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一人のカタナ使い

作者:夏河
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SAO編 ―アインクラッド―
第一章―剣の世界―
  第2話 夜の予行練習

 三人で一致団結してから僕たちはフレンド登録をした。よくわからないが、これをするとお互いに連絡が取れたりどこに居るのかがわかるらしい。……何か、ケータイみたいだ。まだ親から買ってもらってないけど多分そんな感じだろう。

 そのあと、武器と防具などの準備やなんやかんやを終えて僕たち三人は今《はじまりの街》の外――つまり、フィールドにいるのだった。

「なあ、コウ……」

 僕は相手の顔を見ずに自分の正面を見つめ、口を開いた。

「……どうした?ユウ」

 それに対し、コウが口を開く。
 僕は三歩ほど前に歩き、そこで止まる。ちなみにカイもいるが、全く口を開かない。あいつにしては珍しいことだ。

 時刻は既に午後八時を超え、辺りは真っ暗闇になっていた。全く先を見ることができない。
 夏ならばまだこの時間帯でも少しは見えるのだろうが、今は十一月。もう冬に入るか入らないかの微妙なところだ。少しも見えない。見える気がしない。どうやらSAOの季節は現実世界と同じらしい。

 僕はコウの言葉に言葉を返す。その口調は無意識にトーンが落ちていた。

「……なんで今僕たちはここにいるんだろう」
「そんなの簡単さ、このSAOでの戦い方を覚えるためだ」

 平坦な口調で言葉を返された。多分コウは相変わらずの無表情だろう。僕は大声を出すために息を吸い込んだ。

「僕が聞きたいのはなんで夜なのに今からするんだよってことだ!!」

 暗いフィールドに一人の少年の声が響く。そんなことはお構いなしにモンスターが周りで彷徨いている。ていうか、何もないところからモンスターが出たりしてる――え〜と、確かPOPっていうんだっけ?

「そうだ! なんで今からなんだ!?」

 今まで黙っていたカイが僕と同じように叫んだ。どうやらこいつもそこに不満を感じていたようだ。
 それに対して、コウは静かに対処する。ここまでアップダウンが無いのなら、逆に何をしたら明確に反応するんだろう。昔からの付き合いだがこいつがそれを見せたのは先日SAOを手にしたときぐらいだった。

「……理由は二つある」

 そう言ってコウは片手を挙げて人差し指だけ立てた……ように見える。

「一つ目、お前らは知らないと思うが、俺以外の経験者――つまり、βテスターのほとんどは既にはじまりの街にはいない」

 は?何で?
 それを言葉にする前にコウがさらに言葉を重ねる。コウの方を振り向くと、かろうじてコウと判るぐらいしか認識できなかった。………なんか怖いわ。しかも無表情なんだろ? 下から懐中電灯灯せば完璧にホラーだよ。

「……わかんないか?」
「わかんない」
「簡単だ、自分たちが生き残るためにβテストのときに得た知識を使ってガンガン力をつけるためだ」
「なーる」
「……何だよ、なーるって」
「なるほどって意味」
「…………あっそ」

 コウはそれほど興味無さそうに返してきた。
 ていうか流された。やめてよ、なんか寂しいじゃんか。スルーされるのって結構辛いんだぞ?まぁ、コウはボケるタイプじゃないから分かんないかもしれないけどさ。

 話を戻して……
 βテスターたちのやり方に少しずるいなあと思いつつも、まぁ生き残るためなら仕方ないかと思った。
 悲しいことに一番大事なのは自分の命だ。
 もちろん友だちや家族も大事だが、それは自分の命あってこその話だ。

「……で、二つ目」

 目が暗いのに慣れてきたのか、さっきよりも明確にコウが中指も立てたのがわかる。
 カイの方はさっきから全く反応を見せない。多分コウの話を真剣に聞いているんだろう。ちらっと見てみると、あくびをしていた。……余裕だなあ、こいつは。

「俺たちも攻略を目指す以上、ずっと此処にはいられない。俺たちも彼らと同じように行動する。俺も一応βテスターだからな、ある程度のとこまでは記憶している」
「……それが僕たちが今フィールドにいるのと関係あるの?」

 僕はいまいち分からなかったので、コウに疑問を投げかける。いや、ほんとに何の関係があるんだと思ってる。
 コウは片手をポケットに入れながら僕の質問に答えた。

「……いや、多分ここら辺もたくさんのプレイヤーで埋まっちゃうからな、早い内に次の村に行きたいんだ」
「うん」

 順序よく説明するコウ。それに頷く僕。自分で言うのもなんだが、なんか教師と生徒みたいだった。
 そう言えば、もう学校行けないんだなあ。普段だったら嬉しいはずなのに、寂しくなってきた。もう先生にもクラスメートとも会えないんだなあ。少し……っていうか結構ショックだ。
 まさかゲームで学校の大切さを知ることになるとは……。人生何があるかわかんねーな、ほんと。

「……で、俺とコウはもうSAOでの戦闘を経験してるけど、ユウはまだだろ?」
「うん」
「だからさ、早く次の場所に行くために今のうちに戦闘に慣れておくんだよ」
「あぁ、そーいうことね」
「……そういうことだ」

 僕は納得し、肩に背負っている武器に視線を動かした。
 動かした視線の先には僕の身長の半分ほどの長さを持ち、装飾も何もされていない質素な武器――曲刀と呼ばれる武器の一つ《スモールブレード》がある。
 本当はカタナを使いたかったが、SAOにはカタナというスキル自体がないらしく、渋々初期装備の片手剣《スモールソード》から刀と名前のついている曲刀を選んだという話があったりする。

 曲刀といっても、見た目的にはカタナより少し刀身の反りが大きいということぐらいだ。他にも違いはあるかもしれないが、SAOでも現実世界でも本物のカタナを見たことがない僕にはよくわからない。僕はもうカタナっぽければそれでいいやって感じだ。

 何となくスモールブレードを抜いてみる。『武器』という言葉を聞いて最初は重いという印象を持っていたが、それ程でもなかった。学校の授業でたまに使う竹刀ぐらいの重さだ。
 これぐらいの重さならちゃんと振り回せそうだ。

「ちょっと振ってみていい?」
「……もちろん」

 そう言ってコウは僕から少し離れる。カイは元々近くにいなかったので、動いておらずその場であくびをしている。
 こいつ、ほんとに眠そうだな。まだ午後八時だよ?小学生でもまだ起きてるよ。もう少し頑張ろうぜ?
 僕はそれを確認すると、とりあえず何気なく左右に振ってみた。振るたびに僕の武器が風を斬る音がする。
 ……うん、予想通りの重さだ。全く問題なし。
 まぁ、振れるってだけでこれで戦えるかといわれれば別だ。それは実戦してみないとわからない。

「……どうだ?」
「うん……何とかなりそう」
「じゃあ、さっそく始めるぞ」

 そう言ってコウも背中に背負っている武器を手に取った。
 補足をしておくと、コウの武器は初期装備と同じ片手剣のスモールソードで盾無し、カイははじまりの街の店に売ってあった槍を装備している。

 『ソードアート』・オンラインというぐらいなのだからてっきり剣だけしかないと思っていたが、どうやらそれは違うらしい。
 他の武具店にも行ってみたが槍の他に斧や棍などもあった。武器は今まで僕がやってきたゲームに出てくるものは大抵揃っているようだ。武器に飽きることはなさそうで少しホッとした。

「ほらっ、ユウ、あそこに青い猪がいるだろ?」

 そう言ってカイは自分の前方を指差した。それを辿って見てみると、自分の体の半分ほどの大きさの猪が動いていた。
 僕はそれを見て一気に自分のやる気がなくなり、恐怖が心の奥から溢れていくのを感じた。思わず一歩下がってしまった程だ。

「……何ビビってんだよ」

 カイが僕を見てニヤニヤしながら言った。べ、別にビビってねーし! あと、ニヤニヤを隠すために右手を口元に当てているが、バレバレだからな。

「いや、何かさ……」
「うわぁ、コイツビビってるぅ〜」

 カイが今度は笑いを隠すことなく、はしゃぎ始めた。うぜぇ。
 あぁ、わかった認めるよ。確かに今僕はビビってるさ。
 いや、だけど考えてもみてほしい。今まで猪という生き物を見たことがない僕の目の前に実在するって言われたら信じてしまう程精巧な猪がいるのだ。これなら誰だってビビってもおかしくはないのではないだろうか?しかも暗いから見えにくいし………。

「……死にそうになったら俺とカイで助っ人に行くから安心しろ」
「お、お〜う……」
「ていうか、コウが言うにはその青猪がこのSAOのモンスターの中でも最弱らしいからな。それ倒せなかったらこれから先は無理だぞ」
「うぅ、わかったよ……」

 僕はとりあえずおそるおそると言った感じに歩いて青猪に近づいていく。最初は二十メートル程あった僕と青猪の距離がどんどん縮まっていった。
 十メートル……五メートル……。
 これだけ近づいても向こうは全く反応を見せない。のんきに生えている雑草に突き出た鼻を埋めている。何かこれだとビクビクしてる僕が馬鹿みたいじゃないか。

 そう思い、思い切って地面を駆け、武器を青猪――敵に向かって振りおろした。

「ピギィィィイッ!!」

 敵は悲鳴をあげ、鼻を上に上げた。
 ここに来る前にコウの意見を参考にセットしたスキル《索敵スキル》により、よく見ると敵の名前とHPゲージが僕の視界の中の青猪の上に出ていた。
 青猪の名前は《フレンジーボア》というらしい。アルファベットで書いてあるので英語っぽいから訳そうと思えばできるかもしれないが、生憎、僕の英語の成績はお世辞にも良いとは言えないので自分では訳せない。後でコウに聞こ。

 フレンジーボアは悲鳴を上げたかと思うと、僕に向かって突進をしてきた。僕はそれに対応できず、直撃した――僕の下半身に。下半身のどこに直撃したかは察して貰いたい。

「ぐえぇぇぇえ!」

 僕の身体だけではその衝撃に耐えきれず、まるで序盤に出てきてヒーローにやられる敵みたいな悲鳴を上げながら僕は後ろに吹き飛び、背中から地面に叩きつけられた。叩きつけられたと同時に反射的に攻撃された場所を僕の両手は押さえていた。

 すぐ傍で見ているはずのカイとコウの方に視線を移すと、二人とも暗くても分かる程顔を青くして僕と同じ場所を両手で抑えていた。

「お、お前なんちゅう事してんだ!!」
「……見てても痛いぞ」

 い、いやそんなこと言ったって身長差的にそこにぶつかるのは当然であり必然なわけで……。それに僕が喰らったんだし。
 ていうか……あれ………?

「い、痛くない……?」
「まぁ、ゲームだからな。でも代わりに不快な感覚はあっただろ?」
「まぁ、少しは………」

 それでも痛いという感じではない。なんとも形容し難い嫌な感じだ。
 自分のHPゲージを確認してみると、一割にもみたないほどの量削れていた。これが全部無くなると自分は死ぬのかと思うと、少しヒヤッとする。

 僕は身体を起き上がらせ、近くに落ちた武器を急いで拾う。フレンジーボアの方を見ると僕を睨みつけ突進の予備動作をしていた。
 それを確認した瞬間、突進を開始された。今度はちゃんと構えていたし一度見ているので、僕は左に移動することでそれを回避する。

「なるほどね、大体コツがわかったよ」
「じゃあ、今度はソードスキルを出してみろよ」
「りょーかい」

 《ソードスキル》。
 このSAO(世界)における必殺技のようなもので、通常攻撃の倍以上の威力があり、決まった予備動作をすると自動で体が動き、敵に向かって発動する。
 便利な反面、ソードスキルの直後は一定時間の硬直時間が設けられている。どの世界にもメリットだけのものなど存在はしないらしい。なかなか現実的だ。
 また、ソードスキルと言ってはいるが、コウ曰く何も武器だけのものではないらしい。非戦闘スキルである《裁縫スキル》や《料理スキル》にも存在するそうだ。
 さらに、ソードスキルの動きに上手い具合にブーストさせると通常のソードスキルよりも威力が上がるらしい――なかなか高度なテクニックらしいが。ブーストを失敗させると、ソードスキルが途中で止まるそうだし。多分今の僕には無理だろーね。でも便利そうなので是非とも習得したい。……戦闘が楽になりそうだし。

 僕はここに来る前にコウに教えてもらい記憶していた予備動作を再現する。すると、持っている僕の武器の刀身が光――システムが予備動作と認識した証であり、ソードスキル特有の《ライトエフェクト》が灯った。

「よいしょっ!」

 そこから先は簡単だ。僕がターゲットにしている敵――フレンジーボアに向かって身体が勝手に動く。
 普通ではありえない速度で距離を詰め、一閃。
 フレンジーボアは一気にHPゲージを全損させ、悲鳴を上げて無数のポリゴンの欠片となった。そして、僕の近くにフレンジーボアを倒して得た経験値、お金――SAOの世界では単位はコルというらしい――が示されたウインドウが表示された。

 実際にソードスキルを使ったのは今回が初めてだったが、思っていたよりも違和感が無く、むしろ爽快感すら感じた。
 僕は思わず感嘆の声を漏らす。

「……これが……ソードスキル………」

 だが、誰かに自分の体を操られるような感覚に気持ち悪いとも感じた。それのおかげであれほどの威力の技を叩きだせるのだが……。
 そのうち慣れるのかもしれないが、その慣れるまでに時間がかかりそうだ。

「……どうだ? 使ってみて」
「うん、なかなか良かったよ。決まると気持ちいいし、何より敵を倒すのが楽になりそうだしね」

 僕はコウの言葉にそう返した。別にそうも思ったのだから嘘はついていない。
 いやいや、本当に楽そうだなあと思ったよ? だって体は勝手に敵を攻撃するし、通常攻撃の何倍もの威力なのですぐに戦闘も終わらせられそうって本当に思ったもん。

「お前、楽なの好きだなあホント」

 そんな僕の言葉にカイが呆れた顔をしながら言った。僕は表示されていたウインドウを閉じて、左手に持っていた武器を背中の鞘にしまった。

「誰だって辛いのより楽なのがいいだろ?」
「そうだけどさぁ………何かこう……ねぇ?」

 うまく説明できずにあたふたするカイ。僕はそれを見てため息をつき、言った。

「まぁ、これは僕の主義というか信条みたいなもんだからさ、別に気にしなくていいよ。お前はお前のやり方でやればいいし」
「……そうだな」
「さて、コウ。僕は大体戦闘についてはもう大丈夫だよ」
「一回でいいのか?」
「まぁ、何とかなるでしょ。これ以上はコイツとの戦い方覚えるだけだし」

 そう言って僕は少し離れたところにいるフレンジーボアを指さした。

「そうか……、カイはどうだ?もっかいおさらいとしてやっとくか?」
「い、いや、俺はいいよ。昼にお前の指導のおかげでたっぷりと体に染み付いたからさ!」

 首を激しく左右に振りながらカイはそう言った。
 コウの指導か……、カイの時はどうだったんだろ?少し気になるな。体に染み付くほどどうやって教えたんだろ。
 しかもあの慌て様、一体何をしたんだ? ……少し怖くなってきた。

 考え込んでいると、パンパンと手を合わせたような音がした。

「じゃあ、今日はこの辺にしてはじまりの街に帰るぞ。明日の朝早くに街を出るからな〜」
「ういーすっ」

 僕は返事をしてはじまりの街に戻るコウの背中を追った。カイの方を見てみると、まだ怯えてその場に立っていた。ていうか今まで見たことない程震えてんだけど……、ほんとに何をしたんや。 
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