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戦国異伝

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第百八十話 天下の宴その五

「それがしも近江にいることもありますが」
「そこで食するものはですな」
「尾張より薄いです」
 その味が、というのだ。
「どうにも」
「国によってそこが違いますな」
「そうですな、しかし」
「しかし?」
「はい、この鮒ですが」
 見れば今の膳には鮒がある、その鮒は随分と小さいがかなりの珍味だ。羽柴はその珍味を食して言うのだった。
「鮒寿司ですが」
「如何でしょうか」
「いや、これはまた」
「美味ですな」
「珍味と言ってもいいですか」
「よき味ですな」
「そう思いまする」
 食べつつ笑顔で言うのだった。
「この鮒寿司は」
「琵琶湖の鮒ですな」
「では安土からもすぐですな」
「はい、そうですな」
「いや、安土にいますと」
 どうかとだ。笑顔で話す羽柴だった。
「こうして山海の珍味が集まるのですな」
「少なくとも岐阜よりよいやもな」
 こう言ってきたのは前田だった、見れば彼も羽柴の隣にいる。
「こうしたことについては」
「そうじゃな、こうして山海の珍味が食せるとは」
「特別な宴といってもな」
「海の魚もあるしのう」
「そうじゃな、しかしな」
「しかしじゃな」
「何でも石山だとな」
 あの本願寺がある場所ならというのだ。
「余計によいとか」
「瀬戸内の海が前にあるからか」
「しかも後ろには大和の山達もある」
「ではここ以上にか」
「山海の珍味が集まりやすいであろうな」
「ではあそこに城を築けば」
 どうなるかと言う羽柴だった。
「相当に美味いものが食えるな」
「そうなるであろうな」
「ううむ、あそこはそうした場所でもあるか」
「その様じゃ」
「わしは美味いものが好きじゃ」
 羽柴はかなり素直にこう述べた、
「実にな」
「御主挽き米が特に好きじゃな」
「相当に好きじゃ」
 実際に、と言う羽柴だった。
「あれは特に好きじゃ」
「しかし美味いものならじゃな」
「好きじゃ、百姓の倅がこうしたものを食えるとは」
 どうかとだ、羽柴はこのことについては考えを込めて述べた。
「いや、夢の様じゃ」
「御主も最早二十万石持ちじゃしのう」
「それも信じられぬわ」
「凄いことになっておるな」
「又左殿も十五万石ではないか」
「うむ、尾張におった頃を考えると夢の様じゃ」 
 前田も笑ってこう言う、その山海の珍味を食べつつ。
「しかもこうして山海の珍味を驚くまでにl食える」
「まさに夢じゃな」
「その様じゃ、全ては殿のお陰じゃ」
「殿がここまで引っ張ってくれておるな」
「そしてこれからもな」
「うむ、殿と共にあれば」
「我等も幸せになれる」
「そうじゃな」
 こう話すのだった、二人で。そして長政もだった。 
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