戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~
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十五章
賤ヶ岳での軍議
「それは当たってはいるけどな」
「あ、あの!ご主人様!自分はその、決して・・・・決してご主人様に懸想などは・・・・っ!」
「そこまで強く否定されると傷つくんだが」
「あああっ!?も、申し訳ございません!あ、あの別に嫌いとかじゃなくて、その、お慕いしておりますが、懸想とは違って、その・・・・。じ、自分はとにかく、ご主人様のお側に居られるだけで嬉しいというか、決して懸想とかではなく、ただ、時折、話しかけてくださるだけで嬉しいというか。でも、少しだけで良いから触れてみたいと、触れていたいとか、そ、そんなこと、片時も考えたこともなく、そ、その・・・・」
「何だったら、俺の翼や俺の頭でも触ってみる?そしたら俺は嬉しいんだけどな」
「あ、あ、あの、・・・・だ、だめです!もう・・・・堪忍してくださいませーっ!」
俺は翼を展開してみたが、差し出した手を戻した小波はテンパリ状態で姿を消した。
「あれま、遠慮なんてしなくてもいいのにな。俺の翼触れることなんて、あんまりないのにな」
と言って、翼を収納したら葵は無言になってたけど。
「どうした、葵?」
「・・・いえ。小波が驚くほど変わってしまって。驚いてしまいました」
「そうだな。初めて会ったときは、冷静で冷徹。氷のような心で任務をこなす、まるで三河武士の鑑になったとか」
「ですね。一真隊に入ってから、少し違う小波になってしまったようですね」
「違う小波ねぇ。最近詩乃やころたちと一緒にいる事が多かったし、それによく喋るようになった」
初めて会った時とは、だいぶ変わりだしてきたのかもしれないな。
「そうですか。・・・・では小波は一真様にお預けしておいた方が良いのでしょう」
「それは構わんが、いいのか?」
「草はいくらでも居りますれば。ご心配になられる必要はございませんよ」
「なら、遠慮なく使わせていただこうか」
草と言う事に少し苛立ちを感じたが、気のせいだと思うが。
「織斑様!佐々様より伝令!本陣は賤ヶ岳に布陣を決めたとのこと!一真隊はそのまま先行して、本陣設営の準備をせよ、とのお達しです!」
「了解した。一真隊は先行し、準備しとくとな」
「では!」
「賤ヶ岳ねー」
「賤ヶ岳から、ひとまずの目標である敦賀城まで一両日の距離。そこで最後の軍議を開くのでしょう」
「いよいよだな」
美濃・稲葉山城での戦いと観音寺城と二条館防衛戦。観音寺城まではよかったが、二条のところでドウターゲートが現れた。これは何かの予兆かもしれないな。とりあえず偵察型の小型ゼットンをドライバーとメモリで何とかなっているけど。本当にこれが完成してよかったと思うし。
『あと俺のことも忘れるなよ、相棒』
『分かってるさ。使うかどうかは、相手次第だし。神器よりドライグを召喚して使うかもしれない』
『それは楽しみだ』
何度か戦っているが、戦は楽しみにしている。俺は前線で戦う方が合っているからな、それに何かあれば神器を使えばいいことだし。禁手化しなくても、籠手だけ出せば使うしな。あと基本的に一真隊は裏方が多いからな。これまでの戦いでも、俺を中心として城に忍び込んでは頸を刎ねたし。
「心配はないが、大丈夫かな」
「我ら松平衆は、敦賀ではなく手筒山城を攻めることになりましょうが、敦賀城攻めには浅井衆も居ります。まずまず心配はございませんよ」
手筒山城・・・・・敦賀城の支城。敦賀城とは稜線伝いに繋がっている。
「そうだな。では、行軍速度を速めるか」
賤ヶ岳に向かい、速度を上げた俺ら。そして、夜になり、本陣の設営を終えた。食事も済まして将領級を陣幕に集めて軍議が開かれる。
「軍議を始める」
久遠の横に控えていた壬月の一言で、場にいる全員が姿勢を正す。俺だけはいつも通りだけどね、神でもあるからね。
「越前に侵入した我らの最終目的地は、義景がいる一乗谷だ。しかしその一乗谷を落とすためには、各所に築かれた城を叩いておかねばならん」
「ひとまずの目標は、一乗谷の門番を務める敦賀城と、その出城の手筒山城の突破になります」
「攻城戦の最中、本陣は妙顕寺に置き、手筒山城攻略は松平衆に任せる」
妙顕寺・・・・・織田信長が越前攻めの際に、ちょっとだけ寄って本陣にしたと云われているお寺。全国にたくさんある。
「御意にござります」
「織田家は柴田、丹羽衆を中心に、敦賀を攻めることとなる。母衣衆は殿の下知に従え」
「はーい!」・「へーい」・「ほーい」
「浅井衆も敦賀城攻めに加わって頂きたいのですが・・・・ご異存は?」
「特にないよ。お姉様の要請に従うつもりだ」
「ありがとうございます。・・・・では部署は以上となる。ともども、異存はあるか?」
「おおいにあり!」
「森の。言いたいことは分かる。・・・・先鋒を寄越せと言うのだな?」
「分かっているなら話が早い。柴田や丹羽の軟弱者どもに敦賀城攻めの先鋒なんぞ、務まるはずもなかろうが」
「さすが母!やっぱ先鋒はオレら森一家の出番だもんなー!」
「待て!その案はダメだ。いいかよく聞けよ、森親子。確かに織田衆一の強さを誇るだろうが、お前らは切り札と言ってもいい物だ。俺ら黒鮫隊も同じだが、その切り札を前菜である敦賀城で使ってどうする?主菜である一乗谷で使った方がいいだろう?」
「ふむ、一理あるな」
「一真様の言うとおりだ。前菜より主菜で使った方がいいだろうしな。一乗谷への一番乗りは森一家に任せよう。その代り敦賀城は我らに任せてほしい」
「それに、お前ら森一家は一乗谷の方が鬼はたくさんいるからな。もし敦賀城に刈る頸がなかったらやる気を失せるだろうしな」
「良いだろう。その案乗ってやろう」
「うむ。ならば、森一家は一真隊の護衛を頼む」
「おうよ。一真、隊の守りは任せろ」
「頼む。桐琴に小夜叉」
「へへっ、オレらに任せろや」
梅が同じ部署になることに不愉快らしいが、何とか堪えたようだ。まったく、本当に相性悪いんだから。それに越前での情報だけど今は伏せておくことにした。一応調べたけど、調査結果を聞くとやる気をなくすと思ったからだ。
「では、これで全ての部署が決まったな。・・・・殿」
「待て、鬼柴田よ。余らはどうするのだ?まさか後ろで戦見物をしてろとでも?」
「前へ出るには人数が足らんではないか」
「足利衆は総勢、百にも満たない数。八咫烏隊が居るため、火力はそこそこありますが、その陣容で公方様を前に出すわけには参りません」
「むぅ・・・・ならば主様と合流すれば人数は足るぞ!」
「で、一真隊を前に出ろと?」
「うむ♪」
「却下だ」
「なぜだーっ!?」
「一真隊は敵と正面衝突できるほど、武闘派揃いって訳ではない。どっちかというと搦め手専門の部隊だ。それに黒鮫隊もいるが、さっき言った通り切り札なんだよ。だから、後方にいたほうがいいの。分かった?」
「そこはほれ。余のお家流でドカンと一発・・・・」
「却下だ。俺だって前で戦いたいとは思うが、今は言うとおりにするんだ。俺も一葉も大切な存在なんだ。今は皆の力信じてほしい」
「主様がそう言うのなら、仕方がない。料簡してやろうではないか」
一葉は俺に心を言い当てられたのか、素直に嬉しがるはずが。それに幽も言っていたが、兵数の意味を理解してるはず。あと愚痴を漏らしながら、一葉は俺の後ろに下がる。
「はぁ~・・・・あれが公方様なんだぁ~・・・・」
「まこっちゃんの憧れの人だったよね。お会いできてよかったね♪」
なんか知らんが憧れの公方に会ったのかテンションが違う眞琴。あと少し暴走気味だけど、まあいっか。市がコントロールしておけばいいことだし。
「で、織田殿よ。私はどうすれば良い?」
「貴様はどうしたい?」
「上方の武士は腰が砕けているのが常。・・・正直、鬼と正面から戦うのは避けたいところであるな」
「そして我らが弱ったところを見計らって、裏切ってみせるのか?」
「くははっ!当然である。主に力無くば取って代わる。それこそが下克上の妙味であろう?」
「ほざきおる」
「しかし、日の本の未来に眼を転じてみれば、この危機を乗り越えられる英雄は、日の本広しといえどごく僅か。織田殿の他には、甲斐の武田、三河松平のみ・・・・というのが我の見立てだ。今は大人しく臣従しておこう」
「事々に理屈が多いの、貴様は」
「理と利こそが乱世を生き抜く基準であろう?」
「あー、話を介入するのは悪いが、今白百合が言ったのは勢力の名前を言ったが、越後の長尾は大きな勢力を持っているのでは?」
「長尾の小娘と会うたことはあるか?」
ないと言ったら、一葉がこの梟と同じで日の本を守れる者だとは思わんだと。白百合が言うには、長尾景虎は修羅の化身だそうだ。己にも人にも、遥か高みを要求する、烈しい人柄のもののふ。力だけなら日の本一の武士だけど、信奉者はいるけど友も仲間もいないそうだ。で、白百合は中軍で壬月を援護。
「金柑!」
「はっ・・・」
「森が力の切り札とすれば、知の切り札は貴様だ。・・・・本陣に属し、戦況を分析せい」
「御意。・・・」
エーリカの様子を見た俺はいつもと雰囲気が違うと思った。まあ、俺は一応全てを知っているつもりだ。この先何が起こるかのこともだ。
「ではこれにて軍議を終了する」
「共々!この一戦こそ、日の本の未来を占う一戦となろう!命を惜しむな!名を惜しみ、思う存分、武功を上げよ!」
「「「応っ!」」」
長かった軍議も終わり、俺は一真隊の陣所への帰路につく。先程のエーリカの様子が違うので、聞いてみたが何かを考えているのか分からない様子であった。
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