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アラガミになった訳だが……どうしよう

作者:アルビス
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夫になった訳だが……どうしよう?
  56話

イザナミの作った八重の匣が風船のように膨らみ、何かが弾けるような音が聞こえる。
そして、匣の形そのものの限界が訪れる前に俺たちは防御を固め、匣の破裂した時に漏れ出す衝撃に耐えられるようにした。我が事ながら少々やり過ぎたか?
イザナミの腕ほどの性能はないものの、防具としての性能は割と高めたつもりのマントがジリジリと溶けていくのがわかる。恐らく、超感覚の反動もあって体中にガタがきているのも影響しているのだろう。
それに熱もだが衝撃もシャレにならない。地面に両足の杭を撃ち込んで耐えているのだが、一瞬でも気を抜けば吹き飛ばされて壁に貼り付けにされかねない。
この辺りのが崩落しないのもイザナミが匣を少しづつ開けるように調整しているからであって、下手をすれば生き埋めどころかこの鉱山自体に深刻なダメージが来るぞ!?
というか、密度を上げたとはいえこれを四発撃ち込んで、やっと千切れたイザナミの腕って一体どんな強度なんだ?
俺の杭とマントがそろそろ耐えきれなくなった頃、ようやくまともに周囲が見られるようになった。
「これ、宝石とか残ってるのか?」
周囲に張り巡らせたイザナミの腕は崩壊し、それによって守られていた周りの岩は殆ど溶け、天井も壁からもポタリポタリと溶岩の雫が滴り落ちている。とてもじゃないがアラガミ以外は生きられないような状況だ。
「さぁ?けど、ユウ君なら平気で探せそうだけどね。
でも、それを考えるのは後だよ」
そう言ってイザナミが向けた視線の先には、全身に傷は負っているものの動きには一切の支障のなさそうなキュウビがこちらを睨んでいた。
「……あれだけの攻撃であの程度か」
「ううん、違うよ。体が消し飛ぶ前にそれに耐えられるようにオラクル細胞を変化させて、致命傷にならないようにしたってみたいだよ。
その証拠にあのキュウビ、体が少しだけど縮んでる。多分、変化が間に合わなかった表面部分は消し飛んだみたいだね」
「ああ、成る程、レトロオラクル細胞ってのはそこまで馬鹿げた性質なんだな」
爆発の瞬間に体の殆どを進化させたというのだから、馬鹿げた性質と言わざるを得ないしそれ以外の言葉が浮かばない。
その上、推測ですかないが爆発系の攻撃は完全に覚えられただろう。結果として今後、両足の残っているプラズマを撃ち込んでも大したダメージにはならないだろう。
となると、残る俺の攻撃といえば打撃な訳だが……初手のアッパーでどこまで覚えられたか少々不安だな。それすら学習済みだと本当に詰むんだが……その辺りは祈るとしよう。
再びこちらが構えるのと同時に、キュウビはその爪と牙で俺目掛けて飛びかかってきた。とはいえ近接戦においてはそうやすやすと負けるつもりはない。
確かにキュウビは強い。しかし、その強さと敵となるものと殆ど出会わないという生態によって、圧倒的に戦闘経験が足りないのだ。
それ故、キュウビは力押しの攻撃が多いので、動きを見切ってしまえば対応するのは容易い。
爪を右腕で受け止めつつ、左脚でキュウビの首目掛けて回し蹴りを放つ。どうやら最初の一撃で左眼に何かしらの問題が発生したらしく、蹴りはそのままキュウビに直撃しそのまま転ばせることができた。
が、キュウビは倒れて体勢を崩した瞬間に再び爪を振るい、俺の胸を切り裂いた。幸い傷は浅いものの、その一撃を受けて俺の中では嫌な予想が立った。
できれば杞憂であることを願いたいが、仮にもしそうだとしたら今すぐにでも倒さなければかなり厄介な事になる。
「マキナ、これは一撃必殺する気じゃないとマズイよ」
「……予感は的中ってことか?」
「残念ながらね。明らかにオラクル細胞の動きが最適化され始めてきてるし、この短いやり取りでも戦闘経験に関しての成長もかなり早い。
このまま放っておけば本当に手が付けられなくなるよ」
……レトロオラクル細胞万能すぎるぞ!!経験値の蓄積すら早いってどういうことだ!?
「愚痴ってもどうにもならないよ、マキナ」
「だよな」
さて、まだイザナミの方の手はあまり晒していない分、可能な限り俺が注意を引いて彼女の攻撃を必中させられるような状況に持ち込むしかないな。
となると……至近距離で殴り合って嫌でも俺を見させるか。幾らか打撃に耐性をつけられただろうが、完全ではない筈だ。どれだけ防御が完璧だろうが、衝撃を完全に殺すのはほぼ不可能だ。
仮に完全に殺すような防御になっていれば、それは衝撃を和らげるために柔らかくなっている。つまり、その分イザナミの攻撃は通りやすくなる。
結局のところ、俺のやることは変わらないんだがな。
というわけで、起き上がったキュウビに正面から挑む事になった。回り込んでどうにかしようかと思ったが、また光弾を撃たれるのは厄介なのでやめておいた。
まだ攻撃はキュウビに当たっているが、所々防御や回避を行うようになってきた為にダメージを削られているのは確かだ。
「マキナ、退いて!!」
イザナミの声を聞き咄嗟に飛び退くと、上からドリルのような形状の杭がキュウビ目掛けて飛んできた。キュウビも直前で気が付いたのか致命傷は避けたものの、前足と尻尾に何本か刺さっている。
それを見たイザナミは俺に呟いた。
「マキナ、逃げる準備をして。これ以上相手にするのは色々とマズイから」
「……目的は果たせたのか?」
「うん、なんとかね」
「分かった、じゃあ逃げるぞ」
俺達は踵を返して元来た道を引き返す。当然、キュウビがそんな事を許すはずもなく後ろから怒りの咆哮は聞こえてくる。
が、すぐにその咆哮は絶叫に変わった。不審に思い、視線を後ろに向けるとキュウビの前足と尻尾が千切れていた。
そして、その千切れた部分はいつの間にかイザナミの黒い腕に抱えられ、俺達に並んでキュウビから離れていく。
どうやらさっき突き刺さったドリルのようなものは腕を二本捻じって形作ったものらしく、その二本の腕を拡げる事でキュウビの傷口を内側から抉ったようだ。
当然今まで受けたことのない攻撃に、しかも爆発の時のように防御に意識を傾けたわけではなく、俺たちを追うという事に意識を向けていたキュウビに対応できる間はなかった。
前足を失い、地面に転がったキュウビは光弾を放ったが片目が機能せず、その上で尻尾が二本無くなっているのもあり、全て見当違いの方向へ飛んでいく。
おかげで坑道が一部崩れたが……ユウならなんとかできるだろ。足を失い、目も、尾も、そして俺達を追う道すら閉ざされたキュウビの咆哮が響く。
確かに寝起きを襲い、体をズタボロにしてから逃げたのだ。恨むなとは言わんし、許しを請うつもりない。ただ、生憎とアラガミ同士だ殺しもすれば殺されもするだろうよ。
「で、そのキュウビのパーツで何するんだ?」
なんだかんだで聞けなかったことを聞いてみると、イザナミは少し考えるような素振りを見せてこう言った。
「シオをこっちに呼び戻せるかなって」





 
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