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とある碧空の暴風族(ストームライダー)

作者:七の名
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新たなる力へ
  Trick70_雪姉さま専用マッサージ




合宿最終日。美雪は練習の時とは違った疲労感と痛みに襲われていた。

「あ~う~」

「大丈夫ですか雪姉さま、とミレイはかなり真剣に心配します」

全身が筋肉痛であった。

合宿中は次の日の練習に備えて、ある程度は力を抑えて“歩く”や“走る”をしていた。
元々、体幹がかなり鍛えられていた美雪。
無駄に力を出さずにA・Tを使っていたため、今までの夜は程良い筋肉痛で済んでいた。

だが今日は違った。
A・Tの試験があり、力を抑えず走ったため、いつも以上に疲労度があった。
そしてそのあとすぐに、川で泳いで遊んだ。

それだけ考えれば筋肉痛に苦しむ要素がないように思えるが、“川”が問題だった。
川、つまり水の中だ。水の中での動きは、地上のものと比べるとかなり違う。
水の抵抗は空気の比ではないし、水の浮遊感は体幹も保ち辛い。

さらには合格の嬉しさと合宿最終日だという事で、はっきり言えばハッチャケ過ぎていたのだ。

その結果、晩御飯を食べた辺りから痛み出して今では横になって寝がえりを打つのさえキツイ状態になってしまった。

そんな美雪を介抱しているのが信乃と美玲だった。

「大丈夫かー?」

「い~た~い~よ~(泣)」

「元々、美雪は運動音痴だからな。普段から動いていないからそうなるんだよ」

「なんで昼間は死にかけていた信乃と、一緒になって遊んでいた玲ちゃんは平気なの?」

「俺も絶賛筋肉痛だよ。でも我慢できる範囲だし、昨日よりも今日は練習してない」

「ミレイも遊んでいましたが、おそらくはオリジナルの美琴お姉さまと同じ体力ですから
 普通の筋肉痛で済んでいます、とミレイは筋肉痛をポーカーフェイスで隠します」

それに付け加えるならば、つい数日前までは一方通行(アクセラレータ)に殺される対象だったのだ。

殺される前提だが弱い相手を殺した所で実験の効果は出ない。
それなりに体を鍛えていたのである。

「ほら、マッサージしてやるからうつ伏せに寝ろ」

「・・・・動けな~い。回転させて~♪」

「まったく・・・ホレ」

「イタタタタタ!」

「自分で回転させてと言ったんだから我慢しろ。で、どこからマッサージする?」

「信乃のお任せで♪」

「ではまず、そのバカげた頭を踏むか」

「頭は筋肉痛になっていないよ♪?」

「・・・冗談だよ。ってか冗談通じないのかよ」

「あ、そうなの♪ でも、信乃に踏まれたら新しい何かに「目覚めなくていい」え~♪」

呆れながらも丁寧に美雪の足先から順序良くマッサージをしていった。

「あ"~~~気持ちい~い~♪ し~あ~わ~せ~♪♪

 あン! そこ! もっと強く! アァ! ハァン! すごく・・いい」

ペシン

「痛い! なんで頭叩くの!?」

「変な声出してんじゃねぇよ!!」

「? 変な声出してたの?」

「・・・無自覚であんな喘ぎ声って・・」

「末恐ろしいですね、とミレイは驚嘆します。
 ちなみに信乃にーさま、興奮しましたか?」

「何を聞いてんだよ。興奮なんてするわけないだろ」

「信乃にーさま、もしや不能ですか?」

「・・・・似たようなものだし、その認識でいいよ」

「何かわけありのようですね、とミレイは背景を察して深く追求しないことにします」

「ありがとうな」

「いえいえ」

「ん~? なんの話♪?」

「別に気にする事でもないよ。ただの雑談だ」

「雑談です」

「そ~、あぁ・・「だから変な声出すな」・・だって気持ちいいもん♪♪」

「よかったですね、信乃にーさま。この方法なら雪姉さまをイカせることができます、
 とミレイは拳で卑猥な形を作ってガッツポーズ代わりに出します」

「玲ちゃん、後で真剣(マジ)説教な。『真剣』と書いて『マジ』だ」

「ごめんなさい、とミレイは全力で土下座をします」

喘ぎ声を出さないように我慢した美雪。
あえて痛いツボを押して悲鳴に変えてやろうかと考えて結局やめた信乃。
そんな2人のイチャイチャを脳内フォルダに録画保存する美玲。

変な空気は十数分に渡り、美雪の全身マッサージが終了するまで続いた。

「よし、終わり。だいぶマシになったと思う」

「ん♪ ありがとう♪ あ~気持ち良かった♪
 玲ちゃんもお願いしてみたら♪?」

「いえいえ。遠慮します、とミレイは雪姉さま専用マッサージを辞退します」

「専用ってなんだよ。別に頼まれたらマッサージしてもいいけど」

「異性に対して体を触られるのは簡単には許可出来ないものです。
 とミレイは珍しく信乃にーさまに常識を語ります」

「そうだけど・・・気にしすぎる事じゃないぞ。
 2人だって、整体師に体触られるのが嫌ってわけでもないだろ? それと一緒だと思うぞ」

「信乃にーさまって鈍感なのですね、とミレイは呆れてため息を吐きだします」

「鈍感じゃないよ。玲ちゃんが言いたい事は分かっている。

 でもそれ以上に家族相手に触るのを躊躇している方が馬鹿らしいと思うだけだよ」

「家族・・ですか」

家族と言う言葉に、美玲は若干嬉しそうに頬を染めた。

「そうだよ玲ちゃん♪ これぐらいで気にするほうがおかしんだよ♪」

美雪もうつぶせのまま顔だけを向けて微笑んだ。

「・・そうですね、気にしすぎないようにします。
 ですが信乃にーさまは雪姉さまの専用ですから、ここは遠慮ではなく拒否をします、
 とミレイは言います」

「だから専用ってなんだよ・・」

「えへへ♪」

信乃は意味を理解しながらも呆れており、美雪は嬉しそうに笑っていた。

「さて、そろそろ寝るか」

信乃も美雪の隣に敷いてある布団に寝転がった。

コンコン

扉、正確に言えば信乃たちがいる部屋は和室なので、襖がノックされた

「だれだ?」

「美琴よ。ちょっとお願いしたい事があって。入ってもいい、信乃にーちゃん?」

「えっと・・」

一応、美雪と美玲に確認の視線を送る。

「琴ちゃんにならバレても問題ないだろ」

「ん♪ 大丈夫♪」

「ミレイも特に問題ありません、とミレイは肯定します」

美琴を含め、常盤台中学組と佐天&黒妻には、信乃たち3人が一緒に寝ている事は内緒だ。

仲が良くても、年頃の男女が一緒に寝るのは良くない事は当然である。

しかし美琴の中では信乃と美雪は夫婦(仮)に認定されている。
以前のお泊り会で信乃の部屋に美雪がいた事に一番違和感を持っていなかった。
一番というより、唯一全くの違和感を持っていなかったというのが正確だ。

今は美玲もいるが、彼女は特殊な環境だし一緒の部屋でも変ではない。

「入っていいよ~♪」

「お邪魔しまーす・・・・雪姉ちゃんは当然として、玲も一緒の部屋なのね」

襖を開き、中の光景に美琴は状況をすぐに察した。

「ちょっと待て。なぜ美雪は当然なんだよ」

「だって信乃にーちゃんと雪姉ちゃんだし」

「答えになって無いぞ」

「そんなことはどうでもいいとして。「おい、どうでもいいのかよ」
 そんなことはどうでもいいとして」

美琴は扉を閉じて、3人の近くに座った。

「信乃にーちゃんにお願いがあるの」

≪そんなこと≫扱いされてジト目で睨んでいた信乃だが関係なく美琴は話を進めた。

「はぁ・・・で、お願いって?」

「私を鍛えてほしい」

「は? A・Tの事だったら、メニューを考えてあるけど?」

「それはそれでありがたいけど、それに加えて鍛えてほしいの」

「何を?」

「能力を。超能力を!

 私に七色の電撃を使いこなせるように、特訓して欲しい!」

「七色の電撃♪?」

「それはなんでしょうか、とミレイは雪姉さまと同じように首を傾げます」

「ああ、それは・・・」

信乃から美琴の電撃について説明をした。
イメージを媒体として、波長が違う7種類の電撃を放てる事を。

「へ~、やっぱり琴ちゃんは器用だね♪」

「レベル5の力をさらに伸ばそうとするとは、さすがお姉さまです、
 とミレイは感服します」

「でも、不安定なの。

 信乃にーちゃんからアドバイスを貰った時は大丈夫だったけど、それ以外だと
 電撃を出した後に頭痛がするのよ。

 あの電撃は今までの私の電撃とは大きく違う。

 常盤台中学も襲撃があったし、その時は思う存分力になれなかった。
 だからお願い! 私が七色の電撃を出せるように鍛えて!」

「・・・俺としては、これ以上の練習は過多になるから反対なんだけどな」

「確かにA・Tと超能力の練習を並行していいのかは、難しいと思うな♪」

「そうですね。A・Tだけでヘトヘトな今では無理でしょう、とミレイは同意します」

「そう・・かもしれないけど・・・実際、今の私もヘトヘトだし」

美雪、美玲の苦笑いに続き、美琴も苦笑いした。
実際、今も初心者3人とも全身筋肉痛に襲われている。美雪にいたっては寝たままで自分の力では動けない程だ。

「やれるわけないだろ、琴ちゃん。
 今のA・Tだって一杯一杯のメニューなんだから」

「今のメニューって・・ただ練習しろって言っただけで、
 信乃にーちゃんが作ったわけじゃないのに」

「確かにこの数日間のメニューは自主的に任せたけど、
 ≪走る≫が成功するための基本練習時間は計算通りだよ」

「信乃、悪い笑顔している♪」

「で、俺としてはA・Tと超能力の両立は難しいと思っている。
 それでもお願いするか?」

「それでもお願いする」

「・・・・・」

「お願い、信乃にーちゃん。

私を鍛えてください」


つづく
 
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