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ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~

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DAO:ゾーネンリヒト・レギオン~神々の狂宴~
  第八話

「嘘……だろ……」
「どうして、あんたがここに……」

 驚愕を抑えることができない。

 目の前に立ちはだかっているのは、あの日、自分たちの前からいなくなってしまった存在。誰よりも儚く、けれど誰よりも強く、自分たちを導いてくれた存在。

 その命を燃やし尽くすかのように、圧倒的な強さを見せつけた仮想世界の申し子。

 アメジストのような艶やかな黒い髪。目の色は以前とは違う()()。所々に金色の配色が施された鎧を身に付け、握っているのは二本の剣。

 浮かべているのは、以前のような快活な笑みではなく、どこか悲しげな、前よりずっと儚い笑み。

 いつか必ず、また会おうと約束した。だけどそれは、もっとずっと先のことのはず。自分たちがそちらへ行くことを、彼女は許してくれなかったから。それにあの時約束したのは、こんな出会いではなかったはずだ。

 お互いが、お互いを、敵として認識して立っている。そんな出会いではなかったはずだ。

「やぁ、みんな。久しぶり」
「――――ユウキ」

 彼女の名は、《絶剣》ユウキ。

 数カ月前にこの世を去った、《スリーピングナイツ》のリーダーだった。



 ***



 《絶剣》ユウキこと紺野木綿季は、治療が難しい重病にかかった若者が集まったギルド、《スリーピングナイツ》のリーダーを務めていた少女だ。彼女自身、HIV……つまりはエイズの患者であり、難しい状況にいたという。

 それでも彼女は笑顔を絶やさない人間だった。不安なんて吹き払ってしまえ、とばかりに快活に笑い、豊かに表情を変化させ、そしてまるで自分の存在を世界に刻み付けるかのように戦った。

 《仮想世界の申し子》と呼ばれるほど強く、あの《黒の剣士》キリトを…彼が本気ではなかったとはいえ…二度も下し、さらにはかの《太陽の帝王》シャノンに一矢を報いた実力をもつ(もっとも、シャノンとの戦いではその圧倒的すぎるステータス差の前に敗れたが)。

 《スリーピングナイツ》のメンバーと、助っ人としてユウキが連れてきた少女、アスナのわずか七名で、新生アインクラッドの第二十七層フロアボスを撃破してしまったのもいい思い出だ。

 そんな彼女も、四月のはじめに、その命を燃やし尽くした。まるで彼女が起こした奇跡であるかのように、《スリーピングナイツ》の面々が患っていた重病も完治の方向へ向かい始めた。

 ユウキの死の間際に、彼女は自分達と約束した。いつかまた、どこかで会おう、と。《スリーピングナイツ》がある仮想世界で出会い、共に歩んだように。今度は別の世界で会おう、と。

 だから――――ユウキと再び出会った時に、沢山の事を語りあうために、シウネーたちは仮想世界を冒険し続けたのだ。

 アインクラッド攻略に参加した。

 アンダーワールドという仮想世界を救う為の戦いに加勢したりもした。

 そして今、全仮想世界に侵攻を続ける《白亜宮》なる組織から、ユウキとの思い出の場所であるALOを、ひいては仮想世界を救うために、シウネー率いる《スリーピングナイツ》もまた、他のALOプレイヤー達と共に、ALOを支配していた《白亜宮》メンバー、エインヘルヤル・イクス・アギオンス・レギオンルークの開いたゲートから、恐らく《白亜宮》の支配下にあるのであろうこの仮想世界へとやってきた。

 まずはじめに感じたのは、その圧倒的な完成度の高さだった。赤茶けた荒野が足に伝えてくる感触も、砂埃によどんだ空の色も。遥か彼方に見えそうな都市…もしかしたら蜃気楼かもしれない…のゆらめきかたも、ALOの物とは比にならなかった。

 最新技術を以てつくられたアンダーワールドも凄まじい完成度を誇ったが、この仮想世界はそもそも『ワケが違う』と直感させるほどのちがいがあった。

 ――――一言で言ってしまえば、『現実』なのだ。「仮想世界」としての『仮想現実』ではなく、「もしかしたらあったかもしれないリアル(パラレルワールド)」としての『仮想現実』。文字は同じでも、意味合いは全く異なる。
 
 この世界は、既存のどの仮想世界とも成り立ちが違う。否――――ここが仮想世界だと、はっきりと実感できない。

 見下ろした格好は、ALOで使っているウンディーネのアバターと同じだ。他の《スリーピングナイツ》のメンバーも、ALOの物と同じ格好をしている。唯一違いがあるのは、その背に翅が無いこと。出現すらしないので、なにか特殊な理由があるのかもしれない。まぁ、元々陸戦をすることの方が多い《スリーピングナイツ》にとって、それは些細な違いでしかなかったが。

 周りには他のALOプレイヤーはいなかった。どこまでも広がっているのではないかと錯覚させる荒野を眺めて、シウネー達はどこか情報が集まる場所を探そう、と歩きはじめ――――その次の瞬間、目の前で起こった事象に立ち止った。

 赤茶けた大地に、黒い穴が開いた。いや、穴と言うにはおかしいかもしれない。平坦で、のっぺりとした――――そう、影。何もない所に、漆黒の闇が生まれた。

 そこから、どぷり、と音を立てて、何者かが姿を現す。その瞬間に、シウネーは奇怪な既知感を抱いた。

 ――――私は、知っている。

 ――――《コレ》が誰なのか、知っている。

「嘘、だろ……」

 同じ回答に行きついたのか、後ろで《スリーピングナイツ》メンバーの一人、大剣使いのジュンがかすれた声を漏らした。

「どうしてあんたがここに……」

 同じくメンバーの棍棒使い、ノリが、信じられない、とでも言いたげに、首を振って呟く。

 そしてその人物は、顔を上げると、儚くて、哀しげな笑みを浮かべて、言った。

「やぁ、みんな。久しぶり」
「――――ユウキ」

 シウネーは、その名前を呼んだ。

 もう一度会おうと誓った相手だった。その望みは、思ってもいないところで果たされた。

「り、リーダー?リーダーもどこかの仮想世界からやってきたのですか?」

 おどおどと質問するのは、丸メガネのロングスピア使い、タルケン。そんなはずはないのに、混乱しているのか、そんな問いを投げかける。

 けれども、シウネーは直感していた。そんなわけないと。むしろ、この出会いは最悪の物だった。仕掛けた人間――――いや、《そんなこと》ができるなら、人間でない存在かもしれない。

 そう――――たとえば、《神》。

「違うよ」

 シウネーの予想通り、ユウキは静かにその首を振った。

「ボクは、守護者(ガーディアン)だ」

 そう言って、ゆっくりと、剣を構えるユウキ。その本数、二本。片方はかつてのユウキの物によく似た、漆黒の剣。もう片方は、目もくらむような純白の剣。黒い方には赤、白い方には青の宝石がはまっている。その趣はよく似ていた。《夫婦剣》、という言葉が頭に浮かんだ。

 ――――《二刀流》!

 ――――けどなんで。ユウキは片手剣使いのはず……。

 そんなことを、のんびりと考えている暇はなかった。

 ユウキの二刀の切っ先が、ゆるり、と動いた。それが指し示すのは、かつての仲間たち、《スリーピングナイツ》。

 それは――――彼女が、《敵》としてこの場に現れたのだという、最悪の再会を指し示すものだった。

「ボクを蘇らせた存在達を守る――――《白亜宮》の守護者。《絶剣》ユウキ・イクス・アギオンス・レギオンポーン。君たちの敵だ」

 二刀が輝く。それはかつての彼女が持ちえず、知りえなかった技。シウネーもまた、この時その名を知らなかった。

 だがその技は、確かにシウネー達の世界に存在した。

 《二刀流》ソードスキル、《ダブルサーキュラー》。
 
 かつて仮想世界の鋼鉄の城を解き放った漆黒の勇者が、何度も放った高速の剣技。

 其れすらも越えた、仮想世界に置いて最速の素早さを誇る絶技として、その技が放たれた。

 ユウキの姿が掻き消える。その存在を視認できない。『かつて』の彼女をはるかに上回る、想像を絶するほど恐ろしい素早さだ。

「っ!?」

 シウネーの腕を衝撃が貫く。そのまま、胴にも一撃。赤熱。斬られたのだ、と悟るまでに数秒を有した。

「くはっ……!?」
「シウネーさん!」

 壁役のテッチが叫ぶ。ようやく皆の驚愕も落ち着いたのか、それぞれが傷を負ったシウネーを守るように陣形を固める。

 だが、そんなものを気にも留めない、とばかりに、ユウキは再び剣を光らせる。片手剣ソードスキル、《シャープネイル》三連撃。。もう片方の剣からは、《ライトニングバニッシュ》五連撃。的確にジュンとテッチの鎧の隙間を攻撃し、彼らを無効化する。
 
 対人戦に特化したユウキに、さらに与えられた上位の力。それだけではない。《二刀流》が、はじめから彼女の為だけに創られた存在であるかのように、ユウキは二刀を使いこなしている。

 かつて――――かつてALOで、《黒の剣士》が二刀流を使っているのをみたユウキは、「ボクもやってみたい」と言い、しばらく二刀流を訓練していたことがある。

 結果としてはうまくいかなかったのだが、その時の練度とは比べ物にすらならない。次元が違う。《黒の剣士》と同レベル――――下手をすれば、彼を超えているのではないだろうか。

 《スリーピングナイツ》としばらく行動を共にした少女、アスナは、恋人である《黒の剣士》の言葉を、シウネーに教えたことがある。

 すなわち――――

『もし《絶剣》がSAOにいたのなら、《二刀流》は俺ではなく、彼女に与えられていたはずだ』

 と。

 その空想が、まるで実現してしまったかのような動きだった。

「どうして……?」
「言ったでしょ。ボクは守護者(ガーディアン)なんだ。ボクは君たちの仲間だった《紺野木綿季》ではなく、《白亜宮》の守護者、ユウキ・イクス・アギオンス・レギオンポーン。
 ……本当なら、こんなこと、いろんな意味で起きるはずがなかったんだってさ。けど、《白亜宮》の王様…ボクの《雇い主》ってところかな…が、ボクを蘇らせてみんなと戦えっていうんだ」

 だから――――と、ユウキは再びその剣を掲げる。

「――――ボクは、《あの存在》に逆らえない。《被造物(ユニット)》は誰一人として、《創造者(マスター)》に逆らえないんだ。だからボクも、君たちと戦う」
「そんな……」

 ではユウキは、死後の世界…もしそんなものがあるのだとしたら…から、シウネー達と戦うためだけに呼び戻されてきたというのか。それだけをするために。それだけを強要されて。

 そんなの、ひどすぎる。『何かを生みだすこと』を夢見て、『何かをなくすこと』をあんなに恐れていたユウキに、『仲間を殺せ』という、命令を、決して逆らえない高みから下ろす。

 ――――許せない。

「そんな命令に負けないで!ユウキ……自分を取り戻して!」
「っ……!」

 ユウキの瞳が、一瞬だけ揺れた。やはり……この戦いは、彼女の本意ではないのだ!

「そうですよリーダー!」
「あんたはそんな弱い奴じゃないだろう!」
「剣を収めてくれ、リーダー!」
「一緒に戦おう!」

 しかし、ユウキは、その顔をくしゃりと歪めて、泣き出しそうな声で――――

「みんな……ダメなんだ……そんな、そんなことしたら……」
『いかにも。不可能だ』

 その時だった。どこからともなく、声が聞こえたのは。びくん、とユウキの体が跳ねる。

「この声……」

 その声は、かつて全世界に届いた声。全ての仮想世界は我らの手中に納まる所となる、と宣言した、青い、邪悪な女神の声。

「ノイゾ、様……」
『不可能だよ、レギオンポーン。貴女はただの(ユニット)にすぎない。我が兄の掌の上で動き、それに準じるだけの存在だ。故に――――その意向を伝える。『《絶剣》、《惟神》の使用を命ずる』―――恭順せよ』

 その瞬間――――ユウキの右目が、()()い光を放った。

「う、ぁ、ぁ、ぁあああああああッ!」

 ユウキが悲鳴を上げる。その足元に奇怪な魔方陣が出現し、同時にユウキの体中に蛇の伝った後のようなあざが浮かび上がる。

十九八七六五四三二一〇(トオクヤナムイヨミフタヨ)
「い、『いと尊き我が主に、この契約を捧げます』」

 ユウキの口から、苦しそうに祝詞が紡ぎだされる。

「『それは時すら超えた超越
  ありとあらゆるすべては還り
  今ここに唯一の祝福がもたらされる
  故、祝え。今こそ大いなる《軽蔑の時》だ――――

  ―――《惟神(Amen)》―――
  《回帰する超越の時(ウロボロス・ユーヴァーメンシュ)》』」

 
 ゆらり。陽炎が立ち上る。

 それはいつの間にか形を紡ぎあげ――――影でできた、漆黒の龍をつくり出す。

 その龍は、奇妙な格好を取っていた。長い自らの尾を、その口にくわえて、咀嚼している。

 ――――自らの尾を食う龍(ウロボロス)。そんな名前が、シウネーの頭の中に蘇った。たしか、錬金術の象徴として扱われている存在。

 同時に、過去へと、永遠の生へと回帰する証。錬金術師たちが目指した《不死》の、一種の象徴。
 そして終わらない死は――――救世主の裁き(しゅくふく)が決して下らないことを示す。なぜならば、灰塵と化すことすらできないから。《蘇る》ことが通用しないから。

 それは罰。それは罪。生き抜いた先にこそ祝福はあると唱える、西洋協会に対する侮辱。生きるだけで、死は訪れない。『生き抜く』ことが不可能ならば、祝福は絶対に与えられない――――

「『《神・哭・神・装》
  
  ―――《惟神》―――
  
 《回帰する超越の時(ウロボロス・ユーヴァーメンシュ)》』」


 ユウキの体を闇の龍が、鎧のように覆っていく。それはエインヘルヤルとの戦いで見た。つまりそれは、ユウキに与えられた『新たな力』が、完全に解放された証――――

 すなわちは、シウネー達の敗北を意味していた。 
 

 
後書き
 どうもー、お久しぶりですAskaです。
刹「……ユウキさん、キャラ崩壊しすぎじゃ?」
 いいのいいの。二刀流でチートなユウキだから。惟神まで使っちゃうから。ちなみにユウキが使ってた剣は《トゥルーエクスキャリバー》っていう対剣で、世界を創りなおせるっていう設定がある。
刹「出ました自己完結設定」

 そんなよくわからない事態にもなってまいりましたが、ここまで来たらあとの話は大分かたまってきます。あとは書くだけ――――まぁ文章が出てこないからそこが一番大変なんだが。

 そんなわけですが
刹「次回もお楽しみに」 
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