攻略組の紅一点!だけど、ある日を境に姿を見せなくなった事から熱烈なファンに拉致・監禁されているとかなんとか…」
「ちょっと待て⁉︎誰が美少女だ!それに後者はおかしいだろ!拉致監禁って……」
巷で広がっていた自身についての噂を耳にし唖然とする。
「あはは、美少女だって〜。あはは、お腹痛い。ねぇ、まだあったりする?」
「そりゃあ、まだ沢山……「もう言わなくていいから!」ちっ」
なぜか舌打ちをされる。これ以上、話させたら俺の精神がモタなさそう……。
「ところで、なんで攻略組の方々が店開いて間もない武具店に?」
「アスナにいい店ないかって聞いたら、ここを教えてくれた。アスナのレイピアもリズベットのオーダーメイドだろ?」
そう言うと、ふふんと誇らしげに鼻を鳴らす。
「さすが、アスナ!早速宣伝しといてくれたんだ。そうよ、アレは私が今まで作ってきた中で最高傑作よ。あと、リズでいいわ。その代わりタメ口で行くけど」
丁寧語を使っていたかどうか疑問なのだが⁉︎……初っ端から女子扱いされたしな
「了解。そーいや、内装もアスナがやったのか?」
「内装はアスナと一緒にしたわ。……髪型はアスナだけどね」
わー、物凄く納得いく。嬉々としてリズをコーディネートしている姿が目に浮かぶ。
「ところで今日はどうしたの?研磨?武器?」
「あぁ、新しく刀を打って欲しいだ。」
「オーダーメイドって事?……金属の相場が高くなってるけど」
ジロリとユーリの装備を品定めする。黒のローブに袴っぽい物に、上の服はわからないか……。けど、お金大丈夫かな?と心配になる
「ん?金なら心配ないぞ」
「そ、そう。けど、どんな刀にするの。とりあえず、これが今うちである最高の刀だけど」
ふと振りの刀を手渡してくる。大振りの刀身で、大太刀という分類らしい
片手で持ち、振ってみる。なぜか、リズが目を見開いて驚いているだが?
「…………軽いな」
「あんた、どうゆう筋力値してんのよ⁉︎それ、重量系のインゴット使ってるし、重さの方にステ振ってんのよ⁉︎それが軽いって……。あんた、どんな刀使ってるの?」
軽く人外認定された気がする。とりあえず、参考代わりに自分の今使っている刀を渡すと、落としそうになるリズ。
「重っ⁉︎どんな刀よ、コレ⁉︎魔剣クラスじゃない!」
「【妖刀ー紅椿】ですが……何か?」
「 よ、妖刀ー紅椿⁉︎って、あの超難関クエの!」
どんなのと言うのは、めんどくさいので省く。ソロ専用で、モンスターがうじゃうじゃ湧いてくると思ってくれ。
漆塗りの漆黒の鞘から、刀を抜くとまるで血を吸ったような赤みを帯びた刀身が露わになり、キラリと光を反射する。
「これ以上の奴作れるか?」
そう言うと首を横に振るリズベット。
「無理ね。精々今のクウォーターポイントをクリアしない限り、この妖刀を
超える剣を作れるインゴットなんて出てこないわよ」」
「そういうだろうと思ったよ。インゴットはこれを使ってくれ」
ポケットから半透明なインゴットを取り出し、カウンターへと置く。
「【神滅石】?聞いた事ないわね。どこで手に入れたの?」
「それは言えない。まぁ、できそうか?」
「無理ね」
即答するリズベット。使えねー、と目をで訴えかけるユーリとシィ
「ちょっと何その目は⁉︎無理って言っても、今はってことよ!」
「へぇ、じゃあ策があるの?けど、インゴットって打つだけじゃないの?」
とシィが疑問を口にする
「チッチッチ。インゴットわね、それを打つ為のハンマーとか、炉に入れる火とかレアリティがあってそれ相応のレア度じゃないと弱い武器になっちゃうわけよ。それで今使ってるやつだとね〜……。」
なるほどと納得する。
「けどね、最近になってレアな火とハンマーが手に入るクエが見つかったのよ!」
「あっそう、じゃあそれを取ってこればいいんだな?じゃあ、行ってきまグエッ⁉︎」
シィも既に出発する準備をしており、いざ行こうとするとフードの部分を思い切り後ろに引かれ、蛙が潰れた時のような声を出す。
「ちょっと待ちなさいよ⁉︎クエストの情報とか何も教えてないでしょ⁉︎それにさりげなく私をおいて行こうしてない⁉︎」
「…………。ナンノコトカナ?」
「その間はなんだ!その間は⁉︎」
リズの追及をめんどくさそうにしながら、スルーするユーリ
「で?そのクエストって、何?俺らがさっさと行ってクリアしてくるけど」
任せなさい!とナイ胸を張って主張するシィ
「まあ、手伝ってくれるに越したことはないけど。そのクエスト、鍛治スキルを習得しているプレイヤーが居なきゃいけないらしいのよ」
「 要するに連れてけと…………。わかった。それで、クエストの内容と場所は?」
数秒考えた後、リズの同行を許可する。
アレがあるからあんまり人とパーティー組みたくないんだよな……。
ちなみにユーリの言うアレとは、今は隠している尻尾とかである。
心配だな。と内心ため息を吐くユーリだった
◆◇◆
「うわ〜、暑いね。ここ」
シィがうんざりといった感じで愚痴を零す。それほどに今居る場所、《ボルケーノ火山・坑道》というダンジョンは蒸し暑いのだ。
鍛治用アイテムを手に入れる為に武具店から出た3人はクエストを受ける為に第30層にあるボルケーノ火山と如何にもな名称の火山の麓まで来ていた。そこで一人のNPCから約一時間ほど自慢話しを聞かされ、最後にチョロっとクエストの内容が伝えられる。
内容はボルケーノ火山の奥地に生息する竜からドロップされる【竜玉】というアイテムの入手。
だが、何十組ものプレイヤーがこのクエストに挑んだが誰もアイテムを入手できていない。中には、3桁に及ぶ程の回数をこなしたプレイヤーもいるそうだが無駄足に終わったらしい。そして、プレイヤー達は鍛冶スキルをある程度習得しているプレイヤーが居なければ、ダメなのではという結論に至る。
「まぁ、それは違うと思うけどな」
その考えは速攻でユーリに否定されたが……。
「なんでよ⁉︎」
「まぁ、行けばわかるだろ」
そう言うと、奥へと続く道をとっとと先に行ってしまう。
ここ、ボルケーノ火山ー坑道にポップしてくるモンスターのレベルはだいたい30で、高くてもそれより5上くらいである。そして、ユーリとシィの二人はレベル70越え、鍛冶職のリズでもレベルは45はある。
何が言いたいかというと物凄くオーバーキルなのだ……モンスター達にとって。先程から、ユーリが先頭を行き、うじゃうじゃと湧いて来る敵を全て数撃でHPを削りきり、霧散したポリゴン片が消える前に別のモンスターが倒されていくのでそこら中にはキラキラとポリゴン粒子が輝きを放っている。
そんな様子を見て、シィは武器すら持たず、あははと苦笑いを浮かべ、リズはと言うと……
(な、なんのよあのプレイヤー……。強過ぎでしょ‼︎いくらレベル差があるからってソードスキルを使わずに一撃で屠っていくなんて)
ユーリの規格外さに呆れかえっていた。
また、ユーリもソードスキルを使わずに戦っている理由は使えば、フェイスチェンジの効果が自動で解除され、頭のケモミミが露わになってしまうからである。あまり人目に晒したくないので多少無理しつつもソートスキル縛りで戦っていたのだ。
そうこうしているうちに、道が広がり、円形になっている場所へと出る。そして、その円の中央には赤茶色の鱗で覆われた土竜が鎮座していた。名前は【ティアマット】らしい。
『GYAAAAAAa‼︎‼︎』
「うるさいよ!」
『グギャア⁉︎』
開戦の合図と言わんばかりにティアマットが咆哮をあげるが、シィが身の丈ほどある漆黒の大鎌を構え、ティアマットの顎を下からカチ上げ、即座に黙らせる。シィはしてやったりと満足そうな顔をしている。
「さぁ、踊りましょう♪」
その言葉と共にシィの両手に持つ大鎌が深蒼のライトエフェクトを放つ
大鎌 八連撃 デスワルツ
上段からの強烈な一撃をティアマットの顔面に見舞うと、踊るようにサイドステップを踏み、側面を斬りつけていく
『ギャァァァァ⁉︎』
的確に鱗と鱗の間、防御が薄い部分を狙われ悲鳴に近い雄叫びをあげる。そして、仕返しとばかりに硬直時間で動けないシィに前脚を振り下ろし、剛爪で引き裂こうとする。
「あ、危ない⁉︎」
その様子を見て、リズが叫び声をあげるもユーリは何もせずつっ立ったまま。そして、シィは余裕の笑みを浮かべティアマットを見ていた
「あまいあまい」
無理矢理に身体の重心を後ろに倒し、身体を後ろへと反らす。そして、体術スキル 弦月を発動させるとサマーソルトキックの要領で繰り出された攻撃はティアマットの前脚を弾き、その反動を利用し後方へとバック宙で距離を取る
「せいやぁ!」
着地と同時に硬直時間が解けると大きく前に踏み込み、ティアマットに急接近する
大鎌 単発技 クイックスラント
真横に振られた高速の一撃が顔面を捉え、その巨躯をぐらつかせる。硬直が解けると即座に回避をとり、肉薄、攻撃、回避、そして、接近とテンポよくダメージを与えていく
「あんたもあの子も無茶苦茶だわ。攻略組って、こんな化け物染みた輩ばかりなのかしら……。」
中ボスクラスの相手をたった一人で圧倒しているシィを見て、頭を抱える。本来なら、数人のパーティで防御と攻撃を分けて行う筈の戦闘をたった一人で、しかも余裕の笑みすら浮かべているシィを見れば誰でもこうるだろう。
リズがそんなことを考えているうちにティアマットの悲鳴と共に一本目のHPバーが破壊される。
「さて、そろそろ俺らも動くぞ」
「わかったわ」
二人共が武器を構え、ティアマットへと向かって駆け出して行く。シィをティアマットの正面に配置し、そこから三方向から囲むように陣取ると各々の武器による攻撃を仕掛けていく。リズは的確にヒットアンドアウェイを心がけ、安全にせめていき。ユーリはソードスキルを使わず、弱攻撃を連続して当てていくスタンスを取っている。
「プレス攻撃、来るぞ!」
そして、ユーリが指示をだし、二人がそれに従う。連携された動きのおかげで10分を少し過ぎたあたりで二本目のHPバーが消失する。それを確認したリズは内心、ほんっと無茶苦茶ねと呆れていた。
だが、それが油断となり、リズを襲う。
「キャァ⁉︎何よ、こいつら!!」
いきなり背後から黒い物体に奇襲をかけられ、叫び声をあげる
三本目のHPバーに突入した事により、ティアマットの行動パターンが変化し、雄叫びをあげる。すると壁にところどころ空いている穴から巨大な黒いコウモリが何体も湧出してくる。つまり、取り巻きと成るモンスターを咆哮によって呼び寄せたのだ。
名前は"ダーク・バット"。高い隠蔽能力を持ち、背後から奇襲を得意とするモンスター。一体なら全く問題ないが団体でポップしてきて、プレイヤーを囲んでチマチマと攻撃を仕掛けてくる。そして、リズにとって相性が最悪だ。的が宙に浮かび、小さい為、リズのメイスの大振りなスイングは掠りもしなく包囲網をだんだんと狭めてきて、焦りを感じ始める。
「ちっ!シィ、頼んだ!」
「はいよ〜、任せて〜」
リズの危機を察したユーリは即座に援護するべく行動を起こす。ティアマットを隔て、反対側に居るリズの下へと行くため、筋力地をフル活用して壁のような巨躯を飛び越え、リズのすぐ真横へと着地する。そして、ユーリの持つ刀がライトエフェクトを放つ。
「伏せろ!」
「へ⁉︎あ、はい!」
刀 高範囲技 旋車
ユーリを中心に円を描くように振るわれた刀は取り囲もうとするコウモリを次々に食らっていく。そして、たった一度刀を振るっただけでコウモリ達の包囲網を破壊し、運良く残ったコウモリも的確に攻撃を当て、屠っていく。
「大丈夫か?」
「ええ、ありがと。助かった…………え?」
ユーリの問いかけに反応し、返事をし、顔をあげる。そして、視界に写ったモノを見て、目をまん丸にする
「え?なに……それ?いぬ……みみ……?」
「やべ……」
リズが指さしたままフリーズし、その指の先には銀毛に覆われた犬?耳。そしてさっきまで黒かった髪は白く、いや銀髪に変わっていた。一方、ユーリはやっちまったと表情を固まらせていた。
「な、な、な、なんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁ⁉︎」
パリーン
ようやく、再起動したと思った矢先に絶叫をあげる。だが、それはティアマットの断末魔とポリゴンが砕ける破砕音によってかき消された。
「ありゃりゃ、やっぱバレちゃったのね」
静かになった洞窟内にシィの独り言だけが虚しく響いた。
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