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ロックマンX~朱の戦士~

作者:setuna
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第八十八話 Awakening

 
前書き
エックスの前からいなくなったルインは…? 

 
ルインは覚束ない足取りで薄暗い通路を歩く。
その瞳は憎悪で燃えさかり、セイバーを握る手からは紫の光が漏れていた。
奥には身体を床に倒し、足掻いているシグマがいたが、ルインはその姿を冷ややかに見つめていた。

ルイン「シグマ…」

シグマ「この殺気は……ゼロ、エックスか…?いや、ルインか?貴様の相手をしてやる時間はない…邪魔だ、失せろっ」

ルイン「ゴミが…処分してやる…!!」

シグマ「……ほ、ほざくな!!貴様の相手など、この身体で充分だ…ゴホッ……」

しかし、シグマはこちらに向かって来る存在に気づけなかった。
機能停止したはずのナイトメアマザーとナイトメアウィルスがこちらに迫ってきた。

ルイン「うあ゛ああああぁぁぁっ!!!!」

ナイトメアマザーとナイトメアウィルスを分解吸収し、この戦いで消耗したエネルギーと体力、ダメージを完全回復させる。
更に同時に襲い掛かる喪失感。
自我が薄れて消失する感覚。
……それでも、構わない。
シグマを殺せるなら自分が無くなろうと構うものか。
異常なまでに彼女の闘気が膨れ上がり、シグマを見る。

ルイン「我はメシアなり!!ハーッハッハッハ!!!!」

イレギュラーの力が完全に覚醒したルインがシグマに肉薄すると胴体に拳を叩き込んだ。

シグマ「ぐはあ!?」

ルイン「クックック…どうした?その身体で充分なのだろう?我の相手をするのは…?」

吹き飛んだシグマを嘲笑うルインにシグマの表情が怒りに歪む。

シグマ「ちょ、調子に乗るな小娘え!!その思い上がりを後悔するがいい!!」

普段のシグマならルインの異変に気づけただろう。
しかし、五感も満足に回復仕切っていない状態ではルインの異変に気づくことも出来なかった。
衝撃波を繰り出すシグマだが、ルインはそれを容易く、シグマの必死な攻撃を嘲笑うように回避していく。

ルイン「クックック…弱過ぎて欠伸が出るぞ…」

衝撃波をセイバーで掻き消しながら嘲笑う。
こうして対峙している瞬間も、ルインは蔑みの視線を向けてくる。

シグマ「貴様ああああ!!自惚れるな!!死に果てろーーーーっ!!!!」

シグマの口が大きく開く。
高出力のビームが放たれる。

ルイン「ふん、裂光覇」

ルインはそれを嘲笑いながら拳を床に叩きつけると、エネルギーの柱が彼女の周囲に発生し、シグマのビームを容易く掻き消した。

シグマ「な、何だとお!!?」

ルイン「死ね…ゴミが」

興ざめしたようにシグマを見遣ると一気にシグマに襲い掛かる。
シグマの怯えたような表情に愉悦を感じながら。





































一方エックスはルインを追い掛けていたのだが、メカニロイドの妨害に遭い、メカニロイドの相手をしていた。

エックス「ぐっ…このままではルインが!!」

自分もそうだが、ルインも相当エネルギーを消耗している。
今のシグマは半死半生だが、奴は何を仕出かすか分からない。
その焦りが普段なら見せない隙を見せてしまった。
メカニロイドがエックスの背後から迫る。

エックス「っ、しまった!!」

接近に気づけなかったエックスはダメージを覚悟したが、いつまで経っても衝撃が来ないことにエックスは目を開くと…。

ゼロ「どうしたエックス?お前らしくもない」

エックス「…ゼロ!?」

見慣れた紅いアーマー。
漲る闘気より放たれるプレッシャーは凄まじい。
ゼロナイトメアのような禍々しさは微塵も感じられない。

エックス「ゼロ…生きていたんだな!!」

ゼロ「フッ…エックスだって生きてるじゃないか?大体シグマ如きにやられてたまるか。といってもある人に助けてもらって命を拾ったんだがな」

エックス「ある人…?」

ゼロ「ああ…大破したボディの代わりにコピーボディまで用意してもらってな。さあ、感動の再会はここまでだ。シグマが復活したんだろう?」

エックス「ああ、そうだ。ルインがシグマを追い掛けてしまって…いくら瀕死でもシグマは何を仕出かすか分からない。」

ゼロ「ああ、だがまたとないチャンスだ。ここでシグマを処分する。しかし…」

ゼロはここで顔を顰める。
このデータ反応は…。

ゼロ「エックス、気づいたか?このデータ反応は…」

エックス「あ、ああ…ゼロと同じだ。まさかゼロナイトメア…?」

ゼロ「いや、ナイトメアウィルスの製造とそれに関するシステムは俺とルナで停止させた。それは有り得ない」

エックス「なら…誰が…?」

扉を潜ると地獄絵図。
その場に駆けつけたエックスとゼロが直面したのは、目を覆いたくなるような悪夢の光景だった。
部屋には赤黒い血が飛び散り、飛び散っている残骸がシグマの物だと辛うじて分かる程度にまでバラバラにされていた。
それと同時に、どれだけ一方的な虐殺が繰り広げられたのかも理解出来た。
紅いアーマーを身に纏う少女が血に濡れた手を見つめ、笑っていた。

エックス「ルイン…君がこれを…?」

呆然としながらルインに問い掛けるエックス。
ルインは狂気に満ちた紅い瞳をエックスとゼロに向ける。

ルイン「強い力が2つ…殺す!!」

ホルスターからアルティメットセイバーを抜くと同時にゼロに襲い掛かる。
ゼロはリコイルロッドを交差させ、セイバーを受け止めた。

エックス「ルイン!?」

ゼロ「ぐ…っ!!わ、悪ふざけも大概にしろ!!俺達は敵じゃない!!」

腕が痺れる程の威力に顔を顰めながらも叫ぶゼロ。

ルイン「死ね…っ!!」

Ωナックルがゼロの顔面を狙うがゼロはシールドブーメランでルインの拳をいなし、逆に腕を掴んで投げ飛ばす。

ルイン「チッ…」

エックス「ルイン!!一体どうしたというんだ!!?」

あまりの変わりようにエックスは動揺し、ゼロは掠れた声で呟く。

ゼロ「ルイン、まさかお前…イレギュラー化したのか…?」

エックス「!?」

ゼロの言葉にエックスは驚愕し、ルインを見る。
彼女から信じられないくらい強大な悪を感じた。
シグマと同じ…いや、シグマ以上の悪を。
エックスは彼女がイレギュラー化してしまった理由を探す。
ふと思い出したのはナイトメアウィルスだ。
ゲイトの研究所には大量のナイトメアウィルスがいた。
ゼロが機能停止させたとは言え実体を持つナイトメアウィルス自体は残るはず、それなのにこのエリアには機能停止したナイトメアウィルスが1体もいない。
それが意味するのは…。

エックス「ナイトメアウィルスを…分解吸収したのか…?」

ゼロ「何!?どういうことだ!?」

エックス「あのアーマーを纏ったルインはウィルスを吸収することでパワーアップすることが出来るんだ。パワーアップする代償に暴走してしまうようだけど…」

ゼロ「そんなことが…」

まるでかつての自分のようではないか…。
かつてペガシオンを倒すために向かったレプリエアフォースでシグマウィルスを受けたことで狂ってしまった自分自身を見ているようでゼロの拳に力が入る。

エックス「ルインはゲイトと友人だったんだ。シグマに殺されて、多分仇を討つために…」

ゼロ「くっ…どうすればいい…!?」

エックス「…戦うしかない」

ゼロ「エックス?」

エックス「約束したんだ。彼女がイレギュラー化したら俺が止めるって、あのイレギュラーを倒して彼女を取り戻す!!」

そう言うエックスの目に迷いは無かった。

ゼロ「(強くなったなエックス…)そうだな、しかしエックス。俺の治療は荒っぽいからな。ルインを元に戻すために手足くらいは勘弁しろよ」

エックス「分かっている。元々不器用な君に手加減は期待していないから。」

ゼロ「…行くぞ」

エックス「ああ…」

ルイン「……殺す!!」

2人がルインに向けてダッシュし、ルインもΩナックルを構えて突っ込む。



































エックス達とゲイトが戦った場所から少し離れた場所ではシグマの攻撃を受けて消滅したはずのゲイトが倒れていた。

ゲイト「(どうしてこんなことになってしまったんだろう…)」

シグマが破壊されたことで正気に戻ったのか、ゲイトの瞳に狂気の光はなかった。

ゲイト「(僕は…僕の実力を証明するために…けど…それも叶わなくて、今までずっと誰からも理解されなかった…。何故処分されなければならなかったんだ…彼らは…ヤンマークやヴォルファング、タートロイド、シェルダンはイレギュラーではなかったのに。僕に造られたという理由だけで…)」

ずっと追い掛けてきた。
彼らを目指していた。
この世界を守り続けてきた最強のイレギュラーハンター達。
彼らのようなレプリロイドを造りたかった。



































『ゲイトの造ったレプリロイドは危険です』

『彼のプログラムは理解出来ない。こんな複雑なプログラムではどこにバグが現れるか』

『プログラムが解析出来るうちは偽物だと…若造が生意気な口を!!』

上司や同僚が陰口を聞いていたのを彼は知っていた。
だが意に介さなかった。
己の評価が下がるまでは。



































ゲイト「(危険なプログラム…か…それを言ったらエックスやゼロだって。いつ造られたかも分からない、旧世代のロボット…ルインも誰にも解析出来ないプログラムが使われているのに…)」

ずっと憧れていた。
エックス達のようなレプリロイドを造りたい。
そう思って研究を進めて来たのだ。

ゲイト「(彼らのような優秀なレプリロイドが増えれば、この世界はより豊かになる。だから…)」

しかし彼は研究所を去った。
彼は独りぼっちだった。

ゲイト「(僕は…たった1人で消えて無くなるのか…このまま…誰にも知られないまま…)」

「違うわ」

ゲイト「!?」

彼は思わず目を疑った。
女性が自分を見下ろしている。
その女性に見覚えがあった。

ゲイト「エイリア…!?」



































エイリア『凄いわ、ゲイト!!こんな複雑なプログラムを造れるなんて!!』

ゲイトがまだレプリロイド研究者だった頃。
ルインがまだ再起動していない頃であった。
エイリアはよくゲイトを称えていた。
彼女はよく彼にプログラムを尋ねてきた。
彼女は課題以上のことは出来ないからと、優秀なプログラムを造る彼を羨んでいた。

ゲイト『エイリアだって凄いじゃないか。この前の課題、クリアしたんだろう?相当レベルが高かったのに』

エイリア『ゲイトはとっくにクリアしていたじゃない。…ふふっ、いいなあ、ゲイトは』

ゲイト『そうかい?』

明るい笑みを浮かべる彼女にゲイトも釣られて笑顔になる。
知的な彼がほんの一時見せた心からの笑顔であった。
穏やかな顔は彼女から離れると空を見上げた。

ゲイト『…僕には叶えたい夢があるから』

遠く、美しい空にゲイトは瞳を希望で輝かせた。

エイリア『夢?』

ゲイト『ああ、エックスやゼロの名前は知っているだろう?彼らのような優秀なレプリロイドを造りたいんだ。僕が造ったレプリロイドが彼らと一緒にイレギュラーと戦い、人々を守る。平和に貢献出来ると思うんだ。』

エイリア『そう…ゲイトならきっと叶えられるわ……あの子にも聞かせてあげたいくらいだわ……』

ゲイト『え?』

エイリア『あ、ううん、何でもないわ』



































ゲイト「(夢…結局、叶えられなかったな…挙げ句の果てに僕は平和なんて程遠いことを……誰からも理解されなかった復讐のために…)」

神の導きは悪魔が差し延べた手だった。
そのことにゲイトはようやく気づけたのだった。

ゲイト「エイリア…」

記憶メモリーが暴走しているのか…幻が見えた。
研究所で一緒に働いていた頃の彼女。
彼女は笑っていた。

エイリア「ゲイト、あなたは一人じゃない。私やルイン…そして彼らだっている。私とルインはあなたの夢を信じているから…どうか、生きて……」

ゲイト「……ああ、そう…だな…生きなくては…今度こそ正しい方法で僕の実力を…」



































ゲイトが倒れている場所から隠れるように佇んでいるのはルナであった。
彼女が手にしているのはハイマックスのDNAデータと改造を加えたことで再起動したナイトメアソウル。

ルナ「やれやれ…手のかかるお客様だぜ……」

言葉とは裏腹に彼女の表情は優しさに満ちていた。

ルナ「ゲイト、お前は1人なんかじゃねえ。エイリアやルイン。そしてヤンマーク達…そして俺はお前を受け入れる…エックス達だってお前を受け入れてくれるはずだ。あいつらは底抜けのお人よしだからな」

ゲイトが見ている幻は、本来ナイトメアウィルスが0.02%の確率で現れる解明不可能な現象…。
一か八かの賭けだったが、不可解な幻が奇跡を起こしたのだ。 
 

 
後書き
ルイン覚醒。
ゲイトが生存した理由。
1.ルナがゼロにハイマックスのDNAを回収。
2.シグマの攻撃が当たる前にハイマックスに変身してゲイトを庇って別の場所に。
3.変身を解除して、ナイトメアソウルで一か八かの賭けで0.02%の確率で発生する無害な幻でゲイトの心を救済した。
 
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