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戦国異伝

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第百八十話 天下の宴その四

「ううむ、これは」
「まことに素晴らしき味」
「素材も見事ならば味付けもよし」
「これ程までとは」
「思った以上ですな」
「全く」
「味は」
 その味付けはというと。
「濃いですな」
「これは尾張の味じゃな」
 織田家の青の者達はこう言う、だが。
 公卿達はだ、それぞれ顔を見合わせてこう話したのだった。
「まことによき味ですな」
「全くでおじゃる」
「いやいや、この味は」
「薄口で食べやすいでおじゃる」
「まことに都の味」
「お見事でおじゃる」
 こう言うのだった、その彼等をそれぞれ見てだ。
 長政はそっとだ、傍らにいる羽柴に尋ねたのだった。
「まさかと思いますが」
「はい、おそらくですが」
「殿は客に合わせて味を変えておられますか」
「料理は同じでも」
 その味はというのだ。
「そこは変えておられますな」
「やはりそうですか
「我等尾張者はです」
 羽柴はその馳走を実に美味そうに食しつつ話す。
「濃い味が好きなので」
「そうでしたな」
「はい、しかし都の公卿の方々は」
「薄いお味がお好きですな」
「そこが全く違います」
 味の好みが、というのだ。
「ですから」
「それで、ですな」
「殿も以前都の食事を召し上がられましたが」
 この時のことをだ、羽柴は長政に話した。
「お口に合わないと申されました」
「そうしたこともあったとのことですな」
「しかしです」
「殿は濃い味がお好きですな」
「それもかなり」
 それが信長の味の好みだというのだ。
「そうしたこともありますので」
「それぞれの方に合わせてですか」
「味を変えておられます」
「そうでしたか」
「大きく分けて武家と公家でしょうか」
 この二つに分けられるというのだ。
「そうなります」
「武家と公家ですか」
「無論我等も様々ですか」
 その武家の者達もというのだ。
「それがしにしても元は百姓の倅ですし」
「羽柴殿も」
「ですから」
 それで、というのだ。
「人によって舌が違うことも踏まえまして」
「同じ料理でも味付けを変えられて」
「出されています」
 そうだというのだ。
「そうされています」
「左様ですな」
「いや、それがしもです」
「羽柴殿もですか」
「味は濃い方がよいです」
 羽柴もまた然りとだ、笑顔で食べながら話す。
「そちらの方が」
「左様ですか」
「それがしも尾張の者です」
「では、ですな」
「味は濃い方がしっくりいきます」
「近江とはそこが違いますな」
 ここでだ、長政はこんなことを言った。
「近江の味は薄い感じがすると、市がよく言います」
「奥方様がですか」
「そうなのです」
「そういえばそうですな」
 羽柴も長政が市からの言葉を話したのを聞いてこう言った。 
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