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戦国異伝

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第百八十話 天下の宴その六

 その馳走を食しながらだ、しみじみとして述べた。
「市にも食させてやりたいのう」
「この馳走をですな」
「是非」
「はい、そう思いまする」
 こう羽柴と前田に言うのだった。
「是非にと」
「そういえば茶々様ですが」
 羽柴がふと彼の娘の一人のことを尋ねてきた。
「何でもお市様にかなり似ておられるとか」
「はい、どんどん似てきておりまする」
「左様ですか」
「このままいけばかなりのおなごになるかと」
「でしょうな、お市様は大層お美しいですから」
「今から楽しみです」
「いや、それがしも」
 ここでこんなことも言う羽柴だった。
「ああした方と」
「こら、猿」
 佐々がここで羽柴にどうかという顔で言ってきた。
「御主にはねね殿がおるだろう」
「おっと、そう言うか」
「そうじゃ、この前も妾のことで喧嘩をしておっただろう」
「いやいや、それはな」
「御主はもう少しな」
 こう言うのだった。
「おなごは控えよ」
「そう言うか」
「おなごも過ぎるとな」
「身を滅ぼすか」
「そうじゃ、しかもねね殿はな」
「よき女房だと言うのじゃな」
「殿も言っておられよう」
 信長も、というのだ。
「ねね殿は御主に過ぎたる女房だとな」
「うむ、この前あれに文を書かれてな」
 信長が直接書いたものである。
「ねねを随分と褒めておられてな」
「御主のことも言っておったそうじゃな」
「そうじゃった、それでわしには過ぎた女房だとな」
「だからじゃ、確かにまだ御主達には子はおらぬが」
「それでもじゃな」
「ねね殿程の奥方はおられぬぞ」
 だからだというのだ。
「もっとな」
「おなごは慎めというのじゃな」
「あまりねね殿を困らせるな」
 佐々もこう言うのだった。
「よいな」
「そうか、では側室もか」
「いらぬであろう」
 羽柴には、というのだ。
「そう思うわ」
「左様か」
「そうじゃ、しかし御主は」
 ここでこうも言う佐々だった。
「今も親孝行は欠かしておらぬな」
「母上にじゃな」
「小竹殿もな」
 秀長も見て言うのだった。
「随分と親孝行じゃな」
「恐れ入ります」
 その秀長からの言葉だ、今も兄の傍にいる。
「そう言って頂き」
「いや、まことにそうじゃからな」
 兄弟二人共だ、実に親孝行だというのだ。
「猿も小竹殿もその親孝行はわしなぞ足元にも及ばぬわ」
「全くじゃ」
 金森もそうだと言ってきた。
「御主達程の親孝行は然程おらぬわ」
「今もこう考えておるな」
 前田が羽柴兄弟に笑いながらこう問うた。
「お母上にこの馳走を食べさせてやりたいと」
「おお、おわかりですか」
 羽柴は前田のその言葉にまさにという口調で返した。 
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