ファイナルファンタジーⅠ
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20話 『磨り減る器』
「 ─────オレ、だけどよ、もう寝ちまったか?」
部屋のドアをノックし声を掛けてみるが、返事もなく静まり返っている。
「起きてンなら、ひとっ風呂入っとけよ。オレらは先に済ましたし……まぁ無理に入るこたねェけど。(………やっぱ、寝てンのか?)」
このまま放っといていいものかと思い、どうにも気になったシーフのランクはそっとドアを開けて中を覗き見る。
────暗がりの部屋の窓辺からは白い月明かりが射し込んでおり、床には羽付き帽子が落ちていて室内のベッドには赤マント姿のまま横たわるマゥスンが目に映り、
寝ているようにしか見えないとはいえその静止した状態に云い知れぬ不安を覚えて部屋の中に入り、音を立てずにベッドへ歩み寄る。
………気配に気付いた様子もなく、乱れた白銀の長髪から覗く端正な顔立ちはあたかも息をしていないかのように見受け、
深い眠りに陥っているらしくその何とも云えぬ容姿に思わず見惚れてしまうも、何やら心配になり間近で声を掛けようとする。
「 おい、マゥ……? 」
『寝かしといてやったらどうだ。……ここに来た途端、倒れ込むように横になってそのまま寝ちまうくらいソイツはお疲れなんだからな』
室内の片隅から不意に冷淡な声がしたと思と、蒼白い肢体の氷結の女王が壁に背を持たせ掛け腕を組み佇んで居たのにランクは気付き、一瞬肝を冷やす。
「うおッ、何で赤魔から勝手に出てンだオマエ……!?」
『今のソイツは、アタシを制御出来ない程に消耗してるんだ。そういう時は、主の意思に関係なくこうして勝手に出て来れるし、見限る事も出来れば逆に身体を乗っ取る事も可能さ』
「まさかテメェ、そのつもりで……ッ」
『勘違いすんじゃない、アタシはソイツが気に入ったって云ったろ。……紅いのは今、お前がやって来たのにも気付かないくらいの眠りに陥ってる。本来の<魔力の器>を持ってすれば、こうはならないだろうさ』
「そりゃあ……どーゆうこった?」
『魔力もロクに持たないお前に云ってもしょうがないだろ』
「 な゙ッ……! 」
『けどまぁ、教えといてやる。充分な魔力の器であれば、反属性同士でも同調が容易なんだ。────けど紅いのは充分過ぎる程の"器"を持ちながら、何か得体の知れない[呪縛]のようなもんで本来の力が遮られてんのさ。そんなんじゃアタシを扱いきるのもままならないだろ。……それでもアタシはソイツの器量を認めて主としたからには、力を貸さない訳にいかないけどな』
「その[呪縛]ってのは、まさか──── 」
『心当たりでもあるみたいだな。とにかくひと晩経てば魔力も多少回復して目を覚ますだろうけど、この先あまり無理させると起きなくなるどころじゃなくなるよ。アタシに云えるのは、それくらいだ。……そろそろ出てったらどうだ、紅いのに何か仕出かす気なら、容赦しないよ』
「す、するかよ……! そンなに主のコト思ってんなら、上掛けくらい掛けてやれっつのッ」
云いながらマゥスンにそっと掛けてやるランクだが、それにも気付いた様子もなく微動だにせず眠っている。
『アタシは人間じゃないんだ、そこまでは気が回らないよ。……お前は見かけによらず、気が利くもんだな』
「見かけは余計だっつのッ。(……氷結女とオレがこうして話てンのにも気付かねェくらい寝入ってるなンざ────やっぱ、強がってやがったのか。大した事ねェだの、問題ねェだの云いやがるのは、オレらに気を遣わせたかねェんだな、コイツなりに。そんなに頼りねェのか、オレ達は。いや、"オレ"か………?)」
もどかしい思いを抱きつつ、ランクはその場から離れるしかなくなり、音も無く部屋を後にする。
────翌日、一番先に起きていたのはマゥスンらしく、シファ、ビル、ランクと続いて4人は朝食を取らせて貰った後、広間で屋敷の主シドがやって来るのを待たされる。
「赤魔、オマエ……調子どーなンだよ」
昨晩の様子を目にしたランクにしてみれば、起きないのではないかと思わせる程の眠りに陥っていた為ひと晩中その事を気にしてあまり寝付けなかったが、当のマゥスンはいつも通りにしか答えない。
「 問題ない 」
「(それしか云う事ねェのかよッ。まぁオレらより先に起きてたし、何ともねェならそれでいいケドな………)」
「シドさん……、もしかしてまだ寝てたりするのかな?」
「依頼の報酬がどんなのか気になりまスけど……」
待ちくたびれ始めるシファとビル。
「皆さん、今少しお待ち下さい……。もう一度お呼び掛けして参りますので……!」
「いんやぁスマンすまん! 昨日の晩色々準備してたらうっかり寝過ごしちまって、お待たせしたばい?!」
メイドのテューテが何度目かの呼び掛けに向かおうとした所、大きな頭陀袋を背負ったシドが以前よりマシなベストに半ズボンの格好で、ぼさ頭を掻きつつようやく広間に現れた。
「おせーンだよオッサン、こちとら貰うモン貰ってさっさとズラかりてェとこだぜッ」
「まぁそう云わんと! あんた方に報酬くれてやったら俺っちもすぐ出発するかんな! そいじゃ早速……シーフのランク坊からな!」
シドは何やら使い古されたボロい頭陀袋の中を漁っている。
「これだこれ! 二刀の短剣グラディウス!! 鋭い斬れ味を保証するぞな!
黒魔のビル公には────魔導師の杖! 黒魔法の威力がより強まるってもんだ!
白魔のシファっちゃんには────癒しの杖! 回復力が通常より上がるぞ~!
そいでもって赤魔のべっぴんさんには────エンハンスソード! バランスのとれた攻撃力と魔力を兼ね備えた剣ぞな!
どれも俺っちが冒険先で手に入れた、店では買えない逸品だ!!」
4人へと気前よく報酬の武器を渡すシド。
「そういえば愛の冒険家、だったっけ。シドさん自身は何の武器を使ったりするの?」
「俺っちかい? もっぱらアクス系ぞな!」
「アクス系って……斧か? そのヒョロイ体つきでかよ」
シファとランクの問いに、シドは気さくに答える。
「背中に装備したりもするけんど、今はこの何でも入る頭陀袋に入れちょるんだ!」
「み、見かけによらず力持ちなんでスねっ」
「おうよビル公! 俺っちこう見えて細マッチョ────あ゙だぁ?!」
勢いよく片手で大きな頭陀袋を持ち上げた拍子に腰を痛めたらしく、その部分を摩るシド。
「無理なさらないで下さい、もういいお歳なんですから……!」
「年寄り扱いはまだ早すぎるぞなテューテ!……とにかくこれで心置きなく氷の洞窟を探索出来るってもんよ、あんた方の事情は知らんけど健闘祈ってるぞ! そいじゃな!!」
頭陀袋を背負い直し颯爽と出発してすぐにボサ頭のひょろい姿は見えなくなり、メイドのテューテは溜め息を洩らす。
「シド様は冒険ばかりされて、たまに戻られてもお昼寝ばかり。留守を預かる私達の事も少しは考えて下さらないと………。皆さんもどうか無理をなさらず、いつでもお立ち寄り下さい……!」
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