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戦国異伝

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第百八十話 天下の宴その三

「有り得るとな」
「確かに。公方様はどうも織田家を嫌われておるのは間違いない様ですし」
「疎んじておられるな」
「ですからそれも」
 挙兵はとだ、利休も述べる。
「有り得るかと」
「御主もそう思うか」
「それがしもそう思います」
「では勘十郎によく言っておくか」
「それがよいかと」
 利休も信長に確かな声で述べた。
「そしていざという時は」
「その時はじゃな」
「殿の考えられるままがよいかと」
「左様か」
「はい、このことは」
「わかった、ではな」
 信長は最悪の事態も考えた、だがそれは言葉に出さずにだ。
 そのうえでだ、こう利休に言ったのだった。
「では宴の後でじゃ」
「はい、その時に」
「大きな茶会をする」
「宴に来られたどの方もお招きした」
「そうじゃ、酒の後でじゃ」
「お茶をですな」
「それを楽しんでもらう」
 こう言うのだった。
「是非な」
「わかっております、それでは」
「わしも楽しみにしておるからな」
 信長は尚更である、何しろ彼は酒は飲めない。それで茶を愛するからである。
「頼むぞ」
「さすれば」
「御主も宴に出るしのう」
 利休も信長の重要な臣下となっている、それ故である。
「では頼むぞ」
「はい、では」
 こう話してだ、信長は利休との話を終えてそうしてだった。彼等はそれぞれ宴の場に赴いた。信長は宴の主の場に座った。傍らには家康がいる。
 その家康に顔を向けてだ、信長は笑って話した。
「では今日はな」
「はい、馳走をですな」
「楽しんでもらいたい」
「さすれば」
 家康も信長の言葉に微笑んで応えた、そうしてだった。
 膳が運ばれてきた、その膳にあったのを見て家康は目を見張って言った。
「何と、これは」
「驚いたか」
「はい、鱧に鴨に」
 それにだった。
「見事な海草に山菜ですな」
「山海の珍味というのじゃな」
「まさに」
 そう言うべきものだというのだ。
「これは凄いですな」
「ではな」
「はい、頂きます」
 家康は信長に応えつつ箸を取った、その箸に膳自体や椀を見てだった。今度はこう言った。
「どれも漆が」
「気付いたか」
「素晴らしい漆ですな」
「全てな、職人達に作らせたのじゃ」
「漆職人達にですか」
「銭を弾んでな」
「そうされましたか」
 このことにも驚いている家康だった。
「ここまで」
「やはりこうした時は漆じゃな」
「そう思いまする」
「そう思ってじゃ」
 作らせたというのだ、そして食べるとだった。
 家康だけではなく誰もがだ、その山海の珍味を食べて言うのだった。 
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