ファイナルファンタジーⅠ
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23話 『通りすがりの旅人達』
前書き
【21話からの続き】
◇かつての水の都◇
厄介な事に、なりやがった。北西の大陸に近付くにつれて、嵐と荒波が船を襲った。
まるでオレ達がそこへ向かうのを拒むように─────
舵も、利かなくなった。
シファとビルには、危ねェから船内に居ろっつったのに、舵取りのオレが心配だからって傍に来やがった。
その気持ちは嬉しくない訳じゃねェが………
荒海に揉まれて、オレ達3人が海に投げ出されるのにそう時間は掛からなかった。
マジ、かよ。
オレらまでどーにかなったら、誰がアイツを、迎えに行くンだ。
オレは暗がりの荒海の中で必死にもがいた。
………けどそれは、虚しい抵抗だった。
意識が、遠のいていく─────
……………?
何かに片手を掴まれ、引かれていく。
この、荒海の中で。
シファか、ビル………?
違う─────何とか薄目を開けてみる。
微かに、全身白い光を纏ったような存在が後ろ姿で少し前にいて、オレの片手を引いていた。
髪が白くて、長い………アイツ、みたいだ。
────上半身、何も身に付けてないように見える。
しかも、下半身が魚みてェな………??
アイツが、人魚にでもなってオレを迎えに来たってンなら、笑えねェ冗談だな─────
( ………ランク……… )
( ん………マゥスン、か? 何だよお前………オレの事は貴様呼ばわりして、名前なンざ一度も呼んだコト───── )
「 ランク!! 」
「!? シ、ファ………??」
シーフのランクはベッドの上で意識を取り戻し、名を呼んでくれていたのは白魔道士のシファで泣いていたのか目を赤くしており、黒魔道士のビルも傍にいてとんがり帽子から覗く黄色い双眼を線状にし、喜び泣きしているようだ。
「良かった……、目を覚ましてくれて……!」
「ふぇ~ん、ランクさん……起きてくれて良かったでスよぅっ」
「 ………ン? ドコだここ、船内じゃねェみてーな。オレら確か、荒海に投げ出されて──── 」
「ここは、オンラクっていう町の宿屋だ。前は水の都とか呼ばれてたそうだけど……。座礁した船と、海岸に打ち上げられていたあんた達を見つけてここまで運んだのが、おれ達なんだ」
声がした方に目を向けると、ある程度戦士らしい風貌で長剣、短剣を腰に備え、それほど長くはない銀髪を後ろに束ねている少年がおり、他に3名いるらしく、
何かの分厚い本を手にした緑の外套姿でインテリメガネを掛けている茶髪の少年、
忍び装束に額当て、黒マスクをしていて壁に背を持たせ掛け、腕を組んで下向き加減の姿勢で追い風を受けたような金髪の青年。
もう1人は、羽付き帽子をした赤マント姿の──────
「マゥスン……!? お前戻って来たのかッ?!」
「 ………え? 」
ランクが思わず声を上げ、相手は訝しむようにこちらを向くが、銀髪の少年の方が代わりに答える。
「誰の事か知らないけど、人違いじゃないか? そいつは、赤魔のレフィアっていうんだ。一応、女だぜ? ……ちなみに、おれは戦士のルーネス。メガネ掛けてるのが学者のアルクゥで、そこのムッツリした奴が忍者のイングズだ」
「一応ってどういう意味よ!」
「あ? レフィ、ア………??」
確かに赤魔道士の外見としては似通っているが、相手はオレンジの髪色で毛先が肩程で跳ねている、気の強そうなスタイルの良い少女だった。
「あたしに何か、問題でもあるわけっ?」
「い……いやッ、何でもねェ。気にすンな!」
「とにかくあんた達、海魔に喰われなくて良かったな!」
「ふぇ? "かいま"って……何でス??」
ルーネスという少年の言葉にビルは疑問を持ち、それに関してアルクゥという少年が答える。
「"海の魔物"の事だよ。……この辺りの海域は近頃、多くの海魔達の住み処のようになってるらしくて、他の正常な生き物はほとんど姿を消してしまって、時おり海魔達が港の方から襲いに来るんだ」
「それに海は汚れていくばかりで、周辺の海域はいつも荒れてるそうなのよ。あなた達、船から投げ出されたみたいだけど町の近くの海岸によく流れ着けたものだわ!」
感心したように云うレフィアという少女。
「ンで……お前ら何モンだ? 話し振りからしてこの町のモンじゃねェだろ」
「あぁ、まぁ……通りすがりの旅人みたいなもんかな?」
ランクの問いに気さくに答えるルーネスに次いで、イングズという青年が口を開く。
「1日の内に何度か襲い来る海魔共を倒すのに協力してはいるが、切りがない。────諸悪の根源はどうやら"海底神殿"と呼ばれる場所に巣食っているらしく、そこから海魔共は出没するようだ」
「諸悪の、根源……。ランク、それってやっぱり──── 」
「あぁ……、3匹目のカオスのヤローのこったろうぜ」
シファに頷くランク。
「話によるとさ、"水の源のクリスタル"が祭られた神殿は結構前の地殻変動で海底に沈んでるらしくて、そこへ行くにも息続かないし、荒海の中でも行動出来る手段が見つからなくてさ………」
「そンなん、どーにでもならあ。オレらがソイツをぶっ倒すンだからな」
お手上げと云わんばかりに肩を竦めたルーネスにランクは云い切る。
「お前達には何か、事情がありそうだが………海底神殿へ行く方法が無い訳ではない。興味深い伝承が、この地に残っているようだ」
「あ、うん、それについては僕が話すよ」
イングズから一瞥を受けて、話を継ぐアルクゥ。
「身体に振り掛ければ、海中でも問題なく行動が出来るっていう、[空気の水]という物が存在するらしいんだ。この辺りの海域に住んで居るとされる"人魚"が、持ってるかもしれないって話なんだけど………」
「その人魚達も、ここ何年もほとんど姿を見なくなったそうよ」
レフィアがそのように付け加える。
「人魚さん達が居なくなったのも、"水のカオス"のせいで海が汚れて荒らされてるからでスすよね……ランク、さん?」
ふとビルが目を向けると、珍しく考え込むように下向いていたランクが、何か思い当たったように顔を上げる。
「その人魚っての……、オレ見た気がすっぜ」
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