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ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~

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DAO:ゾーネンリヒト・レギオン~神々の狂宴~
  第七話

「!……さ、小波さん!」

 その驚愕の叫びを、栗原小波は緊張感で張りつめた、時計塔のオペレーションルームで聞いた。

 弟の栗原清文が目を覚まさなくなって一か月。《白亜宮》にとらわれたと思われる彼の精神を救出すると同時に、全VRワールドへの侵攻を開始した彼らを止めるべく、新たな仲間を送り出してから一日。

 もともと小波の目的は、《六門世界》の仕組みを解析し、《適合者》の資格なしに往来することを可能とすることだった。小波が入手した《ジ・アリス》の鱗片。

 そこから取り出された未知のシステム、《DVWS(ディーヴォス)》は、ほぼ100と言っていいほど、ジ・アリスの機能をVRワールド上に再現することを可能にした。製作者が望む通りの世界を形作り、運営する。

 だがしかし、この能力を完璧に再現できてしまったがゆえに、《ジ・アリス》の欠点とでも言うべきものも継承してしまった。それが、《適合者》システムである。《DVWS》によって形作られる世界には…詳しくは小波にも分からないが…ログインするために何らかの資格が必要になると言われている。小波にはどうやらその資格が備わっていなかったらしく、《ジ・アリス・レプリカ》によって作られた《六門世界》に(ログインす)ることは許されなかった。

 幼いころから、あの伝説の世界に行ければ、どれほどいい事かと夢見てきた。それが――――《六門世界》に行く方法が、すぐ目の前にあるのにもかかわらず、それを手に入れることができない。どれほど口惜しいことか。

 そのためには、何とかして研究を重ね、《DVWS》の《適合者》システムを無効化する方法を創り上げなくてはならない。幸いにも小波には仲間がいたし、彼らの中の数名にはどうやら資格を保持している者がいたらしく…何か共通点があるのか、と探してみたが、残念ながら見つからなかった…彼らは無事《六門世界》に入り込むことに成功した。

 だが、まだ足りない。
 
 だから呼び寄せることに決めた。恐らく最も長くVRワールドに触れ、《適応合者》の資格を間違いなく持っているを断言できる存在を――――弟、栗原清文/セモンを。

 なぜ《適合者》の資格を、彼が持ち得ると断言できたのか。それには、小波が《ジ・アリス・レプリカ》を手に入れることになった経緯が深くかかわる。

 十年前のことだった。奇妙な夢を見るようになった。その夢の中で、自分は真っ白な城の中にいる。玉座のようなものが目の先にあり、そこにはくせ毛の少年が座っているのだ。少年は()()い色をした目を細めて、小波に言うのだ。

 ――――「望みを、叶えたくはないか」、と。

 それが、理想の世界へ足を踏み入れたい、という願いであることを瞬時に悟り、小波はうなずいていた。すると少年はニタリと笑い、じゃぁ、契約完了だ。という。

 それから、継続的に彼が夢に現れ、何か指示を出すことが起こるようになった。ある日目を覚ますと、家の前に七歳ほどの真っ白な髪の少女が倒れているのを発見する。その少女のことは、先日の夢ですでに少年から聞いていた。

「今から数日後、君の家の前に、白い髪の毛の女の子が来るはずだ。名前は()()()()・イクス・アギオンス・オブザーバゼロ。彼女に、「君の名前は『G-01グリーヴィネスシャドウ』―――グリヴィネだ」と伝えろ。同時に、彼女に早急に日本にいる《天宮(あまみや)陰斗(かがと)》という少年のところへ行くように指示し、そこでは《天宮(あまみや)刹那(せつな)》と名乗れ、と言うんだ」

 グリーア、という名前らしいその少女に、グリヴィネ、という偽りの名前を与える。同時に、日本にいるある少年の元へ送り届け、そこではまた別の名前を名乗れと伝えろという。

 少年の言うところによると、グリーアなるその少女は《グリヴィネ》という名前を登録された時点で偽りの記憶を()()()()、日本に行った後は何の問題もなく機能する、とのことだった。

 そもそも小波が驚いたのは、彼女がどうやら人間ではないらしい、という事だった。人間が本来アクセスできない脳の領域への接続を可能とし、この世界の人間には備わっているはずのない《魔力》とでもいうべきエネルギーを保有していることが、後に分かったからだ。彼女を手放すことは惜しかったが(もうこの時点ですでに小波は、幼いながらに研究者として大成しかけていた。ハッカーとしてはすでに大成していた)、少年の指示に従うことで最善の結果が得られるという事を既にそれまでの経験で知っていたので、小波はすぐにそれに従うことにした。

 それ以後も、ちょくちょく彼から指示は降りてきた。彼の声に従った事で、初期の《ボルボロ》の基盤となる仲間たち――――千場や黒覇&白羽の雪村姉弟、そしてハクアこと白崎(しらさき)水音(みお)を集められた。《ジ・アリス・レプリカ》は、そんなふうに従順に従ってくれた小波への褒美だ、という形で与えられたのだ(因みに朝起きたらPCのメール版にファイルが送信されていた、というよくわからない受け渡しの仕方だったが)。

 だが、その《レプリカ》は、小波にとってかゆいところに手が届かない、なんとも言えない存在であった。次の夢でそれを彼に問うと、彼は笑ってこう言ったのだった。

「君の弟――――栗原清文。彼を呼び寄せるといい。彼は《適合者》だ。彼は問題なくあの世界に入り込めるよ。彼が結果的に、君に答えを与えるだろう」

 そうして、栗原清文を呼び出すための全てが始まった。おりしも彼はSAOにとらわれたばかりの頃。さらには他の《適合者》をダイブさせるための機械を――――《DTL》を量産する期間も必要だった。清文にはこのシステムは知人が作った《STL》と言う機械を流用した、と言った。事実、これは例の少年が《STLの概念をコピーした全く別の存在》として作り上げた物を、現実世界でも作成しただけである。《親子》の関係の様なものである。

 すべてが整った時――――それが、二か月前。六月の始めのこと。そのころに、もし清文に何かあったら呼ぶように、と、少年は杉浦琥珀、京崎秋也、そしてあの時の少女……天宮刹那と、その《兄》となった天宮陰斗の名を上げたのだった。

 思えば、あのくせ毛の少年――――《白亜宮》の王、《主》と名乗ったあの少年の目的は、《六門神(プレイヤー)》を《ジ・アリス・レプリカ》の中に招き入れることだったのではないか。そのために必要だったのが、清文/セモンなのではないか。彼を利用することで、全VRワールドへの進軍が可能となったのではないだろうか。

 ならば、小波はまんまと彼の口車に乗せられていたわけだ。自分の夢ばかりを追いかけたせいで、たった一人の大切な弟を危険な目に合わせている。

 そう。大切な弟だ。両親既になき今、直接の家族は清文だけだ。それだけではない。清文は、小波が一切の違和感なしに《人間》としてふれあえる、唯一の人間なのだ。

 千場ら《ボルボロ》の仲間たちとは、そこそこ人間として付き合えている気がする。が、それでもどこか距離を置いたところで彼らと接してしまっている気がする。いつもの軽い態度はそれを隠すためのもの。ちなみに両親に至っては、死んだ時ですら何の感慨もわいてこなかった。強いて言うなら、「あ、死んだんだ」と言った所か――――

「(全く、最低の姉貴だよ、俺は)」

 自分には、責任がある。清文を、仲間たちを、そして名も知らぬVR世界の愛好者たちをも危険にさらしてしまったことに対する、責任が。

 それを、どうにかして解決しなくてはいけない。奇しくもそれは、小波が初めて、清文以外の他人に本気で感情をぶつけている場面でもあった。

 
 そんな折だ。驚愕の叫びが響いたのは。

「何!?」

 大声で聞き返す。すると、叫んだオペレーター…ノイゾと名乗った少女が《白亜宮》のVRワールド侵攻を宣言した時に、清文の部屋に駆け込んできた男と同一人物だ…が、興奮冷めやらぬ、と言った声で続けた。

「《アルヴヘイム・オンライン》のユーザーが、《六門世界》に入り込んでいます!DTLからの指定ポイントへのログインも可能になっているようです!」
「何……だと!?」

 それはすなわち――――《適合者》の資格を保有していなくてもダイブできるという事なのだろうか。

 急いでDTLに飛び込み、ログインを試す。だが――――視界には、《ERROR》の文字が浮かぶだけ。

「何故だ!?」

 なぜなのだ。なぜ、自分はあの世界に行けないのだ――――。

「小波さん、私が」
「水音……」

 水音……ハクアが、DTLの前に立つ。悔しいが、現状ここからログインできる《適合者》の中では、彼女が一番の手練れだ。

「頼んだ」
「はい」

 席を譲り渡す。DTLの中に座り、ロボットアニメの主役機のコックピットめいたその機械のドアを閉め、ハクアは異世界へと旅立つ。

「ID《ハクア》のログイン、確認しました!」
「《央都》へのポイントログイン成功です!」

 オペレーターたちの声が響く。だがそれらは、もはや小波の耳には届かない。

 その胸中にあるのは困惑と、悲憤。自らの手で、最愛の弟を救い出せないことに対する、もどかしさ。

 だが、その役目はあの茶金髪の少女に譲るしかないのだ。彼女ならきっと、清文を取り戻してくれると信じている。

 だから今は――――


 信じて祈るという、原始的かつ非科学的な方法に、頼るしかないのだ。


 
 ***



 セモンは、白い微睡の中でわずかに目を開ける。何か、騒がしい気がしたのだ。目の前には、茶金色の髪の毛を揺らす、青いマフラーの少女……琥珀の姿がある。

「どうしたの?清文」
「……いや……何でもない……」

 事実、目を覚ましてしまったらもう何も感じなくなっていた。ただ、奇怪な不安だけが残る。今この幸せな時間を、誰かに崩されてしまうのではないか、という。

「大丈夫よ、清文」
「ああ……」

 けれど、琥珀が居るのならきっとそんな心配はいらないだろう。

 そんな根拠も無い確信と共に、セモンは再び目を閉じ、淡いまどろみのなかに堕ちて行った。 
 

 
後書き
 はいどーもみなさんお久しぶりですAskaです。
刹「久々にそこそこ素早い更新ですね」
 代わりに文字数少ないけどね。
刹「まぁ更新が早めだったのでそれで大体許してあげます」
 ありがと。

 それでは次回も
刹「お楽しみに」 
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