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ウィザード外伝-仮面ライダーサマナー-~指輪の召喚師~

作者:蜥蜴石
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お嬢様の沈黙、執事の嗜み

 
前書き
大変お待たせ致しました…最新話です! 

 
サマナー/陰波銀嶺が彼らに出会ったのは今から約一ヶ月前のことだった…。



第六天魔市・私立黄泉醜女(ヨモツシコメ)女子学園高等学校、通称:ヨミ女、市内でも有名なお嬢様学校であり、女子中学生達からの人気が非常に高く年々その入学希望者が増え続けている名門女子高である。

「…。」

「きゃー!見て、夜久楽様よ!!」

「生徒会長、今日もお美しいですわ~。」

校門前に一台の如何にも金持ちが使っていそうなリムジンが停車し中から、桜の花びらを象ったヘアピンを複数頭に着けてる紫がかったロングの黒髪、やや短めの前髪のためかおデコを広く見せており、整った顔ながらも非常に無愛想、且つ、無表情で無口な制服姿をした女子生徒…黄泉醜女女子学園の一年生にして生徒会長を勤める浮雲夜久楽(うきぐも・ヤグラ)が降りてきた途端、周囲の生徒達はまるで芸能人に出会ったかの様な黄色い歓声を上げ、皆、羨望の眼差しを向けて、彼女の美貌に見とれていた…。

「…。」

「それでは夜久楽お嬢様、本日もこの私、黒部がお嬢様の身の回りのお世話を勤めさせていただきます。」

リムジンは校舎の駐車場に停まり、そこから降りて驚くべき早さで夜久楽の元に戻って来たのはまさにこれでもかというくらいに執事という存在を忠実に体言したかの様な燕尾服姿に渋い顔立ちにとてもよく似合う立派な髭、鈍い光を放つレンズと縁が分厚い眼鏡をかけたダンディなおじ様…夜久楽専属の執事・黒部宗一郎(くろべ・ソウイチロウ)、なんと彼はそのまま夜久楽と校舎に入ってしまった。普通なら即座に御退場願うところだが黒部の同行に関しては学校側から特別に許可が下りている…こうして彼は今日も一日、学校での夜久楽のサポートに励むのだった。

「黒部さん、相変わらず素敵なお方ね~。」

「執事という言葉はまさにあの方に相応しいわ。というか黒部さん、私のところで働いてくれないかしら!?」

「ああ、もう!うちの身嗜みがだらし無いお父様も黒部さんの百分の一でもいいから見習ってもらいたい!あの執事服の着こなし、完璧なんですもの!」

…ちなみに、黒部は校内ではちょっとした有名人として知られており、一部のおじ様好きの生徒達から人気が出ているのはここだけの話である。

黄泉醜女女子学園・体育館

「…で、あるからして生徒の皆様には清く正しい生活をですね…」

(学園長の話、長ッ)

(早く終わってくれないかしら)

(でかいハナ○ソ取れましたわ)

朝の全校集会にて、学園長(おえらいさん)のどうでもいい様な長々しい話を既に聞く耳持たない生徒達はスマホや携帯ゲーム機を弄るわ、焼きそばパンやカップ麺などをむしゃこらと頬張って早弁するわ、ひどいのになるとハナク○をほじるわ鼻毛を抜き始めるわで既にフリーダムな状況と化していた。

「…コホンッ、さて続きましては生徒会会長の御挨拶ならびに生徒会の…」

「「「きゃああああああああああああ!!夜久楽様ぁあああああ!!」」」

「「「黒部さぁあああああん!!愛してますわぁあああああ!!」」」

「学園長、おうちに帰るッ!」

学園長の長話から生徒会の活動報告ならびに今後の方針についてに代わった途端、生徒達は生徒会長の夜久楽と黒部の二人に黄色い声援を上げて盛り上がる…このあからさま過ぎな手の平返しを受けた学園長はベソをかきながら体育館から飛び出してしまった…。


「…。」

「はい、解りました。お嬢様、ではいつも通りに…。」

夜久楽は僅かにだが困ったようにも、悲しそうにも見える無表情な顔を向けると黒部は穏やかな笑みを浮かべ、何故か本来ならば夜久楽が握るべきマイクを手に取る。

「皆様、本日はお集まり下さりましてまことにありがとうございます。私共のお話は退屈であると思いますが最後まで聞いていただいて下さいませ。」

「「「はーい!!」」」

あろうことか、黒部が夜久楽の代わりにスピーチを始めてしまったが、生徒達は別段深くは気にせずにむしろ黒部の渋いおじ様ボイスによる生徒会の報告に素直に耳を傾ける。だが、『異変』が起きたのはその最中だった…。

「あら…?なにかしら?このキラキラしたのは…?」

「綺麗…だけど、意識が…遠、の…くっ…」

突如、体育館内に金色に輝く粉塵が漂い、それに包まれた生徒達は意識を失い、次々と床に倒れていく。

「?」

「…こ、これは一体…?」

生徒達の身に起きた突然の異常事態に夜久楽は不思議そうに首を傾げ、黒部は困惑した。

『ホー…ホー…ホッホォオオオオオ!!』

そんな二人に息づく暇を与えないかの様に謎の奇声がこだまし、天井から何者かが飛び降りてきた…。

「っ!?」

「ば…化け物…!?」

天井から現れたナニカ…否、黒部が言うようにそれはまさに人外の化け物、そう、絶望の化身・ファントムであった。

『おやおや、人の姿を見ていきなり化け物呼ばわりとは…悲しい、嗚呼、実に悲しいですぞォッ!あ、これは失礼、名乗るのを忘れておりました…ワタクシ、ファントムのザントマンと申します。』

一見、フクロウに似たような外見をしているが額から後頭部にかけて完全に貫通してる形で三日月のオブジェが突き刺さっており、また、両肩や肘、膝にも複数の同様のオブジェがまるでピアスかなにかの装飾品の様に痛々しく刺さっている…そして両腕は退化したのか?翼の面影が僅かに残るモグラの様な形状となっている発達した腕を持つファントムは黒部から化け物と言われた事をオーバーリアクションで悲しんだかと思いきや、いきなり改まって丁寧な紳士口調で自らをザントマンと名乗り、ペコリと頭を下げて一礼した。

「貴様…!生徒の皆様に何をした…!?」

『おお、怖い!嗚呼、そんな怖い顔しないでくださいよ…此処にいる淑女の方々には少ーしだけ、夢の世界へ行ってもらってるだけですから…ホー…ホー…それはさておき…』

どうやら生徒達はザントマンのなんらかの能力によって眠らされているだけらしく、幸い命に別状は無いようだ。

『そこのゲート…と、思われるお嬢様、これから貴女には絶望していただきましょう…ホッホー!!』

「!!」

「お…おのれ、不届き者め!私の目が黒いうちは夜久楽お嬢様に手出しなぞさせんぞッ!!」

『関係無い方はおどきなさい!』

「ぐはぁっ!?」

「!?」

ザントマンはそう言うと夜久楽ににじり寄り、いつの間にか握られていたツルハシを片手に襲い掛かろうとした…黒部は慌てて夜久楽を守るために立ちはだかるが悲しい事に単なる人間に過ぎない黒部はザントマンに蚊を払うかの如く片手で殴り飛ばされ、壁に叩きつけられ、気を失った

『ホーホー!』

「…っ!!」

『貴女の絶望は一体どんなファントムを生み出してくれるんですかね?ホーホー、きっと素晴らしいものが…嗚呼、素晴らしいものが生まれる…私の勘がそう告げているのです!ホーホー!!』

「…ッ」

『…ホー、つまらない、嗚呼、つまらないですねぇ!悲鳴くらい上げてくださいよ、これじゃあ本当に絶望してるかどうか解らないじゃないです…!!』

[Shavaduvi Touch Henshin~♪Shavaduvi Touch Henshin~♪]

『…か、って、なんですか?このふざけた歌みたいなのは?』

ザントマンは夜久楽の首を片手で絞めながら持ち上げるが、苦しげに顔を歪ませる彼女はこんな目に遭ってるにも関わらず悲鳴一つすら上げない事が非常に気に食わなかったのか、若干キレ気味で食いかかる…と、ここで奇妙な音声が聞こえ、ザントマンは首を傾げた。


「…変身…!!」

[Change…Now]

『セヤァッ!!』

『はりぽたッ!?』

「…ッ…ッ…!!」

ここでどこからともなく現れた銀嶺が乱入、サマナーに変身しながら、突然の想定外な出来事に対処する余裕もないザントマンの隙だらけな脇腹目掛けてドロップキックを勢い良く叩き込み、そのおかげで間一髪、絞め殺されそうになった夜久楽は助かった。

『ゲボッ…ぐふッ…!オェエエエエッ!!き、ききっ…貴っ様ぁあああああ!!いきなり現れての狼藉ッ…無礼千万ッ…!ただで済むと思ってるのか!?というか、そもそも誰だッ!?』

『ふんっ…ファントムに名乗るつもりはサラサラ無い…っと、言いたいところだけどいずれ有名になると思うから特別に名乗ってやろう、僕はサマナー…指輪の召喚師だ!』

『指輪の召喚師?嗚呼?指輪の召喚師ィ~…全っ然!!知らねェーですねッ!!』

唐突の重い一撃を食らって嘔吐しながら、完全に怒りで血が上ったザントマンは自称・指輪の魔法使いを名乗ったサマナーを知らんと言い放ち一蹴(この頃は完全に無名だった)、ツルハシを振り回して襲い掛かる

『さあ、饗宴の時間…!!』

『オホホホホホホー!!』

『…だっ、てッ!?危なッ!?』

[CONNECT Now]

『チッ!!』

『人の話は最後まで聞け!おかげで台無しじゃないか!?デャアアアアッ!!』

『敵の話を悠長に聞いてる馬鹿が!嗚呼、馬鹿がいてたまりますか!?ホァアアアアアッ!!』

サマナーは例の台詞を言おうとするもそんなものお構いなしに飛び掛かってきたザントマンのツルハシをコネクトリングで取り出したヴェルサイザーでガード、そのまま両者は互いに激しい攻防戦を繰り広げながら気づけば校庭のグラウンドにまで移動していた。

『この鳥頭、焼き鳥にしてやるッ!!』

[FLARE Now]

『ホギャアアアアアアアアア!?』

サマナーは指輪を嵌めてドライバーにタッチ、フレアリングの効果を発動してザントマンを爆炎に包み込み、見事に焼き尽くした…その証拠に彼の姿は灰すら残らずに跡形も無かった。

『フフンッ♪今回のファントムは随分呆気なく倒せたな』

サマナーはザントマンの最期を確認した後、変身を解除して銀嶺の姿へと戻る。

「おっとそうだ…襲われた娘や他の娘達が心配だな…って、わっ!?」

「…。」

そう言うと彼は体育館の方でザントマンに襲われた夜久楽や眠らされた他の生徒達が心配になり、Uターンしようとした矢先、夜久楽本人がいつの間にかすぐそばまで来ていた…何故か気配はまるで感じられなかったため驚きのあまり腰を抜かしそうになった

「…???」

「えーっ…と…?なにか探してる?」

「…!」

「…ああ、僕を探してたのね」

「…!」

「…御礼言いたかったのかな?どういたしまして、お嬢様」

夜久楽はどういうわけかキョロキョロと顔を左右に動かし、何かを探している様子だったが、銀嶺の腰にあるドライバーを見て彼が先程自分を助けてくれた謎の人物=サマナーだとようやく気づき、頭を深々と下げた

「お嬢様ぁあああああ!!どこですか!?夜久楽お嬢様ぁあああああ!!」

「…!」

「おおっ…お嬢様ッ!!よ、よくぞ、御無事で…!!おぉおおおおおっ…!!」

(マジでお嬢様だったのか、この娘)

ここで今まで気絶していた黒部がようやく意識を取り戻し、ものすごく心配した様子で夜久楽を探しに外まで出てきた…夜久楽は黒部の姿を見た途端、彼の方へトテトテと歩み寄って抱き着いた。彼女が無事だったと知るや否や喜びのあまり黒部は年甲斐もなく思わず号泣してしまった…。



「お嬢様を助けてくださってまことにありがとうございます。銀嶺様…この黒部、感謝の極みであります。」

「いやぁ、夜久楽ちゃんにも言いましたけど大したことじゃ…それにタクシー代わりにしちゃって逆にこっちが申し訳ない…」

「とんでもない!貴方様はお嬢様、そして私の命の恩人なのです!これくらいお安い御用です!」

(おおぅ、なんだかすっごく照れるな…)

現在、銀嶺は黒部のリムジンの中におり、ほんの御礼代わりとして銀嶺が住み込みで働いている古本屋まで送ってもらっていた。あの戦いの後、生徒一同全員が意識を失うという異常事態(実際は眠らせていただけだが)が起きたということでこの日は全ての授業が中止となり、生徒達は急遽帰宅させられるハメになってしまった…無論、ザントマンに襲われた夜久楽と黒部も例外では無かった。

「…」

『しゃー』

ちなみに夜久楽はというと、後部座席で体勢を低くし、妙に愛らしい鳴き声で威嚇(?)している煌めく翡翠のボディを持った手の平サイズのコブラに似た小さな生き物…否、プラモンスター・エメラルドナーガに目線を合わせる形で向き合い、彼(?)をジーッと凝視している…心なしかその顔は少し嬉しそうにも見えた

「まさかアイツを気に入ってくれるとは…普通、女の子は蛇とか嫌がるのに…」

「誤解なさる方も少なからずおりますが、お嬢様はとてもお優しい方です。動物にも人間にも…どんなものにも別け隔てなく接することが出来る、そういう方なのです。」

「へえ…。」

銀嶺は普通の女性ならばまずすぐさま嫌悪感が表れるであろう見た目が完全に蛇(しかもコブラ)なエメラルドナーガを嫌がる様子も無く、むしろ仲良く戯れている夜久楽を不思議そうに見つめていた…黒部曰く、彼女は学校では成績優秀な上に一年生で既に生徒会長を勤めているまさに生徒の憧れの存在だが、無口で無愛想…下手をすれば感情さえ無いとも思われそうな表情のせいで周囲から人間嫌い、他のもの全てに興味など無い冷たい印象や誤解を受けやすいが、本来はその逆だという…

その話を聞いて銀嶺は数分前の事を思い出していた。

「にわかには信じ難いですが実際にあの化け物の存在が証拠ですな…いやはや、ファントムにゲート、それに魔法…そういったものは空想の産物かと…」

「…。」

「まあ無理もありませんよね、どれ、失礼…」

「…?」

銀嶺はその時に夜久楽が何故襲われたのかという理由と自分の事を二人に説明していた。当然ながら最初はあまりにも現実離れしたことに中々信じてはもらえなかったが事実、ザントマンがゲートと思わしき夜久楽を狙って現れていた。銀嶺は彼女がゲートかどうかを確認するために眼を見つめる…すると。

「大丈夫ですよ、黒部さん、彼女はゲートじゃありません。」

「ほ…本当でございますか!?ああ…よかった…あのファントムとやらがお嬢様をゲートだと決めつけてたので、まさか…と思いました。」

「奴らの話なんてまともに聞き入れる必要ありませんよ…ったく、あの鳥頭、いい加減な事を…。」

その結果、夜久楽はゲートではなかったという事が判明した。黒部は銀嶺からゲートはファントムに絶望されると新たなファントムを生み出して死ぬという悍ましい説明を受けてたため安心したせいか腰が抜けてしまった…これにより彼女をゲートと断定していたザントマンの勘とやらがまるっきり根拠も無い、文字通りの勘違いになってしまったという…。

「黒部さん、一応大丈夫とは思いますがもしもまたなにかあった時のために連絡用の番号教えておきま…ん?」

「…。」

「…えーっと、うーん………もしかして…魔法が見たい、のかな…?」

「…」

銀嶺が黒部に連絡先用の電話番号や携帯番号などを教えようとした時、銀嶺の服に何かやんわりとした感触が…いつの間にか夜久楽が彼の服を指で引っ張っていたらしい、彼女の顔をジッと見つめながら何を求めてるのかをしばらく考えて聞いてみた結果、夜久楽は実際に魔法を見てみたいらしい…銀嶺の言葉に彼女は頭を小さくコクリと頷かせた。

(うーん…なにがいいかな…流石にファントムを召喚するのはダメだな、ついさっき襲われたばかりだし…かといって他の魔法はほとんど攻撃用だし…そうだ!)

一体何を見せたらいいものか…いくら魔法と言ってもなんでもいい訳では無かった。ついさっき襲われたばかりの者に対してファントムの召喚など以っての外…最悪トラウマになりかねない、では他の魔法は?というとザントマンとの戦いで使ったフレアをはじめプラズマやサイコストライク、ミキシングストライク…所持してる指輪の大半が攻撃用に特化したものばかり、そんなものこんなところで使ったら大惨事になるのは目に見えていた。そこで…。

「よし、それじゃあ御希望に応えてお見せしよう!」
「!」

「おお、まさかこんなところで魔法というものを実際に見ることになろうとは…」

銀嶺はプラモンスターのリングを手に取り、ドライバーに当ててその召喚を行った。使い魔も一応種類としては魔法の産物だしOKだろうと考えた末の判断である…と、ここまではよかったが銀嶺は一つ致命的なミスを犯した。それは…。



[NAGA!Now]

「しまっ」

間違えてエメラルドナーガを出してしまったのだ…本来ならば手持ちのプラモンスターの中では比較的まともなコバルトガルムを出すつもりだった。理由としてはエメラルドナーガは蛇、スカーレットフェアリーは蜂(ムシ)…この二つのプラモンスターは間違いなく女の子が嫌う生き物トップ2だからだ。しかし気づいた時には既に遅く、ナーガリングで召喚されたプラモデルの枠組み(ランナー)のパーツが自動的に組み立てられ、エメラルドナーガが完成してしまった。

『しゃー!』

「ぬおっ!?へ…蛇っ!?ひいいいいっ!!」

(あああああぁああぁああ!!大失敗だぁああああ!!)

女の子相手に蛇を出すなど嫌がらせ以外の何者でもない、しかもエメラルドナーガは完成早々に威嚇して黒部を怯えさせていた

だが肝心の夜久楽はというと…

「…。」

『ふしゃー!』

「はっ!?近寄っちゃダメだ!そいつは気性が荒くて危険だ!」

「なんてもの出してるんですか!貴方様は!?お、お嬢様!いけません!いけませんぞ!!」

「…。」

怖じけづくどころか情けない男共二人の制止を振り切り、威嚇してくるエメラルドナーガに自ら近づき、その場にしゃがんで真っすぐに見つめ、両手を差し延べた。

『…しゃー』

「…♪」

すると、夜久楽に敵意が無い事を感じ取ったか、エメラルドナーガは地を這いながら彼女の小さな手の平に乗り、やや照れ臭そうな様子で未だに威嚇した…ここで夜久楽は見逃してしまいそうなくらいのほんの一瞬だけ、ニコリと柔らかな笑顔を浮かべた

「や、夜久楽お嬢様が…今、夜久楽お嬢様が笑ってくださった…!?ううっ…ぐっ…うううぅ…ぬぉああああああッ…!!」

「ちょ…!黒部さん!?どうしたんですか!」

「うぐぅうう…すみません…すみません…!感激のあまりに…涙が止まらなくなりました…お嬢様の笑顔が…一瞬だけでも見れたのが嬉しくて、嬉しくて…ぬおわああああああ…!!」

「お…落ち着いて…!!」

今尚も楽しそうにナーガと遊んでる夜久楽が先程浮かべた笑顔を見た途端、急に泣き始めた黒部に驚いた銀嶺は慌ててハンカチを差し出した

「…そんな反応するなんてよっぽど嬉しいんですね…」

「…は…はい…まことに申し訳ありません…少々取り乱してしまいました…」

「…いえ、それよりも一つ聞いてもいいですか…?」

「…なんなりと…」

黒部が大分落ち着いたのを確認し、銀嶺はここで彼に対して夜久楽に関するある質問を彼女に聞かれぬように黒部に小声で耳打ちする形で投げかけた

「…あの娘は何故一言も喋らないんですか?さっきから一度も声を聞いてないんですが…」

「…それ、は…」

そう、夜久楽は頑なに口を閉ざしたまま一言も声を出してない、その理由についてだった…生徒会長でありながら自らスピーチもせずに黒部に任せ、ザントマンに殺されかけた時も命の危険に晒されたにも関わらず悲鳴すら上げず、銀嶺とは会話をせずに眼で訴えたり、身振り手振りで自分の意志のようなものを伝えたり…特に前者二つはいくらなんでも普通ではまず有り得ないことだった。



「お嬢様は…誰かとお話が出来ません。口が利けないのです…。」

「…?」



「『失声症』、というものを御存じでしょうか…?」



『ぐぬぬ…!!』

銀嶺達が学校から去った後、グラウンドの砂が柱状に巻き上がり、なんと…その中からフレアで焼き尽くされたはずのザントマンが現れたのだ。

『危なかった。嗚呼、危なかった…砂に身を隠さなかったら完全に殺られていましたね…おのれ…おのれェエエエエエッ!!次は必ずや、ゲートを絶望のドン底に叩き落としてやりますよォオオオ!!ホッホッホッホーーーッ!!』

『砂男(ザントマン)』はその名が指す様に、砂を自在に操り、地面の砂と同化する能力が備わっている…この能力のおかげで難を逃れたものの、夜久楽を絶望させようとした最中にサマナーに邪魔された屈辱を思い出し、ますます彼女を絶望に陥れようという執着心が沸き上がった…しかも完璧に間違った勘が告げている夜久楽を未だにゲートだと信じて疑わないから余計にタチが悪い…ザントマンは両腕で地面を高速で掘りはじめ、地中深くへと潜って学校の敷地内から姿を消した…



夜久楽と黒部に再び魔の手が迫る… 
 

 
後書き
どうも皆様、蜥蜴石です…約一ヶ月もほったらかしですみません(汗)

今回は銀嶺がまだサマナーとして無名な時に出会った新キャラ・夜久楽と黒部さん、二人に関するエピソードです。夜久楽もまた前回の鈴鳴同様問題を抱えており、またもや欝な展開になりそうです(汗)

今回登場したファントムはザントマン、ドイツの伝承に登場する睡魔でありゲーム・女神転生シリーズなどにも出る三日月面のアイツです(おい)

次回は夜久楽の抱える問題、そして再び襲い掛かるザントマンとの戦いを予定しております、それではまた、蜥蜴石でした! 
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