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ハイスクールD×D ~聖人少女と腐った蛇と一途な赤龍帝~

作者:enagon
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第2章 滅殺姫の憂鬱と焼き鳥の末路
  第38話 罠




「やられましたね」

「ええ、そうですわね」

 私と朱乃さんは眼下に見える体育館を見ながら言った。作戦は原作同様体育館の上空で朱乃さんが魔力を溜めつつ待機、体育館内部の敵は白音とイッセーが引き付ける。そして朱乃さんの魔力が溜まると同時に2人は退避して体育館ごと敵を一網打尽という作戦だった。でもまさか……

「まさか敵も同じ作戦だったとはね」

 そう言って私たちは私達よりさらに高い上空に視線を向ける。そこには女王(クイーン)のユーベルーナさんが杖を手に宙に浮いていた。あそこから体育館を爆破したんでしょうね。確か二つ名は爆弾王妃(ボム・クイーン)だったかしら。その名の通り体育館は完全に爆破され今でも炎と煙を盛大に吹き上げているわ。

「ふふ、撃破(テイク)

 そう言った後ユーベルーナさんはこっちを向いたわ。

「随分大胆なことをしますね、ユーベルーナさん」

「あら、そちらも同じ事をしようとしていたのではなくて?」

「あらら、バレてましたか」

 う~ん、やっぱり指揮能力はまだ部長よりライザーの方が上かな?

「本当はあの場には貴女がいてくれると良かったのだけれど、まあいいわ。こちらの2人と引き換えにそちらの2人を狩れたんですもの」

「あれ? 私が狙われてたんですか?」

「当然でしょう? あんなことをしておいて」

 あんなことって……どのことだろう?

「火織ちゃん、あなた何をしてきたんですの?」

「いや~、いろいろやりすぎてユーベルーナさんがどれを指して言っているのか私にはさっぱり……」

「やんちゃですわね火織ちゃん」

「いえそれほどでも」

「あれがやんちゃで済むはずないでしょう!」

 うわ~、めっちゃ怒ってるよユーベルーナさん。私そこまでのことしたかな?

「まあいいわ。あなたには直接対決であの時の借りを返したいと思っていたの。お相手してくださるかしら?」

「……それが私達ではなく体育館を先に爆撃した理由ですか?」

 ちょっと気になってたのよね。その気になれば上空に止まっていた私達を不意打ちすることも出来たのにわざわざ私たちの前で別の対象を攻撃したのが。

「ええそうよ。すぐに体育館にいたあなたのお仲間の後を追わせてあげる」

 なるほど、やっぱりそうだったんだ。……まだまだ甘いわね。そう思うのと同時に

『ライザー・フェニックス様の兵士(ポーン)2名、リタイヤ』

「なんですって!?」

 グレイフィアさんのアナウンスが流れた。それと同時にユーベルーナさんはすっごい驚いてるわね。だって向こうの兵士(ポーン)と一緒に爆撃を受けたこちらの駒のリタイヤのアナウンスが流れなかったんだから。ちょっと心配だったけどどうやらあの2人は無事のようね。

 それにしても兵士(ポーン)2人? 確か原作では体育館にはイルさん、ネルさん、ミラさんの兵士(ポーン)3人と雪蘭さんの戦車(ルーク)1人で計4人いなかったっけ? 今の爆撃で生き残れるとは思えないし、そうなるとライザーは少々作戦を変えてきたかな? もし原作の3人の内の誰かだとしたら……双子を離すとは思えないしリタイヤしたのはイルさんとネルさんかな? 完全に配置を変えてきていたら誰がリタイヤしたか分からないけど。

 そう思うと同時に今ももうもうと拭きあげる煙の中から影が飛び出した。よく見ればそれはイッセーを小脇に抱えた白音だったわ。服はちょっとばかり汚れちゃってるけど大きな怪我は無さそうね。まあ白音はあれより強い攻撃にいつも晒されてるから大丈夫だとは思ってたけど。

「くっ、まさか仕損じるなんて……おのれ、今度こそ!」

 おっと、ユーベルーナさんがこっちを無視して白音に杖を向けたわね。白音もちゃんと反応して回避行動に移ってるけど……ここはお姉ちゃんの責務を果たしますか。

 私はユーベルーナさんと白音の間の中間地点に一瞬で割って入ると腰の七天七刀に手をかけた。ふふ、今の動きにユーベルーナさん驚いてるわね。実は服の各所にスラスターの代わりになる魔獣を忍ばせてるのよ。イメージとしてはアーマード・コアのクイックブーストかフルメタル・パニックアナザーのアジャイルスラスタ、もしくはONE PIECEの衝撃貝(インパクトダイアル)を全身に仕込んでると言った方が分かりやすいかな? とにかくこれで私は一瞬だけ爆発的な速度で動けるのよ。さらに連続で使えばかなりの距離を一瞬で移動できたりするしね。初めてこれを思いついて試した時は大変だったな。まだ体が出来てなかったから衝撃に体が耐えられなくって骨があっさり外れたり折れたりしちゃったのよ。龍巳に泣きながら怒られたっけ? 懐かしいわ。

 とまあそんな感じに一瞬で間に割って入った私はユーベルーナさんの杖が一瞬光ると同時に七天七刀を抜刀術の要領で思いっきり抜き放つ。すると何かを斬る手応えとともに私の両側を何かが通り過ぎ、後方の白音の両側で爆発が起こった。

「なっ!? 私の爆発魔法を!?」

「不可視の魔法を斬ったのは初めてですけどなんとかなるもんですね」

 いや~、実を言うとちょっとだけヒヤヒヤした。だって斬る対象が見えないんだもん。さて、じゃあお望み通り相手をしてあげますかね。

「火織ちゃん、ちょっと待ってくださる?」

 と斬りかかる前に朱乃さんが更に私とユーベルーナさんの間に割って入ってきた。

「火織ちゃん、ここは私が相手をしますわ。火織ちゃんは作戦通り次の行動に移ってくれるかしら?」

「……でもいいんですか? 相手かなり強いですし狙いは私ですよ?」

「ふふ、たまには先輩にカッコつけさせてください」

 う~ん、そう言われると断りづらいわね。

「分かりました。ここはお任せします。でも気をつけてくださいね? たぶんあれ、持ってますよ」

「ええ、分かっています。それに火織ちゃんのおかげで私だって、ね?」

「そうですね。じゃあここはお願いします」

 私はユーベルーナさんの相手を朱乃さんに任せ、白音とイッセーと合流するために地上に降りた。

「悪いけど私はあなたではなく彼女と戦いたいの、雷の巫女さん」

「あらあら、つれませんわね爆弾王妃(ボム・クイーン)さん」

「……その名前はあまり好きではないの。品がないもの。呼ばないでくれるかしら? 分かったらそこをどきなさい」

「そういうわけには参りませんわ、爆弾王妃(ボム・クイーン)さん」

「この! 呼ぶなと言ったでしょう!?」

 その言葉とともに背後でものすごい轟音がした。朱乃さん、わざわざ相手を怒らせなくたって……。

 激しい攻防が繰り広げられる空間をあとにし、私は白音とイッセーと合流した。

「さて、じゃあ私たちは予定通り次の場所に行きましょうか」

「……いいのか? 朱乃さんだけに任せて」

「まあ本人がやるって言ってるし。それに条件は一緒だから多分負けないわよ」

「まあそれならいいんだけど……」

「では行きましょうか、火織姉様、お兄ちゃん」

 というわけで私たちは白音先導のもと建物の影などを経由して部室棟の並ぶグラウンドの方へと足を進めた。そういえば

「イッセー、私の貸した氷輪丸はどうしたの?」

「え? ……あっ! しまった! さっきの爆発で手を離しちまった!」

「まったくしょうがないわね」

 私は新たに一振りの氷輪丸を創りイッセーに投げ渡した。

「次は失くすんじゃないわよ? いくらでも創れるけど戦場ではいつ渡せるか分からないんだから」

「すまねえ、気を付ける」







「火織、白音、イッセー! こっちこっち!」

 もうすぐグラウンドに着くというところで近くの建物の影から黒姉が顔を出してこちらを手招きしていたので、私たちは急いでその建物の影に飛び込んだ。そこには黒姉と祐斗が息を潜ませていたわ。

「朱乃さんはどうしたんだい?」

「朱乃さんは今敵の女王(クイーン)と戦闘中よ。先に行けと言われたから取り敢えず私達だけで来たわ」

「……朱乃さんだけに任せて大丈夫かい?」

「私の見た限り大丈夫だと思うわ。それよりこっちはどうなの? ここ何人くらいいる?」

 その言葉に黒姉は顔をしかめて答えた。

「仙術で確認したんにゃけど……グラウンドを取り囲むようにして12人がバラバラに隠れてるにゃ」

「「「12人!?」」」

 ちょ!? 12人ってライザーとユーベルーナさんを除いた残り全員じゃない! っていうか

兵士(ポーン)は誰も本陣の方に行かなかったの!?」

 そう私が言った瞬間……何故か黒姉はバツの悪そうな顔をして私達から目を逸らした。そして祐斗は苦笑いしつつ私達の本陣のある方向を指さした。私達がなんだろうと思い振り返って指さした方を見てみると…………そこには腐海が広がっていた、ってえぇぇぇぇぇぇぇ!? 何あれ!? どういうこと!? なんか木々がどろどろに溶けかけていていかにも毒吐いてますって感じに煙があっちこっちから吹き出してるんだけど!

「く、黒姉?」

「……ほんのちょ~っと出力を間違っちゃったにゃ」

「まああんなのの中に突っ込んでいく人はいないよね」

 苦笑いしてる場合じゃないわよ祐斗! これじゃあ誰も罠にかからないじゃない!

「……せっかく頑張っていっぱい罠仕掛けたのに台無しです」

 あ、白音が落ち込んじゃった。

「んにゃぁぁぁぁぁぁぁ!? ごめんね!? ごめんね白音!」

「……黒歌姉様のバカ」

「んにゃぁぁぁ! お願いだからお姉ちゃんを嫌わないで~!」

 あ~あ。黒姉泣きながら白音に抱きついちゃった。これは当分使い物になりそうにないわね。

「なあ木場、お前たちの方からは仕掛けなかったのか?」

「うん、僕達もそう思って1人ずつこっそり近づいたんだけどね。こちらが近付くとどういうわけか接触前に逃げるんだよ。どうやら向こうもこっち同様相手の位置を探れるみたいだね。多分この辺り一帯に探査魔法がかかってるんだと思う」

「ということは私達がここに隠れてるのもバレてそうね」

「たぶんね。お互いに居場所は分かってる状態だ。それでどうしたら良いか黒歌さんと話し合っていたところなんだよ」

 やっかいね。戦おうとしても戦ってくれないなんて。時間切れでも狙ってるのかしら? こうなったらいっそ……

「相手のいる位置に転移して奇襲をかける?」

「え? 火織、ゲームが始まったら決着が付くまで転移魔法陣は使えないんじゃなかったのか?」

「ほら、私は影を媒介にした転移とか使えるから。何なら私の影を相手の影につなげて、足掴んでここに引っ張りだすこともできるけど?」

「なんつーか、それかなりエグいな。防ぎようがねぇじゃねーか。っていうかそういう魔法どうやって覚えたんだ?」

「ん? もちろん独学」

 本当はそれ用の魔獣を使ってるんだけどね。今も念のためポケットには10種類ほど魔獣を入れてるのよ。魔王様達が見てるからあまり使いたくないけどね。

「火織さん、それもいいかもしれないけどそれは最後に取っておこう。その戦法はルール上かなりギリギリだと思うしヘタしたらその場で退場なんてこともありえるからね」

「あ~、それは勘弁願いたいわね。じゃあどうしようか?」

 と、私達が頭を悩ませていると……

「リアス・グレモリーの騎士(ナイト)、神裂火織! 隠れているのは分かっている! 出てこい! 貴様に尋常の勝負を申し込む!」

 という大声が聞こえた。私達は顔を見合わせこっそりと声のした方向、グラウンド中央の方を覗いてみる。そこには

「あいつら、焼き鳥の騎士(ナイト)だっけ?」

「ええ、鎧を着ている方がカーラマインさん、髪の毛を頭のてっぺんで縛ってるのがシーリスさんよ」

 2人の騎士(ナイト)がグラウンドの中央からこちらを見ていた。

「っていうかここにいるの完全にバレてるわね」

「はい、2人ともこっちをバッチリ見てます」

「どうするにゃ? 火織、勝負申し込まれてるみたいにゃけど」

「っていうか向こうが2人の時点で尋常な勝負もクソもねぇんじゃねーか?」

「いや、彼女たちも騎士(ナイト)なら1人ずつ順番に戦うくらいするんじゃないかな?」

「う~ん、それはどうだろ?」

 私は祐斗の言葉に首を捻らざるを得なかった。

「確かにカーラマインさんはザ・騎士(ナイト)って感じなんだけど、シーリスさんは勝つためなら何してもいいって感じの人なんだよね。勝負の時だけならまだしも私生活でも自分と主のためなら何をしても許されると思ってるフシがあったから教育が大変だったよ」

 その言葉に皆黙り込んだわ。

「じゃあ鎧着てる方がまず戦って、その隙に横から斬りかかってくるとか……」

「まあシーリスさんなら平気でするでしょうね。そもそも考え方が合わないあの2人がああして肩を並べている事自体私は不思議なんだけど」

「……もう考えるのめんどいし、いっそのこと全員で行かにゃいかにゃ?」

 黒姉、いくらなんでも適当すぎるでしょ。

「片っぽを火織が相手してもう片っぽを私達が監視してればいいにゃ。変な動き見せたら……同じ騎士(ナイト)が相手してあげたらいいにゃ」

「うん、まあ僕はそれでいいけど」

「……じゃあそうしましょうか。どの道居場所バレてるからここに残っても奇襲も何もできそうにないしね」

 というわけで私たちは全員連れ立ってグラウンドに向けて歩き出した。向こうの騎士(ナイト)2人はその様子を手を出さずにじっと見てるわ。

「久しぶり、と言う程でも無いですかね?」

「ああそうだな。たかだか5日ぶりだ」

 答えてくれたのはカーラマインさん。……でもなんで申し訳なさそうな顔してるんだろう?

「呼びかけに答えてくれて嬉しいよ。こうして申し込んだとはいえ正面から出てくるなど正気の沙汰ではないからな。正直言って私はお前たちのようなバカが大好きだ。出来る事ならこのまま一対一の尋常ならざる斬り合いがしたかったよ。だから……すまない」

 その言葉とともに……

「……なるほど、あなたと考え方の合わないシーリスさんが隣にいるのが変だと思いましたけど私達全員を引きずり出して包囲するためでしたか」

 各所に隠れていたライザーの眷属たちが現れ、グラウンド中央で完全に包囲されたわ。ちょっと考えれば分かることだったのに考えが足りなかったわね。

「こうして眷属を一箇所に集めて一網打尽にするのが狙いでしたか」

「いいえ、少し違いますわ」

 私の問いにレイヴェルが答えてくれた。

「私達の狙いはただひとつ、あなたですわ」

「……………………

 …………………………………………

 ………………………………………………………………はい?」

 え!? ちょ、ちょっと待って!? この大人数の狙いが私1人!? なんで!?

「あなた、自覚ないんですわね。これはお兄様と私達、共通の見解ですわ。あなた達のチームで一番強いのはあなた。あなたさえ抑えれば後はお兄様と女王(クイーン)のユーベルーナでどうとでもなる。ですから私達全員であなたを取りに来たのですわ」

 な、なんか盛大に勘違いしてらっしゃる。隣にいる黒姉と白音だって私並に強いし、本陣には龍巳だっているのに。……3日間の教育で勘違いさせちゃったのかな?

「なるほど、じゃあ私達をここで抑えている間にライザー様が部長を取りに行くんですか? あの森を突破するのはライザー様でも厳しいと思いますけど」

「いいえ、その必要はありませんわ。御覧なさい」

 そう言ってレイヴェルは新校舎の方を指さした。……ん? ちょっと待って。新校舎? ……ま、まさかとは思うけど……。

 私はものすごい嫌な予感とともに新校舎、その屋上の方に目を向けてみた。そこには

「う、嘘でしょ?」

 そこにはライザーと対峙している部長とその後ろでオロオロしているアーシア、そして諦めきったような表情をしている龍巳がいた。

「ぶ、部長一体何してるにゃ?」

「っておいいいいいいいい! なんで部長が敵本陣にいるんだよ!?」

 イッセーはそう叫ぶと共に通信機に向かって呼びかけた。

「アーシア! 聞こえるかアーシア!」

『イッセーさん! 大変なんです! 部長さんが!』

「こっから見えてる! なんでそんなところにいるんだ!」

『ライザーさんから通信がありまして、一騎打ちを申し込まれたんです! それで部長さんが応じてしまったんです!』

「なんだって!?」

 はぁ、やっぱり。こんな事にならないために試合映像見せて勉強させたっていうのに、なんでここだけ原作通りの展開になっちゃうのよ……。

「龍巳、聞こえる?」

『……ん』

「なんでそんなことになっちゃってるの?」

『よく分からない。あれよこれよという間にこんな事に。止めたけど聞いてくれない』

「もしかしてライザー、私達をバカにしたり部長のプライドを刺激するようなこと言ってなかった?」

「そんなことも多分言ってた……と思う」

 はぁ、部長、まんまと載せられたわね。

「分かった。もう好きにさせてあげなさい。龍巳、あなたは部長がやられそうになった時だけ動いて」

「ん、分かった」

 そして私は通信を切った。なんというかもう……言葉も無いわ。いろいろ教えたのに結局はプライドが勝っちゃったか。

「一体何考えてるにゃ、うちのバカ主は」

「あの人の眷属でいるの、心配になって来ました」

「いっそのこと眷属やめるかにゃ?」

「それもいいかもしれません。勝手に出ていくとはぐれになって犯罪者になるので誰か良い人見つけてトレードしてもらうのがいいと思います」

「じゃあまだ戦車(ルーク)2個と騎士(ナイト)1個、兵士(ポーン)8個使ってない人探さないといけないにゃ」

「って何2人本気で眷属やめること考えてんだ!?」

 イッセーは黒姉と白音にツッコんだ。この状況でそんな話してたらまあツッコまざるをえないよね。祐斗も困った顔してるし。まあでも

「心配ないわよイッセー、この2人も本気で言ってるわけじゃないから。でしょ?」

「「うっ」」

 2人共声をつまらせてそっぽを向いた。いろいろ思うところはあるだろうけど、それでも随分と仲良くなったもんね。今更優しいこの娘達が部長を見捨てるなんてないでしょ。

「何だ冗談かよ。焦ったぜ」

「そうだね。一瞬このまま2人共リタイヤしちゃうんじゃないかと思ったよ」

「……まあ流石にこのまま見捨てたりはしないにゃ。……でもうちのバカ主、いやもうこの際バカ殿でいいかにゃ? とにかくバカ殿にはゲームが終わったら説教が必要にゃ」

「はい、もちろん肉体言語込みで」

 うわ~、部長ご愁傷様。でも自業自得なんで助けませんよ?

「さて、おしゃべりもここまでですわ」

 レイヴェルがそう言うと共に周りは一斉に得物を構えた。う~ん、これは祐斗とイッセーにはちょっと荷が重いかな? だったら

「祐斗、イッセー。ちょっとこっち来なさい」

 私は2人を呼びつける。2人共不思議そうな顔をしつつも周りを警戒しながら近付いて来た。

「なんだ、火織?」

「作戦でもあるのかい?」

「まあそんなとこ」

 さて、やりますか。私は2人の襟首をグワシッと掴んだ。

「え?」

「な、何を?」

 2人が困惑した表情でこちらを見たので安心させるよう笑顔を向ける。でも何故だろう、2人共若干顔が青くなったわ。見れば周りを取り囲むライザーの眷属たちも困惑した表情を浮かべている。まあそんなことはさておき、やりますか!

「そーれっ!!」

 という掛け声とともに

「ぎゃああああああああああ!?」

「うわああああああああああ!?」

 私は思いっきり2人を投げ飛ばした。2人はそのまま放物線を描き……

「よし! 我ながらナイスコントロール!」

 そのままグシャッという効果音とともに新校舎玄関の前に落っこちた。

「いきなり何すんだあああああああああああ!」

 おっと、落っこちた痛みに悶絶してる祐斗を尻目にイッセーはすぐさま復活して叫んできたわ。打たれ強くなったわねイッセー。こんなところにも修業の成果が。

「2人はそのまま部長のもとに向かいなさい!」

「なっ!? でもそれじゃあ火織たちが!」

「アーシアの時にも言ったけど優先順位を考えなさい! 私達も後から必ず追いかけるから!」

「……くっ! 絶対来いよ! 絶対だかんな!」

 そう言うとイッセーは復活した祐斗を連れて新校舎の中に駆け込んでいったわ。それにしても

「追わないんですね」

「言ったはずですわよ。私達の狙いはあくまであなた。今更兵士(ポーン)騎士(ナイト)が1人ずつ増えたところで変わりありませんわ。それよりあなた達は自分の心配をしたらどうです?」

「ふふ、そうですね」

「くっ、バカにしてますの?」

「いえいえそんな。ところで話は変わりますけどイッセー、うちの兵士(ポーン)が左腕につけていた籠手、なんだか分かります?」

「あれ? もちろん知っていますわ。龍の手(トゥワイス・クリティカル)でしょう? あのような人間に毛が生えたような悪魔にそんなもの装備してもなんの脅威でもありませんわ」

「残念ながらハズレです。いいこと教えてあげましょう。あれの名は赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)って言うんですよ?」

「な、なんですって!?」

 私の言葉にレイヴェルはおろかライザーの眷属全員に衝撃が走った。流石赤龍帝のネームバリューはすごいわね。

「そ、それでも持ち主があれではお兄さまどころかユーベルーナの敵でもありませんわ! そちらの女王(クイーン)を倒したらすぐにでも……」

 と、そこで測ったかのようなタイミングでグレイフィアさんのアナウンスが流れた。

『ライザー・フェニックス様の女王(クイーン)1名、リタイヤ』

「……」

 今度こそレイヴェル、そして眷属たちは驚愕とともに絶句しちゃった。まあしょうがないと思うけど。

「な、何故ユーベルーナまで……? フェニックスの涙まで持っていたのに負けるはず……」

「残念ながらそれだけでは朱乃さんには、うちの女王(クイーン)には勝てませんよ?」

「どういう、意味ですの?」

「フェニックスの涙をゲームに持ち込めるのはあなた達だけの特権ではないということです」

「っ! ま、まさかあなた達も!」

「そういうことです。ですよね、朱乃さん?」

 私は後半の言葉を通信機に向けて投げかけた。そう、もう分かってると思うけど先日フェニックス卿から受け取ったのがフェニックスの涙だったのよ。

『ええ、でも火織ちゃん、私は今回フェニックスの涙を使いませんでしたわ』

「えっ!?」

 うそっ!? 使ってないの!? 修行したとはいえいくらなんでもユーベルーナさんを2回も倒すことが出来るほど強くはなっていないはずなのに!

『龍巳ちゃんとの修行で遠距離攻撃を見切るのがうまくなったのが良かったですわね。加えて予め爆弾王妃(ボム・クイーン)さんがフェニックスの涙を持っていると予測できていたのも大きかったですわ。攻撃が当たらず焦ってフェニックスの涙を使おうとしたものですから、涙の入った小瓶を雷で撃ち抜くのは簡単でしたわ』

 あはは、訂正。龍巳のお陰で回避能力がめちゃくちゃ上がったみたい。

『そちらの状況は分かっています。すぐに加勢に向かいますわ』

「いえ、それより部長の方をお願いします。部長が負けたら全部無駄になっちゃいますよ?」

『……分かりました。無事でいてくださいね?』

 その言葉とともに通信は切れた。さて……

「どうやらこれは形勢逆転しましたかね?」

 私の言葉を聞かずとも皆焦ってるわね。

「くっ、予定変更ですわ。カーラマイン! ここの指揮はあなたにお任せしますわ! 私はお兄様の元へ!」

「了解した! すぐにこの場は片付けて私達もライザー様の元へ向かう!」

「任せましたわよ!」

 そう言うとレイヴェルは炎の翼を広げ、一直線に新校舎屋上へ向けて飛び立った。では私達もそろそろ行きますか。

「黒姉、白音、行くわよ!」

「ようやくかにゃ」

「待ちくたびれました」

「シーリス! イザベラ! 雪蘭! 私達が前に出るぞ! 他は後方から援護しろ! 行くぞ!」

 カーラマインさんの号令のもと、ライザー眷属が一斉に襲いかかってきた。


 
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