アラガミになった訳だが……どうしよう
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夫になった訳だが……どうしよう?
55話
前書き
さて、やっと出せましたよ
マキナのトラウマに近いアラガミの出番です
それにしても人生とは予想外の連続が多いな。確か、俺たちはキュウビの探索を中断して鉱山を探すついでにレオとジルを戦闘慣れさせるという予定だったんだが、いや本当にどうしてこうなった?
地図やらで鉱山らしきものを見つけ、一人でロシア支部の外部居住区で情報を集めてなんとか生きているらしい鉱山を見つけた。うん、そこまではいい。
その鉱山の周辺にはアラガミが少なく、鉱山内も多少荒れているものの機能自体は問題ない。うん、それもいい。
だがな、鉱山の奥がキュウビの寝床になってるんだ?
「……マキナ、このオチはないよ」
「言うな、俺も予想外すぎて頭が回らないんだ」
「あれが、キュウビですか?」
「新種なの、お母さん?」
「新種っていうかアラガミの始祖みたなものよ。レトロオラクル細胞っていう他の物質やオラクルを捕喰していない、まっさらなオラクル細胞で構成されてるんだけど……」
「だけど?」
「やたらと強いんだよ……昔殺されかけたしな」
あの頃は具足も完成してなかったこともあって、それ諸共四肢を吹き飛ばされたな。多分、俺の人生で死にかけた二つの経験の内の一つはキュウビのあれだろう。
「そこまでなんですか……ですが、犬のように転がっていますけど。本当に強いんですか?」
「ああ、原点にして頂点とでも言うべきようなアラガミだ。他のアラガミのように何かが強いっていう特化した能力がある訳ではなく、全てが強いという一番厄介な奴だよ」
「万能機ってこと?」
「万能どころか全能だ」
前回が鎧袖一触で蹴散らされた事もあり、キュウビの性能は今のところ未知数と言ってもいい。今の力でどうにかできるのかも分からんが、以前のような事にはならないだろう。
それに今回は以前と違い、イザナミもいるのだ。いざとなればレオとジルを守りながら逃げる事も出来るはずだ。
もっとも、あのイザナミが何かを欲しがっているのだ、命懸けでもやらせてもらおう。俺だって男だ、惚れた女のために全力で動くのはそうおかしな事じゃあるまい。
「……お母様、どうして顔を赤らめているんですか?」
「う、ううん、何でもないよ。ただ私って意外と攻められると弱いなって」
「……お父様、そういうのは後にして貰えません?」
ジル、察しが良すぎるぞ?
そして、そのジト目はやめてくれ、それは割と精神にくるものがあるから。
「ああ、そうしよう。で、どうする?」
俺はキュウビの方を見て言った。
キュウビは今のところ、高さと広さがある程度ある場所で寝ている。恐らくはここが機能していた時は最も多く宝石や鉱物が取れ、集団で採掘できるようにした場所なのだろう。
しかし、キュウビと戦うに些か狭すぎる。レオはここに入って戦うということは出来ないだろうし、ジルもあの狭い空間で槍を振るうというのは危険だろう。
「ジル、レオ、ごめん。今回は二人とも退いてもらえないかな?」
「ええ!?どうして?僕達、足手まといなの?」
「そうじゃない、場所が悪すぎるんだ。ジルもレオもここじゃまともに動けないだろ?」
「……そうですね、あそこでは回避する場所も槍を振るえる空間もありませんからね」
「そうだ。俺は体が動かせるスペースがあれば十分、イザナミに至ってはこういう場所なら圧倒的に有利になる」
「はぁ……だよね。分かったよ。僕と姉さんは外で待ってる。行こ、姉さん」
「ええ、お二人とも無理はなさらぬよう。それと、いちゃつくのは時と場所を考えてからにしてくださいね、惚気親父」
ジルは去り際に毒を吐いてからレオと共に鉱山を出た……惚気親父ってそこまで言われる程なのか?いや、世間一般の夫婦仲など台場一家のコトハとカナメくらいしか知らんので見当もつかんのだが、俺としてはこんなものではないかと思うのだが、なぁ?
「私に振らないでよ。でも、いいんじゃないかな、私も思考の中だとしても言葉にして言われると嬉しいしさ。それにそういうのって、ウチはウチ、ヨソはヨソってやつじゃないの?」
それもそうだな。
さて、じゃあさっさと終わらせてジル達を迎えに行かないとな。
「だね」
俺が手足を具足に変えるのと同時に、キュウビのいる空間全てにイザナミの黒い腕が張り巡らされた。
これで準備は整った。
キュウビが自分の周囲の異常に気付き起き上がろうとしたが、先手はこちらが先だ。俺は大きく一歩踏み込み、右腕の具足でキュウビの顎にアッパーを入れる。間髪置かずに両足の具足を起動、右腕両足の具足による加速をそのままキュウビに打ち込んだ事で、流石のキュウビもその身を宙に浮かせた。
「根の国応用編、形状は糸、密度は最高数値、繰り返すこと千、放て!!」
その隙を逃さずイザナミは周囲の腕の形状を腕から糸に変え、キュウビの全身を縛り上げる。斬撃以外に対して無敵とも思える耐性のイザナミの腕の前では、例えキュウビであろうとどうにもならない。
「油断しないで!!」
ああ、動きを封じただけでどうにかなるほどキュウビは甘い相手ではない。
その瞬間、キュウビは三又の尻尾に光を灯し、そこから無数の光弾を俺達に放った。
「イザナミ、使うぞ!!」
イザナミの返事を待たずに超感覚を発動し、イザナミを狙った光弾を全てに具足で防ぐ。不安はあったものの具足の強度は光弾を防ぎきるに足るものだったようで、なんとか無事に凌ぎきった。
「マキナ、右腕は撃てるかな?」
……ああ、大丈夫だ。
「じゃあ、私が囲むからそこに撃って」
分かった、可能な限り頑丈にしてくれよ。こんなところで生き埋めなんて、絶対にゴメンだからな!!
俺は最初の一撃で結合崩壊を起こしたキュウビの頭を右腕で掴み、具足の噴出口をキュウビに向ける。
「根の国応用編、形状は匣、密度は最高数値、繰り返すこと八、囲め八重垣」
イザナミはそれに合わせて、キュウビを黒い腕を編み上げて作り出した匣に封じ込めた。匣は俺の右腕の分だけが編み上げられず、俺は今箱の中身を手触りのみで当てるゲームのように片腕を突っ込む形になっている。
もっとも、今回は箱の中身を当てるんじゃなくて消し飛ばすんだがな。
そして、俺は腕の噴出口から具足内で圧力をかけ続けたプラズマを匣の中に解き放った。
後書き
どうにも筆の乗りが悪いので少し気分転換に台本形式のごく短い話を48.5話として入れようと思います
時期的には極東支部を二人で出て、レオとジルに出会う前辺りの予定です
言うなれば新婚旅行中の話ですね
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