ファイナルファンタジーⅠ
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21話 『抜け殻』
アイツが、遠くへ行っちまった。
─────いや、正確には身体は"こっち"にある。[心]が、どっかに行っちまったらしい。
12賢者の奴らが云うには、火のクリスタルの欠片を砕かれたからだとか。
グルグ火山で、火のカオス・マリリスに砕かれたアイツの欠片─────
上半身女みてェで、腕は左右に三本ずつ剣持ってやがって、下半身が大蛇みてェな奴だった、火のカオスは。
赤魔………マゥスンは、氷結女を自分の剣自体に宿らせた氷剣・アイスブランドで応戦した。
ビルは補助の黒魔法と攻撃魔法を併用して、シファは白魔法の補助と回復に専念。
オレは素早さ生かして火のカオスの腕一本は斬り落としてやったが─────
[蛇眼の呪縛]の反撃を喰らって、オレ達は全身金縛りにあったかのように動けなくなり、声すら出せなくなった。
アイツを除いて。
独りで火のカオスに挑んでくアイツ────オレはそれが堪らなくイヤだった。いつも独りで全部やらかしちまおうとするのが。
だから[蛇眼の呪縛]を自力で解いた。その勢いでもう二本の腕も斬り落としてやった。
………それにぶちギレた火のカオスは残り三本の手に持った剣に炎を纏い、高速回転して来てオレは中空に弾かれた。
その落下の際、下半身の大蛇の尻尾に絡め捕られ、焼け付くような熱を伴って締め上げられた。
アイツの方は、火のカオスの炎舞を避けていたらしい。
だが次の瞬間には片側二本残った腕から薙ぎ払われた剣で、アイツはいとも容易く斬り飛ばされて岩壁に激突し、そのまま寄り掛かるようにくずおれて動かなくなった。
あの炎舞を避けられたンなら、さっきのも避けられたはずだ。防御すら、しなかった。ワザと、か……?
オレが、火のカオスの尻尾なンぞに捕まってるから? それとも、あの発作が────
火のカオスが一つ剣を手放したその手で誘い込むような手付きをすると、アイツの胸の辺りから勝手に火のクリスタルの欠片が出てきて、火のカオスの手元へ………
高笑いした火のカオスからの締め上げが、一瞬緩んだ。その隙にオレは渾身の力で大蛇の尻尾から抜け出し、
落としていた武器を拾い上げ反撃に転じようとした─────時だった。
アイツ………マゥスンは氷結の女王の力を借りて高く跳躍し、氷剣アイスブランドを火のカオスの胴体に深々と突き刺した。
絶叫し身悶える火のカオスから、アイツはアイスブランドで突き刺したまま離れようとしない。
………強烈な冷気が、火のカオスの胴体から氷付いてゆく。
次の瞬間、何かが砕けた。………砕かれた。
火のカオスの手元にあった、アイツの────火のクリスタルの欠片が。
一瞬、全ての時が止まったかのようだった。
アイツが………力を失って仰向けに落下してくのが分かった。
オレは咄嗟にその場に駆け付けてアイツを背中から抱き留めた。
────その間にも火のカオスは氷剣アイスブランドと伴って完全に氷付き、独りでに音を立てて火のカオス諸共崩れ去り、蒸発していった。
火のカオス・マリリスは倒された。
けど、火のクリスタルの欠片は砕かれた。
それを司る者が火の源のクリスタルの祭壇に欠片を示さなければ、輝きは取り戻せない。
────[蛇眼の呪縛]から解き放たれたシファとビルが駆け寄って来た。
シファが、回復魔法をマゥスンに掛ける。何度も、何度も。
けどマゥスンは、オレに身体を預けたまま目を覚まさない。
まるで、何者にも邪魔される事のない、絶対の安息を得たかのように。
死んだ────死にやがったのか、オレに借りを作らせたまま。
シファとビルは、泣いていた。
オレは、ただ茫然としていた。
冗談じゃ、ねェ。
オレはまだ、お前の事、何も─────
………不意に、頭の中で声がした。聞き覚えが、ある。
予言者ルカーン、か?
────不測の事態に陥ったから、オレらをクレセントレイクの東の広場まで瞬時にワープさせるって……?
その前に砕かれた火のクリスタルの欠片を残らず集めろ、だと?
マゥスンは、死んだ訳じゃない─────
事情は広場の方で話す………?
勝手な奴らだ、今まで視てやがっただけのクセに。
シファとビルは、オレにマゥスンの傍に居てあげて欲しいと云って二人で火の欠片の破片を一つ残らず集め出した。
────オレはどこか放心したまま、抱き支えた意識のないマゥスンを見つめていた。
『火のカオスが倒された事によりその脅威は去ったが、火を司る欠片が砕かれた上に火の源のクリスタルの輝きは戻らず、
カオス失くしてもこのままでは遠からず火の源の力が暴走し、あらゆる地底から噴き上げる火柱が世界を焼き尽くし兼ねない』
12賢者達の力でオレ達はグルグ火山からワープさせられていきなり告げられた言葉………
今のオレらは、そンな話を聞きてェんじゃなかった。
『その者の[心]は今こちら側にはなく、<精神体>として異なる次元へと追いやられた″抜け殻″でしかない。
クリスタルの欠片を司る者にとって[精神の結合体]とも云えるそれを砕かれた反動により、
身体自体はこちら側に在るとはいえ辛うじて息をしているのみ』
………また訳の分かンねェ事ぐだぐだ抜かしやがって。
『砕かれた火の欠片の破片を渡して貰いたい。多少の時を要するが、我等で修復を行う』
そう聞いたシファとビルは、火の源の欠片が元通りになればマゥスンの[心]が戻って来るんだと安堵するが、そう簡単にはいかねェらしい。
『クリスタルの欠片は次元の狭間を介し<導きの光>として重要な役割を担うが、あの者が[精神体]として異なる次元から
こちら側へ戻れる条件を満たさなければ意味は無く、それが何時になるかも解らない』
さっきから異なる次元だの精神体だの、いってェ何なンだ。
『こちらの世界とは異なる次元に関しては[精神体]として追いやられた本人にしか解らず、
傍目には実体と何ら変わらずそちら側に存在している筈。
どのような状況に陥っているにせよ、こちら側に残された本体が辛うじて息をしている限りは
異なる次元において″生存している″という確証は持てる。
────とはいえ一人を除いた光の戦士達には、次なるカオスを倒して貰わねばならない』
マゥスン抜きで、次のカオスか。上等じゃねェか。
結局オレらは今まで、マゥスンに頼りっぱなしだったンだ。
残りのカオス蹴散らして、ついでにガーランドの野郎引きずり出してぶっ倒しときゃいい。
そうすりゃマゥスンが戻って来た時に鼻を明かしてやれる。
────女賢者のエネラがマゥスンを抱き抱えてるオレに近寄り、こちらに預けるよう促して来た。
広場の隅の方に、12賢者達が普段使用しているらしい家屋があり、そこにマゥスンの身体を寝かせておくそうだ。
……コイツらのトコに置いてくのは正直心許ないが、そうも云ってらンねェ。
マゥスンの片腕にオレのバンダナを巻き付けて預け、オレはシファとビルの3人で次の目的地、北西の大陸の水の都を船で目指した。
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