ファイナルファンタジーⅠ
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15話 『死の宣告』
アースの洞窟最深部、その場所はこれまでより一層開けた空間になっており、中央には上下から伸びる腐った木の根に絡まれ本来の輝きを失い黒ずんでいる六角長形の大きなクリスタルが存在している。
「あれが……大地の源の、クリスタルでス!」
無意識の内に引き寄せられるようにして祭壇に歩み寄ろうとする黒魔道士ビルの肩に、赤魔道士マゥスンが片手を置き制止する。
「 ────源のクリスタルに根付いたカオスを倒さない限り、まだ触れるべきじゃない」
「 ふえっ……? 」
その時、地の底から響き渡るような恐ろしげな声がしてくる。
『何者カ……微力ナル大地ノ源ニ触レントスル者ヨ────』
「お出ましってヤツか……ッ?」
「何か来るよ……、皆気を付けてっ」
警戒するランクとシファ。
大地のクリスタル祭壇前に闇の空間が裂け、そこから出現したのは髑髏の頭部と見るからにおぞましく毒々しいぼろ布を纏った、人の背丈を優に超える姿で並みのアンデッドとは比較にならぬ程の魔力を身に帯びて浮遊し、窪んだ双眼はこの世ならぬ闇を湛えている。
『我コソハ大地ノチカラヲ遮ル者ナリ。……愚カニモクリスタルノ輝キヲ取リ戻シニ来タカ。邪魔立テハサセヌゾ、コノ土ノカオス、"リッチ"ノナ……!!』
云い終えると同時に髑髏の窪んだ双眼から白魔道士のみに向けて闇の閃光を発し、咄嗟に目を逸らす事も出来ず一瞬衝撃を受けたように身体がぐらつき、シファは前のめりに喉元を押さえて苦しみ出す。
「あっ、あぁ……っ?!」
「どーした、シファッ!」
「息、が……でき、ないっ……」
「ふえぇ、シファさん!?」
「 ────── 」
「野郎、何しやがったッ!」
『我ガ配下ヲ倒シ、ココマデ来タノハ褒メテヤロウ。余興トシテヒトツ、"賭ケ"ヲシヨウデハナイカ。<死ノ宣告>ニヨリ、ソノ娘ガ死ニ至ルマデノ間ニ我ヲ倒シテミセヨ……!』
更に追い討ちを掛けるように毒素を含んだ<バイオミスト>を放たれ、ランクとビルは毒気に当てられ急激に気分が悪くなってしまうが、マゥスンはシファを身体ごと庇って避けた。
「ふあ゙ぁっ、目眩がしまスうぅ……っ」
「くそッ、こんなンでヘバってる場合じゃねェ、オレらより先にシファが逝っちまう……!?」
その時二人の身体が清浄な黄緑色の光に包まれて弾け、すぐに状態異常が回復する。それは体内の毒素を解毒する白魔法<ポイゾナ>で、[死の宣告]により息が出来なくなっていく苦しみに動けないシファに代わり、白黒魔法を扱えるマゥスンが後方から放ってくれたらしい。
体勢を立て直したシーフのランクはすぐ様反撃に転じ、素早い連続した二刀のダガーの斬撃を見舞い、ビルはその攻撃力を底上げしてやるため補助系黒魔法の<ストライ>をランクに掛けた後、<サンダラ>を放って応戦する。
『人間ナド所詮、自ラ犯シタ過チニヨリ愚カナ行為ヲ繰リ返スノミ────ソノ輪廻ニ、オ前達ハ終止符ヲ打テルトイウノカ……?』
土のカオス・リッチは再び髑髏の落ち窪んだ双眼から闇の閃光を放つが、ランクは咄嗟に片腕で目元を庇って後方へ一旦下がり、ビルは反応が遅く避けられなかったが、身体に何の異常も来さない。
『ヤハリ大地ヲ司ル者同士デハ[死ノ宣告]ハ効カヌカ……。キサマヲ亡キ者ニシ、完全ナル大地ノ源ノチカラヲ我ガ物トシテクレル……!!』
白骨している指先が剣のように長く鋭くなり、ビル目掛け容赦なく凪ぎ払われ一度後方へ下がったランクが駆け付けるより速く、マゥスンがビルとリッチの間に割って入り、ビルを片手で後方へ突き飛ばし炎を纏わせた剣でリッチの攻撃を受け流し斬り返して退ける。
────ビルは背が低く軽い為、それなりに後方へ飛んで尻餅をつく。
「ひゃふっ!? ちょっと、強引でスけど助かりまシた、マゥスンさ……っ?!」
次の瞬間ビルがとんがり帽子の下から見上げた光景は、土のカオス・リッチが造り出した<グラビガ>という重力魔法でランクとマゥスンが暗黒物質の大きな球体の中で押し潰されんとしている所だった。
その少し離れた場所では白魔道士のシファが前のめりに蹲り、[死の宣告]が下されたかのように動かなく─────
黒魔道士ビルの中で、何かが弾けた。
大地と緑の精霊が宿る[大地の杖]を掲げると、そこからゴーレム(大地の精霊)、シルフ(緑の精霊)が現れ、こちらに気を逸らさせた土のカオス・リッチに攻撃を仕掛けてゆく。
「ビルの、ヤツ………そンな裏技持ってたンなら、最初っから使えっつーのッ。………? おい、赤魔……?」
かなりのダメージで俯せになり、何とか頭をもたげたランクはいつの間にか立ち上がっていたらしいマゥスンを目で追うと、シファの元で跪き、ぐったりしている彼女を抱き寄せている─────
「なぁ……、まさか、シファは……ッ!」
ランクも何とか身体を起こして歩み寄り、マゥスンに絶望的に問う。
「 ────まだ、間に合うはず」
「 ……ならビルとよく分かンねェ2匹だけに任してらンねーな。オマエはシファの傍に居てやれよ、オレは加勢して……ッ」
「待て、貴様に回復を──── 」
息をしているのか疑うほど白ローブのフードをしている頭部は項垂れ、顔色の窺えないシファを片腕で支えたままもう一方の手で白魔法を掛けてくれるマゥスン。
……その際の彼は羽付き帽子が脱げていて、無感情ながら端正な顔立ちがよく見えた為ランクは一瞬息をのむ。
「それと、貴様の武器をこちらに向けてくれ」
「あ? 何云い出しやがンだ」
「 ……早くしろ 」
促されて二刀のダガーを向け、マゥスンがその刃身に片手を翳した刹那、両方のダガーに炎が纏う。
「うおッ! オマエがいつも使ってる魔法剣みてェなもンか?」
「少しは有利になるはず。────後は任せる」
ゴーレムは受けるダメージの肩代わりを、シルフは風の魔力、ビルはあらゆる黒魔法で土のカオス・リッチに追い討ちを掛けてゆく。
『何故ダ………アノ白キ娘、既ニ死ノ宣告ガ下サレテモ良イ筈────アノ紅キ衣、何ヲシテ……!』
当のリッチは追い詰められている事よりも、そちらの方に気を取られている。
「何ごちゃごちゃ抜かしてやがるッ、コレでも喰らいやがれ!!」
シーフのランクが鋭く投げ放った炎を纏った二刀のダガーが髑髏に突き刺さり、途端勢いよく炎が舞い上がってリッチを悶えさせる。
「ビル、もーいっちょカマしたれッ!」
「ハイっ!────<ファイラ>ぁ!!」
更なる業火に全身を巻かれた土のカオス・リッチはこの世ならぬ恐ろしげな断末魔を上げ、原形を留めずにボロボロと崩れ去ってゆく。
それを見届けるかのように、ゴーレムとシルフは何事もなかったかの如く姿を消し、ビルの手元にあった幾本もの枝と蔓が絡まって出来た[大地の杖]はすっかり枯れ果て、手元から崩れ落ちるようにして役目を終えた。
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