とある碧空の暴風族(ストームライダー)
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大覇星祭序章
Trick71_その反応、本当に知らなかったのぉ?
9月1日
それは全ての学生にとって
絶望の日である。
そう、その日は・・・・
夏休みが終わり、新学期が始まる日だ。
2学期制とか認めない! 進学校は夏休みが短いだとかうるさい!
ケフンケフン、閉話休題。そして進学校の皆様に謝罪します。
時角、9月1日に常盤台中学の新学期が始まった。
お嬢様学校である常盤台中学校。夏休み明け初日であろうと誰もが皆、優雅に学友へ挨拶を贈りながら登校している。もちろん挨拶は『ごきげんよう』だ。
だが、そんなのどかな常盤台中学にイレギュラーな登校をする学生が数名ほどいた。
始業式が始まる10分ほど前、教員用の駐車場に2台の車が止まった。
「よっし、到着」
その1台目の車の運転席から信乃が降りた。
「皆さん、もう少しで始業式が始まります。出来るだけ急いでください。
旅行鞄は私が寮に届けます。寮監の方には話を通していますから安心してください」
「ありがとう信乃にーちゃん! でも出来ればもっと速くついてほしかった!」
「不可抗力です。宿からは余裕を持って出発しましたが、道路が予想以上に混んでましたから。
私と話すのはいいですが、時間は大丈夫ですか? 大丈夫じゃないですよね?」
「っ! それじゃいってきます!!」
「いってらっしゃい。白井さんも、いってらっしゃい」
「はい、いってきますの」
同じ車の後部座席から飛び出すように出ていく御坂美琴。
同じく時間がないながらも優雅歩く白井黒子。
どちらもお嬢様学校に所属してはいるが、育ちがお嬢様な白井の方が落ち着きを持っている。
2台目の車からは運転席から千賀紗和琥。
後部座席からは常盤台中学校の残りの3人、湾内と婚后と泡浮が出てきた。
3人とも時間の事は気にしていないようにゆっくりとした立ち振る舞いを魅せた。
「ふむ、これが琴ちゃん(エセお嬢様)と他の皆(本物のお嬢様)の違いか」
「信乃に―ちゃん、なにか失礼なこと言わなかった?」
「気にするな気にするな。むしろ自分に時間がない事を気にしろ」
「ってそうだった! みんな! 早く速く!」
「御坂様、ここから講堂まで10分もあれば十分です」
「そうですわお姉様。それに、お姉さまは常盤台中学のエース。
遅れて登場と言うのもいいですの」
「それはいいですね」
「ここはそういう場面じゃないでしょ!?」
御坂を崇拝する湾内、白井にとっては都合のよい時間帯らしいが、御坂にとってはありがたくない。
「もう琴ちゃん達、本当に遅れちゃうよ♪」
「わかってるって! また“後”でね!」
「はいはい♪」
助手席の窓から手を出して優雅に見送る美雪。御坂とほとんど同じ育ちながらもこちらはお嬢様に感じる。
「なんかさっきから私の扱い、雑じゃない」
そんなことはない。ツッコミ禁止。
なんだかんだと言いながら彼女たちは講堂へと足を進めた。
常盤台中学の始業式。その内容の50%以上は“お偉い方々”の長々しい挨拶だ。
今はお嬢様の彼女たち常盤台生。その将来はほぼ約束されたも同然。
学生である内に自分の顔を覚えてもらおうと“お偉い方々”は新学期挨拶などの機会を使って挨拶をするのだ。
生徒たちにとって半分以上は迷惑以外の何ものでもないが・・・。
そうしていつも通りに始業式は終わり、そしていつもと違う2学期初日が行われた。
生徒たちは各クラスへと移動し、常盤台中学の制服からメイド服へと着替えていった。
新学期と同時に、常盤台中学ではイベント日でもあった。
それは≪授業兼寮参観≫
一般にはあまり公開されていない常盤台中学。
そこが年に一度、完全に一般公開するイベント、それが≪授業兼寮参観≫
本来は2学期が始まってから幾分か経過した時期に行われるが、
今回は9月1日に行われていた。
というのも、学園長の一声から始まり、このような日に決まった。
曰く、夏休み前の学校襲撃事件から保護者からの印象が悪い。学校が安全であることを≪早く≫アピールしなければ。
曰く、今までと同じ時期に開催するから大覇星祭の準備と若干かぶってしまう。
ならば≪盛夏祭≫の時期をずらせばいいじゃないか? 例えばいつもより早い時期に。
そうだ、夏休みが終わった翌日は丁度いいじゃないかな? 区切りとして生徒たちが休みボケにならないように。
よし! 9月1日に決定だ!!
などということが有ったり無かったり・・・
こうして≪授業兼寮参観≫の日程が決まったのであった。
「だからって、何でメイド服なのかしら」
「今更何を言ってますの、お姉様?
去年と比べると時期が早いですが、去年も同じようにメイド服ですの」
「そうだけどさ・・・去年も着たけど納得できないわよ」
お・も・て・な・し
そんな2020年の志を持って(?)、御坂と白井、そして常盤台中学の生徒全員がエプロンドレス、いわゆるメイド服を着ていた。
≪授業兼寮参観≫の名物、それは生徒全員がメイド服を着て、見学に来た家族のおもてなしをする事だ。
授業参観の意味もある企画だが、その授業中もメイド服で受けるというシュールな企画なのだ。
去年も時期は違うが、同じようにメイド服を着て授業と寮でのおもてなしをした事を御坂は思い出し、嫌な事をリフレインしてしまった。
そして午前中の授業参観を終えた現在、午後の準備を始めていた。
今回の企画は≪授業兼寮参観≫。午前中で≪授業≫の方は終わった。残っているのは≪寮≫となる。
「「「「いらっしゃいませ。お父様、お母様」」」」
寮の入口が開かれて、それに合わせて寮生は綺麗なお辞儀と合わせて挨拶をした。
この≪授業兼寮参観≫の本番は午後にある≪寮≫がメインイベントである。
学園都市は全寮制だ。ゆえに親と離れて生活をしている。
親達は子供がどのような場所に住んでいるか気になるし、彼女たちは世間一般に言われているお嬢様、つまり親達は裕福層がほとんどだ。
目に入れても痛くない娘たちの普段の生活は、学校生活以上に気にしているのは当然だ。
そのための企画といっても過言ではない。
開かれた入口からは嬉しそうな顔をした父母たちが続々と入ってきた。
「芽実、元気にしていたかい?」
「はい、お父様。お父様もお元気そうでなによりですわ」
「おお、私の可愛い可愛い早鳥。会いたかった!!」
「大げさですよ。でも、わたくしもお会いできて嬉しいです、お母様」
などと早速、家族同志で和気あいあいとした会話がそこらから聞こえてきた。
そして娘を先頭に、各人の部屋へと移動していった。
「ほんと、なんでメイド服なのよ。関係無いじゃない」
御坂のため息交じりの呟きは本当に的を射ていた。
本当に関係無い。理由は主に理事長または作者の趣味であったり、ケフンケフン
午前中は授業風景を見せていただけで、親子の会話というのがここで初めてだったりする。
和気藹々とした会話を弾ませている中、御坂は少しだけ面白くなさそうにしていた。
というのも、彼女の親はこの場には来ていない。御坂にはそう連絡がされていた。
父親の旅掛は各地を飛び回る忙しい人だ。学園都市に入ってから数年が経つがあまり会っていない。
母親の美鈴は、本当であれば参観にくる予定だったのだが、今朝になって用事が出来たということで参観に行けない旨を知らせるメールが届いていた。
姉である美雪も、本日から2学期が開始している。基本的に美雪の通っている高校は自由登校制だが、こういった2学期初日にある始業式などは絶対参加が義務づけされている。さらに学校の研究所による用事があるらしく、来るのはまだまだ先とのことだ。
別に親に甘えるほど年少ではないが、久々に会える家族に少なからず期待していた御坂美琴。
その様子は白井など近い人間から見れば拗ねている様子を醸し出していた。
続々と寮室へと移動して少なくなる生徒。そのまま立っていては最後の一人となり、変に目立ってしまう。
そうならないようにと考えて美琴は寮室へと歩き出した。
が、後ろから忍びよる影によって止められてしまう。
「み~こ~と~ちゃん!」
「ひゃっ!?」
家族が来なくて若干イジケテいた美琴を背後から襲ったのは
「私が来ないって言われて寂しかった?」
「ま、ママ!?」
御坂美琴の母親、御坂美鈴であった。
背後から抱きしめられた美琴は、普段なら恥ずかしがっているところだが今に限っては嬉しさの方が大きかった。
「どうしたの? 来られないってメールが・・」
「あれね。正確には用事が長引いて来られないかもしれないって事だったの。
その用事は逆に早く終わったから、予定通りに来ちゃった!」
「そっか・・・ってママ! いつまで抱きついているつもりなの!?」
「私が満足するまで♪」
「雪姉ちゃんみたいに♪をつけないで! っていうか離して! 恥ずかしいよ!」
「い~や!」
はしゃぐ2人を周りの生徒や親たちは温かい目で見ているのに気付き、美琴はどうにか逃げようと抵抗していたがのがれる事が出来なかった。
しばらくは同じようにバカをしていた2人。美鈴が満足するまで10分ほど要し、
その頃には美琴は諦めたように脱力してしまっていた。
「さて、美琴ちゃん成分をたっぷり補充しました。
部屋を案内してくれる?」
「なによ、その謎成分・・・・わかった、ついてきて」
「違うでしょ、美琴ちゃん。『こちらでございます、ご主人さま』でしょ?」
「メイド服の事は忘れて!」
そんな親子漫才は学生寮に響くのであった。
「で、なんでマ・・お母さんの用事ってなんだったの?」
気を取り直し、入口から美琴の部屋へ向けて歩く2人。
2人は気付いていないが、すれ違う人たちから暖かい目で見られていた。
主に漫才を聞いたことが理由である。
「別に言い直さなくてもいいじゃない、ママで私はOKよ」
「一応、私にも恥ずかしいって気持ちはあるの」
「でも家族に遠慮はいらないと思うわ。
都合のいい事に、この学園都市には美琴ちゃんのお姉ちゃん、お兄ちゃんがいるでしょ?
だったら遠慮しなくてもいいわ。もちろんママにもね!」
「・・・それはそうだけど」
「特にお兄ちゃんの方には甘えてもいいんじゃないかしら。
そうしたら・・・信乃も、自分に妹が、家族がいるって事を分からせる事もできるし!」
「お母さん、なんか怒っていない?」
「別に~。生きて日本に帰って来たんだし、折角だから養子縁組の話を持ちかけようと
準備したのに・・・・一蹴されたって怒ってなんかないわ!」
「今日の用事って、もしかして信乃にーちゃん関係だったの?」
「そうよ。説得に時間がかかると思っていたら、頭っから拒否して私の計画台無しよ!
確かに4年前にも家の名前を残したいからって拒否されたけど!
今は偽造した外国国籍なんでしょ! それなら私の養子になってもいいじゃない!」
「マ、ママ! 声が大きい! 偽造とか危ないワードを叫ばないで!」
「そうですよ、美鈴さん」
「一応、廊下だからうるさくすると迷惑になっちゃうよ♪」
「ご、ごめんね美琴ちゃん、信乃、雪ちゃん。ついさっきまでの怒りが・・・信乃?」
「どうもさっきぶりです」
声の方に視線を向けると、いつも通りの西折信乃が立って手を振っていた。
そしてその隣には美雪もいた。
元々、美琴は≪寮参観≫にも信乃と美雪を呼んでいた。だが、美鈴と同じく遅れて到着すると聞いていたので、美琴は驚いていた。
しかし、美鈴と同じ理由で遅れたのであれば、ここに美鈴がいるということは信乃も同じく用事が終わったからなのだ。
「し~の~!」
「なんですかの恨みの篭もった声は?」
美鈴はすごい形相で信乃に近付いて行った。
美琴を含め、周りの人はその形相に若干引いてしまっていた。
「そりゃ恨みぐらい篭もるわよ!
恩を押しつけるつもりはないけど、話を聞いてくれたっていいじゃない!」
「嫌ですよ。
4年前にも家の名前を残したいからって理由でしたけど、今は今なりに違う理由があります。
ですから諦めて下さい」
「・・・・その今なりの理由っていうのは、今後解消されるのかしら?」
「はっきりとYESとは言えませんが・・・解消する可能性はなくもないです」
「ならいいわ。“今は”諦めてあげる」
「2人とも、何の話しているの?」
「信乃が私の養子になるって話よ」
美玲は遅れる理由を話した。
法律などは美雪を養子に迎えた際、色々と勉強していた。
今回も信乃を養子に迎えるに辺り、その当時の知識を活かして色々と進めていた。
進めていたのだが・・・・信乃が色々と一蹴した。
「いやです」「だが断る」などの単純な言葉だけだが、そこは戯言遣い。
言い方やタイミングで美鈴を諦めさせる事に成功した。
主に相手に的確にダメージを与えると言う意味でだが。
「なるほど、それで2人とも遅くなるって言ってたのね」
「そうなの。
あ、今思いついたけど、美雪と信乃が結婚したら、私は義母って事になるわね。
うん、放っておいてもいいかも」
「ふぇっ!?♪?」
「なに馬鹿なこと言ってるんですか・・美雪の将来を勝手に決めないでください」
((結婚のことは否定しないのかな?))
慌てる美雪をよそに、御坂親子は心の中で突っ込みを入れていた。
4月の学園都市に来た直後、信乃御坂達との接触をある程度拒否していた。
だが夏休みまでを通して、無意識に御坂達へと拒否が弱くなっていた。
強がっていても信乃はまだ15歳の少年。無意識に家族には弱かったりもするのだ。
「・・・こんな所で騒がれても困るし、信乃にーちゃんも私の部屋に来るでしょ?」
「一応は招待を受けた身ですし、お言葉に甘えるとしますか。
あと、信乃にーちゃん言うな。部屋に隠しているゲコ太を表に出すぞコラ」
「ちょ!? なんで信乃にーちゃんが知っているのよ!?」
「いや、琴ちゃんの性格と白井さんの言質から間違いなくあると予想だけど、
その様子だったら当たりみたいだな」
「はいはい、兄弟漫才はそこまでにして行きましょうか!」
「おわぁ!?」「きゃ!?」
右腕に信乃を、左腕に美琴の肩を抱いて、美鈴と3人は仲良く笑って歩いていった。
その後ろから顔を真っ赤にしながらも着いてゆく美雪。
血の繋がりは無くとも、その姿は間違いなく『家族』であった。
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時間が経過し、現在は夕方。
「ここからすごいものが見れるの、信乃?」
「ええ。非才ながら全力を出して修理しましたからね。
それなり以上の仕上がりにはなっていると思います」
「確かにそれなり以上だったわ」
と、寮の屋上へ続く階段を昇りながら美鈴、信乃、美琴の3人は話をしていた。
昼過ぎに美鈴が寮を訪れて、無事に案内を終えた。
(ただし美琴が何度も美鈴と信乃にからかわれた事は、無事と言えるかは微妙だが)
案内が丁度終わった頃、外は夕陽で染まり始めいた。
その風景を見た信乃は、ふと思い出して美鈴に話を振ってみた。
「寮の屋上からすごいものが見れますけど、行ってみませんか?」
との信乃の誘いを聞き入れて屋上へと昇っていた。
「到着! 私一番乗り!」
屋上への扉が近くなった途端、美琴は走りだして扉を勢い良く開けて外に出た。
「美琴ちゃん、そういうところはまだ子供ね」
「琴ちゃんらしいと言えば、らしいですが。
あのゲコ太指人形の数には驚きました」
「そうよね。あと下着にも・・・・我が娘ながら将来が心配だわ」
「心配し過ぎだと思うよ、2人とも♪ 琴ちゃんは琴ちゃんなんだから♪」
「ちょっ!? 確かに扉を開けた時は子供っぽかったけど!!
だからって部屋での事を蒸し返さないでよ!! それと雪姉ちゃんフォローになってない!」
と、こんな風に美琴を2時間近くもからかい続けていたのだ。
「そ、それより! 信乃にーちゃん!!
ここから見えるやつ、すごいよね!?」
誤魔化すように美琴は屋上から、とある報告を指差す。
「もうそろそろ時間ですね」
「私も数日だけど修理を手伝った人間としてどうなっているかすごく気になる♪
あ、玲ちゃんにも写真を送ってあげた方が良いね♪」
「玲ちゃん? 雪ちゃん、それ誰?」
「ん~、今は内緒かな♪」
兄妹3人には新しい家族として受け入れられている御坂妹とも10032号とも呼ばれていた少女、西折美玲。
しかし禁忌とも言える複製技術により生まれた存在を、学園都市の外の人間である美鈴へ簡単に教えるわけにもいかない。
ただし信乃と美雪は上手くポーカーフェイスをしていたが、美琴だけはあさっての方向を見て冷や汗をかいていた。
「10秒前、9、8、7・・・・」
「なんで時計も見ずに分かるの、信乃にーちゃん」
「昔からよね、雪ちゃんともども時計いらず」
「なんとなくで分からない♪?」
「「わかるわけないでしょ」」
「3、2、1、0」
「「「ふぁ・・・!!」」」
あまりの美しさに3人は黙ってしまった。
太陽が一定の角度の時のみ、その光の反射角度によって現れる芸術品。
寮から見えたのは、常盤台中学の校舎に浮かぶ、光り輝く鳳凰の姿であった。
常盤台中学校の理事長が依頼したとある建築塗装職人こと、マリオ・サントリオ氏。
その氏が作り上げ、この数カ月を信乃が修理することで復活したのが、この鳳凰であった。
8月から9月にかけての夕陽が沈む数分だけ、学舎の園の外部にある常盤台寮の屋上方向からしか見ることができない。
「本当に金持ちの娯楽ですね」
口では文句を言いながらも、表情はいい仕事をした達成感で微笑していた。
そしてなにより自分が関わった仕事で、家族が心の底から喜んでいる事が嬉しかった。
感動している3人は手摺に身を乗り出しながら鳳凰を見ていた。
そんな3人から離れ、反対側の手摺に体重を預ける。
ポケットから携帯電話を取りだし、美雪が感動して忘れている美玲に送る写真を収めた。
「それ、私にもちょーだい☆」
「自分の携帯電話で撮ればいいじゃないですか」
突然掛けられた声に信乃は動揺も驚きもせず返す。だがその表情から先程までの笑顔は消えていた。
「もうちょっと驚いてもいいんじゃないのぉ。
君は焦燥力を持たないと人間らしくないゾ☆」
「余計なお世話です」
現れたのは常盤台中学における最大派閥を率いる少女、食蜂操祈であった。
開かれたままの屋上扉から、ゆっくりと信乃へと近づきながら彼女は話す。
それほど大きな声で無かったため、意識が鳳凰へ向いている3人は気付かなった。
「それで、食蜂さんは寮が違うはずですが何用ですか?」
「派閥の子が、鳳凰の事に気付いて知らせてきたのぉ」
「・・・それだけですか?」
「本当なんだけどぉ。まぁ、私に説得力がないのはぁ自覚しているけどねぇ」
人の悪い笑みを浮かべながら食蜂は信乃の隣に進み、同じように手摺に背を預けた。
「まぁ・・予想以上に綺麗ねぇ鳳凰さまぁ。
でもぉちょっと~不機嫌すぎない? お姉さん悲しいなぁ~」
「言っておきますけど、私の方が年上だって分かってます?」
「もう、冗談力が足りないんだかラ☆」
信乃の不機嫌そうに返しても、食蜂の態度は変わらず陽気なままだった。
「本当の目的はなんですか?
無いなら純粋に鳳凰を見て楽しんでいる邪魔はしないでほしいです」
「もうぅ、早すぎる男は嫌われるゾ☆」
口ではそう返したが、信乃があまり待ってくれない事を感じて、食蜂は自分の鞄を探って一枚の紙を取りだした。
「知っていると思うけどぉ、この新しい競技について聞きに来たのよねぇ」
「競技?」
取りだした紙を受け取り、目を通す。
「!? おいおい・・・どういう事だコレ?」
「え? その反応、本当に知らなかったのぉ?」
先程は焦燥力がないと言われた信乃は、心の底から驚いた。
「・・・・何も知らなかったのぉ?」
「つーちゃん、位置外 水からは何も報告はありません。
こんな大掛かりな競技なら、一か月前から決まっているはず。
それを位置外が把握していない? そんな訳ない」
「ちょっとぉ・・・。だめねぇ、完全に自問自答状態になっちゃっているわぁ。
私が聞きたかった事は今度にした方がよさそうねぇ」
「すまないが・・・そうして下さい。
この紙、貰っていいですか?」
「いいわよぉ、どうせコピーだし。それじゃぁまたネ☆」
「・・・・」
食蜂が立ち去った後も、信乃は紙を見続けていた。
『今年の大覇星祭の競技の一つとして、モーター付きローラーブレードである“GT”を
採用した新競技を行う』
つづく
後書き
今回をもちまして、『とある碧空の暴風族』のストックが切れました。
数か月の執筆時間がありながらも、どうにも新しいストーリーが書けずにいたため、次の戦いへの序章しか書くことができませんでした。
今後の更新については、本当に未定です。場合によれば、これが最後の投稿になるかもしれません。
申し訳ないとは思いますが、自分の限界とみたいですね。
それでは皆様さようなら
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