退学
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4部分:第四章
第四章
「これなんかいいんじゃねえか?」
「これ?」
放課後の教室で机を挟んで向かい合って話をしている。二人の手には雑誌がありそれを見ながらの話であった。その雑誌は求職雑誌であった。
「これだと楽だし稼ぎもな」
「いいわよね」
「だからこれにしとけ」
その広告を見て麻奈美に勧める。
「これが駄目だったらそれでな」
「うん」
「後な」
良太はさらに麻奈美に問うた。
「奨学金、どうなった?」
「あれから先生と話してみたんだけれどね」
「ああ」
「いいのがあるって。それで私の成績だと充分だって」
「よかったじゃねえか」
良太はその話を聞いて顔を綻ばせた。
「じゃあそっちも安心か」
「ええ。家族全員でアルバイトもはじめたし」
「新聞配達って結構いいだろ」
良太はそう言って笑ってきた。
「俺も昔やってたんだよ」
「そうなの!?」
「そうさ。今は別のバイトしてるけどな。中学の時はそれで遊んでたんだ」
「ふうん」
「バイク買ったのもバイトからだったしな。これでも結構真面目にやってるんだぜ」
「お酒は飲んでないでしょうね」
麻奈美はくすりとした笑みを浮かべて彼に尋ねてきた。
「アルバイトの間は」
「そんなことしたらすぐ首になっちまうじゃねえか」
良太はそう言ってそれに反論した。
「それはしねえよ」
「そう、よかった」
「まさかさ、俺がいつも飲んでるとか思ってねえだろうな」
「違うの?」
「馬鹿言え」
少し頭にきた声で言い返す。
「そんなんだったら部活もできやしねえだろ」
「それもそうね、よく考えたら」
「幾ら何でも学校とかじゃ飲んでねえよ。飲むのは殆ど夜だよ」
「そうなんだ」
「ったくよお。何か変な話になってるな」
「だってお酒臭い時多いんだもの」
「いつも結構飲んでるからな」
憮然とした顔になった。
「酒が残ってる場合もあるんだよ」
「ふうん」
「まあ部活の時までにはいつも抜けてるさ。だから大丈夫なんだよ」
「けれどお酒は飲むのね」
「煙草とか薬よりはずっといいだろ?」
「まあそうだけれど」
「酒はいいんだよ、酒は」
かなり強引に主張する。
「美味いしな」
「そういう問題じゃないと思うけれど」
「まあその話は止めにしようぜ」
いい加減らちがあかなくなってきたからだ。
「とにかくちょっとやってみな、いいな」
「ええ」
「それで駄目だったらまた考えればいいし」
「また考えれば」
「やめるってのは何時でもできるだろ?」
良太は少しありきたりで学校の先生が言うようなことを言った。
「けれどよ、続けるってのはあれなんだよ」
「難しいのね」
「俺が言うとおかしいか?」
「まあね」
「ここで否定するのが普通だろうが」
それを言われて憮然とした顔を作ってきた。
「ったくよお、何で俺ってこうも軽く思われてるのかね」
「だって不良だし」
麻奈美は笑ってそう述べた。
「いつもの態度がそんなのだからね」
「ちぇっ」
そう言われると面白くないのが人情だ。口を尖らせる。
「まあいいさ」
けれどその不機嫌をすぐになおすことにした。
「とにかくな、これで駄目ならまた考えて」
「アルバイトもう一個増やせるかしら」
「ああ、それは止めとけ」
「どうして?」
「今でもきついのにこれ以上入れたら成績が悪くなりそうだ」
「学校の勉強のこと?」
「そうさ。入れるっつったら真夜中しかねえだろ」
「いえ、土日にも」
「あっ、それがあったか」
これは良太も見落としていた。
「そういえばそうだった」
「そこでもバイトすればどうかしら」
「ああ、それいいな。あといいスーパー紹介してやるよ」
「安売りの?」
「学校の側のあのスーパーだよ。あそこはよく安売りやってるぜ」
「何でそんなの知ってるの?」
「決まってるだろ。そこでいつも酒のつまみ買ってるからだよ」
実にわかりやすい理由であった。
「それでだよ」
「ふうん、そうだったんだ」
「特価とか多いからな。それで」
「ええ」
「あと通学の定期もな。半年分買って」
「あっ、それはもういいの」
「自転車にでもするのか?」
「うん、マクドナルドもそれで行けるし」
「じゃあそっちはそれでいいな」
「ええ、それでいけるわ」
「何かどんどん切り詰めていってるな」
「だってそうじゃないと」
麻奈美は首を傾げさせた。
「やっていけないから」
「そうだよなあ。とりあえず高校はこれで凌いで」
「やってみる。それでいいよね」
「ああ、頑張れよ」
良太は声をかけた。
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